「ありふれた遊戯王で世界最強」   作:武藤 桜

12 / 29
筆がはかどりまくりました!!三話連続投稿です!!!加えて内容が思わしくなかったので前提的に書き直したのを再度投稿します。すみません。


第十二話「ジャンクの意地、峡谷に眠る大迷宮」

「――というわけで! これからよろしくお願いしますね、ハジメさん!」

 

シアは満面の笑みを浮かべ、両手を胸の前で握り締めた。

 

長い兎耳が、嬉しそうにぴょこぴょこと揺れている。

 

「おう。よろしくな」

 

ハジメが気楽に答えると、そのすぐ隣から、涼やかな声が響いた。

 

「……シア。ハジメに近づきすぎ」

 

「へ?」

 

シアが振り返る。

 

そこにいたのは、銀色の髪と真紅の瞳を持つ少女――ユエだった。

 

小柄な身体に似合わぬ圧倒的な存在感。表情はいつもどおり淡々としているが、ハジメの腕にそっと自分の腕を絡めている。

 

「え、えっと……ユエさん?」

 

「そう。ハジメのユエ」

 

「いや、誰もそこを疑ってませんよ!?」

 

シアが慌てて両手を振る。

 

ハジメは苦笑した。

 

「おいユエ。シアは今日から一緒に旅をする仲間だぞ」

 

「分かってる。だから、仲間として距離を守ってもらう」

 

「その理屈はどこから出てきたんだ……」

 

「私の中から」

 

「そりゃそうだろうな」

 

ユエは涼しい顔のまま、ハジメの腕に頬を寄せた。

 

シアは二人を交互に見つめ、やがて何かを察したように頷く。

 

「なるほど……! ユエさんはハジメさんの大切な人なんですね!」

 

「そう」

 

ユエは即答した。

 

「世界で一番」

 

「ちょっ、ユエ!?」

 

ハジメが珍しく言葉に詰まる。

 

シアは一瞬きょとんとしたあと、にっこり笑った。

 

「すっごく仲がいいんですね!」

 

「当然」

 

「おい、そこで胸を張るな」

 

「ハジメが照れてる」

 

「照れてねえ」

 

「耳が少し赤い」

 

「気のせいだ」

 

「……かわいい」

 

「お前なぁ!」

 

二人のやり取りを見て、シアは思わず吹き出した。

 

「ふふっ。なんだか、これからの旅が楽しみになってきました!」

 

「私はハジメと二人きりのほうが楽しい」

 

「ユエ、頼むから新しい仲間を初日から追い返そうとするな」

 

「……努力する」

 

そう言いながらも、ユエはハジメの腕を離さなかった。

 

三人の旅は、こうして賑やかに始まった。

「まずはブルックの町だ。食料と弾薬、それから装備を整える」

 

ライセン峡谷へ向かう前に、ハジメはそう告げた。

 

「私も新しい防具が欲しいです! あと、旅用の靴も!」

 

シアが元気よく手を挙げる。

 

「必要なものなら買ってやる。だが、余計なものは買うなよ」

 

「はーい!」

 

「……ハジメ」

 

ユエがハジメの袖を引いた。

 

「私も欲しいものがある」

 

「何だ?」

 

「ハジメとお揃いのもの」

 

「……具体的には?」

 

「何でもいい。アクセサリーでも、旅道具でも」

 

ユエは真っ直ぐハジメを見つめた。

 

「離れていても、お揃いだと思えるものが欲しい」

 

その言葉に、ハジメの表情がわずかに和らぐ。

 

「……分かった。何か探すか」

 

「ん」

 

ユエが満足そうに頷く。

 

その様子を見ていたシアが、ぱっと顔を輝かせた。

 

「じゃあ、私も三人でお揃いにしましょうよ!」

 

「……三人で?」

 

ユエの目が細くなる。

 

「はい! 旅の仲間の証です!」

 

シアは悪気のない笑顔を浮かべている。

 

ユエはしばらく考え込み、やがて小さく頷いた。

 

「……仲間の証なら、仕方ない」

 

「ありがとうございます、ユエさん!」

 

「ただし、ハジメと私の分は特別」

 

「ええっ!?」

 

「ユエ……」

 

ハジメは額を押さえた。

 

ブルックの町に着くまでに、すでに何度目か分からないため息をつくことになった。

 

町は旅人や冒険者で賑わっていた。

 

