TS・ダウナーお姉さんによる後方師匠面 作:何が何でもダウナーお姉さんを出したい。
集会が行われ翌日。約束通り、店には大量のカードが届いていた。
店長とヨシコちゃんが整理しつつ、ショーケース対応にてんやわんやになっている中、私はずらりと並ぶストレージの前面それぞれに『虚無』のスペルカードを差し込んでいた。届いたカードはやはり『在庫』という物でしかなかったからだ。
「ヒジリさん。何をやっているんですか?」
「ストレージの中の冒険で一番必要なのは、この心だということを探す前に教えて上げたくてね」
ふぅ。とアンニュイな表情をしてみせたが、シュウ君は疑問符を浮かべるばかりだった。近くの卓にいたサクタ君も渋い顔をしている。
「ヒジリ殿。今日はいつに増してもテンションが低いな」
「ちょっと。嫌なことがあってね」
「何があったんです?」
かつてのライバルとの格差を実力も併せて見せつけられた。と言えるはずもないので、当事者であるサクタ君もいるからソッチの話をしよう。
「実は今、カドショをシマとして取りたがる集団が多くて。それで色々とね。サクタ君達はどうしてシマ取りを始めたんだい? 誰かから頼まれたとか?」
サクタ君の表情が固まった。コレは多分、依頼した奴がいるのだろう。
ただ、そんなのがいたら教えてくれる物だと思うが、今まで明かさなかったことから、契約の様な物が交わされているのかもしれない。
「喋れないんだね?」
「何のことか? としか、言えん。……だが、勝負に熱中していたら判断力は落ちてしまうかもしれんな」
ピッとデッキを取り出した。私もメタビを取り出そうとして、手が止まってしまった。先日のハルカとの戦いを思い出して、気持ちが鈍る。シュウ君を座らせた。
「私は集会に出席したり何やらで疲れたんだ。手合わせはシュウ君に任せた。強くなるには実戦あるのみだよ」
「え? 分かりました。よろしくお願いします」
「ウム。よろしく頼む」
シャッフルした後、シュウ君はカードを傷付けない様に慎重にカットを入れていた。初々しくて、微笑ましい気持ちになる。
「(何時からだろうな)」
最初はカードに触るのが楽しくて、デッキのカード全部をスリーブに入れて積み上げた時は感動すら覚えた。
大人になってから欲しいカードが買えるようになって、プロになってからは勝負以外にも営業に回ったり、CMに出たりとか。色々とあって大変だったけれど、辛いと思ったことは無かった。
「僕はスペル『女王の召集』を発動します。このカードはレギオンと名前が付くモンスターをサーチできます……何か、発動するカードはありますか?」
「ないぞ」
「跋扈するレギオンをサーチして召喚! 着地時の効果で……!」
「『速攻の猟犬』を発動する!」
跋扈するレギオンの展開能力は良いのだが、あまりに止められやすいという問題がある。態々、『女王の召集』の時点で発動する効果が無いか? と、聞いた。ということは、速攻の猟犬を使わせようとしたのだろうが、ここはプレイ歴が物を言う所。
「相手が展開する上で必要な所に妨害を入れる。コレを『マストカウンター』と言って、今後。覚えていく必要があるね」
「は、はい!」
何となくでプレイしても楽しいけれど、勝つために必要なテクニックや知識を身に着けて、それが勝利を引き寄せてくれたと実感できた時はなお嬉しい。
「後はもっとカードを揃えたら強くなれるな。何せ、我ら学生は金がない。カードを入手する機会に恵まれにくい。金銭の支援があったら、きっと耳を傾けてしまい、カードの購入費にでも充てるだろう。この『Ⅳ/Ⅴ』に装着するKRSキャノンの様なカードを買うために!」
サクタ君はシュウ君のカードパワーに合わせて、装備ビートの『侵攻兵器』デッキを使っている。その中でも『KRSキャノン』はかなり変わった挙動をする。
「このカードを装備した場合、手札、デッキから同名カードを2枚装備する。3枚の『KRSキャノン』を装備したモンスターのATKは5000上昇する。なお、このカードは1枚でもフィールドから離れた場合、自身の装備モンスターと装備スペルは全て破壊される」
「5000!?」
上昇値もえぐいが、使い辛いことで有名な『KRSキャノン』だ。
とは言え、装備カードの上昇値としては現代でも最高クラスだ。再録もされていない為、入手機会も乏しい。その上、3枚の投入を義務付けられているので、在庫も無くなり易く、必然的に高騰してしまっているカードだ。
「それは乗ってしまうね。その親切な足長おじさんは誰だろうね?」
「分からん。DMで入っていたからな。半信半疑だったが、きちんと入金もされていた。『Ⅳ/Ⅴ』! 跋扈するレギオンを粉砕!」
