TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
「(これがグループの人達が見ている景色なんだ……)」
ヒジリが使うメタビは『レギオン』デッキにも突き刺さるが、元より大量展開がそこまで得意でないデッキと言うこともあって、動きが封じられるという程度だった。
だが、環境デッキが食らうメタビの拘束力は半端じゃない。背中に生えた翼をへし折られる様な感覚だった。
もしも、この『海老艦』からサーチまで繋げることができれば『小海老先兵』まで繋いで大量展開も狙えただろう。
「手札のモンスターカード『穴子艦』を1枚切って、小海老先兵を特殊召喚。セメタリーに『TEN・PULA』モンスターが送られたので、フィールドに『KASユニット』トークンを1体特殊召喚します」
「効果の発動はないよ」
シュウのフィールドには3体のモンスターがいる。特殊召喚にまで制限が掛けられていないのだから、ここからコネクシオンをして大型のモンスターを持って来て……と言うのは早計だ。
「(現在、モンスター効果の発動を封じられているから大型モンスターを持って来たとしても、特殊召喚時の効果が使えないから意味が無い。『ボーダー・コントローラー』は『ヴォイド・マン』程スタッツは高くない)」
『ヴォイド・マン』を刷った後の反省か。強力なロック効果を持つカードは戦闘破壊をし易いようにスタッツは控えめとなっている。
『TEN・PULA―海老艦』は召喚・特殊召喚時に同カテゴリーをサーチする優秀な効果を持っていながら、下級モンスターとしては十分なスタッツを持っている。
「(伏せているカードに『仕込み武器』があって、海老が返り討ちにあっても痛くはない。何故なら、セメタリーに送られた場合にはKASユニットが生成されるんだから。……いや、でも。結局、場にモンスターを並べてもボダコンが突破できなければ、それ以上の展開が望めない。この手札(ハンド)でできることは……)」
天麵航路(と持って来たKASユニット)、海老、小海老、穴子の4枚は使った。残った2枚のカードに突破の切っ掛けはある。その為に漕ぎ出した。
「バトルに入ります。海老艦でボーダー・コントローラーに攻撃します!」
「そうはいかないね。セットしていた『仕込み武器』を発動させて貰うよ。このスペルを装備したモンスターは相手よりATKが100高くなる」
メタビにおける戦闘耐性の低さをカバーするカードであり、海老艦は返り討ちに合っていたが、セメタリーに送られたのでKASトークンが生成されていた。
「バトルは終了します。残った小海老先兵とKASユニット1体をコネクシオン。『TEN・PULA―火器揚艦』を召喚! 小海老がセメタリーに送られた時の効果は発動しませんが、フィールドにKASトークンを生成します」
散々特殊召喚しているのに、フィールドに存在しているモンスターの数が変わらないというのはインヴェ史上まれに見る展開力である。しかも、この間。一切にモンスター効果を発動していない。
「……効果の発動はないよ」
「では、火器艦とKASトークンでコネクシオン。『TEN・PULA―極麺戦艦ウドニア』を特殊召喚します。火器艦がセメタリーに送られたので、フィールドにKASトークンを生成します。続いてウドニアとKASトークンをコネクシオンして『TEN・PULA―超弩級艦天麺』を特殊召喚します。効果の発動は?」
「無いよ」
「では、ウドニアがセメタリーに送られたのでKASトークンを生成します。手札からカードを2枚セットして、ターンエンド」
『TEN・PULA』のエースモンスター1体とKASトークンが2体。更に、セットカードが2枚と。モンスター効果の発動を封じられた状態で、ここまで来たのだから如何に『TEN・PULA』及び、KASユニットが異次元の展開力を持つかが見て取れる。ヒジリのターンが回って来た。
――
「ドロー」
『マスター。どうして、天麺の特殊召喚に『神告』を当てなかったのですか?』
「(当てても無駄だからだよ)」
例え、天麺を『神告』で破壊したとしてもKASトークンが生成されて、再び展開されるだけなので意味が無い。モンスターの効果が使えなくても、コレだから狂っているとしか言いようがない。
ドローしたカードを見る。……努めて平静に。やはりTCGにおけるトップで解決という神話は、ご都合主義としか言いようがないのだが、実際に起ってしまうのだから仕方がない。いつだって、インヴェプレイヤーはこの射幸心に煽られているのだから。