武器屋、防具屋、魔物素材を扱う店が軒を連ね、露店からは焼き肉や香辛料の匂いが漂ってくる。

 

「わああ! すごいです! ハジメさん、あっちのお店も見ましょう!」

 

シアが駆け出しかける。

 

「シア、待って」

 

ユエが呼び止めた。

 

「この町は人が多い。勝手に離れると面倒」

 

「はっ! そ、そうですね!」

 

「それに、ハジメがいなくなる」

 

「そっちが本音だろ」

 

「当然」

 

ユエは平然と答えた。

 

三人はまず、武器や防具を扱う店を回った。

 

ハジメは弾薬、保存食、道具類を補充し、シアには動きやすい胸当てと頑丈な靴を選ばせた。ハンマーを振るう彼女には、腕や肩の動きを妨げない装備が必要だった。

 

ユエは軽装のまま、ハジメが選んだ防具を一つずつ確認していた。

 

「この防具なら、シアが動きやすそう」

 

「ですよね! ありがとうございます!」

 

「でも、胸元の留め具は少し緩い。戦闘中に外れると危ない」

 

「えっ、あ、本当だ……」

 

ユエの指摘を受け、店主が留め具を調整する。

 

ハジメは感心したようにユエを見た。

 

「よく気づいたな」

 

「ハジメの仲間だから」

 

「……そういうことか」

 

ユエは当然のように頷いた。

 

そのあと、ハジメは決闘用のカードを保護するケースや、装備品を整理するための小道具も買い足した。

 

シアがケースを覗き込む。

 

「決闘者って、カードの保管にも気を遣うんですね」

 

「当然だ。カードは俺にとって武器だからな」

 

ハジメはカードケースを閉じた。

 

その声音には、いつもの軽さとは違う確かな重みがあった。

 

ユエはその横顔を見つめ、静かに口を開く。

 

「ハジメは、カードを信じてる」

 

「ああ。カードが勝手に勝たせてくれるわけじゃない。けど、こいつらがあるから選べる戦い方がある」

 

ハジメはシアのデッキケースに目を向けた。

 

「お前のパワー・ツール・ドラゴンも同じだ。エースが強いだけじゃ、決闘には勝てない」

 

「うっ……」

 

シアの耳が垂れる。

 

「昨日の決闘、まだ気にしてるの?」

 

ユエが尋ねた。

 

「は、はい……。もっと強くなりたいので」

 

「なら、ハジメの決闘をよく見ておくといい」

 

ユエは淡々と言った。

 

「ハジメは、強いカードを使うだけじゃない。相手が何をするか考えて、何度でも戦い方を変える」

 

「ユエ……」

 

「本当のこと」

 

ユエはハジメの手を取った。

 

「私が一番よく知ってる」

 

その言葉に、シアは強く頷いた。

 

「はい! しっかり勉強します!」

必要な品を買い終えようとしたときだった。

 

「おい、そこの白髪野郎」

 

背後から、耳障りな声が飛んできた。

 

振り返ると、三人の男が道を塞いでいた。冒険者風の格好をしているが、身なりはだらしなく、腰の武器も手入れが行き届いていない。

 

中央の男が、ハジメの左腕に取り付けられた決闘盤を指差した。

 

「なんだそりゃ? 妙な腕輪だな。おもちゃか?」

 

「……何の用だ」

 

「よそ者が珍しいもんを持ってるじゃねえか。ちょっと俺たちに見せてみろよ」

 

「断る」

 

ハジメは即答した。

 

男の顔が歪む。

 

「てめえ、俺たちが誰だか分かってんのか?」

 

「知らねえし、知る必要もねえ」

 

「この野郎……!」

 

男が武器に手を伸ばしかけた瞬間、ユエが一歩前に出た。

 

「その手を止めて」

 

静かな声だった。

 

だが、周囲の空気が一瞬で凍りつく。

 

男たちは、ユエの真紅の瞳を見てたじろいだ。

 

「な、なんだよ、てめえ……!」

 

「ハジメに触れようとした」

 

ユエの指先に、かすかな魔力が集まる。

 

「次はない」

 

「ユエ、いい」

 

ハジメが片手を上げて制した。

 

「町中で派手にやると面倒だ。こいつら、決闘者みたいだからな」

 

ハジメは男の腰にあるカードケースを見た。

 

「決闘で片をつけようぜ」

 

男は一瞬怯んだものの、すぐに下卑た笑みを浮かべた。

 

