百合の間に挟まりたくない男はどうしたらいい   作:かぐいろ大好き侍

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今回は書きたかった内容をそのまま文字起こししたので、とても楽しかったです。
『超かぐや姫!』本を買おうとしたけど、何処にも売ってない。仕方なく電子でポチッたけど、文庫本で買えた人いる?ちなみに資料集は注文かけたけど届くの4月半ばってヤバ〜


竹の姫に翻弄される翁コンビ

 

 遠くからキジバトの鳴き声が聞こえる早朝。

 

「ん?朝か……っは!」

 

 彩葉は飛び起き室内を見回す。

 

(居ない)

 

 押し入れの中、ユニットバス、ベランダからまた押し入れ。全てを確認して。

 

「居ない、出ていったか?いや、全ては過労による幻覚だったのかもしれない。ヨッシ!」

 

 彩葉は喜びの余り、渾身のガッツポーズを決める。

 しかし、そのタイミングを見計らうように流しの下の引き出しが開く。

 

「ココダヨー」

 

 そこには昨晩、下の階の住人と踊り騒いだ宇宙人が居た。

 

 


 

 

「ねーねー、彩葉と尊がいつも見てるこの人って誰?好きなの?」

 

 普段より迅速に食事と身支度を整え、学校に登校できる準備を済ませ慌ただしくフライパンを振るっていると、宇宙人がタブレットを操作しながら尋ねてきた。

 相手が未知の生物であっても、ヤチヨについて聞かれるのはファンとして喜ばしいことなのだろう。頬が持ち上がりつつも、努めて冷静に声を弾ませないよう抑えて喋る。

 

「月見ヤチヨ、AIライバー。私と天野の推し。分身もできて歌って踊れて8000歳って設定」

「へぇー、AI?ロボットってこと?おもろー!」

「まあ、天野はAIであることは信じてないらしいけどね」

 

 尊は月見ヤチヨ全肯定マンであるが、唯一ヤチヨがAIであることは否定している。

 本人曰く

『ヤチヨはAIではなく、人間だ。あの歌の表現力と会話の人間臭さは1と0で構成された2次元存在ではない!』

 との事。

 

 彩葉は火を止め、手を洗い、通学鞄を肩にかけ靴を履き、

 

「じゃあ、行ってきます」

 

 と言い残すと、

 

「え〜!やだやだやだ!」

 

 宇宙人が飛び付いてきた。

 

「うおっ、またデカくなったな」

 

 宇宙人少女はもう、彩葉と変わらない程大きく育っていた。

 

「一緒いて!」

 

 切実そうに、涙ながらに訴える。

 しかし、彩葉にも日常がある。ここで折れることはない。

 

「無理、学校休めない。家から出ないでね、ご飯はそこに置いといたから、パンケーキ」

 

 彩葉は一方的に言い切り、キッチンの大皿に乗せたパンケーキを指さす。

 そこには、酒寄彩葉特製『粉と水のパンケーキ』が存在している。宇宙人少女はすぐさま、1枚頬張る。すぐに咀嚼するがみるみる顔が歪みだし一言。

 

「くそまじぃ……」

「失礼な、じゃあ今度こそ行くから」

 

 話は終わりと言わんばかりに戸を開けようとする。

 

「待って待って、おかしいよ。普通、こんな得体の知れない不審者部屋に置いて行けるの?そんなに学校って大事?」

 

 少女は自分を客観的に理解しているようだ、彩葉もその事実に少々驚く。だが、彩葉にとってはそれ以上に大事なことがある。

 

「命より大事!あんたに関わったのは私の責任だけど、もうお終い。全部元に戻す。」

 

 冷たいようだが、これが彩葉にとっての最後の義理。この3日間は恐ろしく目まぐるしい子育てに追われ、その経験自体は有意義なものであったかもしれない。

 だが、彩葉は高校生で本分は学業。いつまでも、見ず知らず子供の面倒を背負い続けるものではない。

 

「だから、あんたも月へ帰って」

「でも、帰り方わかんないし、ここなんかおもしろそーだし。尊のオムライス美味しかったし」

 

 この宇宙人少女、地球をエンジョイする気満々である。

 

「とにかく、早く思い出して。今日中に、わかった?」

 

 SF映画のライトセイバーよろしく、指を突き出した。

 

「行ってきます」

 

