百合の間に挟まりたくない男はどうしたらいい   作:かぐいろ大好き侍

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今日から映画の特典第三段!
仕事で、初日に行けないのが残念でならない(p_q*)シクシク
明日まで残ってるよね?


祝!ツクヨミ10周年記念ヤチヨカップ開催

 

「ただいま〜!」

 

 元気な声と共に部屋に入ってくるかぐや。満面の笑みを浮かべ、ご馳走に胸を踊らせ尊に飛びついた。

 

「ねえねえ、尊!何作ってるの〜!?」

「おかえり、かぐや。それは出来てからのお楽しみ、手を洗っておいで」

「は〜い!」

 

 まさに、親子。実際、かぐやを育てたのだから間違いではないだろう。

 

「酒寄もおかえり」

「…た、ただいま。留守番ありがとね。」

 

 彩葉は家に帰ってきて、人に出迎えて貰うのは随分久しぶりだ。父は幼くして亡くし、母は仕事で帰りが遅い。兄はいるが帰ってくるのは自分の方が早く、人の帰りを迎えることはあっても自分が迎えられる事は数える程しかない。

 オマケに高校からは一人暮らしの為、帰っても人がいない。だから、『ただいま』を言う相手もいない。だからこそ、今回の『かぐや姫脱走』騒動は頭を抱える程の大事だったが、尊からの迎えの言葉はここまでの苦労が報われたような気持ちになれた。

 

「単純だな〜」

「ん?なにが?」

「ううん、なんでもない。それより、いい匂いがするね」

「ああ、折角だからちょっと凝った料理を作ろうと思ってな。かぐやも相当楽しみにしてるみたいだしな」

 

 出来た時の楽しみにしたいのであまり料理の様子は目に入れないように、手洗いに向かう。すると手洗いを済ませたかぐやが出てきた。

 

「尊ー!手洗ったよー、かぐやも料理したい!」

「わかった、わかった。それじゃあ、ちょっと手伝ってくれるか?」

「うん!」

 

 キッチンで料理を教わる娘と料理を教える父親。それを見守る自分は母親かそれとも娘の姉か。何故かこの思考に向かってしまうのは、尊の溢れんばかりの包容力の成せる業なの或いはかぐやの子育てをした事で自分に母性が目覚めたのか、今の彩葉にはわからなかった。

 

 


 

 

 帰ってから、20分程で料理が完成してテーブルに並べられる。

 

「ま〜ずは、じっくり煮込んで野菜の旨味を抽出しました『野菜たっぷり具沢山コンソメスープ』!副菜に新ゴボウとアスパラを油で揚げるように焼いた『カリカリサラダの温泉卵付き』!メインに牛豚の合い挽き肉を高原キャベツで包みトマトソースで煮込んだ『ぎっしりロールキャベツ』!キャベツで包むのすっごく難しくってちょっと形が変になっちゃったけど、楽しかったんだ〜」

「かぐや、初めてだけど結構上手にできてたぞ」

「えへへ〜」

 

 並べられた尊とかぐやの料理。今の彩葉にはまるで食卓が舞台ステージの様に輝いて見えた。栄養バランスが整えられており、疲れきった今の体に優しい料理。二人の愛情の詰まった素晴らしい品々。彩葉、またしても目尻に涙が浮かびそうになる。

 

「……ジュルり」

 

 涙の前に涎が垂れそうになってしまった。

 

「それじゃあ、食べるか。手を合わせて、いただきます」

「いただきます」「いっただっきまーす!」

 

 3人で合掌し、食べ始める。

 

「あむ、ングング。くあっ!?」

 

 かぐや、ロールキャベツをスプーンで割り、半分を口に含む。数回の咀嚼で肉汁とキャベツの甘みのダブルパンチ。舌から脳へ味の信号が電光石火の如く駆け抜ける。

 その情報量にフリーズ、天を仰ぐ。

 

「フーフー、ズズッ。おいしい〜」

 