「はっ! いいぜ。そんな変な腕輪を使ってる奴に、俺が負けるわけねえ!」

 

「そうかよ」

 

ハジメは決闘盤を構えた。

 

その隣で、シアが緊張した面持ちになる。

 

「ハジメさん……」

 

「大丈夫だ。ちょっとした手本を見せてやる」

 

「手本?」

 

「ああ。よく見とけ。今回はスターダストには頼らねえ」

 

ハジメはデッキから一枚のカードを引いた。

 

「ジャンクの連中だけで十分だ」

 

ユエは腕を組み、静かに見守っていた。

 

「……ハジメらしい」

 

「ユエさん、ハジメさんのデッキって、いくつもあるんですか?」

 

「ある。けれど、どのデッキを使ってもハジメはハジメ」

 

ユエはシアを見た。

 

「カードの強さだけじゃなく、使う人の考え方が大事だから」

 

シアは真剣に頷いた。

 

「……はい!」

 

「デュエル!」

 

男が先攻を取り、攻撃力を強化する魔法カードを使ってモンスターを並べた。

 

「どうだ! 力こそ正義! 強いモンスターで殴り倒せば、それで終わりなんだよ!」

 

「……ふうん」

 

ハジメは手札を確認した。

 

「俺のターン」

 

彼は一枚のカードを掲げる。

 

「《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

青白い光が走り、機械仕掛けの戦士がフィールドに姿を現した。

 

「ジャンク・シンクロンの効果発動! 召喚に成功したとき、墓地のレベル2以下のモンスターを特殊召喚する!」

 

墓地から呼び戻された小型の機械戦士が、ジャンク・シンクロンの隣に立つ。

 

「さらに、レベル2のモンスターに、レベル3のチューナー、ジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

二体のモンスターが光の輪へと変わり、星々のような光が交差する。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす! 光差す道となれ!」

 

「シンクロ召喚! 現れろ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

屈強な戦士が、拳を地面に叩きつけて着地した。

 

シアの耳がぴんと立つ。

 

「これがジャンク・ウォリアー……!」

 

「攻撃力は大したことねえな!」

 

チンピラが笑う。

 

ハジメは鼻を鳴らした。

 

「攻撃力だけ見て決めつけるなよ」

 

「何だと?」

 

「ジャンク・ウォリアーの効果発動! シンクロ召喚に成功したとき、フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力を自身に加える!」

 

ジャンク・ウォリアーの身体が赤い光に包まれ、その攻撃力が跳ね上がる。

 

「なっ……!」

 

「さらに、俺はカードを使って次の展開につなげる。相手の場だけじゃなく、自分の墓地と手札も利用するんだ」

 

ハジメは無駄なくカードを操り、次の召喚へとつなげていく。

 

シアはフィールドとハジメの手元を交互に見た。

 

「……あっ、そうか!」

 

「何か分かったか?」

 

「ジャンク・シンクロンは、ただモンスターを一体増やすだけじゃないんですね! 墓地のモンスターを呼び戻すことで、シンクロ召喚の素材を揃えながら、次の展開にもつなげている……!」

 

「正解だ」

 

ハジメは短く答えた。

 

「それに、最初から相手のライフを削ることだけを考える必要もねえ。次に何ができるか、相手に何をされたら困るか。それを考えて動くんだ」

 

「……はい!」

 

男が苛立った声を上げる。

 

「ごちゃごちゃと小細工しやがって! そんなもんで俺に勝てると思うなよ!」

 

「小細工ねえ……」

 

ハジメは、男の伏せカードを一瞥した。

 

「なら、そろそろ終わらせるか」

 

ハジメが新たなカードを掲げる。

 

「俺はフィールドのモンスターをチューニング!」

 

光が弾け、星々のような輝きが空中に浮かび上がった。

 

「集いし願いが、新たな速度の地平へと導く! 光差す道となれ!」

 

「シンクロ召喚! 駆け抜けろ、《ジャンク・アーチャー》!」

 

光の矢を携えた機械の戦士が、颯爽とフィールドに降り立った。

 

「ジャンク・アーチャーの効果を発動! 相手モンスターをエンドフェイズまで除外する!」

 

光の矢が走り、チンピラの切り札がフィールドから消え去る。

 

「なっ、俺のモンスターが!?」

 

「これで邪魔な壁はなくなった」

 

ハジメが手を前に突き出す。

 

「ジャンク・ウォリアーで攻撃! スクラップ・フィスト!」

 