 不服そうな少女を一瞥するが、機を逃さず扉を閉める。

 

「ぶー!」

 

 少女の文句を無視し、学校へ向かう。

 

「よっ、おはよう」

 

 アパートの階段を降りるとそこには、この3日間大変お世話になった友人が待っていてくれた。

 

「おはよう、ずっと待ってたの?」

「俺も部屋を出たのはついさっきだ。あの子の玄関に向かう足音が聞こえてそろそろかなって思ったんだ。その様子だとだいぶ拗れたようだな」

 

 少女は下の階を慮ることは無いので、足音がもろに聞こえてくる。それで、いつもより少し早い彩葉の登校するタイミングを察したのだろう。

 

「そう、あの子ってば完全に居座る気で月の帰り方も知らないって言うし、人が作ってあげたパンケーキに不味いって言うし」

「不味いパンケーキってどうやって作るんだ?砂糖と塩を間違えたのか?」

「そんなミスしないわよ。粉と水で作った超画期的節約料理。1枚の原価は5円、これでお腹も膨れるし炭水化物を摂取できる、貧乏人の味方」

「それはパンケーキではなく、固められた焼き粉だ。パンケーキではない。あの子の味覚は正常だし、感想も至極真っ当さ」

 

 ドヤ顔で説明する彩葉に喝を入れる尊。

 とても、食べ盛りの17歳の食事内容ではない。尊から受け取ってる食材は使われなかったのだろうか?

 

「いや、さすがに朝から凝ったものは作る余裕ないし、今日中に帰ってもらうなら未練を残すような思い出は作らない方がいいでしょ」

 

 優しさなのかモノグサなのか。

 2人は、少女話はそこそこに学校へ向かう。

 

 


 

 

「今の、成績を維持できるならどの大学も現役合格間違いなしね」

「ありがとうございます」

「天野君は志望する大学は決まってないの?」

 

 尊は担任の進路指導を受けている。

 

「特に決まってないですね。俺の成績なら高校と同じで給付型奨学金を貰えるでしょうし、どんな職に着きたいかもまだ考えてる最中ですし」

 

 尊は自分の進路に明確な展望がある訳では無い。田舎を出てきたのは、地元には無い刺激を求めてきたのであって、叶えたい夢がある訳では無い。

 ちなみに、この三連休の間の怒涛の子育ては求めた刺激とは解釈違いだが、とても楽しめた。

 

「期限までまだまだ時間もありますし、もう少し考えてみます。どうしても、決まらなかったら適当に東大に行きますから」

「普通、東大は散歩感覚で目指す場所ではないのだけどね?」

 

 天野尊、学校成績は不動の2位、ケアレスミスや時事問題に躓かなければ1位も取れるポテンシャルを持つ。

 さらに、昨年の全国模試でなんと1位。しかも、対策勉強を行っておらず普段通りの生活でこの成績である。国語がやや点数が低かったが、他で補ってトップの座を勝ち取った。

 ちなみに、模試で敗北したどこかの貧乏人少女は奮起し睡眠時間を削って勉強時間を確保したとかしないとか。

 

 進路指導を終え、廊下を歩いていると声をかけられる。

 

「やっほー、天野っち〜」

「天野君も進路指導だったんだね」

 

 諌山真実と綾紬芦花、彩葉の友達で数少ない尊の友人でもある。

 

「ああ、俺もって事はもしかして酒寄もか?」

「そう、彩葉も職員室で進路指導受けてるんだってさ〜」

「私たちは彩葉と天野君を待っててね、テスト対策のお礼をしようと思ってね」

「お礼?」

「ほら〜、彩葉に見せてもらったノートと天野っちが用意してくれたテストの予想問題で私ら超助かったからさ〜」

 

 尊と彩葉は今回のテストで2人に勉強の面倒を見ていた。と言っても、彩葉は綺麗に纏められた自身のノートを見せ、尊は授業中に『俺ならこんな問題を作るな〜』と、ノートに落書きした問題を見せただけ。お礼を受けるほどの労力は割いていないのだ。

 

「別に気にする事はないぞ?授業中の落書きを見せただけで大した苦労は背負ってないし」

「その落書きに助けられたのは私たちなんだけど?」

「おっと、これは失礼。失礼ついでに俺より酒寄に返礼は弾んでやってくれ」

「どして〜?」

 

