「ありふれた遊戯王で世界最強」   作:武藤 桜

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これからは少しずつですが続きが書けそうです。


第十四話「5D's、始動! 三人のDホイーラー」

「……二度と、あの女の迷宮には行きたくねえ」

 

ライセン大迷宮の出口から這い出した南雲ハジメは、地面に両手をついたまま、心の底からそう呟いた。

 

全身ずぶ濡れ。髪から水が滴り、服は肌に張りつき、ブーツの中まで水浸し。愛用の銃器はどうにか守り抜いたものの、見た目はまるで滝壺に落ちた直後の人間だった。

 

その隣では、シアが心配そうにしゃがみ込んでいる。

 

「ハジメさん、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

 

「怪我はねえ。……精神的な傷は増えたけどな」

 

「そ、それは……ミレディさんのせいですね」

 

「ああ。間違いなくあいつのせいだ」

 

ハジメは顔を上げた。

 

その右目には、迷宮攻略を終えた達成感よりも、性悪な管理者への怒りが色濃く浮かんでいる。

 

少し離れた場所では、ユエが濡れた髪を指で梳いていた。彼女もまたずぶ濡れだったが、表情はいつもどおり落ち着いている。

 

「ハジメ」

 

「……何だ、ユエ」

 

「次にミレディに会ったら、凍らせていい?」

 

「気持ちは分かるが、ほどほどにな」

 

「分かった。完全に凍らせるのはやめる」

 

「そういう問題じゃねえよ」

 

シアが苦笑する。

 

「でも、皆さん無事でよかったです。千年パズルも、ちゃんと手に入れられましたし!」

 

「ああ。それだけは収穫だな」

 

ハジメは懐にしまった黄金の秘宝を確かめた。

 

千年眼の奥が、かすかに熱を帯びている。

 

千年パズルを手に入れたことで、何かが変わったような感覚があった。だが、今はまだ、その正体を掴めない。

 

「……考えるのは、服を着替えてからだな」

 

ハジメは立ち上がった。

 

「まずはブルックの街に戻るぞ。こんな格好で旅を続けられるか」

 

「賛成です!」

 

「私も」

 

三人は来た道を引き返し、ブルックの街へと向かった。

 

その背中には、ライセン大迷宮を攻略した者だけが持つ新たな力と、ミレディに対する消えることのない怒りが宿っていた。

ブルックの街に戻った三人は、まず宿で着替えを済ませた。

 

ハジメは装備品の点検を行い、濡れた銃器や機材を一つずつ整備する。ユエは髪を乾かしながら千年パズルに興味深そうな視線を向け、シアは新しい服に着替えたあと、いつもどおり元気いっぱいに戻っていた。

 

「いやあ、やっぱり乾いた服って最高ですね!」

 

「お前、さっきまで死にそうな顔してただろ」

 

「だって、あの水流は反則ですよ! まさか最後の最後で、あんな目に遭うなんて!」

 

「……ミレディ」

 

ユエがぼそりと名前を口にする。

 

「次に会ったら、絶対に仕返しする」

 

「ユエ、まだ覚えてたのか」

 

「忘れる理由がない」

 

「……だよな」

 

ハジメは苦笑しつつ、テーブルの上に広げていた地図を指でなぞった。

 

「さて、次の目的地だが……」

 

地図には、この周辺の街や街道、そして大迷宮の位置が記されている。

 

「次に目指すのはフューレンだ。冒険者としての活動拠点を整えながら、次の迷宮攻略に向けて準備を進める」

 

「フューレンですか! どんな街なんでしょう?」

 

「冒険者も多いし、装備品や情報も集めやすいはずだ。今後のことを考えれば、行っておいて損はない」

 

ユエが地図を覗き込む。

 

「……ハジメと一緒なら、どこでもいい」

 

「ユエ……!」

 

シアが両手を握りしめ、感動したように声を上げる。

 

「わ、私もです! ハジメさんとユエさんと一緒なら、どんな場所だって――」

 

「ただし、旅費は必要だ。道中で無駄遣いしたら飯抜きな」

 

「ひどいっ!? 今の感動的な流れは何だったんですか!?」

 

「現実だ」

 

ユエが頷く。

 

