TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面   作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。

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50枚目:自我

 グループの入店は挑戦待ちと言った具合だったが、一般的な客は普通に入れるらしく、シュウ達も入店した所。店の奥には人集りができていた。

 

「なんでやねん! バック破壊札もヴォイド・マンに対する『虚無(ヴォイド)』も入れたし、手札誘発も増やした! なんで、アンタと勝負する時に限って引かれへんのや!?」

「ニュークイーンちゃん。そんなに喚かないでくれ給え。解決札が引けない代わりに、周りのギャラリーが引いてしまっているじゃないか」

 

 極当然のことだが、ライジング・スター本店ほどの規模になれば客も多いし、ギャラリーにはインヴェ歴が長いベテランプレイヤーも多く混じっていた。……となれば、起きることは。

 

「これはウケるぜぇ。メタビに対するメタとかに有用性を信じているバカがいるんだからよぉ」

「怒らないで下さいね。雑に効果無効化札とバック破壊、グッドスタッフを詰め込んで来ただけの紙束でリベンジって。バカみたいじゃないですか」

 

 フィロソフィーの様な中型店舗とは比べ物にならないレベルでの煽りである。

 対戦カードゲームという環境に身を置けば、煽り合いと言うプロレスは日常茶飯事となり、モラルとマナーは熱狂の渦の中ではあまりに儚い防波堤であった。

 

「覚えてろや!! 何度も挑戦したるからな!!! せやろ! 皆ぁ!」

「ねぇ。パティシエーラの高レアリティの方どうしようかな?」

「折角、リーダーが負けちゃったんだし。最高レアリティの方買っちゃおうか」

 

 ニュークイーンの敗北等気にした風もなく、メンバーは少しリッチな買い物を楽しんでいた。買い方に迷いがない所を見るに、元より買い物をするつもりで来ていたのか、あるいはリーダーが勝てると思っていなかったのか。

 それはさておき、コレだけインヴェ界隈をお騒がせしているグループが蹴散らされまくっているのを見れば、ギャラリーも煽ったり、湧き立つだけで満足できなくなるのは当然の話だった。

 

――

 

 現在、ニュークイーンちゃんを追い払った所で小休止に入ったのだが、ギャラリーに囲まれていた。ライジング・スター本店は大型店舗なので客層も幅広く、中にはファミリー層なんて者もいる位で。

 

「用心棒さん。オレのデッキを見て欲しいんだけど!」

「待てよ! この休憩時間中に俺とフリーでやるんだ!」

 

 なんかメッチャ少年に集られていた。ベテラン・インヴェプレイヤーは煽り散らかした後は、スッと離れて少年達にコミュ機会を譲っていた。紳士だった。

 

「すみません。この子達、用心棒なんてリアルで見たことが無くて……」

「ウチの子達がご迷惑をおかけします」

 

 加えて、彼らの親御さん達からも結構話しかけられていた。

 こういう子供の買い物には、母が付き合っていることが多く、彼女達からしても同性の私には話しかけやすいのだろう。

 

「構いませんよ。子供は好きですからね」

『子供は好き』

 

 子供達は未来を支えていく存在なので、好ましい存在に決まっている。

 決して、やましい気持ちなどあるはずもないのにヴォイド・マンが茶々を入れて来るんだから困る。

 

『ですが、他所のショタに浮気していて良いんですか? 折角、シュウ君達が足を運んでくれているというのに』

「なに?」

 

 店内に見渡してみれば、入り口近くにサクタ君の姿が見えた。そして、彼の傍らに少女と少年が1人。まさか、会いに来てくれたのか! でも、こっちに近寄ってくる気配がない。

 

『そりゃそうでしょう。シュウ君がこのギャラリーを掻き分けて、マスターに会いに来ました! なんて熱血タイプじゃないこと位は分かるでしょ』

「いや、でも。もしも、そうだとしたら……」

 

 普段は大人しいシュウ君が私の様子を見に来たとして。

 でも、他のショタに構っている光景を見て、ジェラシーで焦げ付いて、ちょっと強引な手に出たりしたら。

 

「見てみたいねェ」

『マスター? 脳内麻薬でキメるのは止めて下さいね』

 

 妄想はそこそこに。折角、シュウ君達が来てくれたんだから挨拶でもしようかと思っていたら、タイミングを見計らった様にゾロゾロと入店して来る一団があり。……全員が板前みたいな恰好をしていた。

 

「我々は。インヴェと飲食店を繋げる奇跡のグループ『カッポゥ』。どいつもコイツもグッドスタッフとしてしか使わない『TEN・PULA』を真に使いこなせるのは我々であることを、貴女を倒して知らしめます」

「その割には君らが来ている板前の服。新品みたいに綺麗だね。勝負はするけれど、ちょっと待ちたまえ」

 

 場所を間借りしている手前、あまり待たせる訳にはいかないのでシュウ君達に挨拶しようと思ったが、いつの間にか店内から消えていた。自分の眉間を人差し指で押さえて、それとなくヴォイド・マンに所在を尋ねると。

 

『さっき、ご主人様が打ち負かしたグループの子達と一緒に店を出ていましたよ』

「え?」

 

――

 

「して、アカネ殿。何故、我々を店の外に?」

 

 ニュークイーンと呼ばれていた少女こと『アカネ』とサクタは面識があったらしく、4人だけで何かを話していた。

 

「コレはアカンと思うねん。このままやったら、ライジング・スターに集まる男子共にヒジリが取られると思うねん。それはよーないと思うんよ」

「なんで、そう思うんですか?」

 

 ナギサはアカネのことをよく知らないが、彼女がフィロソフィーと懇意でないこと位は知っている。彼女にとって、ヒジリがライスタに滞在し続けることによって生じる不都合と言う物が想像できなかった。