 尊はわざとらしい涙を浮かべ、『これは演技です』と言わんばかりの大根役者で語る。

 

「酒寄の奴な、粉を水で固めた生地を焼いてこれはパンケーキだって言い聞かせながら食べてる可哀想な奴なんだ。俺はそんなあいつが不憫で不憫で、おお〜いおいおいおい」

 

 徹底した大根演技、しかも涙を拭く右腕には目薬が握られている。

 

「そんな、彩葉ってばそこまで追い詰められていたなんて」

「これは私達が救済してあげねばなれませんな〜」

 

 尊の大根劇場に乗っかる、芦花と真実。

 

「てな訳で、俺の分も美味しいパンケーキを食べさせてやってくれ」

「任せて、彩葉に飛び切り美味しいパンケーキを食べさせてあげるわ」

「天野っち、彩葉の事は私らに任せなさ〜い」

 

 3人で親指をたて拳を合わせる。

 

「3人とも何してるの?」

 

 寸劇が終わったタイミングで彩葉が職員室から出てきた。様子を見るに3人の漫才は聞かれてないようだ。

 

「いや、大したことじゃないさ」

「そうそう、下らない漫談を楽しんでただけだから」

「下らなすぎて、人に聞かれるのが恥ずかしい事だから」

 

 三者三様に会話の内容を卑下していく。3人にとっては大事でも彩葉に聞かせていい内容では無い。今はまだ。

 

「じゃあ、俺は先に帰るな。今日はちょっと家に面倒な問題が山積みだから」

 

 尊は彩葉にアイコンタクトを送り、言外に宇宙人少女の問題を伝える。

 

「あ、ああ、そうだったね。じゃあ、またね」

「天野君、またツクヨミでね」

「天野っちじゃあ〜ね〜」

 

 そう言うと尊は足早に去っていく。

 3人は尊を見送り、芦花と真実は彩葉を交えてゆっくり下校を開始する。

 

「彩葉って進路どうするの?」

「音楽系でしょ〜?それかeスポーツとか〜?」

 

 彩葉を間に挟み代わる代わる聞いていく。

 

「そんな才能ないよ〜。それに最低でも東大に行かないと、親が認めてくれないだろうしさ」

 

 彩葉の母は4人の弟妹を養いながら京大に行った猛者である。そんな母と違い自分はなんの枷もなくのびのびと生きているなら、更に上を目指すべきだと思っている。

 

「最低でそこ?厳しいー」

「私なんてデロデロに甘やかされてるな〜」

 

 2人とも同じノリで笑う。

 彩葉にとっての日常。いつもと変わらぬ穏やかな会話。まるで、昨日までの地獄が無かったかのようだ。

 けれど、2人は示し合わせたかのように、いつものペースを維持し見慣れぬビル群に彩葉を誘導する。

 

「こっちだよね〜?」

「うん、そこの階段を登ったところ。彩葉、おいでー」

「え、え?待って2人とも。今日何かあったっけ?」

 

 ちなみに、彩葉にはある。家にまだ居るかもしれない宇宙人少女とか、宇宙人少女とか。尊が先に帰って確認してくれてるとはいえ、やはり気になる。

 

「ほら、新しいカフェ行くって約束したじゃん〜」

(ああ、待ってください真実さん。言えないけどこの3日間で信じられないくらい散財したんです。天野のおかげで致命傷は避けたけど、十分に重症なんです)

 

 哀れ彩葉。今の真実は食欲に脳を支配され目にはグルメの炎が宿っている。こうなってはもう誰にも止められない。

 

「はい、れっちご〜!」

「ご〜、ご〜」

「後生ですから〜」

 

 真実に手を引かれ、芦花に背を押され抗う事は出来なかった。

 

 その背後に3人を尾行する小さな影には誰も気づくことはなかった。

 

 


 

 

 場所は変わり尊はアパートに帰ってきた。

 自室に入り、着替えを済ませ上の階に上がる。

 

「酒寄の部屋やけに静かだな。あの子なら何かしら生活音が聞こえると思ったんだが」

 

 尊は彩葉の部屋の前に立ち、戸を叩こうとする。すると

 

ズキッ!

