「ありふれた遊戯王で世界最強」   作:武藤 桜

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第二十八話「空の決闘場と、兎人族の反逆者」

高速飛行船《アルティマヤ・ツィオルキン》は、雲海を切り裂きながら大空を進んでいた。

 

 地上を走る馬車とは比較にならない速度。それでいて船体は驚くほど安定しており、船内では温かな食事を楽しむことも、旅の疲れを癒やすこともできる。

 

 ただし――この船の一角には、一般的な飛行船にはまず存在しない設備があった。

 

 決闘場である。

 

「よし、じゃあ今日も始めるぞ。まずは天之河、お前からだ」

 

「……分かった」

 

 ハジメが腕を組んで告げると、天之河光輝は緊張した面持ちで頷いた。

 

 決闘場の周囲には、ハジメ、ユエ、シア、ティオ、香織、清水、雫が集まっている。さらに、決闘を教わる側として光輝、龍太郎、鈴の三人が加わっていた。

 

 新たに5D'sに加わった清水と雫も、勇者一行の訓練に協力している。

 

 目的は単純だ。

 

 これから先、神の使徒や魔人族と戦うことになれば、今までの戦い方だけでは通用しない。魔法や身体能力だけでなく、決闘というもう一つの戦闘体系にも習熟しておく必要があった。

 

 そして何より、ハジメたちが知るこの世界の真実に立ち向かうには、彼ら自身が強くなる必要がある。

 

「今日はサイバー・ドラゴンを中心にしたデッキの基礎からだ。天之河、お前は以前から機械族に興味があったんだろ?」

 

「ああ。サイバー系のモンスターは、攻撃力も高いし、展開力もある。使いこなせれば強力だと思っている」

 

「その認識自体は間違ってねえ。だが、強いモンスターを出すことだけ考えてると、あっという間に詰むぞ」

 

 ハジメは決闘ディスクを起動させた。

 

「サイバー・ドラゴンは、相手のフィールドにモンスターがいて、こっちにモンスターがいなければ特殊召喚できる。だが、それだけ覚えても意味はねえ。召喚条件、素材の使い方、相手の妨害を受けたときの立て直し――そこまで考えて初めてデッキを扱える」

 

「分かった。実戦で確かめさせてくれ」

 

「いいぜ。まずは俺が相手をしてやる」

 

 決闘場の中央に、二人が向かい合った。

「デュエル!」

 

「デュエル!」

 

 光輝とハジメの声が重なる。

 

 光輝はカードを引き、手札を確認した。

 

「俺のターン! 手札から《サイバー・ドラゴン》の効果を発動! 相手フィールドにモンスターが存在し、俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードを特殊召喚できる!」

 

 銀色の装甲を持つ機械竜が、轟音とともにフィールドへ降り立つ。

 

 攻撃力二千百。

 

 それは、機械族デッキの主軸となるモンスターだった。

 

「さらに、手札から《サイバー・ドラゴン・コア》を召喚!」

 

 小型の機械竜が姿を現す。光輝はその効果を確認し、少し考えてから口を開いた。

 

「召喚に成功したとき、デッキから『サイバー』魔法・罠カードを手札に加える。俺は《サイバー・リペア・プラント》を手札に加える!」

 

「お、効果をちゃんと読んだな」

 

「当たり前だ。カードの効果を理解せずに戦うつもりはない」

 

「その意気だ。だが、ここからが問題だぜ」

 

 ハジメは目を細めた。

 

「サイバー・ドラゴン・コアの効果で何を探すか。今の手札で何ができるか。次のターンに何を残せるか。そこまで考えろ」

 

「……確かに、今の手札だけで大きな融合モンスターを出すのは難しい」

 

 光輝は手札を見直した。

 

 ここで無理に攻めれば、次のターンに何もできなくなる可能性がある。ならば、まずは次の展開に繋がるカードを確保するべきだ。

 

「俺はカードを二枚セット。ターンエンドだ!」

 

「悪くねえ。じゃあ、俺のターンだ」

 

 ハジメはドローすると、手札から《ジャンク・シンクロン》を召喚した。

 

「召喚成功時、墓地のレベル2以下のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する! 俺は墓地の《スピード・ウォリアー》を呼び戻す!」

 

 ジャンク・シンクロンとスピード・ウォリアーが並ぶ。

 

「レベル3のジャンク・シンクロンに、レベル2のスピード・ウォリアーをチューニング!」

 

 星が一つ、二つ、三つと光を放ち、二体のモンスターが光の輪に包まれた。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす! シンクロ召喚! 現れろ、《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 屈強な戦士が地を踏み鳴らす。

 

 その攻撃力は二千三百。さらに、自身のシンクロ召喚成功時、レベル2以下のモンスターの攻撃力を自身に加える効果を持つ。

 

 ハジメはその効果を発動せず、光輝を見据えた。

 

「今の召喚は、素材を揃えればシンクロ召喚できるっていう見本だ。だが、毎回シンクロすればいいわけじゃねえ。融合召喚だって同じだ。召喚方法そのものを目的にするな。勝つための手段として使え」

 

「……分かった」

 

「なら、次はお前のターンだ。今の盤面をどう崩す?」

 

 光輝はフィールドを見つめる。

 

 攻撃力二千三百のジャンク・ウォリアー。手札にはサイバー系のモンスターと魔法カード。セットしたカードもある。

 

 考えた末、光輝は一枚のカードを手に取った。

 

「俺のターン! 《サイバー・リペア・プラント》を発動!」

 

 光輝は墓地に《サイバー・ドラゴン》が存在することを確認し、デッキから機械族・光属性モンスターを手札に加える。

 

「俺は《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》を手札に加える!」

 

「そのカードを使うなら、墓地のサイバー・ドラゴンをどう扱うかも考えろ。サイバー・ドラゴンとして扱う効果を持つカードもある。融合素材を揃えるとき、名前の扱いを間違えるなよ」

 

「理解している!」

 

 光輝は手札から《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》を特殊召喚するための手段を使い、フィールドに新たな機械竜を呼び出した。

 

「さらに、手札から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 機械竜が二体、フィールドに並ぶ。

 

「俺は二体のサイバー・ドラゴンを融合!」

 

 融合の光が広がる。

 

「融合召喚! 現れろ、《サイバー・ツイン・ドラゴン》!」

 

 二つの首を持つ機械竜が、翼を広げて出現した。

 

 攻撃力は二千八百。二回攻撃が可能な、サイバー流の主力モンスターだ。

 

