百合の間に挟まりたくない男はどうしたらいい 作:かぐいろ大好き侍
映画冒頭のかぐやのウェルカムアナウンス。最高すぎない?来週は誰だろう、彩葉かな、ヤッチョかな、楽しみで夜も眠れない!
「ライバー…なり方…っと」
ツクヨミからログアウトすると彩葉の目の前にはPCで何かを検索するかぐやだった。楽しそうにキーボードを叩く姿は先程、犬DOGEを作成した時と同様であるが髪色が変だった。
「あれ?なんでまだ、金髪なの?」
「えっ、だめ?じゃあ、えいっ、えいっ、えいっ!」
えいっ、度に髪色が変わっていく緑、赤、白、ストライプ、マーブルを経て金髪に戻る。
「でも、やっぱこれっしょ☆」
ドヤ顔で手櫛を通した。あまりのインパクトに彩葉は自分がまだツクヨミにいるのではないか、現実に戻ってこれてないのではないか、と疑う。
「理解の範疇を超えし宇宙人。まあ、なんでもいいか」
何もかもどうでも良くなり、勉強机で参考書に頭を突っ込む。
(ああ、ヤチヨのライブ最高だったなあ)
ライブの余韻を楽しみ、握手した両の手を眺める。
映像であるため、感触も温度もなかったがその心には確かな温もりを感じた。
「ねえ彩葉〜、ライバーって何すればいいのかな?」
今だ自分中心なかぐやが彩葉に疑問を投げかける。
「私はライバーじゃないからわからないよ。そういうのは先輩に聞いたら?」
余韻を味わってる最中で些かかぐやへの扱いが
「先輩…あっ尊の事か。まだ、ツクヨミにいるのかな?」
ログアウト前に来てもらう様に伝えたがまだ来ない。
「尊遅いね。尊も握手してるの?」
「いや、あいつは今回抽選ハズレてるから何か話してるんじゃない?天野ってツクヨミでゲームを企画したりしてるから、ヤチヨとコラボしたり一緒に開発したりで、仲がいいから」
ファンとしてヤチヨと仲がいいのは血涙ものだが、それでツクヨミの満足度が高まるので文句は言えない。その恩恵に与るのは自分なのだから。
そんな話をしていると扉からノック音。
『俺だ、天野だ。開けてくれ』
「尊!いらっしゃい〜」
尊の声を聞きノータイムで鍵を開けるかぐや。
「わるいな、こんな時間に」
「いいよ、どうせ無視してもかぐやが天野の部屋に突撃するだけでしょ」
彩葉、かぐやの生態を理解している。
「それで、ライバーになりたいんだっけ?」
「そう!ヤチヨカップで優勝して、彩葉と尊とヤチヨでライブするの!」
「気持ちは嬉しいが、俺は既に活動してるからこの面子でヤチヨとのライブは出来ないかな」
「ええ〜、そんな〜」
「酒寄と二人でヤチヨカップ優勝目指しなよ」
「いや、私はやらないよ」
ナチュラルに巻き込まれる彩葉。
「そんなこと言わないでやろうよ〜」
彩葉に抱きつくかぐや。
「抱きつくな!って力強!」
引き剥がそうとするが、意外と力強い。
その様子を撮影する尊。
「いい絵が撮れたな」
「撮るなっ!」
尚も、抱きつかれた状態で頬擦りされてる。
満更でもなさそうだが、筋力差の影響で引き剝がせないのか彩葉の腕には力こぶが膨らんでいる。
「かぐや、その辺でやめなさい」
「ああ~ん」
尊が彩葉からかぐやを引き剥がす。
「かぐやはライバーになって何をやりたいかは決まっているか?」
「特にないけど、あの戦うやつやってみたい!」
「KASSENか、確かにツクヨミのゲームでは一番の花形だな」
2人でライバー活動の話し合いが始まる。
(おいおい、もう夜なんですけど)
時刻は23時を回ろうとしている。一時間近く二人は話し込んでいる。
「二人とも、もうすぐ11時なんですけど」
「おっと、もうそんな時間か。それじゃあ、そろそろお暇しようかな」