 彩葉、スープをゆっくり冷まし、口に含み瞬間顔が綻ぶ。液体に故に口全体に広がる、野菜の甘味と鼻腔に届く優しい香り。まるでこのスープだけで全ての栄養を摂取出来ているのではないかと錯覚するほどだ。飲む前からわかっていたが、実際に食べてみればどれ程浅い理解だったか。

 スープの暖かさと作り手の優しさで心も身体も癒される。

 

「うまいっ、2人とも満足できたみたいで何より」

 

 2人の反応から、料理の感想を貰い作り手冥利に尽きる。

 尊も普段からここまで、凝った料理はしない。なんなら、一人で食べる時は味より量で攻めるタイプだ。実家からのノルマに追われてるので、出来るだけ食材の(かさ)を減らす為に水分が抜けるように調理を進める。

 食材は鮮度が命。その鮮度を支えるのは、水分によるものだ。採れたての野菜、水上げされたばかりの魚、どれも水分が豊富でとても食べ応えがある。

 しかし、冷凍して水分が凍ると風味が落ちるし、乾燥させると固くなり食べずらくなる。もちろん、干物など水分を無くすことで旨味を引き出す調理法もあるが、癖のある食感や味わい、長期保存を目的とされているので食べ方が限定される。

 尊は自身が食べる料理は味に頓着しない。

 だが、他者へ振る舞う料理は別格だ。相手の状態に合わせ調理法を整え、栄養バランスに気を配りその人が最も欲しがっているものを提供する。料理人の鑑の様な男である。これで、料理人を目指していないのだから才能の使い方が贅沢だ。

 

「尊ー!このロールキャベツめっちゃ美味しーい。どんな味付けなの!?」

「そこまで難しくないぞ?」

 

 尊はかぐやの質問に答える。1つ聞けばまた1つと、どんどん料理への造詣が深まっていく。

 そして、聞き終わる頃には「次は一人で作ってみたい」と意欲を発揮しネットでレシピを漁り始める。

 

「気に入って貰えて何よりだ」

「ねえ、天野」

「ん?」

 

 2人の会話が終わる頃には彩葉も食べ終わり、話しかける。

 

「ありがとね、こんなに美味しい料理作ってくれて」

「なんのなんの、寧ろかぐやを任せきりにしたみたいでこちらこそすまなかったな」

 

 今日はまっすぐ帰りかぐやの面倒を見るつもりでいた尊は、結果的には彩葉に丸投げしたようになってしまっていた。その事に少なからず罪悪感を抱いていたので、少しでも罪滅ぼしになれたらと料理に腕を奮ったのだ。

 

「じゃあ、俺は片付けを済ませたら帰るから」

「いや、片付けくらい自分でするよ」

「いいからいいから、かぐやの事で今日は疲れたろ?ゆっくりしてろよ」

 

 そう言い、彩葉の肩を押え座らせる。

 

(あいつの背中大きいな〜、私もあんな風になれたらな〜)

 

 流して洗い物をする尊の後ろ姿眺め、感傷に浸る。

 その大きな背中に憧れにも似た感情を抱き、同時に劣等感の様な気持ちを覚える。

 

 自分と同じ苦学生ではあるが、その境遇は似ても似つかない。

 彩葉は母親との確執で一人暮らしを敢行。母親を見返したいと言うコンプレックスからの後ろ向きな感情でこの暮らしを行っている。

 片や尊は、自分の心に満足感を得るために一人暮らしを実行。

 親からも快く送り出され、生活の支援もあったそうだが、本人の意思で拒否。不自由すら楽しむその度量、そして自身の才能を遺憾無く発揮し青春を謳歌している。

 

 彩葉にとって尊は尊敬できる存在であり、自分の弱さを写す鏡にも感じる。だから、時々考えてしまう。

 

(天野が私だったら、もっと上手くやれてたんだろうな)

 

 せっかく、心が温まっていたのに何処か冷たくなっていくのを感じてしまった。

 

 そんな彩葉を他所にかぐやは、彩葉のノートPCで何やら遊んでいる。

 

(あいつ、何やってんだ?)

