「ありふれた遊戯王で世界最強」   作:武藤 桜

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第二十二話「神の激突、崩壊する大火山――そして海の故郷へ」

グリューエン大火山の大迷宮、最深部。

 

極神王トールとの最終試練を突破したハジメたちの前に現れた魔人族の将軍、フリード。そして、その背後に立つ青き巨神――《オベリスクの巨神兵》。

 

神の名を冠するカードから放たれる圧力は、これまで対峙したどんな魔物とも違っていた。

 

「三幻神の一柱、オベリスクの巨神兵……。まさか、こんなところでお目にかかるとはな」

 

ハジメは左目の眼帯に触れた。

 

千年眼が、かすかに熱を帯びる。

 

「驚いたかね、南雲ハジメ。これこそが、私の力だ。圧倒的な攻撃力と、他を寄せつけぬ破壊の力。神を従える者こそ、この世界を支配するにふさわしい」

 

「神を従える、ね。カードに使われてる奴がよく言うぜ」

 

ハジメの挑発に、フリードの眉がぴくりと動いた。

 

「……口の減らない男だ」

 

「そう思うなら、デュエルで黙らせてみろよ」

 

ハジメはデュエルディスクを起動した。

 

「ただし、こっちも相応の神を出させてもらう」

 

彼が取り出したデッキ。その中心にあるのは、《オシリスの天空竜》。

 

かつて武藤遊戯が操った、三幻神の一柱だった。

 

フリードはそのカードを見ると、愉快そうに笑った。

 

「オシリスか。いいだろう。海馬瀬人の力を受け継ぐ私のオベリスクと、遊戯の神がどちらにふさわしいか――決着をつけようではないか」

 

「誰かの力を借りるだけで終わるつもりはない。俺自身のデッキで、お前を倒す」

 

二人はDホイールに跨がった。

 

ハジメの青い機体と、フリードの黒い機体が、円形のコース上で並ぶ。

 

『ライディングデュエル――アクセラレーション!』

 

二台のDホイールが一斉に走り出した。

「先攻は私がもらおう!」

 

フリードがカードを引く。

 

「私は《青眼の白龍》を召喚する!」

 

白い光が弾け、青眼の白龍が咆哮とともに姿を現した。

 

攻撃力三千。

 

その巨体から放たれる威圧感は、まさしく伝説の竜にふさわしいものだった。

 

「さらに、手札から《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》を召喚!」

 

青眼の白龍の前に、竜を操る魔術師が現れる。

 

「このモンスターが存在する限り、私のドラゴンたちは対象を取る効果から守られる。さらに魔法カード、《ドラゴンを呼ぶ笛》を発動!」

 

フリードの手札から、もう一体の青眼の白龍が姿を現した。

 

「青眼の白龍が二体……!」

 

シアが息を呑む。

 

フリードは二体の竜を従え、さらにカードを一枚伏せた。

 

「これで終わりではない。私は《ドラゴンを呼ぶ笛》の効果を利用し、ドラゴンの展開を整える。ターンエンドだ」

 

ハジメは走行速度を維持しながら、相手の盤面を観察した。

 

青眼の白龍が二体。ドラゴンの支配者。そして伏せカード。

 

力押しに見えて、対象を取る除去への備えも整っている。

 

「海馬らしい、徹底したドラゴンデッキだな」

 

「感心している暇があるのかね?」

 

「いや、むしろ助かる。やることが分かりやすい」

 

ハジメはカードを引いた。

 

「俺のターン!」

 

手札を確認し、すぐに一枚をフィールドへ置く。

 

「《磁石の戦士α》を召喚!」

 

攻撃力千四百の戦士が現れる。

 

続けて、ハジメは魔法カードを発動した。

 

「《融合解除》……じゃないな。今回はこっちだ。《天使の施し》を発動!」

 

三枚のカードを引き、そのうち二枚を墓地へ送る。

 

ハジメは手札を整えながら、墓地に送ったカードの位置を確認した。

 

「さらに、《磁石の戦士β》を召喚!」

 

二体目の磁石の戦士が並ぶ。

 

「攻撃力千四百と千七百。青眼には到底届かないな」

 

フリードが鼻で笑う。

 

「その程度の戦力で、私の神に挑むつもりか?」

 

「誰が今すぐ神を出すって言った?」

 

ハジメは一枚のカードを伏せた。

 

「このターンは終わりだ」

 

「何?」

 

「焦るなよ。デュエルはまだ始まったばかりだ」

「私のターン!」

 

フリードは迷わず攻撃を宣言した。

 

「青眼の白龍で、《磁石の戦士α》を攻撃! 滅びの爆裂疾風弾!」

 

青眼の白龍が口を開き、白い光を撃ち出す。

 

磁石の戦士αは一瞬で吹き飛ばされた。

 

「続けて、もう一体の青眼の白龍で直接攻撃!」

 

二体目の竜が咆哮する。

 

ハジメは伏せカードを開いた。

 

「罠発動、《和睦の使者》! このターン、俺が受ける戦闘ダメージはゼロになる!」

 

青眼の白龍の攻撃が直撃する。

 

衝撃でハジメのDホイールが揺れたが、ライフは減らない。

 

「ほう。攻撃を止めるのではなく、ダメージを防いだか」

 

「青眼の攻撃をまともに受けたくないんでね」

 

フリードはターンを終えた。

 

ハジメはカードを引き、手札を数える。

 

「俺のターン。まず、《磁石の戦士γ》を召喚!」

 