 

それでね〜彩葉からかぐやって名前を貰ってさ、超嬉しかったんだ〜

 

(また、頭痛?しかも、妙な記憶が見えた気がするが、思い出せない)

 

 連休前の夜と同じ謎の頭痛と記憶のフラッシュバック。しかし、思い出す事が出来ず、頭痛も収まる。

 

(まあ、いいか)

「お〜い、俺だ尊だ。開けてくれ」

 

 戸を叩き、扉を開けてもらおうとする。

 しかし、戸の向こうから返答は無い。なんなら、人の気配もない。

 

「……まさか」

 

 不安を抱えドアノブに手をかけ扉を開けようとする。

 すると、あら不思議。扉はなんと抵抗も見せず、開いてしまうではありませんか。

 

「帰った?それとも、出かけた?」

(状況を整理しよう。

 俺は学校終わりに寄り道せず真っ直ぐ帰宅した。道中、あの子とすれ違ったりしてはない。見落としの可能性もあるが一旦考えるのはやめよう。出かけの線はないか?

 次に月に帰った可能性、多分これはないだろう。酒寄の話に拠ればあの子は地球に居座る気でいるらしい。なんなら、帰り方すら覚えてないなら自発的に帰ることはないだろう。

 竹取物語よろしく、月のお迎えが来た?でも、月からの迎えは満月の夜らしいし、あの子が地球に来たのも満月の夜。この事から月齢は地球と月を結ぶ重要なファクターと考えられる。つまり、迎えの線も無いだろう。

 最後に考えられる可能性は誘拐。あるいはそれに準ずる、犯罪に巻き込まれた可能性。出自はともかく、あの子は誰がどう見ても美少女だ。あの子を誘拐して身代金を要求する、又は変態の手篭めにしようとするゴミがいても不思議じゃない。もしくは、酒寄の部屋に空き巣に入ろうとしたらそこで鉢合わせ連れ去られた場合も考えられるが、はっきり言って金目も物の無さそうなボロアパートに入る事はしないだろう。

 以上事から可能性が高い順に、犯罪、外出、帰宅、迎え。犯罪の場合警察を頼るべきだろうが、説明するための文言が思い浮かばない。

 外出の可能性に賭けて、酒寄に連絡を入れるか)

 

 ここまでの思考を3秒で済ませ、携帯を取り出し彩葉に連絡を取る。

 

「酒寄、今いいか?」

 

 なんと、ワンコールで通話が繋がる。

 

「あの子が部屋に居ないんだが、外で見かけてないか?」

 

 不安を与えないように、端的に話す。

 

『私の目の前にいるから安心して』

 

 電話の向こう側で妙に覇気のない声色で、返事がくる。

 

「おおっお〜、そうかなら良かった。ところでなんか声が疲れてないか?」

『へへへ、そんな風に聞こえる?それ正か『もしかして尊?!かぐやも話す〜』ち、ちょっと今話してるから待ってなさい!』

 

 どうやら、最悪の事態は回避していたようで尊は胸を撫で下ろす。

 

 


 

 貧乏少女の抵抗虚しく連行された場所は、『空と大地と人がつながる』がコンセプトの複合施設内。自然の光を取り込み景観も価格帯もハイクラスなカフェの一角。

 

「彩葉ノートと天野くん特製問題で赤点回避記念」

「お礼の品で〜す」

「「ご査収くださ〜い」」

「あ、ありがとう」

 

 彩葉の前に運ばれてきた、オシャレで映えの象徴とも言うべきクリームたっぷりのふわふわ3階建てパンケーキだ。

 

(こ、これは経験からわかる。このノリは奢りだ!正直嬉しすぎるが、何か変なノイズが聞こえた)

「これってテストのお礼だよね。なら、天野は?」

 

 そう、芦花のセリフからテストの返礼品である事はわかるが、それなら尊が、この場に居ないことが不自然だ。彩葉はそれを問いただす。

 

「天野くんはね〜、

『酒寄の奴な、粉を水で固めた生地を焼いてこれはパンケーキだって言い聞かせながら食べてる可哀想な奴なんだ。俺はそんなあいつが不憫で不憫で、おお〜いおいおいおい』って言ってたよ。面白い演技口調で」

「あの野郎、KASSENでボコボコにしてやる」

 

 酒寄彩葉、かの邪智暴虐の権化、天野尊を倒すことを心に誓う。

 

『えっ?お前が俺をボコボコに?無理っしょ。だって君、弱いも〜ん』

 