「ええ~、もう?一緒に寝ようよ」
かぐやはとんでもない提案をする。
「馬鹿な事言わないの」
「かぐやの子育ての時は異常事態だったから仕方がなかったけど、今はさすがに問題だな~」
「なにが?」
かぐやには年頃の男女が同衾することの問題を正しく理解できていない。なにせ生後1週間、男女の性差なんぞ理解できるわけもない。男の尊に平気で抱き着くのだから。
「なにが問題かは酒寄に聞いてくれ、男の俺から言うのは憚られる」
「ちょっ!」
「ねえねえ彩葉~、なにがいけないの~」
「そ、それは「じゃっ、おやすみ」…って逃げるな!!」
かぐやが自分から離れ、彩葉に寄ったタイミングで素早く退散。
「ねえねえ、彩葉~」
「もう、寝かせてー!」
「よしっ!」
「な、なに〜、これ〜?」
「夏休みの予定表」
壁に貼り付けられた夏休みの予定。そこには勉強とバイトがぎっしり詰まったハードスケジュール。
夏期講習とバイトで埋め尽くされており、休みは週に一回の計5日。ちなみに、この休みは尊が裏で店長に口添えをして、週一で休ませている事を彩葉は知らない。元々は模試もあり、これより2日少なく夏休みの間は3日しか休みがなかった。
「や、やだー。かぐやと遊んで〜〜」
予定表に慄き震える声で彩葉に懇願。
「1日とて無駄に出来ないから邪魔禁止」
しかし、彩葉はスッパリ一喝。
「やだッピー!!」
布団の上でゴロゴロと転げまり駄々を捏ねる。
「ウゲッ、痛い!痛い痛い痛い」
布団から転倒すれば机の上に置いてあった参考書がかぐやの頭に落ちてくる。
「追い出すよ……?っで、あれらは?」
部屋の一角を埋め尽くすガラクタの数々。見た事もないキャラクターのぬいぐるみ、用途のわからない謎の玩具、そもそもなんなのかわからないものまである。
「配信用の小道具たち!全部尊から貰ったお小遣いだから安心して!」
「天野ー!甘やかすなー!」
交代でシフトに入っている尊に激を飛ばす!しかし、悲しきかな。声を張り上げた夏の空には笑顔でサムズアップする尊の姿を幻視する。
「てか、配信ってなに?本気でライバーになるの?」
「もっちろん!ヤチヨカップで優勝する為にはライバーにならないとだからね!見て見て、もう、配信も始めたんだ〜」
自信満々にPCの画面を見せる。そこには幼稚園児が描いたような拙く不気味なイラストが手を振っていた。
『かぐやっほ〜!月からやって来たかぐやだよー。ヤチヨカップ優勝する為に配信始めたけどやること思いつかないからこれでお終い!じゃあね〜……ん?これで切れてるのか?尊〜これでいい?』
『うん?…ってインカメじゃん!切れ切れ!』
後半は実写画像に切り替わり、なんなら他で準備をしてたのか小道具を片手に持った尊も映っていた。
「おいおいおいおい。最後インカメになってるし、天野も顔映ってるし」
クオリティの割に再生数が伸びてるがコメントを確認してみると
『インカメw』
『ヤチヨのライブにいた子?』
『かわいくね?』
『最後に映ってたの、お兄ちゃん?』
『いや、彼氏かも。メチャイケメンじゃん』
と、バッチリコメントが残されてる。なんなら、尊に対するコメントもチラホラある。
「ってか、何?この不協和音」
「ジングルだよ〜」
ジングル。軽やかなメロディで視聴者の印象に残す事を目的とするBGMだが、あまりにも不安を煽る不気味なメロディ。ある意味、印象には残ったかもしれない。
「オリジナルで作ったの」
そうだろう。この様な不安な音源なぞフリー素材にも落ちていない。
「って待って。どうやって作ったの?……あっ、私のキーボード!勝手に出さないでよ」