三体目の磁石の戦士が現れた。

 

「そして、フィールドの磁石の戦士たちを使い、布陣を整える!」

 

ハジメは墓地と手札を確認し、次の一手を選ぶ。

 

「カードを一枚伏せる。ターンエンドだ」

 

「いつまで小細工を続けるつもりだ?」

 

フリードは青眼の白龍を前へ進める。

 

「私のターン! 青眼の白龍で、磁石の戦士γを攻撃!」

 

竜の光が戦士を包み込む。

 

ハジメはその破壊を見届けた。ここで無理に防御カードを使う必要はない。重要なのは、神を召喚するための準備を整えることだった。

 

「さらに、私は手札から《カイザー・シーホース》を召喚!」

 

海馬の戦術を思わせるモンスターが現れる。

 

「このモンスターは光属性の生け贄召喚を補助できる。神を呼ぶ準備は整いつつあるぞ」

 

フリードは伏せカードを一枚追加し、ターンを終えた。

 

ハジメは小さく笑う。

 

「なるほどな。お前もそろそろ神を出すつもりか」

 

「当然だ。神の力を見せるには、神を召喚せねばならない」

 

「だったら、こっちも遠慮はいらないな」

ハジメはカードを引いた。

 

手札には、神を呼び出すための札が揃いつつある。

 

「俺のターン! 魔法カード、《死者蘇生》を発動!」

 

墓地からモンスターが蘇る。

 

「さらに、《磁石の戦士β》の効果と、手札のモンスターを利用してフィールドを整える!」

 

ハジメは一体ずつモンスターを展開し、必要な生け贄を揃えていった。

 

フリードの表情が変わる。

 

「その布陣……まさか!」

 

「気づいたか。そう、俺がこのデッキで狙っていたのは、最初からこいつだ!」

 

ハジメは三体のモンスターを生け贄に捧げる。

 

「三体の生け贄を捧げ、天空の神を召喚する!」

 

空が暗くなり、雷鳴が響いた。

 

「降臨せよ――《オシリスの天空竜》!」

 

赤き神竜が、雷光を纏って姿を現した。

 

その攻撃力は、ハジメの手札の枚数によって決まる。

 

ハジメは手札を確認する。

 

「俺の手札は四枚。よって、オシリスの攻撃力は四千!」

 

赤き竜の全身に雷が走った。

 

「攻撃力四千……!」

 

シアが目を見張る。

 

「青眼の白龍を上回った……!」

 

フリードは口元を吊り上げた。

 

「見事だ。だが、神を召喚しただけで勝ったつもりかね?」

 

「まさか。神は出してからが本番だ」

 

ハジメは一枚のカードを伏せる。

 

「ターンエンド!」

 

フリードはカードを引いた。

 

その目は、オシリスの天空竜を正面から見据えている。

 

「私のターン。神に対抗するため、こちらも神を呼び出す!」

 

フリードはフィールドのモンスターを生け贄に捧げた。

 

「三体の生け贄を捧げ、降臨せよ! 《オベリスクの巨神兵》!」

 

青き巨神が大地を踏み鳴らし、フィールドに立つ。

 

「オベリスクの攻撃力は四千! オシリスと同等だ!」

 

二柱の神が向かい合う。

 

「さあ、神の力を見せてもらおう!」

 

フリードは攻撃を宣言した。

 

「オベリスクで、オシリスの天空竜を攻撃!」

 

青き巨神が拳を振り上げる。

 

ハジメは伏せカードを開いた。

 

「罠発動、《攻撃の無力化》! 攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了させる!」

 

オベリスクの拳が、寸前で見えない力に阻まれた。

 

フリードは舌打ちした。

 

「神の攻撃を、罠で止めるか!」

 

「神だろうが何だろうが、ルールの中で戦ってるんだ。防げる攻撃は防ぐ」

 

ハジメはオシリスを見上げた。

 

「そして、次のターンで反撃する」

フリードのターンが終わり、ハジメがカードを引く。

 

しかし、手札の枚数は減っていた。

 

「……手札が三枚。オシリスの攻撃力も三千に下がったか」

 

オシリスの全身を覆う雷が弱まる。

 

対するオベリスクは、攻撃力四千のままだ。

 

「神の力は、維持することも容易ではないようだな」

 

フリードは嘲笑した。

 

「オベリスクの力を見せてやる!」

 

彼はカードを発動し、戦闘を補助する効果を使ってオベリスクの攻撃を通そうとする。

 

ハジメは手札を見て、すぐに判断した。

 

「ここでオシリスを失うわけにはいかない……!」

 

彼は魔法カードを発動した。

 

「《エネミーコントローラー》! オベリスクの攻撃を止めるため、守りを固める!」

 

だが、フリードはその動きを読んでいた。

 

「甘い! 私はさらに速攻魔法を発動する!」

 

青き巨神が再び拳を振り上げる。

 

「オベリスクの効果を発動! フィールドのモンスター二体を生け贄に捧げ、相手のモンスターを破壊する!」

 

オベリスクの力が爆発した。

 

二体のモンスターが消え、青い衝撃波がオシリスへと迫る。

 

「くっ……!」

 

ハジメは残ったカードを使い、オシリスを守ろうとする。

 

しかし、神の圧倒的な力はフィールドを覆い尽くした。

 

オシリスの天空竜は雷光の中へ消えた。

 

「オシリス!」

 

ハジメのライフが削られる。

 

それでも、彼はデュエルディスクから手を離さなかった。

 