 

 食事の余韻と尊への嫉妬で頭がボーッとする。

 かぐやはとても楽しそうに、パソコンを叩いている。それを見てかつての記憶が蘇る。

 

 それは、幼き日の記憶。父が生きており、一緒に曲を作っていた時の記憶だ。

 

『彩葉、音楽は自由に楽しむんやで』

 

「……、」

「出来た!」

 

 デキタとは何が出来たのか、頭の働かない彩葉は直ぐに反応できなかった。

 

「出来たって……、まさか、サイバー犯罪?!」

「携帯ゲーム見つけたんだ〜」

「あ、それ……」

 

 かぐやの手にはかつて彩葉が兄から貰った携帯ゲーム。昔流行ったレトロな卵形の携帯ゲーム機だ。

 

「使ってないからいいけど、何それ?」

 

 ゲーム機の画面には存在しないはずのキャラクターが居る。

 

「『犬DOGE』!これでいつも一緒!」

 

 どうやら、パソコンで新たなキャラクターを作っていたようだ。

 

「ご機嫌ですね……。一生住む気満々かよ」

「だって、他にどこに行けばいいの?もし捕まったらかぐやちゃん解剖とかされちゃうかも〜。アベべべべべ」

 

 身体を震わせ、変な呻き声を上げる。

 

「月には帰れないのか?」

「うーん、がんばってはいるけど、むすかし〜〜~ぐぬぬ」

 

 尊の質問に答えるが、その目はゲーム機に釘付けだった。

 

(ゲームに夢中かい。まったくもう)

 

 フローリングに癒着した腰を無理矢理引き剥がし立ち上がる。

 

「じゃあ、迎えが来るまでね」

(冷静に考えて、放り出すわけにもいかないし。天野の所に転がり込んだら、コイツの事だから甘やかして収拾がつかなくなるかもしれないし)

 

 天野尊、かぐやへの扱いが娘を溺愛する父親にしか見えなかったせいで、信用がない。

 

「いいの?!」

「1つ、目立たない!2つ、許可なく外出しない!3つ、私の邪魔しない!これ守れるならここに居ていいよ」

「……じゃあ、お友達作ったりは?」

「第1項により、ない」

「……カフェについて行ったりは?」

「第2項により、ない」

「……一緒に遊んだりは?」

「第3項により、ない」

 

 彩葉の容赦ない決定にどんどん青ざめるかぐや。

 

「じゃあ、じゃあ、かぐやは外にも出られず、楽しみもなく、ずっとずっと幽閉されてバッドエンドってこと〜?」

 

 犬DOGEを握りしめる力も弱まっていく。

 

「やだやだ!意地悪しないで!」

「ハッピーエンドに自分でするんでしょ?私を巻き込まないで」

「こんな映ないつまんない部屋で!?」

「追い出すぞコノヤロー」

「ねえ!尊からも何か言ってよ〜!」

「コラッ!天野に泣きつくな!」

 

 かぐやは駄々を捏ね、先程から黙っている尊の腰にしがみつく。

 

「うおっ、どうした?」

「彩葉が意地悪する〜」

 

 パソコンのコードに集中していて、何も聞いていなかった尊。

 話を聞き、彩葉の譲歩を意地悪だと嘆くかぐや。

 

「酒寄の出す条件は間違っていないと思うが、縛りすぎるのも良くないと思うぞ?」

「どういうこと?」

 

 てっきり、かぐやの味方をすると思っていたが意外にも彩葉の条件には肯定的だった。

 

「確かにかぐやは宇宙人で地球上では珍しい存在だ。地球外の存在を研究する組織もあるし、信奉する存在もいるだろう。それらの危険からかぐやや、俺たちの安全を考えるなら下手に目立たせるのは問題だろ」

「だったら…」

「でもな、そうやって上から圧をかけすぎれば反発したくなるものだし、かぐやの思いや行動を全て否定する事になる。酒寄だって親から、ああしろ、こうしろと自分の行動を決められるのは嫌だろ?」

「うっ…、それはまあ」

 

 尊の言葉に心当たりが、ある。

 そもそも、今の暮らしは母親への反発から来るものだ。かぐやの後先考えない行動はともかく、行動理由は現状への反発。どこか似通っている。

 