音楽作成に疑問を持って周囲を見ると、彩葉が昔使っていた六十一鍵のキーボードがガラクタの山に半分埋もれて顔を出していた。
「お、もしや彩葉引けるね?全然上手くいかなくてさ〜。いっちょお願いしますよ、先生」
彩葉の反応で腕前を察したのか、かぐやはキーボードを引っ張り出し彩葉の前に置く。
「はあ?なんで私がそんなこと、天野に頼めばいいじゃん」
「いや〜、尊にもお願いしたんだけど、私と同じで全然でさ〜。お願い!」
(意外だな。天野ってなんでもソツなくこなすのに)
尊の意外な弱点にちょっと安心感を覚える。
「そもそもコードってのがあって……」
諦めて
「あっ……」
胸の中で何かが弾けた。
『彩葉、音楽は自由に楽しむんやで』
かつて亡くなった父の言葉。
ピアノを弾く時は楽器の音より笑い声の方が部屋に響いていた。隣で父が笑い、母と兄も笑っていた。しかし、母が笑わなくなったのはいつか。
父親の葬儀からだった。棺に収まる父を泣きながら送る彩葉の隣で、顔色一つ変えない母。
__ねえ、何で私だけ泣いとるの?お母さんは……悲しないの?
子供故に他を慮ることの無い率直な言葉。それに対し母親は
__アンタにはまだわからん
ふと我に返ると、期待の籠った眼差しを向けるかぐや。
いつの間に嫌になり遠ざけて来た音楽。しかし、一人暮らしを始める時でさえ実家から持ってくる程度には未練を残す父との楽しい思い出の詰まったキーボード。
___形無しで成功するんはホンマに一握りや、楽しんでる場合やあらへん。お父さんから貰ったもん、遊びで食いつぶすんか?
母からの言葉がトラウマになりそうではあるが、それでは思う壷。心に残る不安は無視し心の赴くまま鍵盤を叩く。
手が震えたのは最初の一瞬。白鍵に触れた指先は淀みなく走り、まるで草原を駆ける狐のよう。
「わあ〜」
音楽が部屋を埋め尽くす。
先の不安なぞ一笑に付す。1音が次の1音がを導き、次の1音を、呼ぶ。鍵盤を弾く度、心を蝕む錆が剥がれ落ちていくような心地良さを感じる。
「彩葉すご!」
「……む、昔から中途半端には出来るんだよね」
かぐやの賞賛に照れ、顔を背ける。
「もう一度!エンドレスで!」
そう言われ、今度は先程より長く心に正直に、想いを乗せ音を奏でる。
そこはまるでコンサートホール。観客はかぐや1人であるが、彩葉には満員御礼の巨大な劇場の様にも感じられる心地良さ。
引き終わる頃にはかぐやは音に魅入られ、ある事を提案する。
「彩葉!すごい!私のプロデューサーになってよ!そんで、曲作って、それをかぐやが歌う!そうすれば大バズ確定!」
「へっ?いやいや、カバーでいいじゃん。こんなの素人に毛が生えた程度の曲だよ?」
「いや〜、オリジナルがいい!」
いつものかぐやの我儘。これに抗う術を持たない彩葉は渋々ながら頷く。
「昔作った曲。ゼロから作る暇は流石にないからね」
PCにかつて作った数々の曲。今の彩葉にとっては黒歴史でしかないが、死ぬまで埃を被ったままお蔵入りするより、かぐやに歌ってもらえば供養になるだろうと聞かせる。
「うっは〜、これ作ったの!?スゴすぎ〜」
「いいから、適当に歌いなよ」
体を揺らし、かぐやは音に合わせ歌詞を紡ぐ。気持ちに合わせ心のまま歌う姿は実に楽しそうだ。
こうして、かぐやのヤチヨカップ優勝への道は彩葉を巻き込み、『かぐや・いろPチャンネル』として突き進んでいく。
そこからのかぐやの快進撃は凄まじかった。
当たり前の話だが、かぐやは宇宙人。配信のことなぞ何もわからない。尊に配信のイロハを学び、彩葉がそれを監督。
とにかく、思いついたことを片っ端からやっていく。後追いだとか、二番煎じだ、気負い、照れ、そんな言葉はかぐやの辞書には載っておらず、何でもやった。