「シア、食費は大切」

 

「ユエさんまでぇ!」

 

三人の笑い声が宿の一室に響いた。

 

その後、ハジメは必要な装備品を買い足し、旅の準備を整えた。

 

そして翌日。

 

三人はブルックの街を出発した。

 

目指すは、冒険者の街フューレン。

 

次なる大迷宮へ向かうための、新たな一歩だった。

街道を進みながら、ハジメはふと思い出したように立ち止まった。

 

「そういや、二人に渡すものがあったな」

 

「渡すもの?」

 

ユエが首を傾げる。

 

シアは目を輝かせた。

 

「えっ、何ですか? お土産ですか? お菓子ですか? それとも新しい武器ですか!?」

 

「お前の頭の中は食い物と武器しかねえのか」

 

「そんなことないです! お菓子と武器と、あとハジメさんのことです!」

 

「最後の一つは何だよ……」

 

ハジメは苦笑しながら、収納から二つの大きな物体を取り出した。

 

金属製の車体。前後の車輪。魔力を動力に変換する機構。そして、決闘盤との連動を想定した特殊な制御装置。

 

二台のDホイールだった。

 

「……え?」

 

シアが固まった。

 

ユエも、さすがに目を見開いている。

 

「ハジメ、これは……」

 

「Dホイールだ。前から二人にも用意しようと思ってた」

 

ハジメはまず、ユエのために用意した一台を示した。

 

「こっちはユエ用。十六夜の《ブラッディー・キッス》を参考に、俺がこの世界の素材と技術に合わせて調整した。機動性と安定性を重視してある。魔力制御もお前なら問題なく扱えるはずだ」

 

車体は深い赤を基調とし、黒いラインが流れるように入っている。鋭く伸びたフロント部分は、まるで夜を切り裂く刃のようだった。

 

ユエはしばらく車体を見つめていた。

 

「……私の?」

 

「ああ。お前の戦い方に合わせてある。必要なら、魔法による補助制御も追加できる」

 

ユエはハジメを見上げた。

 

「……嬉しい」

 

その短い言葉には、普段よりもはっきりとした喜びが込められていた。

 

ハジメは少し照れくさそうに視線を逸らす。

 

「気に入ったならよかった」

 

「ハジメ」

 

「何だ?」

 

「ありがとう」

 

ユエはハジメの腕にそっと寄り添った。

 

その光景を見ていたシアが、期待に満ちた目で残る一台を見つめる。

 

「じゃ、じゃあ……! もう一台は、もしかして……!」

 

「お前のだ」

 

「本当ですかああああっ!?」

 

シアの兎耳が、ぴんと立った。

 

ハジメはもう一台を示した。

 

「こっちはオリジナル設計の《バウンサーラビット》。お前の体格と動きを考えて、跳躍時の衝撃吸収と着地の安定性を強化してある。急加速にも対応できるし、悪路でも扱いやすい」

 

車体は白と淡い桃色を基調とし、兎の耳を思わせる二本の装飾がフロント部分から伸びている。後部には大きな跳ね上がりを連想させる意匠があり、可愛らしさと実用性を兼ね備えたデザインだった。

 

「バウンサー……ラビット……!」

 

シアは震える手で車体に触れた。

 

「私のために、作ってくれたんですか……?」

 

「ああ。お前は跳躍力も脚力も高いが、普通の車体だと急な動きに対応しにくいだろ。そこを補えるようにしてある」

 

「ハジメさん……!」

 

シアは勢いよくハジメへ抱きついた。

 

「ありがとうございます! 大事にします! 一生大事にします!」

 

「お、おい! 急に飛びつくな! 危ねえだろ!」

 

「えへへへへ!」

 

ユエがじっと二人を見た。

 

「……シア、離れて」

 

「えっ?」

 

「ハジメが困ってる」

 

「ユエさんも一緒に喜びましょうよ!」

 

「喜んでる。だから離れて」

 

「それ、絶対に別の理由ですよね!?」

 

ハジメは二人のやり取りに苦笑しながら、決闘盤を起動した。

 

「まあ、せっかくなんだ。試運転といこうぜ。フューレンまではまだ距離がある。Dホイールに慣れておくのも悪くない」

 