 

「ウチが再挑戦し難いやろ!! あんだけ煽られたら、ウチの心はタフでも何でもないから、ベコベコやねん! 何より、この店に儲けられるのが気に食わへん!」

「気持ちは分からんでもないが……」

 

 大型店が儲けることで、界隈が賑わい中型店や小型店まで余波を受けるということはあり得なくはないが、やはり客を奪われるという印象は拭えない。

 ライスタの客層と『リリウム・サンクチュアリ』の客層はあまり被ってはいないが、心情的には納得しがたいものがあるのだろう。

 

「僕達に声をかけたのは、ヒジリさんを説得して貰う為。とかですか?」

 

 シュウにとって思い当る理由と言えばそれ位だった。だが、彼女がここに来たのはフィロソフィーの渋滞や混雑の解消を考えてのことだったので、自分達がどんな風に説得しても意味が無いとは思っていたが。

 

「ちゃうねん。そっちのお姉さん、良い人やろ? 例え、自分らのことが気に入っててもやなぁ。こっちの客やスタッフに絆されて、そのまま移籍しっぱなしってこともあり得るんちゃうかって。思うんや」

 

 これに関しては3人全員も頷く所だった。基本的に彼女は使うデッキ以外は善良な人間なので、育まれたコミュに縛られて動けなくなる。なんてことも容易に想像できた。

 

「だったら、我らに声をかけた理由は?」

「簡単や。それはもう、お姉さんが多少の絆でも動じひん位に……君に執着させる為や」

 

 ポン。と、アカネはシュウの片に手を置いた。デッキの構築能力だけではなく、常識とデリカシーすらもカスだったら救いようがないのだが、幸いであり不幸なことに。3人は彼女の言動を咎めたりはしなかった。

 

「え? え??」

「さすがにな。用心棒業務として忙しい中、個人で対戦させるわけにはいかんやろ? せやからな……」

 

 スッと。傍らに下げていたバッグから極自然に女子高生の制服とウィッグを取り出していた。サクタとナギサが立ち塞がった。

 

「アカネ殿。さすがにどうかと思われる」

「シュウ君になんてことさせるの!」

「ちゃんと考えあってのことや! ここでシュウ君の顔がバレたらまずいし、周りもウチやなくて、JS~JC位の女子になら煽ったりもせんやろ!」

 

 顔がバレないという点での変装と言うか女装は納得できなくもないが、それにしても準備が良過ぎる。

 

「仮に。これでシュウ君が勝ったら、アカネ殿がトップになるのか?」

「そういうことやね。……肝心なのはシュウ君がやりたいかどうかや! どや! 君も男子として! お姉さんが他の奴に取られてええんか!?」

 

 ニュークイーンを目論む位なのだから、碌でもない奴であるらしい。男子児童に寝取られ教唆をする辺り、インヴェプレイヤーに相応しい倫理観を持っていた。普通ならドン引きする所だが、シュウもまた考え込んでいた。

 

「(さっき。ちらっと見た限りでは、お母さんに連れて来られていた子もいたし)」

 

 先日の温泉施設の話を思い出した。きっと、ヒジリがいれば子供連れの母親も話しかけやすくなることだろう。そのまま、仲良くなっていく様子も想像できた。

 悪いことなんて何一つない。カードゲームを通じて交流を広げることは正に醍醐味とも言えるのに、納得できない自分がいることに気付いた。

 

「腹立つよなァ。お姉さんの良さを最初から知っていたんは自分やったんになァ。悔しくない?」

「アカネ殿。あまり、シュウ君を教唆しないように」

 

 言われてからハタと気付いた。そう、自分は悔しいと思っているのだと。

 店の都合だとかグループの都合だとかで、大事な時間を奪われたことに憤っているのだと。

 

「アカネさん」

 

 スッと。手を差し出した。もう片方の手にはいつものデッキケース。交渉が成立した瞬間だった。彼女はその手を取り、あまりの急展開にサクタとナギサは絶句するばかりだった。

 

――

 

『お前が食らうのは寿司でも『TEN・PULA』でもねぇーッ! 敗北の苦汁だ!!』

「うわぁあああ!」

 

 結構、珍しくテーマとしてはまとまっていた『カッポゥ』のリーダーであったが、それが強いかどうかは又別問題である。雑な出張セットでないことには好感が持てるが、それだけで勝てる程甘くはない。

 

「悪くはなかったよ。やっぱり、しっかりしたテーマで戦うデッキは相手にしていて気持ちが良いね」

「……メタビさえ使われていなければ、非常に気持ちのいいセリフだったのですが」

 

 そう言うのを関係なくまとめてメタるからメタビである。敗者らしく、グループのメンバーと一緒に割烹着のままシングルやらサプライヤーを買い漁る様子はシュールだった。……と、息を吐く間もなく次の挑戦者がやって来た。

 

「ウチやで!!」

「ニュークイーンちゃんか。挑戦は1日1回までだよ」

「ウチの挑戦はな! 今回の相手はスペシャルゲストや! カモン!」

 

 と、彼女が手招きをすると控え目に入って来る女子が1人。……女子?

 

『おやおや。ウフフフ』

「よ、よろしく願いします」

 

 声も女子の物であるが、間近で見れば分かる。幾ら姿形や声は誤魔化せても所作や雰囲気までは隠しきれない。

 

「……シュウ君?」

「サァ! リベンジマッチや! このスペシャルゲストちゃんは強いでぇ!」

 

 もしかして、私の動揺でも誘っているんだろうか? 理由は分からないが、応じないという選択肢もない。勝負の前にスマホを取り出して、カメラアプリをタップした。

 

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