「サイバー・ツイン・ドラゴンで、《ジャンク・ウォリアー》を攻撃!」

 

 二つの頭部から放たれた光線が、ジャンク・ウォリアーを直撃する。

 

 攻撃力の差は五百。ハジメのライフが五百ポイント減少した。

 

「よし……!」

 

 光輝の表情に自信が戻る。

 

 だが、ハジメは笑った。

 

「一回目の攻撃は通ったな。じゃあ、二回目は?」

 

「もちろん、直接攻撃だ!」

 

「そう来ると思ったぜ。罠発動――《くず鉄のかかし》!」

 

 錆びたかかしが飛び出し、二度目の攻撃を遮った。攻撃は無効となり、かかしは再び伏せられる。

 

「なっ……!」

 

「攻撃を通すことだけ考えてると、こういうことになる。相手の伏せカードが何か分からねえなら、攻撃を通す順番や、先に確認する方法も考えろ。モンスターの攻撃力だけじゃ勝てないんだよ」

 

 光輝は悔しそうに唇を噛んだ。

 

 それでも、彼は視線を逸らさなかった。

 

「……もう一度だ。今度は、相手の伏せカードを意識する」

 

「その調子だ。勇者様の看板に頼らず、自分で考えろ」

 

「言われなくても分かっている!」

 

 そのやり取りを見て、雫が小さく笑った。

 

「ハジメさん、教え方が容赦ないですね」

 

「実戦で敵が手加減してくれると思うか?」

 

「それは……そうですけど」

 

「なら、ここで恥をかいといた方がマシだ」

 

 ハジメは決闘ディスクを下ろし、光輝の肩を軽く叩いた。

 

「次はお前が俺を追い詰める番だ。サイバー流を名乗るなら、相手の切り札を正面から叩き潰すくらいの気概を持て」

 

 光輝は真剣な表情で頷いた。

 

 彼の目には、まだ迷いがある。

 

 それでも、決闘を通じて何かを掴もうとしていた。

「つ、次は俺か……?」

 

 龍太郎が決闘場の前に立ち、額の汗を拭った。

 

「そうだ。お前は決闘自体が初めてなんだろ。なら、最初から難しいことはさせねえ」

 

「いや、でもよ……カードの種類も、召喚方法も、まだ全然分かってねえんだぞ?」

 

「だから教えるんだろうが」

 

 ハジメは龍太郎に、基本的なカードを中心に組んだデッキを渡した。

 

「まずはモンスター、魔法、罠。この三種類を覚えろ。モンスターは基本的に召喚して戦う。魔法は自分の行動を助ける。罠は相手の行動に反応して使うものが多い。例外はいくらでもあるが、最初はそれでいい」

 

「お、おう……!」

 

「それと、カードの効果は必ず読む。攻撃力が高いから強い、見た目が派手だから強い、そんな判断は捨てろ。カードにはそれぞれ役割がある」

 

「分かった!」

 

 対戦相手を務めるのはシアだった。

 

「よろしくお願いしますね、龍太郎さん!」

 

「お、おう! 手加減してくれよな!」

 

「えーっと……ハジメさん、どのくらい手加減すればいいですか?」

 

「手加減はいらねえ。だが、いきなり殺しにかかるような展開はするなよ」

 

「決闘で殺しにかかるって何だよ!?」

 

 龍太郎の悲鳴に、周囲から笑い声が上がる。

 

「それじゃあ、デュエル!」

 

「デュエル!」

 

 先攻は龍太郎。

 

 彼は五枚の手札をじっと見つめ、しばらく固まった。

 

「えーっと……まず、モンスターを召喚すればいいんだよな?」

 

「そうだ。通常召喚できるモンスターなら、基本的に自分のターンに一度召喚できる」

 

「よし! 俺は《切り込み隊長》を召喚!」

 

 小柄な戦士がフィールドに現れた。

 

「さらに、手札からレベル4以下の戦士族モンスターを特殊召喚できる効果がある。手札に対象があるなら使ってみろ」

 

「おお! じゃあ、俺は《一撃必殺侍》を特殊召喚!」

 

 もう一体の戦士が現れる。

 

「これで二体だ! 攻撃!」

 

「ちょっと待ってください、龍太郎さん。私のフィールドにはモンスターがいませんよ?」

 

「だから、今のうちに攻撃しておくんだ!」

 

 龍太郎は二体のモンスターで直接攻撃を宣言する。

 

 シアのライフが減少した。

 

「よし! いけるじゃねえか!」

 

「おお、悪くないな。カードの効果を使って展開できた。攻撃宣言も問題ねえ」

 

 ハジメの言葉に、龍太郎は嬉しそうに拳を握った。

 

 しかし、次のシアのターン。

 

「私のターン! ドロー! 私は《レスキューラビット》を召喚します!」

 

「お、ウサギか。かわいいな」

 

「かわいいだけじゃないんですよ!」

 

 シアはカードを見せる。

 

「《レスキューラビット》は自身を除外することで、デッキから同名の通常モンスター二体を特殊召喚できます。ただし、そのモンスターはエンドフェイズに破壊されます!」

 

「何ぃ!?」

 

 二体の通常モンスターが並ぶ。

 

「私は二体のレベル4モンスターで、エクシーズ召喚!」

 

 重なった二体のモンスターが光の渦に包まれ、そこから一体のエクシーズモンスターが現れる。

 

 シアはその効果を使って龍太郎のモンスターを処理し、さらに攻撃を仕掛けた。

 

「うおおっ!? 俺のモンスターが!?」

 

「龍太郎さん、相手が何をしてくるか分からないときは、効果を確認してから動くのも大事ですよ!」

 

「わ、分かった! でも、今のはちょっと格好よかったな!」

 

 ライフを削られ、モンスターを失いながらも、龍太郎は笑っていた。

 

 決闘が終わった後、彼はハジメに駆け寄った。

 

「なあ、ハジメ! 今のエクシーズ召喚っての、俺もできるようになるか!?」

 

「そりゃ、覚えりゃできる。だが、召喚方法を増やす前に、まずはカードの効果を正しく読むことからだな」

 

「よし! 頼むぜ、師匠!」

 

「誰が師匠だ」

 

「今そう呼んだら、絶対に断れないと思ってな!」

 

「……お前、意外と図太いな」

 

 ハジメが呆れたように息を吐くと、シアが楽しそうに笑った。

 

「龍太郎さん、いいですね! 私も最初は全然分からなかったですけど、覚えていくと楽しくなりますよ!」

 

「だよな!」

 

 龍太郎は、すでに次のデッキをどうするか考え始めていた。

 