「……やってくれるじゃねえか」

 

フリードは勝ち誇ったように笑った。

 

「神の力を扱うのは、容易ではない。君も理解しただろう?」

 

「いや。むしろよく分かった」

 

ハジメはデッキを見つめた。

 

「神は強い。だが、神を出しただけじゃ勝てない。神を支える戦術がなければ、神自身の力さえ活かせないってことだ」

 

彼はカードを引いた。

 

「俺のターン!」

 

ハジメは手札からモンスターを召喚し、墓地のカードを利用して反撃の準備を整える。

 

「魔法カード、《死者蘇生》! 墓地からモンスターを蘇らせる!」

 

モンスターが再びフィールドに立つ。

 

「さらに、手札から《ブラック・マジシャン・ガール》を召喚!」

 

黒い衣装の魔法使いが、杖を掲げて現れた。

 

彼女は墓地の魔法使い族の力を受け継ぎ、攻撃力を上げていく。

 

「これで終わりだと思うなよ!」

 

ハジメはカードを伏せる。

 

「ターンエンド!」

 

フリードはフィールドを見渡した。

 

「小さな魔法使い一体で、オベリスクに対抗するつもりか?」

 

「小さいからって、侮るなよ」

 

ハジメの目が鋭くなる。

 

「遊戯のデッキは、神だけじゃない。神を支える仲間たちがいるんだ」

フリードは青眼の白龍を使って攻撃を仕掛けた。

 

「青眼の白龍で、《ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃!」

 

白い光が魔法使いへと迫る。

 

「そう簡単にはやらせない!」

 

ハジメは罠カードを発動し、攻撃を防いだ。

 

「まだだ! オベリスクで直接攻撃!」

 

青き巨神が拳を振り下ろす。

 

ハジメは防御を重ね、致命的なダメージを避けた。

 

しかし、ライフは確実に削られていく。

 

「……残りわずか、か」

 

ハジメは呼吸を整えた。

 

フリードのフィールドにはオベリスクと青眼の白龍。手札にも強力なカードが残っている。

 

対して、ハジメのフィールドにはブラック・マジシャン・ガールと、守りに使えるカードが数枚。

 

圧倒的に不利な状況だった。

 

それでも、ハジメの目に諦めはなかった。

 

「俺のターン!」

 

彼はカードを引く。

 

そして、そのカードを見て小さく笑った。

 

「……来たか」

 

「何?」

 

「俺のデッキは、神がいなければ戦えないわけじゃないってことだ」

 

ハジメはカードを掲げる。

 

「魔法カード、《融合》!」

 

ブラック・マジシャン・ガールと、手札から用意した素材を組み合わせ、フィールドに新たな魔法使いを呼び出す。

 

「現れろ! 《竜騎士ブラック・マジシャン・ガール》!」

 

竜に跨がる魔法使いが、炎を纏って飛翔した。

 

「さらに、装備魔法を発動! 攻撃力を引き上げる!」

 

ハジメは竜騎士を前へ進ませる。

 

「行け! オベリスクを攻撃!」

 

竜騎士が魔力弾を放つ。

 

フリードは即座に罠を発動した。

 

「罠カード発動! 攻撃を無効にする!」

 

攻撃は阻まれ、竜騎士の魔力弾が空中で弾けた。

 

「惜しかったな、ハジメ!」

 

「……ああ。だが、攻撃を一度止めさせただけでも十分だ」

 

ハジメは次のカードを伏せた。

 

フリードは顔をしかめる。

 

「まだ何かあるのか……!」

 

「デュエルは最後まで分からない。お前が一番よく知ってるんじゃないのか?」

 

ハジメはターンを終えた。

 

フリードはカードを引き、オベリスクを前進させる。

 

「ならば、今度こそ終わらせる! オベリスクで、竜騎士ブラック・マジシャン・ガールを攻撃!」

 

青き巨神の拳が振り下ろされる。

 

ハジメは最後の罠を発動した。

 

「罠カード、《聖なるバリア-ミラーフォース-》!」

 

光の壁が展開し、攻撃表示モンスターを包み込む。

 

だが、フリードはその発動に合わせて別のカードを発動した。

 

「速攻魔法! 罠の発動を封じる!」

 

二つの力が激突し、フィールドが光に包まれた。

 

ハジメは舌打ちする。

 

「ちっ……!」

 

罠は無効化され、オベリスクの攻撃が通る。

 

竜騎士ブラック・マジシャン・ガールが破壊され、ハジメのライフが大きく削られた。

 

フリードは勝利を確信したかのように笑う。

 

「これで終わりだ!」

 

だが、ハジメはまだデュエルディスクを構えていた。

 

「……まだだ」

 

「何だと?」

 

「俺は、まだ負けてない」

二人のライフは、もはやわずかしか残っていなかった。

 

フリードはオベリスクを中心に盤面を維持し、ハジメは墓地と手札に残ったカードを使って反撃の機会を探している。

 

ハジメのターン。

 

彼はカードを引いた。

 

その瞬間、千年眼が強く輝いた。

 

墓地に眠るカード。フィールドに残るカード。相手の手札。

 

すべてが、一つの可能性へとつながっていく。

 

「……そうか。まだ、この手が残ってたか」

 

ハジメはカードを一枚ずつ確認し、フィールドへ置いた。

 

「魔法カード発動! 墓地からモンスターを蘇生する!」

 

モンスターが現れる。

 

「さらに、残ったモンスターを生け贄に捧げる!」

 