「だからさ、もう少し寛容になってもいいんじゃないか?」

「……例えば?」

「そうだな、『宇宙人である事を悟られない行動を心掛ける』ってのはどうだ?」

「宇宙人である事悟られない?」

「そう。そもそも、酒寄が気にしてるのはかぐやがここに居る事ではなく、かぐやが宇宙人である事が露呈する事による騒動を気にしているんじゃないか?」

 

 その通りだ、宇宙人であるかぐやを匿ってそれが世間にバレれば今の生活を続けられなくなるかもしれない。それに、既に関わってしまった尊や、正体を知らないとはいえ、芦花や真美にも迷惑をかけるかもしれない。

 かぐやが強く反発して、家を出て宇宙人である事を知られたら、どんな事態に発展するか想像もつかない。

 

「はあ〜、わかったわよ。もう少し、譲歩してあげる」

「ほんと?!」

「さっき上げた条件を無くす訳じゃないから。あくまで、行動規制の判断を緩くするだけ。問題は起こさないでよ」

「うん!」

 

 彩葉とかぐやが和解し、緊張が解れる。

 

《ピピピー》

 

 彩葉の携帯のアラームが鳴る。

 

「あっ!もうこんな時間、この時間までに予習するつもりだったのに」

「え?なにどこ行くの?またかぐや置いてくの?」

 

 彩葉が出かける気配を察してしがみついてくる。

 

「別に何処かに行く訳じゃないから、ツクヨミに行くだけだから」

「行くんじゃん!かぐやも連れてって!」

「いや、スマコンないと無理だって……っあ」

 

 既にこの部屋にはスマコンが3つある。

 1つは自分の、1つは尊の、そして最後の1つはかぐやが勝手に彩葉のパソコンで購入したもの。ツクヨミに行く手段は整っている。

 

「そうだった、あるじゃん。連れてくかー。あっ、最後に、4つ勝手に人のお金を使わない!」

「増えた!」

 

 さすがに、貯金のほぼ全てを使われたのは痛い勉強代だったようだ。

 

 


 

 尊は自室に戻ってきた。

 部屋を出る時かぐやから、『一緒いよう!』と泣き付かれた時はさすがに、

 

『いや、俺ここの住人じゃないし、ツクヨミで会えるから』

 

 かぐやのお願いでもこれだけは頷けなかった。

 かぐやの世話で彩葉の部屋に入り浸っていたが、尊も男であり高校生だ。異性の部屋に居続けるのは色々問題がある。

 

「どうにか、抑えられた」

 

 シャワーを浴び、頭を冷やす。

 

(俺だって男なんだ、どれだけかぐやと酒寄の位置づけを庇護対象にカテゴライズしても、理性より本能が勝ちかねない)

 

 どれだけ大人ぶっても、異性に興味を持つ年頃なのだ。美少女2人の相手をしてその両方から信頼され物理的にも精神的にも距離が近づけば、我慢できなくなってしまう。

 

(……ふぅ、トレーニングや配信で発散してるとはいえ、高校生の体は元気すぎる)

 

 浴室から出て、寝巻きに着替える。布団を敷き、壁にもたれかかってスマコンを装着する。

 

「行くか」

 

 目を閉じると、宇宙を模したグラデーションが広がる。どこにも存在しない銀河を流れ星のように突き抜けると波しぶきが立ち上がり、大きな赤い鳥居が現れる。

 足元には終わりなく続く浅い湖。その水面(みなも)を滑る数多(あまた)灯篭(とうろう)

 空は鳥居から色が染み出したかのように真っ赤な夕焼けが広がるが、

 

──太陽が沈んで、夜がやってきます

 

 (おごそ)かに、月見ヤチヨが顕現する。

 ログイン時に出迎えてくれるツクヨミの管理AI。ヘビーユーザーである尊はそのまま、ヤチヨに促され鳥居を潜る。

 そこには古き日本の街並みが建ち並ぶ。仮想空間ツクヨミは和テイストで構成されており、その景色に尊は常に懐かしさを感じる。

 

「もう、何年も利用してるのにログインするといつも感じるな〜」

「やっほー、天野」

「おお、酒寄。タイミングバッチリだな」

 