 この男は、少なくとも決闘を始めること自体には向いているのかもしれない。

 

 難しいことを考えるより先に、まずはやってみる。

 

 その単純さは、ときに大きな強みとなる。

「清水くん、よろしくね」

 

 鈴はいつもの明るい笑顔を作ろうとした。

 

 けれど、その笑顔はどこかぎこちない。

 

「……ああ。よろしく」

 

 清水は短く答え、決闘ディスクを構えた。

 

 彼の表情には、かつてダークシグナーとして人々を襲っていた頃の狂気はない。

 

 しかし、だからといって穏やかになったわけでもなかった。

 

 自分が犯した罪を忘れられない。

 

 自分の手で傷つけた人々のことを忘れられない。

 

 そして、一度死んだはずの自分が、再びこの世界に存在していることさえ、どこか受け入れられずにいる。

 

 その罪悪感を、清水は自分自身に向けていた。

 

 だからこそ、彼のデッキには奇妙なカードが混じっていた。

 

 手札や墓地を利用して展開するインフェルニティ。

 

 そして、勝敗を運に委ねるギャンブルカード。

 

 勝つためだけなら、もっと安定した構築にできるはずだ。

 

 それなのに清水は、あえて不確かなカードを採用していた。

 

 まるで、自分がどこまで不運に見舞われるのか、どこまで苦しめば気が済むのか、確かめようとしているかのように。

 

「それじゃあ、始めようか」

 

 ハジメの声が決闘場に響く。

 

「デュエル!」

 

「デュエル!」

 

 二人のライフが四千に設定され、決闘が始まった。

「私の先攻! ドロー!」

 

 鈴はカードを引き、手札を確認した。

 

 彼女のデッキは六武衆を中心に構築されている。

 

 仲間同士で支え合い、連携して戦う戦士たち。

 

 鈴自身が仲間を大切にしてきたことを思えば、よく似合うデッキだった。

 

「私は《六武衆の影武者》を召喚!」

 

 小柄な武士がフィールドに現れる。

 

「さらに、手札から《六武衆の師範》を特殊召喚! 自分のフィールドに六武衆がいるとき、このカードは特殊召喚できる!」

 

 屈強な武士が影武者の隣に並び立った。

 

「私はレベル2の《六武衆の影武者》に、レベル4の《六武衆の師範》をチューニング!」

 

 鈴は二体のカードを掲げる。

 

「集いし武士の魂よ、戦場を切り開け! シンクロ召喚!」

 

 光が渦巻き、紫の甲冑をまとった武士が姿を現した。

 

「現れて、《真六武衆-シエン》!」

 

 攻撃力二千五百のシエン。

 

 魔法・罠カードの発動を無効にできる、六武衆の切り札の一体だ。

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 鈴は一息ついた。

 

 最初の動きは悪くない。

 

 必要なモンスターを揃え、シエンをシンクロ召喚し、伏せカードも確保した。

 

 いつもの鈴なら、ここから相手の出方を見極め、次のターンに備えられる。

 

 しかし、目の前にいるのは清水だった。

 

 かつて神の力に魅入られ、闇の決闘者となった少年。

 

 自分たちを裏切った恵理と同じように、仲間だった人間が別の道へ進んでしまった姿を、鈴は知っている。

 

 清水がカードを引く。

 

 その瞬間、鈴の脳裏に別の少女の笑顔がよぎった。

 

 恵理。

 

 いつも一緒に笑っていた親友。

 

 困ったときには相談し、くだらない話をして、何度も助け合ってきた相手。

 

 その恵理が、あの王都で見せた笑顔。

 

 死者を操り、何百人もの人々を殺し、仲間たちを平然と裏切った少女の笑顔。

 

 ――あれも、全部嘘だったの?

 

「……鈴?」

 

 清水の声で、鈴は我に返った。

 

「えっ? あ、ごめん。何でもないよ」

 

 清水は何も言わず、自分の手札に視線を戻した。

 

 だが、その一瞬の隙を見逃さなかった。

「俺のターン。ドロー」

 

 清水はカードを引いた。

 

 手札は五枚。

 

 彼はその中から一枚を墓地へ送り、モンスターを展開する準備を整えた。

 

「俺は手札の《インフェルニティ・ネクロマンサー》を通常召喚する」

 

 黒いローブをまとった魔術師がフィールドに立つ。

 

「そして、手札を使い切る」

 

「えっ……?」

 

 鈴が目を見開いた。

 

 清水は残った手札からカードを次々と発動し、モンスターを墓地へ送る。インフェルニティは手札がゼロ枚のときに真価を発揮するカードが多い。

 

 彼は自ら手札を空にして、その条件を満たしたのだ。

 

「墓地の《インフェルニティ・ネクロマンサー》の効果。手札がゼロ枚のとき、墓地のインフェルニティを蘇生する」

 

 墓地から一体のモンスターが戻ってくる。

 

「さらに、《インフェルニティ・デーモン》を特殊召喚!」

 

 黒い悪魔が現れた。

 

「手札がゼロ枚の状態で特殊召喚に成功した《インフェルニティ・デーモン》の効果を発動。デッキからインフェルニティカードを手札に加える」

 

 清水はデッキから一枚を抜き取った。

 

「《インフェルニティ・ガン》を手札に加える」

 

 そして、すぐさまそのカードを発動する。

 

「《インフェルニティ・ガン》の効果。手札がゼロ枚の状態でこのカードを墓地へ送ることで、墓地のインフェルニティを二体まで特殊召喚できる」

 

 清水は墓地から二体のモンスターを呼び戻した。

 

 あっという間に、彼のフィールドにモンスターが並ぶ。

 

「さらに、レベル4のモンスター二体でオーバーレイ!」

 

 黒い渦が二体を包み込む。

 

「エクシーズ召喚! 《インフェルニティ・デス・ドラゴン》……じゃない、《インフェルニティ・デストロイヤー》でもない……」

 

 清水は一瞬だけ言葉を切った。

 

 そして、別の展開を選ぶ。

 

「いや、ここはシンクロ召喚だ。レベル4のモンスターに、レベル2のチューナーをチューニング!」

 

 闇の光がフィールドを包み込む。

 

「地獄の底から這い上がれ! シンクロ召喚! 《インフェルニティ・デス・ドラゴン》!」

 

 漆黒の竜が咆哮した。

 

 その姿を見て、鈴の肩がびくりと跳ねる。

 

 黒い翼。

 

 禍々しい赤い光。

 