フリードの目が見開かれた。

 

「まさか……!」

 

ハジメは神のカードを掲げた。

 

「再び降臨せよ! 《オシリスの天空竜》!」

 

雷鳴が轟き、赤き神竜が姿を現す。

 

しかし、ハジメの手札は少ない。

 

「手札が少ない状態でオシリスを出したところで、攻撃力は低い。君の神は、私のオベリスクには届かない!」

 

フリードが叫ぶ。

 

「そうだな。今の攻撃力じゃ、オベリスクには届かない」

 

ハジメは頷いた。

 

「だが、オシリスの力は攻撃力だけじゃない」

 

彼は手札を一枚伏せる。

 

「俺はカードを一枚セット。そして、効果を発動する!」

 

ハジメは手札を補充する効果を使い、オシリスの攻撃力を引き上げる。

 

赤き神竜の身体に、再び雷が走った。

 

「攻撃力が上がっただと……!」

 

「オシリスは、手札の枚数に応じて強くなる。俺がカードを引くたび、神の力も増していく!」

 

オシリスが咆哮した。

 

ハジメはオベリスクを見据える。

 

「行け、オシリス! 召雷弾!」

 

赤き神竜が雷を放つ。

 

フリードはオベリスクを守るため、最後のカードを発動した。

 

「オベリスクを守れ!」

 

青き巨神が雷を受け止める。

 

二柱の神が、再び真正面から激突した。

 

ハジメは歯を食いしばる。

 

フリードもまた、全力でカードを操る。

 

雷と青い光が交差し、フィールドを包み込む。

 

そして、二人のライフが同時に尽きた。

 

『デュエル終了。結果――引き分け』

 

静寂が訪れる。

 

ハジメは息を吐き、カードを収めた。

 

「……やっぱり引き分けか」

 

フリードは震える手でデュエルディスクを握りしめた。

 

「引き分け……! この私が……!」

 

その顔が、怒りに歪む。

 

「認めん……! 私は負けるために神を手にしたのではない!」

 

彼はオベリスクのカードを掲げた。

 

「この大迷宮ごと、貴様らを葬り去ってやる!」

オベリスクの巨神兵が拳を振り上げ、迷宮の天井へ叩きつける。

 

轟音とともに岩盤が砕けた。

 

地の底から、巨大な振動が押し寄せてくる。

 

「……おい、まさか!」

 

ハジメの顔色が変わる。

 

「火山を噴火させるつもりか!?」

 

フリードは狂気じみた笑みを浮かべた。

 

「引き分けなど認められるものか! すべてを溶岩に沈めてやる!」

 

「ふざけるな!」

 

ハジメはユエとシアへ叫んだ。

 

「脱出するぞ! ティオには薬の素材を託す! 俺たちは次の迷宮の手掛かりを回収して、別の経路から逃げる!」

 

火山が唸り、溶岩が通路へ流れ込む。

 

ハジメたちは走り出した。

 

神々の激突は終わった。

 

だが、その決闘の結果を認められなかった男の怒りが、グリューエン大火山そのものを破壊しようとしていた。

四人は崩れ始めた通路を全速力で駆け抜けた。

 

熱風が吹きつけ、足元では溶岩が流れ始めている。

 

「ハジメ、出口まで持つ?」

 

ユエが尋ねる。

 

「分からん! だが、止まっていたら確実に終わりだ!」

 

ハジメは道中で見つけた薬の素材を確認した。

 

大迷宮の内部で採取できた特殊な鉱石と、火山地帯特有の薬草。町の疫病を治療するために必要な材料は、どうにか揃っていた。

 

だが、そのすべてを持って脱出するには時間が足りない。

 

「……ティオ!」

 

ハジメは立ち止まり、採取した素材をまとめて彼女に渡した。

 

「これを持って先に脱出しろ!」

 

「なっ!? 何を言っておるのじゃ! ハジメたちも一緒に――」

 

「俺たちは別の脱出経路を使う! お前はこの素材を町へ届けるんだ。疫病で苦しんでいる連中を救うには、これが必要なんだ!」

 

ティオは素材を受け取り、唇を噛みしめた。

 

「しかし……妾だけ逃げるなど!」

 

「逃げるんじゃない。役割を果たせと言ってるんだ!」

 

ハジメの声が響いた。

 

「お前がこれを届ければ、助かる命がある。俺たちも必ず戻る。だから、先に行け!」

 

ティオはハジメの目を見つめた。

 

彼が嘘をついていないことは分かる。

 

だが、ここで別れれば、二度と会えなくなる可能性もある。

 

「……本当に、戻ってくるのじゃな?」

 

「ああ。約束する」

 

ハジメは即答した。

 

ティオは一度だけ目を閉じ、それから強く頷いた。

 

「……分かったのじゃ。妾はこの素材を必ず届ける。そして、町の者たちを救ってみせる!」

 

彼女はホイール・オブ・フォーチュンへ跨がり、出口へと走り出した。

 

走り去る直前、ティオは振り返った。

 

「ハジメ! ユエ! シア! 必ず帰ってくるのじゃぞ!」

 

「おう!」

 

ハジメは手を振り返す。

 

ティオの姿が崩落する通路の向こうへ消えると、ハジメたちは別の通路へと進んだ。

 

「……ハジメ。ティオを一人にしてよかったの?」

 

シアが不安そうに尋ねる。

 

「ティオなら大丈夫だ。あいつはもう、自分の役割を理解してる」

 

