TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
『虚無(ヴォイド)』というスペルがある。このカードは、相手のモンスターを指定してターンの終わりまで、効果を無効化するというシンプルながらも強い物だ。
ストラクチャーを始め何度も採録されてきて、もはや現代インヴェにおける必須カードとも言われており、積まれていないデッキは珍しい位だ。
当然、私のメタビデッキにも有効なカードで『ヴォイド・マン』に撃ち込まれると、あっと言う間にロックが解除されて、好き放題に展開されてボコボコにされる。現代インヴェの展開力では、伏せカードだけでは対処しきれないからだ。
『マスター、見て下さいよ! 渋い顔をしていますよ! きっと、初手に解決札を持って来られなかったんですね! 可愛いね♡』
ここまで何度も防衛戦をしていたら、さすがに分かる。偶然や幸運では説明が付かない位に、相手は初手に解決札を引けていない。一体、どんな力が作用しているのか。
私には、相手の解決札をボトムに沈められるような器用さはない。となれば、オカルトの領域だ。カードゲームという競技に置いて、無意識とは言え相手のトップを操作する能力はどうかとは思うが――使えるなら、使うだけだ。
「私のターン。『ボーダー・コントローラー』を召喚。スペル『先鋭化』を発動し、カードを3枚伏せてターンエンド」
周りが騒めいている。先程までの防衛戦を考えるとあまりに穏やかな構えだったからだ。特殊召喚も封じられていないし、乗り越えられそうな雰囲気はある。
「ほぼ必ず初手に来ていた『ヴォイド・マン』が来ていないだと?」
「しかも、バックも3枚しかない。もしかして、コレは行けるんじゃ?」
ギャラリーに憶測や期待が飛び交っている。もしも、コレが通常の防衛戦なら対戦相手は微かに見える可能性に目を輝かせていることだろう。
「ボクのターン! ドロー!」
シュウ君が私のデッキを知っているように、私も彼のデッキは熟知している。
以前、私と似たようなメタビデッキを使っていた『タケウチ』を破ってはいたが、私は彼ほど甘くはない。しっかりと叩きこんでやろう。
「(いつもみたいにね!)」
「永続スペル『天麵航路』を発動! 効果処理として『TEN・PULA―KASユニット』をサーチします。そして、手札から『TEN・PULA―海老艦』を召喚。ボーダー・コントローラーがいるから着地時のサーチ効果は使えませんが、何か効果の発動はありますか?」
「……え?」
『これは一体。どういうことなんですか』
煽り兵器と化したヴォイド・マンでさえ困惑しているのだから、私はもっと困惑している。君が愛用していた『レギオン』はどうしたというのだ。
まさか、魂を売ってしまったというのか。環境と言う魔物に魂を売ってしまったのか! 君までそっちに行ってしまうのか!!