 かつて清水がダークシグナーだった頃の記憶が、鈴の心を刺激した。

 

「……っ」

 

 清水はその反応に気づいた。

 

 だが、カードを動かす手は止まらない。

 

「手札がゼロ枚のとき、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の効果を発動。自分の墓地のインフェルニティを一体除外し、相手フィールドのモンスターを破壊する」

 

 鈴のシエンが黒い炎に包まれた。

 

「シエン!」

 

 鈴は反射的に叫んだ。

 

 シエンが炎の中へ消えていく。

 

 清水は続けて攻撃を宣言した。

 

「《インフェルニティ・デス・ドラゴン》で、直接攻撃!」

 

 漆黒の竜が翼を広げ、闇の炎を放つ。

 

「きゃあっ!」

 

 鈴のライフが四千から千八百へと減少した。

 

 残ったライフは千八百。

 

 清水のライフは四千のままだ。

 

「……俺のターンは終わりだ」

 

 清水は淡々と告げた。

 

 その声に、勝利への喜びはない。

 

 ただ、決められた手順をこなしただけのようだった。

 

「どうした、鈴?」

 

 清水が尋ねる。

 

「……え?」

 

「さっきから、俺のカードを見るたびに動きが止まる」

 

 鈴は唇を噛んだ。

 

「それは……」

 

「俺がダークシグナーだったからか?」

 

 鈴は答えられなかった。

 

 清水は自分のフィールドを見つめる。

 

「そうだよな。俺が何をしたか、忘れられるわけがない」

 

「違う、清水くん。私は……」

 

「無理に否定しなくていい」

 

 清水は自嘲するように笑った。

 

「俺は、許されるようなことをしていない」

 

 その言葉が、鈴の胸を締めつけた。

 

 彼の言葉を否定したい。

 

 けれど、清水が犯した罪を簡単に許すこともできない。

 

 そして何より、彼の姿を見るたびに、恵理の裏切りが脳裏をよぎってしまう。

 

 鈴はカードを握りしめた。

 

「……私のターン」

鈴はドローしたカードを確認した。

 

 手札には、展開に使えるカードがある。

 

 墓地には六武衆のモンスターもいる。

 

 ここからなら、シエンを再び呼び出すこともできるはずだった。

 

 しかし、鈴は動けなかった。

 

 目の前の清水が、かつての自分のように仲間を失い、過去に囚われているように見えたからだ。

 

 いや、違う。

 

 清水は、自分自身を罰することを選んでいる。

 

 自分の命さえ、粗末に扱おうとしている。

 

 それが分かるからこそ、鈴は何を言えばいいのか分からなかった。

 

「私は……《六武衆の師範》を墓地から……」

 

 カードを動かしかけた手が止まる。

 

 清水の視線が、鈴の指先へ向いた。

 

「……どうした?」

 

「何でもない!」

 

 鈴は声を荒らげた。

 

「私はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 何もできなかった。

 

 せっかくの手札を活かせず、清水の攻勢を止めることもできなかった。

 

 ハジメが小さく舌打ちする。

 

「……あいつ、完全に自分の思考に呑まれてやがる」

 

 ユエは静かに鈴を見つめていた。

 

「恵理のことを思い出している」

 

「だろうな。だが、今の清水は恵理じゃねえ。鈴が戦ってる相手は清水だ」

 

 ハジメの視線は鋭い。

 

「それを見失ったままじゃ、決闘に勝てるわけがねえ」

 

 一方、清水は自分のターンを迎えた。

 

「俺のターン。ドロー」

 

 彼はカードを引き、しばらく手札を見つめた。

 

 そして、その中から一枚を抜き取る。

 

「……ここで、これを使う」

 

 清水が発動したのは、運に左右されるギャンブルカードだった。

 

「俺はこのカードの効果を発動する。結果がどうなるかは……運次第だ」

 

 彼の声は、どこか投げやりだった。

 

「清水くん、そんなカードを……!」

 

 鈴が思わず声を上げる。

 

 清水は振り返らない。

 

「成功すれば、俺はさらに展開できる。失敗すれば、ここで終わりだ」

 

「だったら、もっと確実なカードを使えばいいじゃない!」

 

「……確実なものなんて、俺にはない」

 

 清水の言葉に、鈴は息を呑んだ。

 

「俺が何をしても、過去は変わらない。俺が生き返ったことだって、本当に正しかったのか分からない。なら、せめて……自分がどこまで不運に耐えられるか、確かめてみたくなる」

 

「そんなの……!」

 

 鈴は叫びかけて、言葉を失った。

 

 清水はカードの効果処理を進める。

 

 結果は、彼にとって不利なものだった。

 

 手札もフィールドも、期待したほどの恩恵を受けられない。

 

 それでも清水は、顔色一つ変えなかった。

 

「……そうか。やっぱり、俺はこういうものか」

 

 まるで、自分が負けることを望んでいたかのように。

 

 鈴の胸の奥で、何かが軋んだ。

 

 恵理の裏切りを思い出したときとは違う痛みだった。

 

 清水は、自分を罰するために決闘をしている。

 

 勝つためではなく、負けても仕方がないと思うために。

 

「……ふざけないで」

 

 鈴の口から、思わず言葉が漏れた。

 

「え?」

 

「ふざけないでよ、清水くん!」

 

 清水が初めて、はっきりと鈴を見た。

 

「自分が不運かどうか確かめるために、決闘をしてるの!? 負けてもいいって思いながら、カードを使ってるの!?」

 

「……俺は」

 

「そんなの、決闘じゃないよ!」

 

 鈴の声が震える。

 

「勝ちたいと思って戦ってる相手に、失礼だよ!」

 

 清水は何も言えなかった。

 

 鈴自身、言葉にしながら驚いていた。

 

 彼女は今まで、清水に何を言えばいいのか分からなかった。

 

 許せるのか。

 

 許せないのか。

 

 彼が仲間として戻ってきたことを、どう受け止めればいいのか。

 

 答えはまだ見つかっていない。

 

 けれど、これだけは分かった。

 

 目の前の清水が、自分自身を傷つけるような戦い方をすることは、見過ごしたくなかった。

 

「……俺は、勝つ資格なんてない」

 

 清水が呟く。

 

「そんな資格、誰が決めたの?」

 

 鈴はすぐに言い返した。

 

「自分が悪いことをしたからって、勝っちゃいけないなんて決まりはないでしょ!」

 

「……」

 

「罪を償うことと、自分を傷つけることは違うよ。そんなことをしても、あなたが傷つけた人たちが戻ってくるわけじゃない!」

 