 尊の目の前には狐をモチーフにしたアバター酒寄彩葉が居る。

 青を基調としたストリート風。着物にパーカーとベルトとブーツを合わせ少々カッコよく仕上げたものだ。狐耳をモチーフにしているので狐耳と耳も付いている。

 ツクヨミ内では皆、自身のアバタースキンを自由に設定し現実に寄せてる者もいれば全く異なる姿でいるものもいる。

 そして、最も特徴的なのは多くの利用者は何かしらの生き物の特徴を有している。彩葉の様に狐をモチーフにしている者、リスや鹿。果ては空想上の生物を取り入れてるものもいる。

 

 対して尊は黒の道着に袴、白の羽織とあまり目立つ装いではなく、動物要素もない。

 現実と違うのは瞳と髪色くらいだろう。黒髪から銀髪に、黒の瞳を碧眼にしている以外あまり変わらない。

 

「かぐやと一緒にログインしたから、チュートリ終わったら来るよ」

「うわぁっ!」

 

 そんな話をしてると鳥居からかぐやが出てきた。

 

「ヴエエエ」

 

 ツクヨミ初ログインで第1歩は転んでスタート。

 

「ぷっ、金髪ギャルいかぐや姫」

 

 現れたかぐやは朱色と若草色のコーデで金キラの月の髪飾りや背中の大きな水引きが目出度い。足元のスポーティでポップなスニーカーはやりたい放題な行動力を見せつける。なだらかなストレートのロングヘアに合わせた長い兎の耳が垂れてる。

 

「ほら、手」

「もしかして、彩葉?」

「一発目から転ぶとは、幸先悪いな」

「あっ、尊はあんまり変わんないね!」

 

 彩葉が手を貸し、尊が心配する。かぐやも2人に気づく。

 

「ん?何それ?」

「あっ犬DOGE!連れてこれるんだね」

「マジ?初めて見るぞ?」

「私も、携帯ゲームのキャラを持ち込めるなんて、なんでもありだね」

 

 携帯ゲーム機のキャラクターを持ち込む。ヘビーユーザーの2人も知らないツクヨミの仕様。

 

「うお、すげー!面白そうなもんが死ぬほどある!」

 

 あんぐりと口を開け放ち棒立ちで辺りを見回すかぐや。

 景色に圧倒されなかなか街に入れない。街並みはまさに平安京とも呼ぶべき『和』。見るべき箇所はいくらでもあるが、今回彩葉にはあまり時間がないので近くのカフェで茶を濁そうとする。

 

「ほら、かぐや行くよ」

 

 歩みを進めようとしたその時。

 

『──初ログインおめでとう! ツクヨミではみんなが表現者! 君も何かをして人の心を動かしたら、運営から『ふじゅ~』がもらえるよ』

 

 かぐや、初ログインイベントが発生、FUSHIが現れ説明を始める。

 ツクヨミ内で取引に使われる仮想通貨『ふじゅ〜』についてだ。クリエイターが作ったアバター用の服を買ったり、依頼をしたり、はたまた配信者への投げ銭をしたりユーザー間での取引に使われる。

 さらに、現実の金銭に変換することもできるので人気なライバーはそれだけで食っていける。尊も配信業で少なくない『ふじゅ〜』を稼ぐがそれだけで生きていくことは出来ない。推し活でほぼほぼ使ってるし、この数日かぐや関連で貯金も崩している。彩葉の知らない所でこっそり買い物をして彩葉の冷蔵庫に食材を突っ込んでいたりもする。

 

 場所を移し、ツクヨミ内にあるカフェ。

 運営が提供する様々なワールドやゲームなどの体験施設、アバターを彩る多種多様なアイテムは基本無料で楽しめる。もちろん、無料と謳い課金をしなければついていけなくなるなんてことはなく、彩葉のような貧乏人でも無限に遊べられる。

 このカフェで食べてる華やかなパフェももちろん無料だ。

 