 彩葉の脳内で、目隠しをし某最強のモノマネで煽ってくる尊の姿を幻視した。

 

「まあまあ、天野っちだって彩葉に美味しいパンケーキを食べさせて上げたかったんだよ。なんなら彩葉がこのパンケーキの味を天野っちに教えて羨ましがらせてあげればいいじゃん」

 

 真実の宥めで彩葉は抱える怒りを嚥下し、今は目の前のパンケーキに集中する。

 

「そ、それじゃあ、いただきま『シュバッ!』すぅ……」

 

 なんという事でしょう、先程まで豪華な3階建てのパンケーキは匠の手により2階建てにスケールダウン。煌びやかな雰囲気は失われ、見窄らしいパンケーキが出来あがったではありませんか。

 

「……はへ?」

 

 彩葉は下手人()の方へ視線を上げるとそこには、家に居るように言い聞かせた宇宙人少女がリスのようにパンケーキを頬張り喰っている。

 

「いただきま〜す!あむ、もぐもぐ……うっま〜!」

 

 彩葉、あまりの衝撃に全身が硬直する。

 宇宙人少女は御伽噺の月のお姫様もかくやと言わんばかりの、飛び切りの笑顔を輝かせた。

 

「よっ、彩葉!」

 

 完璧なウインクで地上に星を降らせた。

 

「えー、可愛い。誰この子?」

「彩葉の服来てる〜。彩葉のお友達?」

「ああああああ、そう!そうなの!いや、友達って言うか、なんと言うか……」

 

 彩葉、説明すべき言葉が思いつかない。

 目の前の宇宙人少女は自分の服を勝手に着て、自らが享受するハズだった幸せを掠め取られた。

 

(これは何罪で訴えればいいんだ!)

 

「パンケーキ好き?はい、これもど〜ぞ」

 

 芦花、謎の少女を甘やかす。

 

「パンケーキ?これが?彩葉のと全然違〜う」

(うるさい!てか、なんでここにいる?!家に居てって言ったじゃん!てか、天野は何やってるの?!)

 

 パニックになりなんの罪も無い尊にキレ散らかす。

 

「紹介してよ、彩葉。こんな可愛い友達独り占めは大罪だよ〜」

「いや、友達っていうか……ええっと、あの〜、その〜」

 

 口篭ったふりをし時間を稼ぎつつ、『早く帰れ!』とアイコンタクトを送る。

 しかし、たかだか3日程度の付き合いの少女に通じるはずも無く。

 

「月から来たの!」

 

 核爆弾並のトンデモ発言。少女は彩葉の視線から何を読み取ったのか、凡そ考えうる限り最悪の自己紹介を行った。

 

「……え?」

「ツキ……?」

「ジ!築地だよ!築地から来たの!私の従姉妹!」

 

 かなり、苦しい言い訳。しかし、今の彩葉にはこれが限界。恐る恐る2人に視線を送る。

 

「わ〜、美味しいお鮨屋さん教えて〜?」

(よっし!)

 

 さすがは、立川一のグルメガール美味いものに目がない。

 

「可愛いね、お名前は?」

 

 こちらも宇宙人の見目麗しい姿に夢中だったようだ。

 さすが、立川一の美容ガール。

 

「名前?名前は、えーーっと……」

 

 これまで、宇宙人少女を名前で呼んだことはなく、なんなら向こうも自己紹介をしていないので名前を知らない。

 そこで、不意に昨晩の御伽噺が頭を過ぎる。そのお姫様の名前は___

 

「かぐや!」

 

___かぐや姫。

 

「かぐや〜、かわよ〜!」

「へえ〜、ピッタリだね」

「ねえ〜、かぐや〜」

 

 芦花と真実を尻目に再び、暫定かぐや姫に向け特大照射のアイコンタクトを送る。

 

「かぐや?かぐや……かぐや……そっかぁ!かぐやかぁ〜!」

 

 どうやら気に入ったようだ。顔を綻ばせて喜んでいると、ふと疑問に思ったのだろう。かぐや、第2弾(ファットマン)発射。

 

「あれ?尊は?一緒にいないの?」

 

 先の比にならない被害を生み出す。

 

「天野はいないよ!先に帰ったもん!」

「ええ、でもこの3日間ずっと一緒に居たじゃん。寝る時も一緒だったのに」

「あんたの面倒を見るのを手伝ってもらってただけよ!」

 