 清水は、握っていたカードを見つめた。

 

 鈴の言葉は、彼がずっと避けていたものだった。

 

 自分の罪を認めること。

 

 その罪を背負ったまま、生きていくこと。

 

 そして、自分が生きていることを受け入れること。

 

 それは、ただ苦しみ続けるよりも、ずっと難しいことだった。

「……俺のターンは終わりだ」

 

 清水は攻撃をせず、ターンを終了した。

 

 鈴は深く息を吸い込んだ。

 

「私のターン。ドロー!」

 

 引いたカードを確認する。

 

 今度は、迷わなかった。

 

「私は手札から《六武衆の師範》を特殊召喚!」

 

 屈強な武士がフィールドに現れる。

 

「そして、墓地の《六武衆の影武者》を蘇生する!」

 

 影武者が再び立ち上がった。

 

「レベル2の影武者に、レベル4の師範をチューニング!」

 

 鈴の声が決闘場に響き渡る。

 

「集いし六武の魂よ、今こそ再び立ち上がれ! シンクロ召喚!」

 

 光の中から、紫の甲冑をまとった武士が姿を現した。

 

「《真六武衆-シエン》!」

 

 攻撃力二千五百。

 

 先ほど破壊されたシエンが、再びフィールドへ帰還した。

 

「さらに、私は墓地の六武衆を利用して展開を続ける!」

 

 鈴は手札のカードを確認し、必要なモンスターを並べていく。

 

 清水の表情が変わった。

 

 先ほどまでの鈴なら、ここで躊躇していた。

 

 しかし、今は違う。

 

 彼女は自分が何をしたいのかを理解している。

 

「シエンの効果を発動! 魔法・罠カードの発動を無効にする!」

 

 清水が発動しようとした魔法カードを、シエンが斬り伏せる。

 

「……っ」

 

 清水は別の手段を探ろうとする。

 

 だが、鈴はその動きを見逃さなかった。

 

「まだ終わりじゃないよ!」

 

 鈴はカードを一枚発動し、六武衆の連携をさらに強化する。

 

「《六武衆の師範》で、《インフェルニティ・ネクロマンサー》を攻撃!」

 

 武士が刀を振り下ろす。

 

 ネクロマンサーが破壊され、清水のライフが減少した。

 

「続けて、《真六武衆-シエン》で攻撃!」

 

 シエンが漆黒の竜へ向かって駆け出す。

 

「……させるか!」

 

 清水は墓地のカードを利用して反撃の準備を整えた。

 

 だが、鈴はすぐに対応した。

 

「私は伏せていた罠カードを発動! あなたの攻撃を止める!」

 

 清水の攻勢が遮られる。

 

 鈴はカードを握りしめた。

 

「私は……まだ、恵理のことを許せるか分からない」

 

 唐突な言葉に、清水の動きが止まる。

 

「何が本当だったのか、今でも分からない。あの子が私たちと過ごした時間まで全部嘘だったのか、それとも……どこかに本当の気持ちがあったのか」

 

 鈴は一度目を閉じた。

 

 親友の笑顔が、脳裏に浮かぶ。

 

 その笑顔が裏切りへと変わった瞬間も、忘れられない。

 

「でも、分からないからって、私は自分のことまで諦めたくない。恵理のことを考えるたびに、何もできなくなるのは……もう嫌なの!」

 

 鈴は目を開いた。

 

「だから、私は勝つよ! 清水くんが自分を傷つけるために戦うなら、私はあなたに勝って、そんな戦い方をやめさせる!」

 

 清水は呆然と鈴を見つめた。

 

 自分が許されるかどうか。

 

 自分が生きていていいのかどうか。

 

 その答えを他人に求めることすら、彼は恐れていた。

 

 けれど鈴は、許すとも、許さないとも言わなかった。

 

 ただ、勝つと言った。

 

 今、目の前にいる自分を相手として見て、勝とうとしていた。

 

 それが、清水には眩しかった。

 

「……そうか」

 

 清水は小さく息を吐いた。

 

「お前は、ちゃんと前を向こうとしてるんだな」

 

「清水くんだって、そうしなきゃ駄目だよ!」

 

「……ああ」

 

 清水の目から、ほんの少しだけ投げやりな色が消えた。

「俺のターン。ドロー!」

 

 清水はカードを引いた。

 

 手札はゼロ枚。

 

 フィールドには《インフェルニティ・デス・ドラゴン》が残っている。

 

 墓地には、これまで使ったインフェルニティのモンスターたち。

 

 彼はしばらくカードを見つめていた。

 

 ここでギャンブルカードを使えば、逆転の可能性はあるかもしれない。

 

 だが、結果は分からない。

 

 失敗すれば、勝ち筋はほぼ消える。

 

 成功すれば、鈴を追い詰められる可能性がある。

 

 以前の清水なら、迷わずそのカードを選んでいたかもしれない。

 

 自分の悪運を試すために。

 

 負けても構わないと思うために。

 

 けれど今は、違った。

 

「……俺は、ギャンブルカードを使わない」

 

 鈴が目を見開く。

 

 清水はデッキを見つめ、墓地のカードを確認した。

 

「墓地の《インフェルニティ・ネクロマンサー》を利用する。手札がゼロ枚のとき、その効果で墓地のインフェルニティを特殊召喚する」

 

 墓地からモンスターが戻ってくる。

 

「さらに、《インフェルニティ・ガン》の効果で、墓地のモンスターを蘇生!」

 

 清水のフィールドに再びモンスターが並んだ。

 

「俺はレベル4のモンスターに、レベル2のチューナーをチューニング!」

 

 黒い光が広がる。

 

「シンクロ召喚! 《インフェルニティ・デス・ドラゴン》!」

 

 漆黒の竜が再び咆哮した。

 

 清水はその竜を見上げた。

 

「……お前は、俺の罪まで消してくれるわけじゃない」

 

 竜が翼を広げる。

 

「でも、だからって……戦うことまで諦める必要はないんだな」

 

 彼は鈴を見据えた。

 

「俺は《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の効果を発動する! 墓地のインフェルニティを除外し、相手フィールドのモンスターを破壊する!」

 

 黒い炎がシエンへ向かう。

 

 鈴はカードを構えた。

 

「シエンを守るために、罠カードを発動!」

 

 炎が逸らされ、シエンはフィールドに残った。

 

「……やっぱり、簡単には通してくれないか」

 

「当たり前だよ!」

 

 鈴は笑った。

 

 今度の笑顔は、先ほどまでの作り物ではなかった。

 