「うわぁ〜、あむっ……むぐむぐ……味しなーい」

「味とか匂いは全然無理らしいよ、あくまで雰囲気だけ」

「でも、最近似たような事が出来るようになってきたらしいぞ?」

「ほんと?!」「マジで?」

「ああ、と言っても味覚や嗅覚に似た刺激を与えるだけで、現実の様に複雑な味を再現するのはあと10年くらいは研究が必要らしいけどな」

 

 ツクヨミは意識が全て仮想空間に入り込んでる様な没入感を得られるが、実際はスマコンによる視覚情報とイヤホンによる聴覚情報でそれを再現しているだけに過ぎない。情報を脳に直接送り込んでいる訳では無いので、味覚や嗅覚を再現するにはそれ用のデバイスを開発しなければならない。かなり不格好になるだろうから、更なる技術の進化に期待が高まる。

 

「時間だ、行こ」

「どこに?」

「ツクヨミの歌姫に会いに行くぞ」

 

 彩葉がかぐやの手を引き会場に向かう。

 これから始まるのはツクヨミの歌姫、月見ヤチヨによるミニライブ。しかも今回はライブ後に抽選で当たった者はヤチヨとの握手会がある。

 

「むふふふ」

「彩葉、なんか変だよ?」

「そっとしといてやれ、初めての事で浮かれてるのさ」

 

 なんと彩葉は握手券の抽選に初当選だ。今まで何度も何度も抽選に応募するも尽くハズレ。なんなら、真横の友人はほぼ毎回当選している。今回はハズレだったようだが、いつもは友人のお零れで少し離れた位置で眺めていたが今回は立場が逆。

 

(今回は私が天野を羨ましがらせてやる!)

 

 なお、ヤチヨ限界ファンである彩葉が推しと対面してまともに話せかは考えないものとする。

 

『キタキタキタキタキター!これがないとツクヨミの夜は始まらない!本日もヤチヨミニライブの開演だー!』

 

 開演時間が近ずくとヤチヨの大ファンを公言するMC担当のライバー・忠犬オタ公が興奮と熱狂をマイクに乗せ会場中に響かせる。押し寄せた観客たちが歓声を上げそれに答える。会場のボルテージが最高潮に達すると巨大なモニターにカウントダウンが表示される。

 

『5……4……3……』

 

 会場の観客全員の声がシンクロし数字を叫ぶ。『0』を叫ぶと、

 

ヤオヨロー!神々のみんな〜、今日も最高だったー?

 

 現れたヤチヨが一言で会場を沸かした。

 

うんうん。よーし、今宵も皆を誘っちゃうよ☆Let's go on a trip!

 

 ヤチヨのライブが始まった。

 

「幾千の時を巡って今、僕ら出会えたの──ほら、見失わないように──手を離さないで──」

 

 透き通るような美しい声色。音楽がないのに、音色が聞こえるかのような抑揚。そして、イントロが流れる。

 ここからはヤチヨの独壇場。皆が魅了され時間を忘れて楽しむ。

 

 


 

 

「彩葉!ねえ、彩葉ってば!」

「……え?」

 

 耳元で大声を聞かされ我に返る。驚いた表情で彩葉をを見るかぐや。何度呼んでも反応がなく焦っていたのか、不安そうにしている。

 

「なんで泣いてるの?彩葉」

 

 彩葉は頬に手を当てると濡れていた。その涙の訳を説明する事は出来ない。世の中には言葉にしない方が良い事もある。もし、言葉にしようものならとても陳腐なものに変わってしまう。

 それ程までに素晴らしいライブだったのだ。

 

「イエーイ、感謝感激雨アラモード!ヤチヨは果報者なのです。あ、ここでお知らせがあります。先日、ツクヨミ10周年を記念しましてヤチヨカップっていうイベント開催しま〜す☆FUSHI、詳細よろしくぅ」

「はーい!参加資格があるのはツクヨミの全ライバー、1ヶ月の期間の間に最も多くの新規ファンを獲得した人が優勝だよ!優勝者にはなんと、ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈!世界一盛り上がるコラボライブステージを一緒に作ろう!」

 