ハジメは前を向いた。

 

「それに、俺たちにはやることが残ってる」

 

彼は迷宮の奥で回収した、小さな金属製の装置を取り出した。

 

最終試練の祭壇の裏に隠されていたものだ。

 

そこには古代文字と、いくつもの座標が刻まれていた。

 

「これは……?」

 

ユエが覗き込む。

 

「次の大迷宮への手掛かりだ。海に関係する場所らしい。詳しく調べる必要があるが、ここで失うわけにはいかない」

 

「……なら、絶対に持ち帰らないと」

 

ユエは頷いた。

 

シアも大槌を背負い直す。

 

「はい! みんなで帰りましょう!」

 

三人は崩落する通路を駆け抜けた。

 

しかし、出口へ近づくほどに地面の揺れは激しくなり、溶岩が道を塞いでいく。

 

「ちっ……! このままじゃ間に合わねえ!」

 

ハジメは壁面を撃ち抜き、即席の迂回路を作った。

 

爆発音とともに岩壁が崩れ、狭い通路が開く。

 

「ユエ、シア、先に行け!」

 

「ハジメも一緒!」

 

ユエは彼の腕を掴んだ。

 

「置いていかない」

 

「分かってる。俺も行く!」

 

三人は最後の通路を駆け抜けた。

 

そして、ついに地上へと通じる出口へたどり着く。

 

だが、外に広がっていたのは、すでに噴火を始めた火山の光景だった。

 

空は灰色に染まり、赤い火の粉が降り注いでいる。

 

地面は裂け、溶岩が斜面を流れ落ちていた。

 

「……これは、ひどい」

 

シアが呆然と呟く。

 

ハジメは周囲を見回し、歯を食いしばった。

 

「地上からの脱出は無理だな。なら、予定を変更する」

 

「予定?」

 

「こうなる可能性も考えて、別の手段を用意していた」

 

ハジメは携帯していた魔道具を起動する。

 

遠くの岩場が動き、その下から巨大な装置が姿を現した。

 

それは、耐圧殻を備えた小型潜水艇だった。

「……潜水艇?」

 

ユエが目を丸くする。

 

「ああ。水中を移動するために作っておいた。火山の噴火まで想定してたわけじゃないが、耐圧殻と推進機構はかなり頑丈にしてある」

 

「それで、どうするのじゃ?」

 

「海まで出る。火山の地形を見る限り、この地下には海底へ抜ける水路があるはずだ」

 

ハジメは潜水艇のハッチを開いた。

 

「乗れ。時間がない!」

 

三人は潜水艇に乗り込み、ハジメが操縦席へ座った。

 

魔力炉が起動し、推進機構が唸りを上げる。

 

潜水艇は岩場の隙間へと進み、暗い地下水路へ滑り込んだ。

 

その直後、背後で巨大な爆発音が響いた。

 

噴火によって押し出された溶岩が、地下の通路へ流れ込んできたのだ。

 

「うわっ!?」

 

シアが悲鳴を上げる。

 

「掴まれ!」

 

ハジメは操縦桿を切った。

 

潜水艇は水路を急旋回する。

 

しかし、溶岩の流れは想像以上に速かった。

 

熱と圧力が周囲の水を激しく沸騰させ、蒸気が視界を覆い尽くす。

 

警告音が鳴り響いた。

 

『船体外部温度、急上昇。推進機構、出力低下』

 

「くそっ……! このままじゃ、外殻がもたねえ!」

 

ハジメは補助推進器を起動した。

 

だが、目の前の水路は崩落した岩で塞がれている。

 

「ハジメ、前が!」

 

「分かってる!」

 

ハジメは操縦桿を強く引いた。

 

潜水艇は横の裂け目へと飛び込む。

 

直後、背後から押し寄せたマグマの奔流が、潜水艇を呑み込むように迫った。

 

激しい衝撃。

 

機体が大きく傾き、ユエとシアの身体が座席に押しつけられる。

 

「きゃああっ!」

 

「ユエ、シア! 意識を保て!」

 

ハジメは制御装置に魔力を流し込み、潜水艇の防御機構を最大出力で稼働させた。

 

それでも、溶岩と高温の蒸気に押し流される機体を完全に制御することはできなかった。

 

潜水艇は暗い水路を転がるように進み、ついには巨大な空洞へ放り出された。

 

眼下には、果てしなく広がる海。

 

そこへ、潜水艇は激突するように落下した。

 

水面が爆発したかのように跳ね上がる。

 

船体が激しく揺れ、計器のいくつかが消灯した。

 

しかし、機体は沈まなかった。

 

耐圧殻が持ちこたえ、推進機構もかろうじて動いている。

 

ハジメは操縦席で大きく息を吐いた。

 

「……生きてる、か」

 

「ハジメ……!」

 

ユエが彼の肩を掴んだ。

 

「大丈夫?」

 

「ああ。お前たちは?」

 

「私は大丈夫です……。びっくりしましたけど……」

 

シアは胸を押さえ、安堵の息を吐く。

 

「本当に……死んだかと思いました……」

 

「まだ安心するな。機体の状態を確認する」

 

ハジメは計器を調べた。

 

外殻に損傷。推進器の出力低下。通信装置も故障している。

 

だが、生命維持装置と操舵系統は生きていた。

 

「自力で移動はできる。だが、正確な位置が分からないな……」

 

ハジメは窓の外を見た。

 

暗い海の底には、遠くに火山の噴煙らしきものが見える。

 