「私だって、勝つために戦ってるんだから!」

 

 清水は、その表情を見つめた。

 

 そして、静かに頷いた。

 

「なら、俺も……最後まで戦う」

 

 清水は攻撃を宣言した。

 

「《インフェルニティ・デス・ドラゴン》で、《真六武衆-シエン》を攻撃!」

 

 漆黒の竜が黒い炎を吐き出す。

 

 シエンは炎に包まれ、消滅した。

 

 鈴のライフが減少する。

 

 残りはわずか。

 

 清水はさらに展開を試みたが、鈴が伏せていたカードによって止められた。

 

 攻撃はそこで途切れた。

 

「……俺のターンは終わりだ」

 

 清水は、今度は悔しそうに唇を噛んだ。

 

 負けてもいいとは思わなかった。

 

 勝ちたいと思った。

 

 自分が選んだカードで、目の前の相手に勝ちたい。

 

 その気持ちが、ほんの少しだけ戻っていた。

 

「私のターン!」

 

 鈴がカードを引く。

 

 手札には、勝負を決めるためのカードがあった。

 

 彼女はフィールドと墓地を確認し、最後の展開に入る。

 

「私は《六武衆の師範》を召喚!」

 

 武士が現れる。

 

「そして、墓地の《六武衆の影武者》を特殊召喚!」

 

 影武者が師範の隣に並んだ。

 

「レベル2の影武者に、レベル4の師範をチューニング!」

 

 再びシンクロ召喚の光が広がる。

 

「集いし六武の魂よ、今こそ勝利を切り開け! シンクロ召喚! 《真六武衆-シエン》!」

 

 シエンが現れた。

 

 その刀が、まっすぐに清水の竜へ向けられる。

 

「シエンで、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》を攻撃!」

 

「……迎え撃つ!」

 

 清水は最後まで抵抗した。

 

 しかし、鈴の攻撃は止まらない。

 

 シエンの刃が漆黒の竜を切り裂き、竜は轟音とともに消滅した。

 

 清水のライフがゼロになる。

 

「勝者、鈴!」

 

 決闘終了のアナウンスが響いた。

「……負けたか」

 

 清水はカードを片づけた。

 

 その顔に浮かんでいたのは、いつもの自嘲ではなかった。

 

 悔しさ。

 

 自分の選択が届かなかったことへの悔しさだった。

 

「清水くん……」

 

 鈴が声をかける。

 

「……ありがとう」

 

「え?」

 

「最後まで、俺を相手として見てくれて」

 

 清水は、ゆっくりと頭を下げた。

 

「俺はずっと、自分が勝っていいのか分からなかった。自分が生きていていいのかさえ、分からなかった。だから、負けても仕方がないと思えるようなカードを入れていたんだ」

 

 彼は自分のデッキを見つめた。

 

「でも、今日の決闘で分かった気がする。自分がやったことは、消えない。俺が生き返ったからって、何もなかったことにはならない」

 

 清水は拳を握りしめた。

 

「だからこそ、これから何をするかは……自分で決めなきゃいけないんだな」

 

 鈴は静かに頷いた。

 

「うん。私も、まだ恵理のことをどう思えばいいのか分からない」

 

 彼女は少しだけ視線を落とす。

 

「許せるかどうかも、分からない。でも……今の私にできることを、一つずつやっていこうと思う」

 

「……そうか」

 

「清水くんも、そうしてほしい。自分を傷つけるためじゃなくて、生きていくために決闘してほしい」

 

 清水はしばらく黙っていた。

 

 そして、かすかに笑った。

 

「……ああ。次は、ギャンブルカードに頼らずに勝つ」

 

「うん。私も負けないからね!」

 

 二人は決闘ディスクを下ろした。

 

 周囲から拍手が起こる。

 

 龍太郎が大きく手を叩いた。

 

「いやー、すげえ決闘だったな! 俺もあんなふうに戦えるようになりてえ!」

 

「まずはカードの効果を覚えるところからですよ、龍太郎さん」

 

 シアが笑いながら言う。

 

「分かってるって!」

 

 香織はほっとしたように微笑み、雫も頷いた。

 

「二人とも、いい決闘でした」

 

 光輝は腕を組み、真剣な顔で言った。

 

「……俺も、もっとデッキを理解しないとな」

 

 その様子を見ていたハジメは、ようやく口元を緩めた。

 

「ま、最初に比べりゃ上出来だな」

 

 ユエがハジメの袖を引く。

 

「清水は、少し変われた?」

 

「さあな。たった一回の決闘で、過去の罪が消えるわけじゃねえ」

 

 ハジメは清水と鈴を見た。

 

「だが、自分を罰するためだけにカードを使うのをやめる。その一歩にはなったんじゃねえか」

 

 ユエは小さく頷いた。

 

 決闘場の中央では、鈴が清水に何かを話している。

 

 まだぎこちない。

 

 恵理の裏切りは、彼女の心に深い傷を残している。

 

 清水の罪も、簡単に消えるものではない。

 

 それでも二人は、もう一度カードを握った。

 

 過去を忘れるためではなく。

 

 過去から逃げるためでもなく。

 

 これから先、自分がどう生きるかを選ぶために。

 

 ハジメは義手の決闘ディスクを軽く叩き、飛行船の窓の向こうへ視線を向けた。

 

 やがて帝国へ到着すれば、シアの父親を探すための戦いが始まる。

 

 亜人族を奴隷として扱う帝国。

 

 消息を絶ったカム・ハウリア。

 

 そして、その背後に潜んでいるかもしれない神の思惑。

 

 旅はまだ終わらない。

 

 だからこそ、今は仲間たちが少しでも強くなることが必要だった。

 

「次は龍太郎。今の決闘を見て、何を学んだ?」

 

「えっ、俺!? そ、そうだな……ギャンブルカードは怖いってことか?」

 

「……違う。いや、それも間違いじゃねえが」

 

 ハジメは額を押さえた。

 

 決闘場に、再び笑い声が響いた。

「次は私ですね」

 

 雫は決闘ディスクを調整しながら、穏やかに微笑んだ。

 

「相手は……ハジメさん、お願いできますか?」

 

「いいぜ。お前のブラックフェザー、どこまで仕上がってるか見せてもらう」

 

「はい」

 

 雫はカードを引いた。

 

「デュエル!」

 

「デュエル!」

 

 雫の先攻。

 

「私のターン。《BF-疾風のゲイル》を召喚!」

 

 黒い翼を持つ鳥人型のモンスターが姿を現した。

 