「うっそ?!コラボライブ?!ヤチヨが?!」

「そんなに、すごいの?」

「ああ、ヤチヨは今まで配信のコラボはやってたがライブはいつも1人だったからな」

「なに?誰と?これは歴史的ライブになるよ!」

「へえ、じゃあ彩葉と尊の3人で一緒にやろうよ!」

「バカ言わないの、天野はともかく私らみたいなモブとやるわけないでしょ。こういうのは大体誰がやるかなんて決まってんの」

「お前らがモブ〜?」

 

 尊、大きな疑問を抱く。

 成績優秀、スポーツ万能、学費と生活費全てを自力で賄うスーパーJK、酒寄彩葉。

 竹ではなく七色に輝くゲーミング電柱から生まれ、月から降りてきた傾国の美少女、かぐや姫。

 この2人がモブなら、この世の殆どの人間は背景にすらなれない。

 

 彩葉が自らを卑下していると会場外から、牛車ならぬ虎が屋形を引く虎車。早くも優勝候補のご登場。

 

「黒鬼じゃん!」

「帝様ー!」

 

 熱烈な歓声に答えるように、屋形が割れる。

 まず、現れたのは鬼をイメージしたスキンを纏う男性アバター。さらにその両脇をそれぞれローブの様な服を着たアバターと地雷系少女っぽいファッションのアバターが固める。

 ツクヨミで抜群の人気を誇る3人組のプロゲーマーユニット『Black oniX』通称黒鬼。アイドルとしての人気も博し、活動内容は多岐に渡る。

 

「よう、子ウサギども。お前らの帝様が来てやったぜ!」

 

 割れんばかりの歓声。帝が不敵な笑みを浮かべ、指をぱちんと鳴らすと会場のモニターがジャックされ、彼らの輝かしい経歴をまとめたPVCが流れる。

 

「俺たちに優勝してほしいよな?底なしの夢を見せてやるぜ!」

 

 最後には帝の決めポーズでファンの心を射抜いた。破裂音と共に紙吹雪がまう演出付き。

 3度目の歓声が鳴り響く。もう、会場中の誰もが確信したことだろう。

 

「というわけで、ヤチヨちゃん。俺たち優勝するからコラボライブよろしく」

 

 ヤチヨカップ優勝は黒鬼だ。

 

「それが運命なら、もちろんヤチヨは従うよー」

 

 あるいは主催者であるヤチヨも?

 

「すげー、ヤチヨと黒鬼の夢のコラボ?」

「これは伝説になるぞ!」

 

 詰めかけた観客たちも、配信を見てるリスナーも黒鬼の優勝を確信している。

 たった2()()の例外を除いて。

 

「ヤあーーチいーーヨおーー!!!」

 

 遠くの者も近くの者も、この場に居ないも者も心して聞け。

 

「かぐやがヤチヨカップ優勝する!そんで絶対にコラボライブする!いろh……むぐっ!」

 

 急いでで口を塞ぐ彩葉。しかし、全て遅い。かぐやは大勢の見ている前でトップライバーに宣戦布告をした。観客も黒鬼も忠犬オタ公も、その目で見ている。

 

「……いとかわゆし」

 

 剰え、ステージ上のヤチヨまで。

 

「あんたはいつも勝手に!」

「あっははっは!やると思ったよかぐや!そうでなくちゃな!」

「天野!気づいてたなら止めてよ!」

 

 3人仲良く、わちゃわちゃしてると、

 

「ほいでは、ライブはいったんここでクローズ♪みんなとちょこっとお話させてね、さらば〜い」

 

 握手会付きだ、終演後はヤチヨは分身し会場の観客一人一人に向かって話しかけにいく。

 

「ねえ、彩葉、尊一緒にやろ!」

「だからむ───」

「ムリムリムリ!小娘が!」

 

 彩葉が断ろうとすると何かに被せられた。声の主を見やるとFUSHIだった。

 

(え?FUSHIってこんな喋り方だったっけ?)

 

 普段はもっと、マスコット感がある可愛らしい喋り方だったが妙に刺々しい。

 

「こらっ」

 

 威嚇を制したのはヤチヨだった。

 

(うわっ!ヤチヨだ、目の前にいる!しかも、小さいバージョンだ!)