ジャンク・ウォリアーの拳が敵の守りを打ち砕く。

 

続けてジャンク・アーチャーが矢を放ち、男の残された戦力を崩していった。

 

最後の攻撃が決まった瞬間、男のライフポイントはゼロになった。

 

「そ、そんな……俺が負けただと!?」

 

ハジメは決闘盤を畳み、淡々と告げた。

 

「強いモンスターを並べりゃ勝てるって考えは、そろそろ捨てたほうがいいぜ」

 

男たちは何も言い返せず、その場から逃げ去っていった。

 

シアは興奮した様子でハジメに駆け寄る。

 

「すごいです、ハジメさん! スターダスト・ドラゴンを使わずに勝っちゃいました!」

 

「スターダストがいなきゃ勝てないなんてことはねえからな」

 

「ジャンク・ウォリアーの攻撃力が上がった瞬間も、ジャンク・アーチャーの効果もすごかったです! 相手のモンスターを消して、攻撃できるようにするなんて!」

 

「自分のエースの効果だけじゃなく、デッキ全体の動きを考えるんだ。お前のパワー・ツール・ドラゴンだって、装備魔法で攻撃力を上げるだけじゃなく、どのタイミングで使うかで結果は変わる」

 

「はいっ! もっと勉強します!」

 

その横で、ユエがハジメの袖を引いた。

 

「……ハジメ」

 

「ん?」

 

「かっこよかった」

 

「……お、おう」

 

「私も、ハジメが勝つところを見るのは好き」

 

ユエは当然のように言い切ると、ハジメの腕にそっと寄り添った。

 

シアが目を輝かせる。

 

「ユエさんも決闘に詳しいんですね!」

 

「ハジメのことなら、何でも知ってる」

 

「……それはちょっと盛ってないか?」

 

「盛ってない」

 

「即答かよ」

 

シアがくすくすと笑う。

 

「本当に仲がいいんですね!」

 

「当然」

 

ユエはハジメの腕を抱いたまま、満足そうに頷いた。

町を離れる前に、ハジメはユエとシアを連れて小さな雑貨屋に立ち寄った。

 

店先には、魔物の素材や魔石を加工したアクセサリーが並んでいる。

 

「ここなら、何か見つかるだろ」

 

「お揃いのものですね!」

 

シアは目を輝かせて商品を眺めた。

 

ユエはハジメの隣から動かず、静かに品物を選んでいる。

 

やがて彼女は、小さな青い石が嵌め込まれた黒い留め具を手に取った。

 

「これがいい」

 

「髪留めか?」

 

「うん。ハジメの黒い装備にも合う。私も使う」

 

ユエはもう一つ、同じ意匠の留め具を選んだ。

 

シアも、兎耳を傷つけない柔らかな紐飾りを見つけた。そこにも同じ青い石があしらわれている。

 

「これなら、三人でお揃いですね!」

 

ユエはシアの選んだ品を確認し、少し考えたあと頷いた。

 

「……悪くない」

 

「やった!」

 

「ただし、ハジメの留め具は私が選んだもの」

 

「そこは譲らないんですね!?」

 

「譲らない」

 

ハジメは二人のやり取りを聞きながら、呆れたように笑った。

 

「はいはい。三人分買えばいいんだろ」

 

店を出たあと、ユエは自分の留め具を大事そうに握り締めていた。

 

「嬉しいか?」

 

ハジメが尋ねると、ユエは小さく頷いた。

 

「うん。ハジメと一緒に旅をしてるって、いつでも思い出せる」

 

「……そっか」

 

ハジメはユエの頭をそっと撫でた。

 

シアは少し離れたところから二人を見て、微笑んだ。

 

自分がこの二人の関係に割り込むことはできない。

 

けれど、自分もまた、二人にとって大切な仲間になりたい。

 

そう思った。

ブルックの町を離れた三人は、ライセン峡谷へ向かった。

 

人の往来が減るにつれ、景色は荒涼としたものへ変わっていく。

 

むき出しの岩肌。切り立った崖。遠くから響く魔物の咆哮。

 

「……空気が変わりましたね」

 

シアが周囲を警戒する。

 

「ここから先は、気を抜くな」

 

ハジメは銃の状態を確かめた。

 

ユエもまた、静かに魔力を巡らせている。

 

「前方に魔物。右の岩陰にもいる」

 

「分かった」

 