宇宙人の考えは至ってシンプル、
「このダンス可愛い〜〜。かぐやもやっちゃお〜♪」
思いついたら即行動。撮影から配信までの流れにラグがない。
「うっひょー、芦花に教えてもらったメイクしたら自撮り爆盛りできた!これも、アップ!ついでに盛れなかったNGバージョンもアップ!」
芦花からメイクを教わり自撮りを投稿。
「真実からオススメされたお店のお取り寄せ届いた!緊急で動画回しちゃお!」
真実から教わった食レポ。
「尊〜、このゲームクリア出来ない〜。助けて〜」
尊からゲームの助言、時には代打。
「このペットボトルロケットって、限界まで圧力かけたらどうなるのかな?」
「よしっ、やってみるか」
昔の動画を見て好奇心が沸けば、自分でも試す。
ちなみに、ペットボトルロケットは暴発し尊に直撃。ずぶ濡れになり、額には青痣が出来上がった。翌日には完治。
とにかく、何でもやった。結構金のかかる動画も撮っていて、どこから調達してるか、彩葉が尋ねれば。
「尊が出してくれたよ?」
「甘やかすなって言ってるだろー!」
「にっげろー╰(‘ω’ )╯三」
尊がかぐやを甘やかし、それを咎めるため彩葉との鬼ごっこが始まる。
その様子をかぐやに撮影され、投稿される。
もちろん、その動画は尊がアバターに加工して身バレは防いで投稿。彼の睡眠時間が、削れたがちょうどいい罰だったのかもしれない。
「あー、そういうのどうでもいい!キッチリ片をつけ忘れる!忘れるって人生で1番大切な能力だからね〜」
「困ったな、記憶力がいい俺はどうしたらいい?」
「そゆ時は楽しい思い出で埋め尽くす!辛かった思い出も楽しかった思い出が覆い被せてくれるし、暗い道のりも足元を照らしてくれる!だから、前を向いて突き進んでいく!」
ヤチヨを真似てお悩み相談。
尊も、最初の動画でバッチリ顔バレし、かぐやのチャンネルではほぼほぼ皆勤賞。尊がかぐやの配信画面に居ない時は
『かぐやちゃん今日はお父さんいないけど、一人で大丈夫?』
『パパの代わりにいろママが手伝ってくれるから』
『むしろ、ミコトを見にこのチャンネルに来てるわ』
尊はかぐやの父親ポジに定着。さらに、いろPとして動画に出てる彩葉はかぐやを甘やかし尊を説教する様子が何度も流れ、いろママの愛称まで貰えてる。
ちゃっかり、尊のチャンネルも登録者数を増やしヤチヨカップではかぐやと接戦。
「よーし!ツクヨミでゲリラライブだ!新しい衣装着て、新曲歌ってー、振り付けは最後まで決まってないけどやっちゃおー」
かぐやに壁なんて無く。止まる様子は1ミリも見せない。
かぐやが歌う横で、曲の伴奏を尊がギターで、彩葉が狐の着ぐるみを着てミニピアノで。
「ねーねー、彩葉も一緒に歌枠しよ!」
彩葉が断り切れるわけもなく、ツクヨミでの路上ライブ。かぐやが歌って踊り、必死こいて練習した聴けるレベルのギターを弾く尊。自分をここまで追い詰めた尊の渋る顔が見たくて、かぐやの伴奏を手伝わせる為にギターの練習をする様に言い聞かせた。
面倒くさがることを期待していたが、かぐやの我儘である事と彩葉に頼られた事が嬉しく、下手くそなりに頑張り何とか形にした。
「見て見て彩葉!彩葉がバトルと演奏が出来るキーボード尊と一緒に作ったの!」
「中々の力作だ。普段使ってる脱着式ブーメラン型の双剣にも出来るようにしてあるし、戦闘スタイルを変える必要はないぞ!」
かぐやと一緒に楽しむ尊。ここの所ずっと尊は酒寄家に入り浸っている気がする。食事はかぐやと一緒に作ってくれるので、とても助かるが果たしてこいつは勉強をしてるのか?