 

 普段のヤチヨは160cm程の身長だが、今回は130cmくらいのチビヤチヨである。出現条件は不明で超レア現象が発生。彩葉の興奮はさらに高まる。

 周りのヤチヨは普段通りの姿で彩葉の所だけ。

 

「お忘れかな〜?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです!」

「あそっか、じゃあかぐやもライバーになろっと!そうと決まれば準備準備、尊後で来てね!」

 

 かぐやは速攻でログアウトした。最後に何かとんでもない事を言っていたが気にしない方がいいだろう。

 

「今日は楽しめた?」

「はっ、はい!」

 

 彩葉、緊張でまともに会話ができない。先程までの威勢はどうしたのやら。

 

「いつも、ヤチヨに支えられてて…暗て寒くて長いトンネルにいるみたいで……ヤチヨが照らしてくれるから頑張れるって言うか」

 

 前後の言葉が滅茶苦茶で意味不明だ。彼女はもうダメかもしれない、尊も心配そうに彩葉を見つめる。

 

(ああ、何言っての私?意味通ってる?もっと言いたいことあるでしょ!)

(コイツ、大丈夫か?)

 

 ヤチヨは彩葉の様子を察して、

 

「もっと気の利いた事言いたかった?」

「うえあっ?!な、なんで?!」

「ふふん、ヤッチョはエスパーなのです!」

 

 得意げに笑い、おどけた。

 これでさらに彩葉の脳は焼けた。

 

「よしよし、頑張り屋さんだもんね」

 

 ふわふわと浮き、彩葉の頭を撫でる。

 

「あ、くお、や、あ、ちよ、ちよ」

 

 とうとう、言語野にも問題が来ている。

 

「はい、お時間で〜す」

 

 あまりに見ていられなかった尊剥がしを行う。このままだと彩葉はぶっ倒れて強制ログアウトしてしまう。

 

「ふふ、いつも来てくれてありがとね」

(ふわ〜!認知されてる?!あいや、ログを確認すればわかるか、でも嬉しい!)

「あ、あの今日はこれでありがとうございました!」

 

 お礼を言いいろははログアウトした。

 

「じゃあ、俺も帰るか」

「待って!忘れ物!」

 

 尊がログアウトしようとすると、ヤチヨが尊の手を握る。

 

「……え?俺、落選したけど」

「せっかく、だからオマケ!いつも一緒に来てくれてるからあの子のお友達でしょ?支えてあげてね」

 

 尊はライブに来る時はいつも彩葉と来てるので2人まとめて認知をされてたようだ。

 

「ありがとう、よく見てるんだな」

「もちろん、ヤッチョは皆を見てるからね」

 

 ここで尊は何故か無性にヤチヨの頭を撫でてあげたくなった。

 

「少しいいか?」

「なんだいなんだい?」

 

 ヤチヨは不思議そうに尊を見上げると、手が頭に乗る。

 

「……ふぇ?」

「なんとなく、こうしたかった。嫌なら払ってくれていいし、垢BANも構わん」

「い、いや、別にそんな事しないけど」

 

 ヤチヨも満更では無さそうだ。

 しばらくヤチヨの頭を撫でると、

 

「いつも、頑張って偉いな」

 

 なんとなく口から言葉が出る。その意味を理解することは出来ない。反射的に出た言葉で尊自身も何故出てきたのかわからない。

 

「……今日はありがとう。また来るから」

「うん。ヤチヨカップ優勝頑張ってね」

「俺よりかぐやの方を応援してあげてくれ、あいつなら絶対優勝するからな」

「うん、楽しみにしてるね!」

 

 尊もログアウトし、その場にヤチヨ1人が残る。

 

「……また、撫でてくれたね。ありがと、尊」

 

 




今回は前半で彩葉を癒し、後半で物語を進める!
この後のかぐやと尊の配信内容どうしよう、なにかして欲しい事があったら感想で教えてください(人 •͈ᴗ•͈)。参考にします。

小説の伏線って、残そうとするとどうしても印象に残るよね〜。
いっその事(ここ伏線だよ)って注意書きしようか(;-ω-)ウーン

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