「ゲイルの効果で、相手モンスターの攻撃力と守備力を半分にします。対象は……ハジメさんの《ジャンク・シンクロン》です」

 

 ゲイルが翼を広げ、黒い風を巻き起こす。

 

 ジャンク・シンクロンの力が弱まった。

 

「さらに、手札から《BF-黒槍のブラスト》を特殊召喚!」

 

 もう一体のブラックフェザーが舞い降りる。

 

「フィールドにブラックフェザーが存在する場合、ブラストは特殊召喚できます。私は二体のモンスターでシンクロ召喚!」

 

 黒い翼が旋回し、二体のモンスターが光の輪に包まれた。

 

「黒き旋風よ、戦場を切り裂け! シンクロ召喚! 《BF-アーマード・ウィング》!」

 

 黒い鎧をまとった鳥戦士が現れる。

 

 戦闘では破壊されにくく、戦闘相手に楔カウンターを置いて弱体化させる効果を持つモンスターだ。

 

「私はカードを二枚伏せて、ターンエンドです」

 

「……なるほどな」

 

 ハジメは雫の盤面を見た。

 

「展開を急ぎすぎず、妨害も残してきたか。いい判断だ」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、俺も手加減はしねえぞ」

 

 ハジメはカードを引いた。

 

「俺のターン。手札から《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

 雫はすぐに反応した。

 

「その召喚に対して、罠カードを発動します。《神の警告》!」

 

 ライフを支払い、召喚を無効にする。

 

「ジャンク・シンクロンの効果を使わせてもらう前に止める……か。悪くねえ」

 

 ハジメは召喚を無効にされたモンスターを墓地へ送り、手札を確認した。

 

 だが、彼の手には別の展開手段が残っていた。

 

「なら、こっちだ。手札から《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」

 

 ハジメは手札のモンスターを墓地へ送り、クイック・シンクロンを特殊召喚する。

 

「さらに、《レベル・スティーラー》……じゃねえな。今の構築じゃ使わねえ。墓地の《スピード・ウォリアー》を蘇生する!」

 

 彼は蘇生カードを使い、モンスターを呼び戻した。

 

「レベル5のクイック・シンクロンに、レベル2のスピード・ウォリアーをチューニング!」

 

 星が輝き、黒い翼の戦士を前に、新たなモンスターが姿を現す。

 

「シンクロ召喚! 《ジャンク・バーサーカー》!」

 

 大剣を持つ戦士が咆哮した。

 

「墓地のジャンク・シンクロンを除外して、相手モンスターの攻撃力を下げる!」

 

 雫は即座に対応する。

 

「その効果にチェーンして、罠カードを発動します!」

 

 伏せカードが開かれ、ハジメのモンスターの攻撃を妨げる効果が適用された。

 

 ハジメは口元を吊り上げた。

 

「伏せカードが二枚ある以上、当然そう来るよな」

 

「はい。ハジメさんなら、必ず別の手段を用意していると思いました」

 

「そいつは買いかぶりすぎだ。俺だってミスはする」

 

 ハジメは手札から魔法カードを発動し、墓地のモンスターを再利用する準備を整えた。

 

 そこからの攻防は一進一退だった。

 

 ハジメはジャンク系のモンスターを繋ぎ、シンクロ召喚を狙う。雫はブラックフェザーの展開力と罠カードを駆使して、それを食い止める。

 

 ハジメが一体のモンスターを突破しても、雫は次のモンスターを呼び出す。

 

 雫が攻勢に出れば、ハジメは戦闘の順番と効果の使いどころを見極めて反撃する。

 

 最後には、雫のブラックフェザーが一斉に羽ばたいた。

 

「私は《BF-精鋭のゼピュロス》の効果を使い、フィールドのカードを手札に戻します。そして、条件を満たして特殊召喚!」

 

 雫は墓地からの再利用を絡め、さらに展開を続けた。

 

「チューナーと非チューナーを揃えて、シンクロ召喚! 《BF-アームズ・ウィング》!」

 

 続いて、別のブラックフェザーを使い、追加のシンクロ召喚へ繋げる。

 

 ハジメはその動きを見て、僅かに目を細めた。

 

「……マジで互角かよ」

 

「まだ終わっていませんよ、ハジメさん」

 

 雫は穏やかな声で言った。

 

「私はこのターンで決めます!」

 

 黒い翼が連続して攻撃を仕掛ける。

 

 ハジメは最後の防御札を発動し、攻撃を凌いだ。

 

 その瞬間、雫の表情がわずかに変わる。

 

「……ここまで読まれていましたか」

 

「いや。お前が強いから、こっちも真面目にやらなきゃならねえだけだ」

 

 ハジメは手札を確認する。

 

「俺のターン。ここで決める」

 

 彼はカードを引き、必要な素材を揃えるためにモンスターを展開した。

 

 シンクロ召喚の光が決闘場を満たす。

 

 しかし、その召喚を前にして雫は最後の罠を発動し、ハジメの攻勢を止めた。

 

 ハジメは舌打ちした。

 

「……ちっ。そこまで読んでやがったか」

 

「ハジメさんのデッキは、何度も見ていますから」

 

「見てるだけで、ここまで対応できるようになるとはな」

 

 決闘は長引き、互いのライフが削られていく。

 

 そして最後の攻防。

 

 雫はブラックフェザーを使って攻撃を仕掛け、ハジメは残ったカードで迎撃する。

 

 互いに一歩も譲らないまま、二人は同時に決定打を狙った。

 

 結果は――引き分け。

 

 双方のライフが尽きる寸前、最後の攻撃と効果処理が重なり、勝者を決められないまま決闘が終了した。

 

「……はあ。まさか引き分けとはな」

 

 ハジメが息を吐く。

 

「雫、お前、本当に強くなったな」

 

「ありがとうございます。でも、まだハジメさんに勝てていません」

 

「そのうち勝つさ。今の時点で俺たちと互角にやれるなら、十分だ」

 

 雫は嬉しそうに笑った。

 

 彼女はもう、守られるだけの少女ではない。

 

 自分の判断で戦い、仲間と肩を並べられる決闘者になっていた。

決闘場での訓練が一段落した頃、飛行船の操舵室から連絡が入った。

 

「ハジメさん! 前方の地上に人影が見えます!」

 

 操舵を担当していた船員の声に、ハジメは顔を上げた。

 

「人影? こんな場所で何を……」

 

「複数の馬車と、武装した集団です。戦闘があったようにも見えます!」

 

「高度を下げろ。確認する」

 

