百合の間に挟まりたくない男はどうしたらいい   作:かぐいろ大好き侍

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本編
俺の青春のスタート


 

 皆さん、田舎とはなんですか?都会とはなんですか?

 それは、人との繋がり方だと思います。

 

 俺の生家は田舎にあります。親は農家で広大な土地を所有し耕種、畜産と農業一族です。兄も姉も親の跡を継ぐそうです。

 親戚一同皆同じ村の人間で、お隣さん(1番近くでも車で15分の距離です)のご家族も血縁がないのに家族の様です。

 俺が通った学校は小中一貫で生徒数は16人1クラスではなく、総数が16人です。村の人口も168人だけ。はっきり言って全員の顔と名前が一致している。この小さな世界では友人になるより他人になる事の方がはるかに難しい。

 別に変な因習がある訳でも、性格の終わっている老人がいる訳でもない。外部の人間が移住してきても皆、心優しく接してくれる。村全体が家族の様な存在だ。何も不満が生まれることのない素晴らしい所だ。

 別にここで生涯を終えても後悔することなど無い幸せな生活が送れるだろう。

 

 でも、俺はここでの生活に物足りなさを感じた。

 親の跡を継いで農家として生計を立てて、嫁さんを貰うなり婿に入るなりして子を成し、その成長を見届け孫に出会い、看取られ旅立つのも味があって良いものなのだろう。何不自由ない平凡ではあるが温もりのあるハッピーエンドだ。

 

 しかし、不自由のない生活に刺激など有るのだろうか?

 人間が成長する条件はいくつかあると思うが、困難に打つかって乗り越えてこそ達成感と充足感を得られる。

 だから俺は村を出た。

 両親も了承し、高校からは都に移り住む。出来る限り自分で生計を立てて行きたいので、実家からの援助は家賃補助のみ。残りは自力で稼ぐ。

 これが中々大変で、地元の高校に通えば学費なんてあってないような額だっただけに、学費を出してもらうのが忍びなく、給付型奨学金を得られるように好成績を維持。更に生活費を稼ぐ為バイトを週30時間程こなして、月収15万弱。都会の物価は目が飛び出る金額なので、他にも内職を行い小遣いを稼ぐ。1日の平均睡眠時間は4時間程度だ。

 休む暇もない忙しない日々ではあるか、とても充実している。

 幸い頑丈な身体に産んでもらったお陰か、常人なら過労でぶっ倒れてもおかしくないが健康状態は常に優良。

 そんな俺の青春を画面の向こう側の皆さんにお見せしよう。

 


 

「酒寄、お前ちゃんと寝てるか?目の隈凄いぞ?」

「えっ?!化粧で隠れてない?」

「遠目ではな、でも会話する程度の距離だとよく見てる奴は気付くぞ」

「マジか〜、ありがと気を付けるよ」

 

 こいつは酒寄彩葉(さかより いろは)。俺の住むアパートの上の階の住人だ。

 母親との相性最悪で実家を飛び出し、一人上京。生活費と学費を全て自力で賄うスーパーJKだ。はっきり言って、俺よりハードな生活を送っている。

 成績優秀、才色兼備。人柄もよく、教師や同級生からの信頼も厚い。まさに大和撫子。

 だか、そんなイメージと成績を崩さぬ様酒寄は超ハードモードの人生を送っている。今からでもノーマルモードに戻しな。

 そんな学校への登校中の酒寄の異変に気付き指摘したが、やはり相当の夜更かしをしたのだろう。

 

「昨日は何時に寝た?いや、まさか今日に差し掛かってないよな?」

 

 俺は顔を近づけ酒寄の目や表情を注視する。

 

「い、いや〜、べっ別にそんなに夜更かししてはないよ?ちゃんと昨日の24時には就寝したし〜」

 

 視線を反らし頬の筋肉がやや吊り上がった。分かりやすいやつだ。

 

「1時、2時、3時、4時」

「えっ?なになに」

 

 俺は時刻を1つずつ羅列し酒寄を観察する。4時で目尻が動いた、確定だな。

 

「日が昇るまで勉強でもしてたな?」

「うっ、バレた。なんでわかるの?」

「人間の心理は必ず行動に現れる。(つぶさ)に観察していれば自ずと読み取れる。特に酒寄は根が善人だから嘘を吐くのが下手だからな」

「くっそ〜、何でもわかったような顔して」

 

 酒寄が怪訝な表情で俺を睨むが、事実なのだから仕方がないだろう。

 

「お前の事情に深く突っ込んだりはしないが、友人として心配する位は良いだろ?」

「それは、もちろん感謝してるよ。でも、凡才の私じゃあ量を熟すしかないから仕方ないじゃん」

「お前が凡才なら世の人間全てが無才になるわ」

 

 普通、学業の維持と生活の維持を両立させるのは至難の業だぞ?生活費の大部分を占める住宅費まで自力で稼いでいるんだからな。

 