彼らは海底火山の噴火に巻き込まれ、地下から海へと放り出されたのだ。

 

「……とにかく、陸地を探すぞ」

 

潜水艇は、ゆっくりと海中を進み始めた。

 

しかし、通信は途絶え、位置も分からない。

 

水上へ浮上しても、見えるのは水平線と荒れた海ばかりだった。

 

食料と水はあるものの、故障した機体でどこまで進めるか分からない。

 

三人は、数日間にわたる漂流を余儀なくされた。

漂流から数日後。

 

潜水艇は、ついに浅瀬へとたどり着いた。

 

ハジメは機体を砂浜へ寄せ、ハッチを開ける。

 

潮風が吹き込んできた。

 

「……陸だ」

 

シアは砂浜へ飛び出し、両手を広げた。

 

「やったあああ! 陸ですよ、ハジメさん! ユエさん!」

 

「分かったから、あまり走るな。疲れてるだろ」

 

「でも、陸ですよ! 地面が揺れないんですよ!」

 

「地面は揺れない方が普通だ」

 

ハジメは苦笑しながら、周囲を確認した。

 

白い砂浜。穏やかな波。遠くには漁船らしき船影が見える。

 

そして、海岸の向こうには、小さな港町のような集落があった。

 

「……あの町、人が住んでるみたいだな」

 

ユエが目を細める。

 

「行ってみよう。情報を集めたい」

 

三人は壊れかけた潜水艇を隠し、最低限の荷物を持って町へ向かった。

 

途中、海岸沿いの道を歩いていると、漁師らしき男が彼らに気づいた。

 

「おい、あんたたち! そんなところから歩いてきたのか?」

 

「ああ。少し遠くからな。ここはどこだ?」

 

ハジメが尋ねると、男は不思議そうな顔をした。

 

「ここはエリセンの近くだよ。海沿いの小さな町さ」

 

「……エリセン?」

 

ハジメは思わず顔を上げた。

 

その名には聞き覚えがあった。

 

ミュウの故郷だ。

 

「そうか……。ここまで流れ着いたのか」

 

ハジメは仲間たちを振り返った。

 

「とりあえず、エリセンへ向かおう。そこで情報を集めて、連絡手段も確保する」

 

「うん」

 

ユエが頷く。

 

「ミュウ、元気かな……」

 

シアが心配そうに呟いた。

 

ハジメも、胸の奥に小さな不安を覚えていた。

 

自分たちが火山に向かってから、すでに何日も経っている。

 

ティオは素材を持って町へ戻れただろうか。

 

香織とミュウは無事だろうか。

 

そして、あの疫病は少しでも治まり始めているのだろうか。

 

「……急ごう」

 

ハジメたちは、海岸沿いの道をエリセンへと歩き出した。

エリセンの町は、海に囲まれた穏やかな場所だった。

 

港には漁船が並び、町の人々は忙しそうに荷を運んでいる。潮の香りが漂い、遠くからは子どもたちの笑い声が聞こえてきた。

 

町へ入ったハジメたちは、まず情報を集めるために宿を探そうとした。

 

そのときだった。

 

「……ハジメさん?」

 

聞き覚えのある声がした。

 

振り返ると、そこにはティオが立っていた。

 

隣には香織。そして、二人の間から小さな少女が顔を出す。

 

「パパ……?」

 

ミュウだった。

 

「……ミュウ!」

 

ハジメが呼びかけると、ミュウはぱっと顔を輝かせた。

 

「パパーッ!」

 

小さな身体が駆け寄ってくる。

 

ハジメは膝をつき、飛び込んできたミュウをしっかりと抱きしめた。

 

「おう。ただいま、ミュウ」

 

「パパ、遅いよぉ……! ミュウ、ずっと待ってたんだよ……!」

 

「悪かったな。ちょっと遠回りしちまった」

 

「ちょっとじゃないもん……!」

 

ミュウは涙目でハジメの胸に顔を埋めた。

 

ハジメは彼女の頭を優しく撫でた。

 

「心配かけたな。もう大丈夫だ」

 

「……うん!」

 

ミュウは顔を上げ、満面の笑みを浮かべた。

 

その様子を見て、香織もほっと息を吐いた。

 

「ハジメ君、本当に無事でよかった……!」

 

「香織も無事だったか。町の方は?」

 

「うん。ティオさんが材料を届けてくれたおかげで、治療薬の研究が進んでるよ。まだ全員を治せたわけじゃないけど、症状を抑えられる人が増えてきたの」

 

「そうか……。よかった」

 

ハジメは安堵の息を吐いた。

 

「ティオ、よくやってくれた」

 

ティオは照れくさそうに胸を張った。

 

「当然じゃ! ハジメから託された大事な役目じゃからな。妾が途中で投げ出すわけがなかろう!」

 

「それにしても、どうやってここまで来たんだ?」

 

「素材を届けた後、香織たちと合流したのじゃ。ハジメたちが戻らぬと聞いて心配しておったが、ミュウを故郷へ送り届ける話もあったゆえ、まずはエリセンへ向かうことにしたのじゃ」

 

ティオは少しだけ表情を曇らせた。

 

「……正直、ハジメたちが無事かどうか、気が気ではなかったがの」

 

「悪かったな。連絡もできなかった」

 

「よい。こうして戻ってきたのじゃからな」

 

ティオは微笑んだ。

 

「それに、妾は信じておった。ハジメがそう簡単に死ぬはずがないとな」

 