 口を開けばどんどん爆弾を投下していく。

 しかし、かぐやの視点では尊と彩葉は常に一緒にいる。寝てる時は気づきようもないが、少なくともかぐやが起きてる時は常に傍に居た。

 つまり、かぐやにとっての尊と彩葉は二人でひとつ。傍に連れ添う存在と認識している。

 

 彩葉はこれ以上喋らせるのは危険だと判断したのだろう。残ったパンケーキを食べ尽くし、かぐやの手を取り、

 

「ごめん、帰る!ありがとね、ごちそうさま!後で埋め合わせするから〜!」

 

 颯爽とカフェを後にする。

 

 


 

 

 彩葉が去ったカフェ。残された2人のうち1人は放心し、1人は心配の眼差しを向ける。

 

「芦花〜、大丈夫?」

「………大丈夫。ちょっと橋の前でお婆さんと言い合いになってただけだから」

「それ、大丈夫じゃないやつ」

 

 芦花が奪衣婆と口論になっているタイミングで真実の声が届き何とか此岸で踏みとどまった。

 芦花は彩葉に特別な感情を抱いている。それは愛情。それも、友愛ではなく恋愛としてである。

 

「でも、天野くんならちゃんと祝福できる。彼なら彩葉を守ってくれるし、笑顔にしてくれる。私には出来なかったことだもん」

「そんな事ないと思うけど、後悔しない?」

「しないとは言いきれないけど、いざとなったら彩葉に気持ちを伝えてそれでお終い。天野くんには一発入れさせてもらうけど」

 

 そう言いながらナイフを握り込む。

 

「入れるのは拳までにしておきなよ〜」

 

 友の蛮行はさすがに見過ごせない真実であった。

 

 


 

 

「いやー、さっきの建物の中涼しかったね。あれ、彩葉の家でも出来ないの?」

 

 カフェを出てからもご機嫌で呑気に喋りまくるかぐや。

 人気がなくなった辺りまで歩き切ると、

 

「正気?!なんでここにいるの?!何で家から出てくるの?!正体バレたらどうすんの?!」

 

 堰が切れた。自身の疑問と憤りを吐き出す。それを聞いたかぐやは、

 

「だって、つまんないんだもん」

 

 かぐやは一言で言い切った。まるで、5歳児が玩具を取り上げられ拗ねているようだ。

 

(マジか、この宇宙人。つまらなかった?言うに事欠いてつまんないからと、そんな理由で家を飛び出したのか?)

 

 宇宙人だとバレれるリスクを冒してまで人前に出て、(あまつさ)え月から来たと(のたま)う。危機感は何処に置いてきなのか。

 

「えへへへへ」

 

 どうやら、月に置いてきたのだろう。彩葉が黙っていた2秒の間に機嫌が変わったのか妙にヘラヘラとしている。もしかしたら、笑って誤魔化そうという魂胆なのかもしれない。

 

「あのね、そんな風に生きてると自滅するよ?時には我慢も必要で___」

 

 何やら思う所がある様で二の句が継げない。それは母からの言葉だったのか、自分も同じことを言いかけたことに自己嫌悪に浸りそうになる。

 

「ねーねー、これどうやって使うの?」

 

 彩葉の隙を見つけて、すかさず突き出されたのはコンタクト型のPCデバイス通称___

 

「スマコンじゃん、私の部屋から持ってきたの?」

「ううん、彩葉のノートPCで買えた」

「……は?」

 

 彩葉は耳を疑った。

 まるで、未開の地の先住民族の言葉を聞かされた様に、かぐやの言葉を理解できなかった。

 

「イエイ♪」

 

 イエイ、ではない。なんなら今の彩葉の心象は遺影である。

 すぐ、スマホを取り出し半狂乱でネット通販の履歴を遡る。

 

『ウォレット残高 ¥5275 前日比¥-124400』

 

(……。え、これ、現実?)