「倒れる前にしっかり休めよ?」

「その点に関してはご心配なく。明日からは三連休で久々に1日6時間は寝られますから」

「いや、しっかり8時間寝ろ〜?」

 

 こいつは、普段から身体に鞭打って頑張っているんだから休日くらいゆっくり休めよ。

 

「マジのエリート遊びも疎かにしないハズ。睡眠時間削ってでも遊びます」

「倒錯してるな、いざとなったら縛り上げてでも休ませるからな」

「強引すぎでしょ?」

 

 強引なものか、こいつは下手をすると完徹すらしかねない恐ろしさがある。

 時々、授業中に目を開けたまま気絶するし。やめてくれ、見かけた時は本当に驚いたんだからな。

 

「あっ、そうだ。明日、実家からまた野菜やら肉やら届くらしいから、幾らか貰ってくれ」

「また?先週も貰ったから申し訳ないんだけど?」

 

 俺は家賃だけの援助であるが実家から商品に出来ない不出来な品が送られてくる。野菜だと形や大きさが不揃いだと売れない物が出るし、肉に関してはマジで時々だが、市場の見通しに失敗して売れ残りが出る事がある。それらは近所に配ったり家族で消費したりして、廃棄量を減らしている。

 が、如何せん量が多いためゼロにする事が出来ず、実家から出た俺にもノルマが課される。消費しきれなければ勿論処分する事になる。

 しかし、それらは産業廃棄物なので生活ゴミとして棄てる訳にもいかず実家に返送。廃棄料金は翌月の家賃補助から引かれる。それでも足りない場合は借金という鬼畜の所業である。

 

「前も言ったがむしろ貰ってくれないと俺が困る。家賃補助打ち切りは流石にキツイ」

「私は家賃も自分で払ってるよ〜」

「そうでした、酒寄様は(それがし)とは比べ物に成らぬ傑物でありましたな」

「「、、、っぷ、あはははは!」」

 

 こんな登校中の青春。同じ苦労を分かち合える友。

 そう、俺はこんな日常を望んでいた。何不自由ない暮らしでは得られなかった、乾きと潤い。今の俺は全身全霊でこの世に存在している。満たされてる。

 でも、酒寄は時折りどこかに消えてしまいそうな顔を見せる。勿論、表情に出ているわけではない。雰囲気から感じ取れる儚さだ。俺は酒寄の乾きを潤してやれてるだろうか?

 この笑顔も間違いなく本音だ。でも、心の底から笑えているかまでは俺にも分からない。

 いつか、こいつの心を満たしてやれる事はできるのだろうか?

 俺の青春のゴールはきっと酒寄の本気の笑顔を引き出すことが出来なければ辿り着けないだろう。

 

「あ、そうだ。天野は三連休の間は何するの?」

「俺か?特に決めてないが、『ツクヨミ』でKASSENの挑戦があったからそれを消化したら後は特に決めてないな」

 

 『ツクヨミ』

 現在のゲーム業界に革新をもたらした、インターネット上の仮想空間に入って遊べる超未来的なVRゲーム。

 AIでありライバーである「月見ヤチヨ」が管理するその空間は、全てのプレイヤーが創造者であり表現者。多くの人の心を動かせば運営から『ふじゅ〜』と呼ばれる仮想通貨を貰え、更には現実生活でも通貨として使用できる素晴らしいゲームだ。

 人気ライバーはそれだけで食っていけるし、酒寄の様な苦学生でも遊べて小遣いも得られる神ゲーだ。

 かく言う俺もライバーとしてそこそこ稼いでいる。プログラムや物作りの才能が有ったみたいで武器を制作したり、新たなゲームを企画、開発したりで少なくない『ふじゅ〜』を貰えてる。推し活にほぼほぼ使っているので、バイトは辞められないが。

 え?推しは誰かって?それは勿論『月見ヤチヨ』さ。あの歌声にビジュ何をとっても最of高よ。ちなみに酒寄もヤチヨを推していて、夜更かしする事も無いことが無いとか。

 

「へえ〜、相手は?知ってるライバー?」

「いや、DMに挑戦状が来ててな、アカウントを調べてみたけどライバーとして活動はしてないみたいだけどランキングに乗る程度の実力はあるみたいよ?」

 

 俺の配信内容はKASSENがメインで物作りや企画開発はサブ。KASSENで使う武器作りや内容に物足りなさを感じた時に新ゲームを企画したりしている。だからKASSENの実力は折り紙つきで、トップライバーの『Black onyX』通称、黒鬼のプロゲーマーの帝アキラとタメを張れる程の実力だ。

 リスナーからはプロに成らないのか?と、よく聞かれるがプロになると制限も掛かるから俺はなるつもりは無い。

 

「程々にしなよ?以前ボコボコにし過ぎてアンチ化したんでしょ?」

「自分から挑戦しておいて、負けたらアンチに堕ちるなら元々ファンではないだろ。俺の実力と自分の実力の差を分析できないなら、挑戦者の資格はないって。

 酒寄は三連休の予定は立ててるのか?」

「私は勉強と推し活かな。この三連休はバイト入れてないし、期末試験に向けてしっかり勉強しないと、、、天野は勉強どうするの?」

「俺?まあ、渡された課題をこなして復習をしたらそれで終わりかな?