KRSキャノンから放たれた一撃が跋扈するレギオンを吹っ飛ばしていた。幾らなんでもオーバーキル過ぎる。
「じゃあ。シマを取れたら、本当に毎回買い物できていたってことですか?」
「恐らくな。良くないとは思っている。だが、デッキは幾らでも作りたい。新しいカードは試したい。スリーブは欲しいし、限定のプレイマットも買いたい。ストレージも新しいのが必要になっている」
TCGと言う遊びにおいては必然とも言える要求だった。
ゲームの様にプレイ時間を重ねれば良いという訳ではなく、新弾のカードやカードサプライのことも考えれば、件のDMに応じる集団と言うのは大量に出て来るだろう。
「実際にシマを取ったグループを見たことは?」
「見たことが無い。ヒジリ殿もそうであるが、カードショップにいる用心棒達の実力は折り紙付きでござるかなら。……ただ、シマにすることに成功したという話は聞く」
用心棒達の多くはプロ崩れだったり、ショップに出入りする実力者なので、サクタの様な若者達が勝てるとは思えないが……。
「何処の店舗がシマになったかとかは、共有されている?」
「ここに書いてある。我々は別のグループのシマに入ってはいけないという協定があるからな」
サクタが見せてくれた内容を確認するに、大型店舗にシマは無いが個人経営レベルの小規模店舗や、拡大中の中規模店舗位には幾つか見られた。
「でも。小規模店舗なら、むしろ。特定の集団のシマになった方がお金とか沢山落してくれるんじゃないんでしょうか?」
シュウ君の意見は珍しい物ではない。いや、ひょっとしたら店主側でさえ思ってしまうことがあるかもしれないが。
「恐らくだが、その経営は長くは続かない。いや、続く訳が無いんだ」
「どうしてですか?」
フィールドでは概ね互いのモンスターやスペルが行き交っている。
シュウ君がどうやって動かそうかと悩んでいる様子を見ながら、サクタ君も冷静に対処している。一見すると、初心者を無慈悲に叩き潰している様に見えるが、そうではない。
「装備スペル『マルティヌスの監獄』を発動! この装備スペルが付けられている限り『Ⅳ/Ⅴ』は攻撃と効果を発動できない!」
「ならば、『緊急換装』のスピードスペルを発動! 場のモンスターと同名のカードをデッキから特殊召喚して装備スペルを移し替える! 指定したモンスターをセメタリーに送……」
「『速攻の猟犬』を発動! サクタさんはデッキから特殊召喚することができないから、そのまま監獄を食らいます!」
「やるな!」
モンスターの効果やスペルで指定されたモンスターをフィールドから逃がしたりすることで、破壊や無効化から逃れて別のアドバンテージを引っ張って来る回避方法。
コレは『生贄に捧げる(サクリファイス)・エスケープ』と呼ばれるテクニックだが、デッキから引っ張って来るという挙動を見て、逃げ道と援軍を両方防ぐ。というのは、正にマストカウンターだ。
「更に! 僕はロッソ・バイパーとレギオンをコネクシオン! いけ! クラウディアス・クリムゾン・ドラゴン! 起動効果で『紅き女王の勅令(クリムゾン・クイーンズ・オーダー)』をサーチ! セメタリーからロッソ・バイパーと跋扈するレギオンを特殊召喚! 再び、2対でコネクシオン! 暴君龍カリグィラを特殊召喚! 着地時の効果で相手フィールドのカードを破壊する! KRSキャノンを破壊!」
暴君龍と言う名にふさわしい、禍々しい雰囲気を纏った黒竜の一撃によってKRSキャノンが割れて連鎖的に『Ⅳ/Ⅴ』も割れた。後はもう決まっている。
「2体でダイレクトアタック!」
赤と黒の一撃が入り、今までの攻防で多少削られていたサクタ君のMPが0になった。……シュウ君の初勝利だ。
「ヒジリさん! 僕!」
何だろう。私がメタビを握って勝った時よりもずっと嬉しい。彼を通して、楽しかった頃の自分を見ている様で、胸にジンワリした思いがこみ上げて来た。
「頑張ったね。……カードショップってこういう所なんだよ。私がシュウ君やサクタ君と出会って、勝負をして、たくさんのことを覚えて。関連商品を買うだけの場所じゃないんだ」
声を掛けるのは勇気がいるし、勝負を申し込むのだってかなりハードルが高い。でも、乗り越えた先には掛け替えのない経験がある。
「うむ。我とばかりでなく、炸裂団のメンバーにも声を掛けるか。お前達!」
サクタ君がシュウ君を連れて、一角へと移動していく。コレで彼も経験と知識を積むことができたなら幸いだ。
嬉しい反面、やはり。自分から離れた場所の方が彼の為にもなるんだろうなと思うと、胸に一抹の寂しさが過った。