「勉強?学校から出された課題をこなしてるし、問題ないだろ!」
そう、コイツは学校が開いている夏期講習を受けずにかぐやの配信を手伝っているが、一応自学習もしている。やっている量は彩葉の1割程度であるが、それで彩葉の一つ下の成績なのだから才能差を痛感される。
「本日の生配信!タイトルは『かぐやちゃんリスナーの質問に全部答えちゃう!』だよー。いろPの逆鱗と公序良俗に触れない範囲なら何でも答えるよ〜」
本日の生配信は視聴者サービスの回。かぐやがコメントに流れた質問を無差別に拾い、視聴者の疑問に答える。
『かぐやちゃんってどんな男がタイプ?』
幾つか質問に答えていくと、やや下世話な質問も拾い上げる。
「タイプ?好きな人の特徴ってこと?」
「まあ、かぐやが好きな人に求める事を話せばいいんじゃない?」
質問は下品だが、問題あるものでも無いのでいろPは通す。
「うーん、考えた事もなかったな〜。そもそも、私の周りにいる男の人ってミコトしかいないし。そうなると、ミコトが私にとっての異性に求める最低条件なんじゃないか?」
『¥3,510 ミコトってかぐやパパ?じゃあ、かぐやちゃんお嫁に行けないね!』
『¥3,510 パパが最低条件か〜』
『¥32,510 現在わかってるパパの情報。全国模試トップ常連。スポーツ万能。配信でもかなりの稼ぎがある。プロともタイマン張れるゲームの腕前。超イケメン。高身長。女の子に財布を出させない。やっば、勝てる要素がない』
『¥1,680 いろP、ミコトの弱点ないの?』
かぐやファン古参勢には尊の情報は垂れ流し。なんなら尊のチャンネルから流れてるかぐやファンも、いる。
「むしろ、私の方が知りたい。前は音楽出来てなかったけど、今はかぐやの為にって必死に練習して克服してるし」
『¥1,500 イケメンかよ。女の子の為に頑張るとか』
『¥1,000 いろPも惚れてたりして』
最近では彩葉もかぐやファンに弄られるように。
「そんな訳ないじゃん。ミコトは友達。それ以上でもそれ以下でもありません」
「えっ?でも、ミコトといろPってもう夫婦みたいに息ぴったりじゃん」
「余計なこと言わない」
「ひたいひたい、頬っぺ抓らないで」
『¥10,000 何?!いろP結婚してたのか!御祝儀です』
『¥30,000 ばっか野郎、御祝儀は割り切れないように三万円を包むんだよ!』
『¥30,011 ダホメ、割り切れ数字にするなら素数だろ!』
『¥49,999 程度が知れるな、祝う気持ちがあるなら上限ギリギリの素数で攻めろ!』
『¥49,999 それだ!』
『¥49,999 いろP結婚式はツクヨミと同時開催ね!』
『¥49,999 俺たち待ってるからな!』
ミコいろがかぐやファンの現在のトレンド。彩葉を弄るために赤スパがどんどん投げられる。
「ちょっ、みんな赤スパ投げすぎ!」
「うわ〜すごーい。みんなお金持ちだね〜」
彩葉を弄る赤スパは留まることを知らず、本日だけでスパチャ額は200万を突破したとかしないとか。
「せっかくこんなにみんながミコトにスパチャ投げてくれるなら呼んでこよ!」
「あっ、かぐや!」
配信の盛況ぶりに調子が良くなったかぐや。部屋で休んでいる尊を呼びに部屋を飛び出る。
すると、数分もしない内に戻ってきた。
「……、」
「かぐや?」
『どうしたの?』
『元気ないね、ミコトも来てないし』
戻ってきたかぐやはさっきの様子からは考えられない程静かだった。
「じゃ、じゃあ、今日はこの辺でじゃ〜あね〜」
なにやら動揺し、停止ボタンの
「かぐやどうしたの?様子が変だけど」
今まで見たことの無いかぐやの様子に狼狽える彩葉。心配になり声をかける。
かぐやはぬいぐるみを抱きしめ彩葉を見る。