「乗っていいの!?」

 

ユエの声が少し弾んだ。

 

「ああ。ただし、いきなり全速力は出すなよ。操作方法はこれから教える」

 

「分かった」

 

シアはバウンサーラビットに跨がり、目を輝かせる。

 

「うわあ……! これがDホイール……! 私、こんなすごい乗り物に乗れるなんて……!」

 

「操作を覚えたら、もっと楽しくなるぞ」

 

「はいっ!」

 

ハジメは自分のDホイール――遊星号に跨がった。

 

ユエはブラッディー・キッスに、シアはバウンサーラビットにそれぞれ乗り込む。

 

三台のエンジンが、魔力の駆動音を響かせた。

 

「まずは低速で走る。俺の後ろについてこい」

 

「了解」

 

「はいっ!」

 

ハジメがアクセルを回す。

 

遊星号が静かに走り出した。

 

続いて、ブラッディー・キッスが滑らかに加速し、バウンサーラビットが軽快に追従する。

 

「わあああっ! 走ってます! 本当に走ってますよ、ハジメさん!」

 

「見れば分かる!」

 

「すごいです! 足で走るのとは全然違います!」

 

ユエも風を受けながら、楽しそうに目を細めた。

 

「……気持ちいい」

 

「だろ?」

 

ハジメは振り返り、笑った。

 

「これからは三人で走るぞ。俺たちの旅も、決闘もな」

 

その言葉に、ユエとシアは力強く頷いた。

 

三台のDホイールが、街道を並んで走り出す。

 

その姿は、まるでこれから始まる物語を告げるようだった。

フューレンへ向かう道中、三人は商隊の護衛依頼を受けることにした。

 

旅費を確保するためでもあるが、商隊と一緒に移動すれば、道中の魔物や盗賊に対する警戒も整えやすい。

 

街道沿いの冒険者ギルドで依頼を確認し、三人は受付へ向かった。

 

受付の職員は書類を確認しながら尋ねた。

 

「護衛依頼ですね。パーティ登録の確認をしますので、パーティ名を教えていただけますか?」

 

「パーティ名?」

 

ハジメは少し考えた。

 

ユエとシアが、そろって彼を見る。

 

「……何かいい名前があるんですか?」

 

「ハジメ、決めて」

 

「私も、ハジメさんが決めた名前がいいです!」

 

二人の視線を受け、ハジメは小さく笑った。

 

そして、迷いなく答えた。

 

「5D's」

 

受付職員の手が止まった。

 

「……ご、ファイブディーズ、ですか?」

 

「ああ」

 

「由来をお聞きしても?」

 

ハジメはユエとシアを見た。

 

「俺たち三人の旅は、決闘と一緒に進んでいく。Dホイールで走り、決闘者として強くなり、仲間と一緒に未来を切り開く。そういう意味を込めた」

 

実際には、ハジメの中には別の思いもあった。

 

かつて自分が知っていた世界。

 

そこに存在した、決闘者たちの物語。

 

遊星たちが駆け抜けた時代。

 

その名を、この異世界で新たに背負うことになるとは、思ってもいなかった。

 

ユエは満足そうに頷いた。

 

「……いい名前」

 

シアも両手を握る。

 

「かっこいいです! 私たち、5D'sなんですね!」

 

「ああ。これからよろしく頼むぜ、二人とも」

 

「うん、ハジメ」

 

「はいっ、ハジメさん!」

 

受付職員は三人の様子を見て、微笑ましそうに書類へ記入した。

 

「承知しました。パーティ『5D's』として登録いたします。それでは、護衛対象の商隊について説明しますね」

 

職員の説明によれば、商隊はフューレンへ向かう一団で、護衛対象は複数の荷馬車とその積み荷。街道の一部には魔物が出没する区域があり、護衛の需要が高まっているらしい。

 

「ちょうどいいな」

 

ハジメは依頼書を受け取った。

 

「道中の情報も集められるし、報酬も入る。受けよう」

 

こうして、パーティ『5D's』は初めての護衛依頼を受けることになった。

商隊との合流場所には、数台の荷馬車が並んでいた。

 