ハジメが短く答えた直後、岩陰から狼型の魔物が三体飛び出した。

 

さらに、後方の岩肌から大型の魔物が姿を現す。

 

「挟み撃ちか……!」

 

シアがハンマーを構える。

 

「シア、右を頼む。俺は大物を抑える」

 

「はいっ!」

 

「左の二体は私が」

 

ユエの指先に魔力が集まり、冷気が周囲を走った。

 

飛びかかってきた狼型魔物の足元が凍りつく。動きを止めた魔物へ、ユエが容赦なく魔法を放った。

 

一方、シアはハンマーを振り抜き、一体を吹き飛ばす。続く攻撃を身をひねってかわし、反撃の一撃を叩き込んだ。

 

ハジメは大型魔物の突進を射撃で牽制し、シアの側へ向かわないよう誘導する。

 

「今だ、シア!」

 

「はいっ!」

 

シアのハンマーが、魔物の側面へとめり込んだ。

 

巨体が崩れ、砂埃を巻き上げながら倒れる。

 

残った狼型魔物も、ユエの魔法で動きを封じられたところをハジメが仕留めた。

 

静寂が戻る。

 

「やりました!」

 

シアが嬉しそうに拳を握る。

 

「……悪くなかった」

 

ユエも小さく頷いた。

 

「本当ですか!? ユエさんにも褒めてもらえました!」

 

「でも、最後の一撃を急ぎすぎ。敵の動きを見てから攻撃すれば、もっと安全だった」

 

「うっ……そこはやっぱり駄目なんですね」

 

「次に直せばいい」

 

ユエの言葉は淡々としていたが、責める響きはなかった。

 

ハジメも頷く。

 

「決闘と同じだ。相手の行動を見て、次の手を考える。今の戦いじゃ、ユエが敵の動きを止めた。お前はその隙を使った。連携は悪くない」

 

「……はい!」

 

シアは嬉しそうに笑った。

 

ユエはハジメを見上げる。

 

「ハジメも、ちゃんと褒めてる」

 

「俺は事実を言ってるだけだ」

 

「それが褒めてるってこと」

 

「……そうかよ」

 

ユエは満足そうに頷いた。

 

その後も、三人は何度か魔物と遭遇した。

 

シアが前衛で敵を引きつけ、ハジメが射撃で隙を作る。ユエは魔法で敵の動きを制し、危険な攻撃があれば即座に援護する。

 

時にはシアがハジメの警告を聞いて攻撃を中断し、時にはユエが魔物の魔力の流れを読み、進むべき道を示した。

 

三人の連携は、戦いを重ねるごとに少しずつ形になっていった。

 

休憩の際、シアは岩に腰を下ろして水筒を傾けた。

 

「はあ……。ユエさんもハジメさんも、やっぱりすごいですね」

 

「何が?」

 

ユエが尋ねる。

 

「戦い方です。ハジメさんは相手の動きを先に考えているし、ユエさんは危険を見つけるのが早いですし……。私も、もっと周りを見られるようにならないと」

 

ユエは少し考えてから答えた。

 

「シアにはシアの強さがある」

 

「え?」

 

「大きなハンマーを振り回せる力。危険なときでも前に出られる勇気。それは、私にはないもの」

 

シアは目を丸くした。

 

「ユエさん……」

 

「だから、ハジメの真似だけをする必要はない。ハジメから学んで、自分の戦い方を見つければいい」

 

その言葉に、シアはじっと耳を傾けた。

 

「……はい! 私、自分の戦い方を見つけます!」

 

「ん」

 

ユエは小さく頷いた。

 

その直後、ハジメが保存食を二人に放り投げた。

 

「話はそのくらいにして、食え。先は長いぞ」

 

「わあ、ありがとうございます!」

 

シアが受け取る。

 

ユエも受け取ったものの、すぐにハジメの隣へ移動した。

 

「ハジメ、隣」

 

「最初から隣だろ」

 

「もっと近く」

 

「……はいはい」

 

ハジメが少し身を寄せると、ユエは満足そうに肩を預けた。

 

シアはその様子を見て、くすくすと笑う。

 

「ユエさんって、本当にハジメさんが大好きなんですね」

 

「うん」

 

「そこは否定しないんですね!?」

 

「する理由がない」

 

ハジメは空を見上げた。

 

「……お前ら、元気だな」

 

「ハジメがいるから」

 

ユエがそう言って、彼の手を握った。

 

ハジメは何も言わなかった。

 