 テスト対策で無理をするより日々のルーティンをこなして万全の状態で挑む!」

 

 ここだけの話、正直毎日勉強に精を出さなくても、好成績は維持できる。

 何故か知らないが、授業を受けると1度受けた事があるかのようにすっと頭に入ってくる。だから学校のテストは授業を真面目に受け、出された課題を熟せば高得点を維持できる。

 まあ、時々ケアレスミスや時事問題に躓くことはあるが、常に学年2位。ちなみに1位は酒寄様です。不動のツートップである。

 

「じゃあさ、勉強会しない?理系は天野に聞けば間違いないし」

「ああ、いいぞ。文系の所は頼りにさせてもらうぞ」

 

 酒寄は文系で俺は理系。得手不得手がある訳では無いがお互いそれらの相性がいいのか無理をしなくてもいい成績を出せる。

 

「じゃあ、また放課後な?」

「うん、またね」

 

 学校に着きそれぞれの教室に別れる。

 去年は同じクラスだったが今年は別クラスだ。ちょっと残念。

 

「よお、天野!てめぇ、また彼女と登校デートか?羨ましい!」

「そおだ!俺たちにも青春をお裾分けしろ〜!」

 

 クラスの男子共が俺と酒寄の関係を茶化す。

 一応、酒寄の名誉の為に言及しておくが、俺たちはその様な関係では無い。酒寄の事は確かに好きだが、それは友人としてだ。

 まあ、酒寄と恋人になりたくない訳ではないとだけ明言しておく。

 

「何度も言ってるだろ、俺と酒寄はそんな関係じゃないって」

「なあにが「そんな関係じゃない」っだ。同じ屋根の下で暮らし毎日登下校を共にしオマケにバイト先も同じ。これで彼氏彼女じゃないと言えるのか!」

「「「そうだそうだ!」」」

 

 アパートもバイト先も偶然だし登校は兎も角、下校に関しては互いの交友関係やバイトのシフトの影響でそこまで頻繁に一緒ではないぞ。

 

「ちょっと男子〜、人の恋路に口出ししないの。そんなんだからいつまで経っても童貞なのよ」

「どどどど童貞ちゃうわ!」

「そうだ!俺たちは童貞ではなく童帝だ!(わらべ)(みかど)である!」

「認めたな」「認めたね〜」

 

 男子とは愚かな生き物である。

 


 

 天野と別れて教室に入る。

 

「彩葉〜、今日も旦那アツアツですなあ」

「真実、あんまり彩葉を揶揄わないの」

 

 友達の真実と芦花が話しかけてきた。別に私と天野はそんな関係じゃなって言ってるのに。

 まあ、もはや朝の挨拶みたいな物だけど。たまには反撃するか?いやいや、私の学校でのイメージが崩れる。

 

「もお、真実。私と天野はそんな関係じゃないって」

「えぇ〜、とか言って満更でもないんじゃない?」

「確かに、天野くんって成績優秀で器量がいいし顔も良い。欠点の貧乏もあくまで彼個人の懐事情ってだけでご実家は裕福らしいし、結構な優良物件よね」

 

 おっと、珍しく芦花もそっち側に回るか。

 確かに魅力的な条件だけど、天野自身が私を現時点で異性として意識してない以上、可能性は皆無でしょ。

 あいつは青春をこよなく愛するがそれを他人に押し付けたりしない。恋愛だってそうだろう。相手にその気がなければ自分が好意を抱いていたとしても、玉砕覚悟の告白なんてしない。断る側を慮ってその想いに蓋をするか、好意を抱いて貰えるように関係を築く。そういう奴だ。

 

「そんなに煽てても私たちの関係は変わらないよ〜、今の私にそこまでの余裕がある訳じゃなし」

「真美さん、聞きました?」

「聞きました聞きました。つまり余裕があれば恋人になるということですね〜。澄ましたお顔をしても本心ではそういうことなのですね〜」

 

 井戸端会議の主婦か。

 

「それ以上揶揄うなら、ノート見せてあげないよ〜」

「ああ〜、ごめんなさい〜。神様、仏様、彩葉様〜」

「どうか哀れな小鹿にお恵みを〜」

 

 全く、調子のいい。

 でも、極貧生活は大変だけど。こんな日常が、日々の癒しであるのは心の中だけの秘密だ。

 

 願わくばこんな日常が続けばいいのだが、この時の私は知る由もない。

 家に帰ると私の、私たちの人生を揺るがす運命が待ち受けていることに。

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