護衛を担当する冒険者たちが集まり、荷物の確認や出発準備を進めている。

 

その中で、一人の男が三人に気づいて近づいてきた。

 

商隊のリーダー、オットーだった。

 

「あなた方が、今回の護衛を引き受けてくれた冒険者ですか?」

 

「そうだ。俺が南雲ハジメ。こっちはユエとシアだ」

 

「オットーです。今回の商隊を取りまとめています。よろしくお願いします」

 

オットーは人当たりのいい笑顔を浮かべ、三人と挨拶を交わした。

 

ただし、その視線はすぐにシアへ向けられた。

 

「ところで……そちらの女性は、獣人族ですか?」

 

シアの兎耳がぴくりと動く。

 

「はい、そうですけど……?」

 

「なるほど。珍しいですね。非常に珍しい」

 

オットーは何かを考えるように顎へ手を当てた。

 

「その身体能力といい、種族的な特徴といい……見たところ、戦闘能力も相当なものなのでしょうね」

 

「まあ、こいつは強いぞ」

 

ハジメは何気なく答えた。

 

「腕力もあるし、跳躍力も高い。戦闘じゃ頼りになる仲間だ」

 

「……仲間、ですか」

 

オットーの笑顔がわずかに変わった。

 

「南雲さん。少し、個人的なお話をしてもよろしいでしょうか?」

 

「内容によるな」

 

「簡単な商談ですよ」

 

オットーは声を潜めた。

 

「その獣人の女性を、私に譲っていただけませんか?」

 

一瞬、周囲の空気が凍った。

 

シアの顔から笑みが消える。

 

ユエの目が、すっと細くなった。

 

ハジメは、オットーを無言で見つめた。

 

「……今、何て言った?」

 

「ですから、彼女を私に売っていただけないかと。もちろん、相応の金額はお支払いします。彼女の能力なら、働き口はいくらでもあるでしょうし、あなた方にとっても悪い話では――」

 

「断る」

 

ハジメの返答は、即座だった。

 

オットーが目を瞬かせる。

 

「……まだ金額も提示していませんが?」

 

「金額の問題じゃねえ」

 

ハジメは一歩、前へ出た。

 

「シアは俺たちの仲間だ。仲間を売るなんて選択肢は、最初から存在しねえ」

 

「しかし、商談というものは条件次第で――」

 

「条件は変わらねえ。断ると言ったんだ」

 

ハジメの声は低く、冷たかった。

 

シアは俯き、服の裾をぎゅっと握りしめていた。

 

彼女はこれまで、獣人族というだけで軽んじられたり、利用しようとされたりする経験をしてきた。

 

だからこそ、ハジメが迷いなく自分を仲間だと言い切ったことが、胸に深く響いていた。

 

「ハジメさん……」

 

「気にするな、シア」

 

ハジメは振り返らずに言った。

 

「お前は俺たちの仲間だ。それだけだ」

 

ユエも静かに口を開く。

 

「……シアを売るなら、私が許さない」

 

「ユエさん……!」

 

「ハジメが大切にしている仲間だから」

 

ユエはオットーを見据えた。

 

「あなたがシアを物のように扱うなら、あなたとは話すことがない」

 

オットーの笑顔が引きつった。

 

「……なるほど。そうですか。いや、これは失礼しました。少々、商人としての好奇心が先走ってしまったようです」

 

「好奇心で人を買おうとするな」

 

ハジメが吐き捨てた。

 

オットーは一度咳払いをし、話題を変えようとした。

 

「では、せめて別の形で取引をさせていただけませんか?」

 

「別の形?」

 

「あなた方が乗っている、あの二輪の乗り物です」

 

オットーの目が、三台のDホイールへ向いた。

 

「非常に珍しい構造ですね。馬車とも違う。魔道具の一種でしょうか?」

 

「Dホイールだ。魔力を利用して走る乗り物だが……それがどうした?」

 

「もし可能であれば、その設計や構造について、商人として知っておきたいのです」

 

ハジメはしばらくオットーを観察した。

 

シアを売れという話は論外だ。だが、Dホイールに関する技術なら話は別だった。

 

この世界でDホイールは、まだ一般的な乗り物ではない。製造には特殊な素材や精密な加工技術が必要で、誰でも簡単に作れるものではなかった。

 