 

 目の前の現実を直視できなかったのだろう。あまりの感情の激流に翻弄され涙か溢れてくる。

 

「……し、死ぬ気で貯めたんですけど……。ご飯も、涼しい部屋も、遊びも断って、推しへの課金も我慢して、死ぬ気で……死ぬ気で!!貯めたんですけど!!」

 

 気持ちだけなら、駆け出したかったが、悲しきかなそんな体力なぞ残っておらず、絶叫する事しか出来なかった。

 

 ちなみに、夏の酷暑で彩葉が死なないように、尊は自室を冷やし勉強会という名の避暑地を提供していたのはここだけの話。彩葉も純粋に勉強に勤しんでいたので気づいてない。

 

「あ、大丈夫!なんか、銀行?のデータを書き換えればウォレットの数字増やせるっぽいよ!やるっ?」

 

 かぐやも悪い事をしたと自覚できたのか、しどろもどろに解決策を提示する。

 

「ダメに決まってるでしょ!絶〜〜対っ!しないでよ!」

 

 泣きながら、かぐやに言い聞かせる。

 すると、手元のスマホから着信音が響く。すぐに、通話ボタンを押す。

 

『酒寄、今いいか?』

 

 そこから、尊の声が聞こえる。

 

『あの子が部屋に居ないんだが、外で見かけてないか?』

 

 ここで、彩葉もかぐやと尊がすれ違いになった事を理解する。

 声に若干の不安を感じ取り、かぐやの事を心配していた事が伺える。

 

「私の目の前にいるから安心して」

 

 しかし、彩葉の声にはまるで元気がない。

 それはそうだろ。友人2人の前でとんでもない発言で悶着あり、自身の血のにじむ努力の末に手にした大金はかぐやに持っていかれ、もうヘトヘトだ。

 

『おおっお〜、そうかなら良かった。ところでなんか声が疲れてないか?』

「へへへ、そんな風に聞こえる?それ正か『もしかして尊?!かぐやも話す〜』ち、ちょっと今話してるから待ってなさい!」

 

 スマホから聞こえた声から相手が尊である事を知ったかぐやは、彩葉からスマホを引ったくろうとする。が、すんでのところで阻止。片手でかぐやを制し会話を繋ぐ。

 

「この子なら大丈夫、私は大丈夫ではないけど。すぐ連れて帰るから。……ところで、私の部屋鍵かかってる?」

『いや、なんの抵抗もなく扉は開いたな』

「……、悪いんだけどさあ」

『留守番なら任せとけ、なんなら美味い晩飯用意しとくからさ』

「……ありがと

 

 尊の善意が心に染みるのか小さな声で感謝を述べる。

 

「ねえ〜ねえ〜、私も話したい!」

「わかったから、はいどうぞ」

 

 痺れを切らしたかぐやも電話にありつける。

 

「尊〜?私、彩葉から名前貰ったんだ〜。なんだと思う〜?」

『え?かぐやだろ?』

「えっ!なんでわかったの?!」

 

 彩葉から名を貰ったことがよほど嬉しかったのか、それを当ててもらおうとクイズを出すかぐや。

 彩葉も、咄嗟に付けた名前だが喜んでもらえたのが嬉しいのが、先程までの怒りが少々緩和され、柔らかい笑みを浮かべる。

 

『いや、さっき自分の事、『かぐや』って言ってただろ』

「あっ、そうだった」

 

 尊と話したい一心で言葉選びに失敗。答えは自分から吐露していたようだった。

 

『晩飯作って待ってるから、2人とも早く帰ってこいよ〜』

「ホントっ?!やった〜!それじゃあ、彩葉すぐに帰るね。バイバ〜イ!」

 

 電話を切り彩葉に返す。

 

「彩葉っ!尊がご飯作ってくれるって早く帰ろっ!」

 

 目を輝かせて、彩葉の手を引く。

 

「はいはい、そんな慌てなくても天野とご飯は逃げないから」

 

 まだまだ、疲れは残るが尊の作る晩飯に期待が高まるのか足取りは軽やかだ。

 

「楽しみだね〜、何作ってくれるのかな〜」

 

 まるでスキップをしそうな程楽しそうなかぐや。

 

「買い物はしてないだろうから、冷蔵庫の有り合わせだと思うけど、天野の料理にハズレはないからね」

「うは〜!楽しみだなあ〜」

 

 2人は夕日が沈む街を抜け、尊の待つ自宅に向かう。




彩葉はかぐやに寄って感情のジェットコースターに強制的に乗せられ、降りた後に尊に介抱される。
まるで、娘に連れ回されて夫に癒してもらう主婦みたいになってしまったw
彩葉、私の世界で幸せを噛み締めてな。
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