――
時は少し遡る。アカネから女装一式を渡され、袖を通した所。やはり異性の物を着ているという気恥ずかしさから、シュウはスカートの裾を押さえていた。
「シュウ君! 似合っている!」
「は、恥ずかしいよ……」
ナギサは無邪気に喜んでいるが、健全な光景とは言い難いものがあった。アカネがスマホを取り出した辺りで、シュウがスッと手で制した。
「さすがに写真に収めるのは止めるべきだ」
「いや、結構似合っとるから記録しておこうと思ったけれど、アカンか。でも、準備はコレだけとちゃうで」
先程までの緩んでいた表情から一変して、彼女はバッグからデッキケースを取り出し、シュウに渡していた。
「コレは?」
「ウチらが考えた『TEN・PULA』のデッキや。君がおる店でも回しとる奴らがおるから、使い方は分かるやろ?」
彼は『レギオン』デッキを愛用しているが、他のデッキの回し方を知らない訳ではない。知識としては持っている。……が。
「でも、折角。ヒジリさんと勝負するなら、やっぱり『レギオン』でやりたいんです」
環境や流行に左右されないで一つのデッキを愛用し続ける。というのもまた、インヴェプレイヤーとしては尊重されるべきスタンスではあるが、ここで首を振るのがアカネと言う女である。
「甘々やな。それやったら、単に遊びに来ただけ。ってことになるやん?」
「え? 普通に勝負するんじゃダメなんですか?」
「アカンやろ! お姉さんがおらへん間に、君が環境デッキを使うとする。そしたら、慌てる筈や。『愛弟子が環境デッキに寝取られた!』ってなァ」
デリカシーのデの字も見当たらない彼女が、どうして『リリウム・サンクチュアリ』に在籍できるかは『速攻の猟犬』の適用範囲位に悩む所であるが、言わんとしていることは理解できたらしい。
「えっと。つまり、僕が『レギオン』デッキ以外を使っている所を見せて、ヒジリさんを不安にさせようということですか?」
「そういうことや。男女の駆け引きはやな。相手を焦らすことにあるんや」
「インヴェの駆け引きも碌にできなかったアカネ殿に言われても、説得力はまるで皆無であるな。そもそも、何故シュウ君が使うデッキのテーマを知って?」
堪りかねたサクタが苦言を呈した所、反論の術を持たなかったアカネはローキックによる反撃を試みていた。
やはり、この女が『リリウム・サンクチュアリ』に在籍できるのは『オメガスプリーム』がスプリームモンスターの特殊召喚が適用できる裁定位に謎だった。
「それにもう一つ言うとな。君がレギオンデッキを使ったら、素性が割れてまう可能性があるやろ? ライスタのギャラリーや客は個人店と比べ物にならん位に多い。君自身が目立つことは避けるべきや」
「急に真面目になった……」
先程までのギャップにナギサも戸惑っていた。デッキとプレイングは如実にプレイヤーを語るので言っていることは間違っていないが。
グループのリーダーは晒し物にされる覚悟も含めての物だが、シュウは一般人に過ぎない故、そう言ったリスクは避けるべきだと判断したのだろう。
「さぁ、練習や! 付け焼刃でも出力が何とかしてくれる! 近くのショップでチョイチョイ回してから、挑戦するで!」
かくして、入念なんだか行き当たりばったりなんだかよくわからない作戦が敢行され、シュウは慣れない環境デッキを持って防衛戦に挑まされることになった。
――
『フゥム。マスターが他所で遊んでいる間、シュウ君も他所に遊び場所を見つけたのかもしれませんね。『リリウム・サンクチュアリ』は男子禁制ですが、シュウ君は可愛いですし、マスターやサクタさんの様な所縁のある人達とも懇意ですから、ノーマークになった所を搔っ攫われる可能性はあったんですね』
チラリとシュウ君の傍らに立つニュークイーンの方を見た。ニヤニヤとコチラを見ている。いったい、どんな教唆をしたんだ。
「(さて、問題は何処でセットスペルを撃つかだ)」
先鋭化を使っているので、スペルを撃つ為にMPを払う必要はないが打ち所を間違えれば、突破されてしまう。最新テーマの『TEN・PULA』にはそれだけの展開力がある。
まず、メインエンジンとも言える『『TEN・PULA―KASユニット』に『神告』を撃ちたい所だがKASには『1ターンに1度しか発動できない』という制約が付いている。問題は使用できない。ではなく、発動できないという所にある。
『神告は発動自体を無効化しますからね。もしも、シュウ君が2枚目を持っていたら発動を許してしまいますね』
サーチできる以上。3積しているかどうかは微妙だが、1枚目を囮にして2枚目を本命として通すという使い道も十分に考えられる。
「(こっちは相手のデッキを知らないのに、向こうは熟知している。用心棒側が抱える不利と言えば、それまでだが)」
自動的に先攻を取れる以上は、挑戦者側にも情報と言うアドバンテージはあって然るべきだ。私は、KASユニットの発動に対してどうするか。思案を走らせた。