一方、ハジメが考案した簡易化設計なら、動力部や制御機構を整理し、必要な性能を絞ることで、より多くの職人が扱える可能性がある。

 

「……なるほどな」

 

ハジメは腕を組んだ。

 

「人を買う話は断る。だが、Dホイールの簡易化設計図なら売ってもいい」

 

オットーの目が輝いた。

 

「本当ですか?」

 

「ただし、条件がある」

 

「お聞かせください」

 

「設計図は簡易型に限る。俺たちが使っている機体の制御技術や、戦闘用の機構、決闘盤との連動部分は渡さねえ。あくまで、移動用の基本構造だ」

 

ハジメは指を一本立てた。

 

「それから、設計図を売ったからといって、俺たちの技術を勝手に独占したり、俺たちの名前を利用して商売したりするのもなしだ」

 

オットーは少し考えたあと、頷いた。

 

「分かりました。その条件であれば、十分に商談の余地があります」

 

「なら話は早い。値段はそっちから提示してみろ」

 

オットーは真剣な顔で金額を提示した。

 

ハジメはその数字を聞き、いくつか条件を調整したうえで、簡易化設計図の売却に合意した。

 

それは、シアを手放すことの代わりではない。

 

仲間を売るという選択肢を拒絶したうえで、商人としてのオットーに、別の取引の道を示したのだ。

 

オットーもその違いを理解したのか、今度はシアへ不用意な視線を向けることなく、深々と頭を下げた。

 

「先ほどは失礼いたしました。今後、彼女を商品として扱うような発言はいたしません」

 

「最初からそうしろ」

 

「……肝に銘じます」

 

シアはまだ少し不安そうだったが、ハジメが振り返ると、ぎこちなく笑った。

 

「ありがとうございます、ハジメさん」

 

「礼なんていらねえよ。当たり前のことをしただけだ」

 

「でも……私、嬉しかったです」

 

シアは胸に手を当てた。

 

「ハジメさんが、私のことを仲間だって言ってくれたのが」

 

ハジメは一瞬だけ言葉に詰まり、それから照れくさそうに頬を掻いた。

 

「……だから、当たり前だっての」

 

ユエがハジメの腕に寄り添う。

 

「……私も、ハジメの仲間」

 

「分かってるよ」

 

「なら、あとで一緒に走ろう」

 

「おう。フューレンに着くまで、練習も兼ねてな」

 

シアの表情がぱっと明るくなる。

 

「私もです! バウンサーラビットをもっと乗りこなしたいです!」

 

「よし。じゃあ出発後、順番に練習だな」

 

三人の間に、いつもの空気が戻ってきた。

商隊は準備を整え、フューレンへ向けて出発した。

 

荷馬車が列をなし、護衛の冒険者たちがその周囲を固める。

 

ハジメたちは商隊の前方を進み、Dホイールで街道を走っていた。

 

遊星号を先頭に、ブラッディー・キッス、バウンサーラビットが続く。

 

「ユエ、速度はどうだ?」

 

「問題ない。曲がるときも安定している」

 

「よし。シアは?」

 

「こっちも大丈夫です! でも、跳ねるときの感覚が普通の乗り物と全然違いますね!」

 

「バウンサーラビットは、お前の跳躍力に合わせて調整してある。急に飛び上がるときは、車体の姿勢を意識しろ。着地前にアクセルを戻しすぎるなよ」

 

「はいっ!」

 

シアは指示に従い、速度を少し落としてから、路面の小さな段差を越えた。

 

車体が軽やかに跳ね、滑らかに着地する。

 

「わあっ! できました!」

 

「いい感じだ。その調子で慣れていけ」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

ユエはブラッディー・キッスを操りながら、ハジメの隣へ並んだ。

 

「……ハジメ。あとで、もう少し速く走りたい」

 

「慣れてからな。今は商隊の護衛が優先だ」

 

「分かった」

 

「素直だな」

 

「ハジメの言うことだから」

 

「……そういうところだぞ、お前」

 

ハジメが苦笑すると、ユエは満足そうに笑った。

 

そのとき、後方からオットーの声が飛んできた。

 