「では、私は『奈落の借財』を発動させる。効果の発動は?」
周りから落胆の声が聞こえる。『結局、コレか』『いつものパターン』と。私は私の勝ち筋を掴ませて貰うだけだ。
「セットしていた『迎撃天露砲』を発動します。フィールドに『天麺航路』か『天丼甲板』の永続スペルが存在しており『天麺』モンスターがいる場合に発動できます。相手が発動したカードの発動を無効化します」
『マスター!』
「セットしていたスペル『神告』を発動! 天露砲の発動を無効にさせて貰う!」
危ない。もしも、さっきの展開で天麺を出された時に使っていたら、私の勝ちが遠のく所だった。シュウ君は結構相手を釣ろうとする動きがあるが、私だってやすやすと釣られはしない。
「まだ! もう1枚のセットカード『TEN・PULA―天一号揚激』を発動します! フィールドの『天麺』モンスターをリリースして、相手が発動した効果を無効化した後、相手フィールドのカードを全破壊します!」
『釣られましたね?』
周りから歓声が沸き上がる。久々に血の気が引いた。そうだった。私がシュウ君の動きを知っているように、シュウ君も私の動きを知っている。何より。
「(私が、この状況で『奈落の借財』を引くと読んでいたに違いない)」
彼が意識しているかどうかはさておき。私の運命力的な物まで感じ取っているかもしれない。もう1枚の伏せカードを辛うじて開いた。
「質実剛健牢を発動する。私のフィールドのカードは効果破壊されない」
とは言え、無効化はされる。奈落の借財がはたき落され、フィールドには『質実剛健牢』と『仕込み武器』を装備したボダコンがいるだけだ。
「KASトークンに攻撃」
元より、展開用のモンスターでスタッツなんて存在していない様な物だ。ボダコンの貧弱なスタッツでも撃破できたが、状況はかなり悪い。
『シュウ君のフィールドには永続スペルの『天麵航路』とKASユニットが1体。お互いに手札は0ですが、彼の方はセメタリーに大量のモンスターが眠っていますからね。手札0同士でもリソースには圧倒的な差がありますよ』
戦闘破壊はされないし、効果破壊もされないが突破手段が幾らでもある様な盤面だ。このままターンを渡すしかない。心臓が早鐘を打っている。トップ神話を突き崩されたショックも大きい。
「まさか、叩き落されるとはね。私が奈落の借財を引くと確信していた様な対処の仕方だったねぇ」
「何となくですよ。ヒジリさんなら、この局面でボクに逆転して来る。そう思っていたから、備えていたんですよ」
「嬉しいね。ターンエンドだ」
私への信頼とも見て取れる。今の私は身動きが取れないので、彼のドローに全てが掛かっている。先程までの嗜虐心が一転して焦燥に切り替わる。長らく忘れていた感覚だ。
ハルカが相手の時は『終わった』という諦観があるだけだが、今だけは何が起きるか分からない。彼の手がデッキに触れる。
「ドロー」
――
「頑張れ……!」
「おいおい、まさか。コレ。行けるんちゃう???」
名前を言う訳にはいかないので、ナギサが控え目に応援している中。アカネはテンションが上がりまくって挙動不審になっていた。周りの視線が痛い。
「ヒジリ殿が初手にヴォイド・マンを引けていないのは珍しいが」
今まで、サクタもヒジリとフリー対戦をしたことはあるが、彼女は必ずと行っていい程、初手にヴォイド・マンを引き込んでいた。
これはどれだけカットしても、何回カットを入れても必ず入るので運命やオカルト方面を信じるレベルの物だった。
「ひょっとして。アレちゃう? ヒジリさんも元のショップに戻りたいから『負けても良いか』って思っとるから、運命力が弱くなっとるんちゃう?」
「そんなバカな。そこまで行けば、いよいよファンタジーの領域であるぞ」
気持ち1つで必要な手札(ハンド)を引っ張って来られるなら、インヴェはゲームとして成り立たない。いや、お互いに手札誘発も含めて引っ張って来られるなら逆にゲーム性も出るかもしれないが。
「ネタやネタ。でも、実際にお姉さんは引け取らん。ということは、何かが働いとるとしか思えやんよ」
初手に『ヴォイド・マン』を引き込める運命力に説明が付かないなら、引けなかった理由もまた説明が付かない。
「(だが、シュウ君が勝ったとして……)」
チラリと横を見た。彼が勝ったとしても、この女がニュークイーンになればヒジリは用心棒と言う職業が続けられなくなる。
「サユリのアホを引きずり降ろして、ウチがリリサンのトップや」
取らぬ狸の皮算用をしている彼女はさておき、シュウのターンが回って来た。彼がドローしたカードは。