その顔を真っ赤になり、目が充血してる。
「マジで何があったの?天野に怒られたの?」
今まで尊がかぐやに怒ったことなど1度もない。どんなに我儘を言っても許してくれるし、叶えてくれた。どんな時でもかぐやの味方であり、かぐやにとって彩葉と同じくらい大事な人。
そんな人に怒られれば当然悲しくなるだろうし、涙も出よう。
「………彩葉ってさ」
「うん?」
「………尊の裸って見たことある?」
「………うん?」
かぐやから聞かされる衝撃の一言。
「な、ナニ言ってるの?」
あまりの事に動揺して言葉に詰まる。
「さっき、尊に配信出てもらおうと尊の部屋に入ったんだけどさ。ちょうどシャワーから出た後で体拭いてる最中だったんだよね」
「……ゴクリ」
「だから、尊。何も着てなくて、私全部見ちゃったんだよね」
なんと、かぐやラッキースケベをかます。
ここで誤解しないでもらいたいが、尊は異性に裸を見せて快楽を得る変態では無い。ただ、シャワーを浴びる際に部屋の鍵を閉め忘れただけ。そこにタイミング悪くかぐやがノックもせず尊の了承を得ることなくドアを開けてしまった。
尊も鍵をかけ忘れていることを知らず、完全なプライベート空間で安心し腰にタオルを巻くことなく出てきていた。
かぐやは肉体的には彩葉と同じ17歳。異性に興味を持ってもおかしくない年齢だ。そこで鍛え上げられた尊の裸を見て何を思うか。
「ち、ちなみにどうだった?」
彩葉もお年頃。異性にガッツリ興味を持ち、かぐやにとんでもない事を聞く。
「なんか、スゴかった」
「スゴかった?!」
「筋肉がしっかり着いてるけど、ボディビルダーみたいに大きくなくて、細い逆三角で堀がしっかりしてて、筋肉の間に陰影が浮かんでた」
「ゴクリ」
かぐやはなおも、尊の体について赤裸々に語る。すると
ドンドンドン!
ドアを叩く音が聞こえてきた。
「やば!やっぱり怒ってるかな〜?」
「全面的にかぐやが悪いし、ちゃんと謝りなさい」
かぐやがぬいぐるみに隠れてやり過ごそうとするが、彩葉はそれを取り上げ、かぐやを扉の前に連れていこうとする。
『かぐや!配信切れ!切り忘れてる!』
尊が扉の向こうから怒号を上げる。
「え?…あ、やば!」
尊の言葉でPCを確認するとそこには、
『¥50,000 マジですか。イケメンの裸見れるとか最高じゃない』
『¥50,000 もっと詳しく。上腕二頭筋の話とか、脹脛の堀の深さとか』
『¥50,000 ミコトパパに抱かれるにはいくら払えばいいですか?』
配信を切り忘れエグい量の赤スパが飛び交う。
「尊ごめん!切り忘れてた!」
「かぐや何やってんのーー!」
彩葉の絶叫と共に配信は終了し、過去一番の同接を記録し、登録者数も爆上がりした。アーカイブには残さなかったが、ファンがデータを残し切り抜き動画が拡散。尊も登録者数が増えたが、筋肉フェチのお姉さま方、そっち方面に造詣の深いオネエ様方に狙われる事になったとかならなかったとか。
後にかぐやはこう語る。
『ワザとじゃないんです。動揺して操作を間違えただけなんです』
泣きながら謝罪動画を投稿し、その動画もガッツリバズり登録者数が増えたとか。
オマケ
「尊〜一緒に生配信出………」
「………、」
「………、」
「………あの、閉めて貰えません?」
「………アッ、ゴメン」
おっどろいた。まさか、鍵をかけ忘れるとは。合鍵を渡してるとは言え、不用心すぎたな。
こっちは何も隠してない。かぐやもあそこまで動揺するとは、配信が終わったら謝りに行くか。
髪を乾かし、着替え。ゆっくり待って配信の様子を確認する。
『___大きくなくて、細い逆三角で堀がしっかりしてて、筋肉の間に陰影が浮かんでた』
『ゴクリ』
あの二人、配信切り忘れてるじゃねえか!