「南雲さん! その乗り物は、本当に素晴らしいですね! もし追加の設計図があるなら、ぜひ――」

 

「追加分は別料金だ!」

 

「もちろんです!」

 

「あと、シアを売れって話は二度とするなよ!」

 

「承知しました!」

 

商隊の人々が、思わず笑い声を漏らす。

 

シアは少し恥ずかしそうに兎耳を揺らした。

 

「……なんだか、すごく騒がしい旅になりそうですね」

 

「今さらだろ」

 

ハジメは前を向いた。

 

「俺たちは5D'sだ。静かな旅なんて期待するだけ無駄だぞ」

 

「ふふっ。そうですね!」

 

ユエも頷く。

 

「……騒がしくても、三人一緒ならいい」

 

ハジメは二人を見て、穏やかに笑った。

 

「ああ。これからも三人で進んでいこうぜ」

 

三台のDホイールは、街道を軽快に走り続けた。

 

途中、魔物が現れたときには、ハジメが先行して危険を排除し、ユエが魔法で商隊の周囲を守り、シアが高い機動力を生かして側面を警戒した。

 

大きな戦闘になることはなかったが、三人の連携は確実に洗練されていった。

 

ハジメは戦闘の合間にも、二人へDホイールの操作や、決闘における相手の動きの読み方を教えた。

 

「速く動くことだけが大事なんじゃねえ。相手がどこを狙ってくるかを考えろ。決闘でも、実戦でも同じだ」

 

「相手の次の行動を予測する、ということですね?」

 

「そうだ、シア。自分の得意な動きを押しつけるだけじゃなく、相手が何をしてくるかまで考えろ」

 

ユエが静かに付け加える。

 

「……ハジメは、いつもそうしている」

 

「まあな。生き残るためには必要なことだ」

 

シアは真剣な表情で頷いた。

 

「分かりました! 私も、もっと考えて戦います!」

 

その姿を見て、ハジメは満足そうに笑った。

 

やがて街道の先に、城壁と建物の群れが見えてきた。

 

フューレンの街だった。

 

商隊の人々が安堵の声を上げる。

 

オットーも馬車の上から顔を出し、三人へ声をかけた。

 

「皆さん、見えてきましたよ! あれがフューレンです!」

 

シアは身を乗り出した。

 

「わああっ! 大きな街ですね!」

 

ユエは静かに頷く。

 

「……ここで、次の準備をする」

 

「ああ」

 

ハジメは遊星号の速度を少し落とした。

 

千年眼の奥で、千年パズルの気配がかすかに反応する。

 

この先には、まだ知らない敵も、迷宮も、決闘者たちも待っている。

 

だが、今のハジメにはユエがいる。

 

シアがいる。

 

そして、二人のために用意したDホイールがある。

 

「行くぞ、ユエ、シア」

 

ハジメは前を向き、力強く告げた。

 

「5D'sの次のステージだ」

 

「うん、ハジメ」

 

「はいっ! 楽しみです!」

 

三台のDホイールが、フューレンの門へと向かって走り出す。

 

こうして、パーティ『5D's』の旅は、新たな街で次の段階へと進んでいくのだった。

 

追記

「5D'sって、どういう意味なの?」

 

シアの問いに、ハジメは腰に手を当て、少しだけ遠い目をした。

 

「……赤き竜の使徒。それが、俺たちの名の由来だ」

 

「赤き竜……?」

 

ユエが小さく聞き返す。

 

「ああ。世界を越えても、時代が変わっても、俺たちを導く存在。その意志を受け継ぐ者たち――それが5D'sだ」

 

ハジメは左目を覆う黒い眼帯に触れ、それから隣に立つユエとシアを見た。

 

「ま、堅苦しい話はここまでだ。俺たちは俺たちのやり方で進む。それだけだ」

 

「うん。ハジメがそう言うなら、私はついていく」

 

「私もです! 赤き竜の使徒だろうと何だろうと、ハジメさんの隣は譲りませんからね!」

 

「……シア、そこは張り合わなくていい」

 

ユエの冷たい視線と、シアの元気な抗議が飛び交う。

 

こうして、赤き竜の使徒――5D'sの旅は続いていく。

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