「……買いかぶりすぎだ」

 

「くふふ。そうかもしれぬのう」

 

シアが香織に駆け寄った。

 

「香織さんも無事でよかったです!」

 

「シアちゃんも! ユエちゃんも!」

 

香織は二人を抱きしめた。

 

「本当に心配したんだからね……!」

 

ユエはハジメの隣で、ミュウの頭を撫でた。

 

「ミュウ、寂しかった?」

 

「うん……でも、香織おねえちゃんとティオおねえちゃんがいてくれたから、頑張れたよ!」

 

「そう。偉い」

 

ユエはミュウを抱き上げ、そっと頬を寄せた。

 

「……もう大丈夫。みんな一緒」

 

「うん!」

 

再会の喜びに包まれる一行。

 

そのとき、ミュウがふと顔を上げた。

 

「ねえ、パパ。ママのところに行こう?」

 

ハジメは一瞬、言葉を失った。

 

そうだ。

 

ここはミュウの故郷。

 

彼女がずっと帰りたがっていた場所だ。

 

「……ああ。そうだな。ミュウ、案内してくれるか?」

 

「うん!」

 

ミュウはハジメの手を握り、元気よく歩き始めた。

ミュウに案内されてたどり着いたのは、町の一角にある家だった。

 

ミュウは扉の前に立つと、少しだけ緊張したようにハジメを見上げた。

 

「……ママ、いるかな?」

 

「いるさ。きっと待ってる」

 

ハジメが優しく告げると、ミュウは深呼吸をして扉を叩いた。

 

「ママ! ミュウだよ!」

 

しばらくして、扉が開く。

 

そこに立っていたのは、一人の女性だった。

 

ミュウと同じ海人族の特徴を持つ、優しげな顔立ちの女性。

 

その目が、ミュウの姿を捉えた瞬間、大きく見開かれた。

 

「……ミュウ?」

 

「ママぁ!」

 

ミュウは母親の胸へ飛び込んだ。

 

「ミュウ……! 本当に、ミュウなのね……!」

 

女性――レミアは、娘を強く抱きしめた。

 

「よかった……! 無事で……本当に、無事で……!」

 

涙が頬を伝う。

 

ミュウもまた、母の胸に顔を埋めて泣いていた。

 

「ママ……! ミュウ、帰ってきたよ……!」

 

「ええ……ええ……!」

 

レミアは何度も頷き、娘の頭を撫でた。

 

「おかえり、ミュウ……!」

 

その光景を、ハジメたちは静かに見守った。

 

やがてレミアは顔を上げ、ハジメたちに気づいた。

 

「あなたたちは……?」

 

ハジメが一歩前に出る。

 

「俺は南雲ハジメ。ミュウをここまで連れてきた」

 

レミアは彼の顔を見つめた。

 

そして、深々と頭を下げた。

 

「娘を助けてくださったのですね……。本当に、ありがとうございます。何とお礼を言えばよいのか……」

 

「礼はいらない。ミュウを無事に送り届けるのが、俺たちの依頼だったからな」

 

「それでも……この子を連れ戻してくださったこと、決して忘れません」

 

レミアは涙を拭き、改めて一行を見渡した。

 

「どうか、皆さんも中へ。旅でお疲れでしょう。ささやかですが、おもてなしをさせてください」

 

ハジメたちはレミアの家へ招かれた。

 

その夜、ミュウは母親のそばを片時も離れようとしなかった。

 

レミアも、娘の姿を確かめるように何度も抱きしめていた。

 

「パパも、こっち!」

 

ミュウはハジメの手を引き、レミアの隣に座らせた。

 

「ミュウを助けてくれたパパだよ!」

 

レミアはその言葉に、優しく微笑んだ。

 

「そう……。ミュウにとって、あなたは大切な人なのですね」

 

「……まあ、そうみたいだな」

 

ハジメは少し困ったように頭を掻いた。

 

ミュウは得意げに胸を張る。

 

「パパは強いんだよ! ユエおねえちゃんも、シアおねえちゃんも、ティオおねえちゃんも、みんな強いんだよ!」

 

「ふふっ。そうなのね」

 

レミアは娘の話を聞きながら、穏やかに笑った。

 

そして、ハジメたちへ深く頭を下げる。

 

「皆さんがこの子を守ってくださったこと、心から感謝しています。ミュウがこうして笑っていられるのは、皆さんのおかげです」

 

ハジメは静かに頷いた。

 

「……ミュウは大事な仲間だ。守るのは当然だ」

 

ミュウは嬉しそうにハジメへ抱きついた。

 

「パパ、大好き!」

 

「……はいはい」

 

そっけない返事とは裏腹に、ハジメの手は優しくミュウの頭を撫でていた。

エリセンでの滞在は、数日に及んだ。

 

ハジメたちは潜水艇の修理を進めながら、グリューエン大火山で回収した装置の解析を行った。

 

ユエとティオは町の人々から情報を集め、シアはミュウや香織とともに町を巡った。

 

香織は疫病の治療に関する報告を受けるため、一時的に別の町へ戻る必要があったが、治療薬の研究が前進していると知り、安堵していた。

 

「まだ時間はかかるけど、症状を抑える方法は確立できそうだよ」

 

「そうか。よかったな」

 

ハジメは報告書を受け取り、内容を確認した。

 

「これなら、残りの材料を集めることにも意味がある。後で追加の採取方法を考えよう」

 

「うん。みんなが助かるように、私もできる限りのことをするね」

 