俺は走った。この時ほど自分の身体能力の高さを喜んだ時はなかった。部屋を飛び出し、階段へ向かう。階段は五段飛ばしで3歩で駆け上がり、酒寄の部屋の扉を叩く。
ドンドンドン!
もしかしたら、力加減を間違えて扉に傷を付けたかもしれなかったが、そんな事を気にする余裕もなかった。
「かぐや!配信切れ!切り忘れてる!」
声を荒らげ、端的に告げる。
『尊ごめん!切り忘れてた!』
『かぐや何やってんのーー!』
酒寄の怒声が響き、配信が停止する。
俺は胸を撫で下ろし、力が抜けた。足に力が入らずそのまま座り込む。
「天野?大丈夫?」
扉を開け、酒寄が心配そうにこちらを見る。
手を借りて、酒寄の部屋に入る。
「大丈夫ではないが、過ぎたことだ。気にすることない…ホント…ダジョブ」
「尊〜、ごめんね〜。かぐや、動揺して配信切り忘れちゃったよ〜......」
本当に反省してるのだろう。顔をぐちゃぐちゃに濡らし俺に謝ってくる。いつもなら抱きついて、謝ってきそうだが。今回はアレがあったのか俺とちゃんと距離を取る。
「気にするな、ワザとじゃないんだろ?なら、怒れないさ」
「いや、天野は怒っていいと思うよ?」
「本当に良いって、むしろ俺よりファンに釈明動画なり謝罪動画を出した方がいいんじゃないか?ファンのみんなも俺を受け入れてるとはいえ、男の裸を見てそれを赤裸々に話し合うなんて、男性視聴者なら卒倒ものだろ?」
俺は少しテンパっている頭を回し、今後の出方を伝える。
「とりあえず、俺は今日は寝るはなんかめちゃくちゃ疲れたし」
「大丈夫?無理しなくても、今日はウチで寝てもいいよ?」
「あっ、そうだよ!まだ晩御飯食べてないでしょ?かぐやが美味しい料理作るから!」
「それじゃあ、お言葉甘えようかな」
この時の俺は冷静な頭ではなかったのだろう。
まさか、夜にかぐやから裸を見たいと言われるとは思わなかった。
もちろん、最後の良心が残っていたのか、上半身だけで勘弁してもらった。身体を触られるのはちょっと俺の本能が飛び出しそうになったが、力づくで抑えつけた。
酒寄も寝てるフリしてこちらを見ていた事は知ってるからな。
作中に描写はなかったけど、かぐやも彩葉も思春期の女の子だから、異性に興味を持っても不思議じゃないと思ったんだよね〜。
特にかぐやなんて、異常な成長速度で第二次性徴をすっ飛ばしてるわけだし、異性を知れば持ち前の好奇心と物怖じしない性格で、絶対止まらないと思う。
オマケに彩葉はちょっとムッツリな所があると推察。だから、尊に直接見せて言える訳もなく、それらしい条件を整えてかぐやに突撃してもらおうと画策すると思って、尊を部屋に誘い込みました。