ただ、その手を握り返した。

さらに峡谷の奥へ進んだとき、ハジメがふと足を止めた。

 

「……妙だな」

 

「どうしたんですか?」

 

シアが尋ねる。

 

ユエも周囲へ視線を巡らせた。

 

「魔力の流れが変わってる。前方の岩壁……あそこから感じる」

 

ハジメは左目を覆う黒い眼帯に触れた。

 

その奥で、千年眼がかすかな熱を帯びている。

 

周囲の魔力が、目に見えない糸のように一か所へ集まっていた。

 

「この先に何かある。隠されてるのかもしれねえ」

 

三人は岩壁へ近づいた。

 

一見すれば、ただの行き止まりにしか見えない。

 

だが、ハジメが手を伸ばし、指先を岩肌に触れさせた瞬間、淡い光が走った。

 

古い紋様が、一つ、また一つと浮かび上がる。

 

「わあ……!」

 

シアが息を呑んだ。

 

岩壁の中央に、巨大な円形の紋様が現れる。

 

その中心から、深い闇へと続く空洞が、ゆっくりと口を開けた。

 

冷たい風が内部から吹きつけてくる。

 

土と石の匂いに混じって、古い遺跡特有の気配が漂っていた。

 

「……ビンゴだ」

 

ハジメが口角を上げる。

 

「これって……大迷宮の入り口ですか!?」

 

「ああ。間違いないだろうな」

 

シアは目を輝かせた。

 

「本当に見つけちゃったんですね……!」

 

「まだ入り口を見つけただけだ。喜ぶのは中を確認してからにしろ」

 

「はーい!」

 

ユエは開いた入り口を見つめ、静かに告げた。

 

「……奥から、強い魔力を感じる」

 

「危険そうか?」

 

「分からない。でも、普通の魔物がいる場所じゃない」

 

ハジメは頷き、装備を確認した。

 

弾薬。道具。決闘盤。そして左目に宿る千年眼。

 

準備は整っている。

 

シアもデッキケースを握り締め、気持ちを引き締めた。

 

「ハジメさん。私、ちゃんと役に立てるでしょうか」

 

「さあな」

 

「ええっ!? そこは大丈夫って言ってくださいよ!」

 

「大丈夫かどうかは、これからのお前次第だ。だが――」

 

ハジメはシアを見た。

 

「今日の戦いを見る限り、昨日よりは確実に成長してる。そこは認めてやる」

 

シアの兎耳が、ぴんと立ち上がった。

 

「……はいっ!」

 

その隣で、ユエがハジメの手を握る。

 

「ハジメ。私も一緒に行く」

 

「当たり前だろ」

 

ハジメはユエの手を握り返した。

 

「お前を置いていくつもりはねえよ」

 

ユエの表情が、ほんの少しだけ和らいだ。

 

「……約束」

 

「ああ、約束だ」

 

シアは二人を見つめ、それから自分の胸に手を当てた。

 

「私も一緒に行きます。ハジメさんとユエさんの足手まといにならないように、頑張ります!」

 

「足手まといかどうかは、俺たちが決めることだ」

 

ハジメは入り口の闇を見据えた。

 

「お前はお前にできることをやれ。それで十分だ」

 

「……はい!」

 

ユエも静かに頷いた。

 

「シア。無理はしないこと」

 

「はい、ユエさん!」

 

「危なくなったら、すぐに私かハジメを呼ぶ」

 

「分かりました!」

 

「それと……」

 

ユエは少しだけ間を置いた。

 

「ハジメに無茶をさせないで」

 

「えっ、そっちですか!?」

 

「ハジメはすぐ無茶をするから」

 

「……否定できねえな」

 

ハジメが苦笑すると、シアも笑った。

 

緊張は消えない。

 

大迷宮の奥には、未知の魔物と試練が待っているだろう。

 

だが、今のハジメの隣にはユエがいる。そして、少しずつ成長していく新たな仲間、シアもいる。

 

「行くぞ、二人とも」

 

ハジメが告げる。

 

「うん」

 

「はいっ!」

 

三人は並んで、大迷宮の入り口へと足を踏み入れた。

 

背後で古い紋様が青白く輝く。

 

ユエはハジメのすぐ隣を歩き、シアはその反対側で周囲を警戒していた。

 

三人の足音が、長い年月眠っていた迷宮の奥へと響いていく。

 

――新たな仲間とともに、次なる試練が幕を開けた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。