香織は力強く頷いた。

 

一方、ミュウは母親との時間を満喫していた。

 

朝はレミアと一緒に食事をし、昼は町の子どもたちと遊び、夜にはハジメたちのもとへ駆け寄って旅の話をせがむ。

 

「パパ、次はどこへ行くの?」

 

「次は……海底遺跡だ」

 

ハジメは回収した装置をテーブルに置いた。

 

「グリューエン大火山で見つけた手掛かりによると、海の底に大迷宮があるらしい。正確な位置も、内部の構造も分からないがな」

 

「海の底……?」

 

シアが目を輝かせた。

 

「すごいです! 海の中に迷宮があるんですね!」

 

「ただし、普通の装備では潜れない。水圧や魔力の干渉も考えなきゃならない」

 

「そこはハジメに任せる」

 

ユエが当然のように言う。

 

「……お前な」

 

「ハジメならできる」

 

「できるかどうかは、調べてから決める」

 

ハジメは苦笑した。

 

ティオも装置を覗き込み、顎に手を当てた。

 

「海底の大迷宮か……。火山の試練を乗り越えたばかりじゃが、次もまた厄介そうじゃな」

 

「厄介だからこそ、攻略する価値がある」

 

ハジメは装置を片付けた。

 

「それに、今の俺たちなら、前よりもできることが増えている」

 

その言葉に、ティオは力強く頷いた。

 

「うむ。妾も、あの試練で得た力を無駄にはせぬ。バーニングソウルも、まだ完全に使いこなせておらぬからのう」

 

「焦るな。力は使いながら覚えればいい」

 

「分かっておる。じゃが、次に神のカードが現れたとしても、妾はもう怯まぬぞ!」

 

ティオは胸を張った。

 

その夜、ハジメは海辺に立ち、波の音を聞いていた。

 

ユエが隣にやってくる。

 

「……何を考えているの?」

 

「次の迷宮のことだ。今回のフリードもそうだが、神のカードを使う連中が現れ始めている。偶然とは思えない」

 

「……うん」

 

ユエは彼の腕に寄り添った。

 

「でも、今は休んでいい。みんな無事に戻ってきた」

 

「ああ」

 

ハジメは海を見つめた。

 

「……そうだな。今くらいは、ゆっくりしてもいいか」

 

ユエは小さく頷き、彼の肩に頭を預けた。

 

二人はしばらく、何も言わずに波の音を聞いていた。

数日後。

 

潜水艇の修理が終わり、海底遺跡への準備も整った。

 

ハジメは必要な装備と補給品を確認し、回収した古代装置の座標を地図に記録した。

 

ユエは魔力防御の準備を整え、シアは大槌と装備を確認する。ティオもホイール・オブ・フォーチュンの整備を終え、香織はホワイト・エンジェルに乗るための装備をまとめていた。

 

ミュウはレミアのそばで、少し寂しそうにハジメたちを見つめていた。

 

「パパ……もう行っちゃうの?」

 

ハジメはミュウの前にしゃがんだ。

 

「ああ。次の迷宮を攻略しなきゃならない」

 

「……また、帰ってくる?」

 

「もちろんだ」

 

ハジメはミュウの頭を撫でた。

 

「俺たちは、必ず戻ってくる。だから、ママと一緒に待っててくれ」

 

ミュウはしばらく俯いていたが、やがて顔を上げた。

 

「……うん! ミュウ、待ってる!」

 

彼女は笑顔を作り、ハジメに抱きついた。

 

「パパ、ユエおねえちゃん、シアおねえちゃん、ティオおねえちゃん、香織おねえちゃん! みんな、気をつけてね!」

 

「任せておけ」

 

ハジメはミュウを抱き上げ、最後にもう一度頭を撫でた。

 

レミアも一行の前に立ち、深々と頭を下げた。

 

「皆さん、ミュウを連れ帰ってくださったこと、本当に感謝しています。どうか、皆さんも無事で帰ってきてください」

 

「約束する」

 

ハジメは短く答えた。

 

香織はミュウを抱きしめた。

 

「ミュウちゃん、また会おうね」

 

「うん! 香織おねえちゃんも、絶対だよ!」

 

シアもミュウの頭を撫で、ユエは小さく手を振った。

 

ティオは胸を張り、堂々と告げる。

 

「案ずるな、ミュウ。妾たちは必ず戻ってくるのじゃ!」

 

「うん!」

 

別れを済ませた一行は、海辺へと向かった。

 

潜水艇のハッチが開き、ハジメたちは順番に乗り込む。

 

操縦席に座ったハジメは、最後に海岸を振り返った。

 

そこには、ミュウとレミア、そして見送りに来た町の人々が立っていた。

 

ハジメは片手を上げる。

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい、パパー!」

 

ミュウの声が、潮風に乗って届いた。

 

ハジメは前を向き、操縦桿を握る。

 

「よし……行くぞ。次の目的地は、海底遺跡の大迷宮だ」

 

「うん」

 

ユエが頷く。

 

「了解です!」

 

シアが元気よく返事をする。

 

「承知したのじゃ! 今度こそ、どのような試練が待っていようとも突破してみせる!」

 

ティオが力強く宣言した。

 

潜水艇の推進機構が起動し、機体はゆっくりと海へ滑り込んだ。

 

青い海の底へ。

 

未知の遺跡へ。

 

そして、次なる大迷宮へ。

 

ハジメたち――赤き竜の使徒、5D'sの旅は、再び動き出したのだった。

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