 ハジメたちは甲板へ出た。

 

 雲の切れ間から見えた地上では、武装した一団が何台もの馬車を囲んでいた。馬車の荷台には、耳や尻尾を持つ亜人たちが押し込められている。

 

 その周囲で戦っていたのは、兎人族の戦士たちだった。

 

「……あれは」

 

 シアが目を見開いた。

 

「ハウリア族……!?」

 

 彼女の声に、ハジメたちの視線が集まる。

 

 兎人族の一団は、奴隷商人らしき男たちを次々に無力化していた。かつてのハウリア族は臆病で、戦うことを恐れていた。

 

 だが、今は違う。

 

 身を低くして敵の懐へ潜り込み、仲間と連携し、相手の武器を奪い、確実に戦闘能力を削いでいく。

 

 無駄な動きはない。

 

 敵が一人倒れれば、次の者がすぐにその穴を埋める。

 

 訓練された戦士たちの動きだった。

 

「……おいおい。あいつら、いつの間にここまで強くなったんだ?」

 

 ハジメが呆れたように呟く。

 

「ハジメさんが鍛えたからですよ!」

 

 シアは誇らしげに胸を張った。

 

「まあ、確かに俺が仕込んだんだが……あの親父、どこまでやらせたんだ?」

 

 やがて戦闘は終わり、奴隷として捕らえられていた亜人たちが解放された。

 

 飛行船は安全な場所に着陸し、ハジメたちは地上へ降りた。

 

 ハウリア族の一人が、シアの姿を見つけて目を丸くする。

 

「シア様!?」

 

「みんな!」

 

 シアは駆け寄り、兎人族の戦士たちと再会を喜んだ。

 

「久しぶり! みんな元気そうでよかった!」

 

「シア様こそ、ご無事で何よりです!」

 

「お父さんは? お父さんも一緒なの?」

 

 その問いに、戦士たちの表情が曇った。

 

 シアはすぐに異変を察した。

 

「……どうしたの?」

 

 兎人族の男が、苦しそうに口を開いた。

 

「実は……帝国が、亜人族を奴隷として連れ去っているという話が広まったのです」

 

「帝国が……?」

 

 シアの顔から笑みが消えた。

 

「各地で亜人族が捕らえられ、奴隷として売られている。私たちハウリア族も、救出できる者を探して各地を回っていました」

 

「それで、さっきの人たちを……」

 

「はい。今回の集団も、亜人族を帝国へ運ぼうとしていた者たちです。私たちは襲撃して、捕らわれていた者たちを解放しました」

 

 ハジメは腕を組み、静かに話を聞いていた。

 

 帝国。

 

 魔人族との戦争に関わり、神の思惑とも無関係ではいられない国。

 

 そこが亜人族を奴隷として扱っているというなら、見過ごすわけにはいかない。

 

 しかし、シアにとってはそれ以上に気がかりなことがあった。

 

「……お父さんは?」

 

 彼女はもう一度尋ねた。

 

 兎人族の男は、視線を落とした。

 

「カム殿は……帝国のやり方に激怒されました」

 

 シアの父親、カム・ハウリア。

 

 かつては一族を守るために頭を下げ、臆病に振る舞うことさえ受け入れていた男。

 

 だが、ハジメの訓練を受け、ハウリア族が変わってからは違った。

 

 弱いまま虐げられるのではなく、戦う力を手に入れる。

 

 自分たちの大切な者を、自分たちの手で守る。

 

 その決意を誰よりも強く抱いていた男だった。

 

「カム殿は、帝国が亜人族を奴隷にしていると知り、我慢できなかったのです」

 

「……それで?」

 

「一族の一部を率いて、帝国へ向かわれました。奴隷にされた亜人族を解放するために、帝国に直接乗り込むと……」

 

「お父さんが……帝国にカチコミを……?」

 

 シアの声が震えた。

 

 兎人族の男は苦しげに頷いた。

 

「はい。ですが、その後の消息が分からなくなりました」

 

 その言葉を聞いた瞬間、シアの表情から血の気が引いた。

 

「……そんな」

 

 彼女は唇を噛みしめる。

 

 父親が危険なことをしている。

 

 しかも、帝国という大国に対して、少数の仲間とともに正面から乗り込んだのだ。

 

 ハウリア族が強くなったことは知っている。以前とは比べ物にならないほど、戦える一族になったことも分かっている。

 

 それでも、帝国は広大で、兵力も多い。

 

 いくら強くなったからといって、無事でいられる保証などなかった。

 

「……ハジメさん」

 

 シアはハジメを振り返った。

 

 その瞳には、必死に抑え込もうとしても隠しきれない不安が浮かんでいた。

 

「私……お父さんを助けに行きたいです」

 

「……そうだろうな」

 

 ハジメは短く答えた。

 

「樹海の大迷宮を攻略する予定だったけど……」

 

 シアは一度、言葉を切った。

 

 今の旅の目的は、元の世界へ帰る手掛かりを集めることだ。

 

 そのためには、各地の大迷宮を攻略し、千年アイテムや三幻神、シグナーと六体の竜にまつわる手掛かりを集めなければならない。

 

 樹海の大迷宮も、その重要な目的地の一つだった。

 

 しかし――。

 

「お父さんが、みんなが危ない目に遭ってるのに……私だけ先に進むなんてできません」

 

 シアの声は、決して大きくはなかった。

 

 だが、そこには揺るぎない決意があった。

 

「私は、ハウリア族の一員です。みんなを助けたい。お父さんを助けたいんです」

 

 ハジメはシアを見つめた。

 

 彼女がそう言うことは分かっていた。

 

 シアは自分のことになると遠慮がない。けれど、家族や仲間が関わるときには、誰よりも真剣になる。

 

 それは、弱さではない。

 

 自分が守りたいものを、はっきり理解しているということだ。

 

「……ユエ」

 

「ん」

 

「どう思う?」

 

 ユエは少しだけ考え、すぐに答えた。

 

「樹海の大迷宮は逃げない。でも、シアのお父さんたちは、今も危険な場所にいるかもしれない」

 

「だな」

 

 ティオも頷いた。

 

「亜人族を奴隷として扱う帝国の行いも、放置してよいものではないじゃろう。妾たちが向かうことで、助けられる者がいるのならば、行く価値はある」

 

 香織も、真剣な顔で口を開いた。

 

「私も賛成です。今の私たちなら、助けられる人がいるかもしれません」

 

「……俺も、行くべきだと思う」

 

 清水が静かに言った。

 

「目の前で苦しんでいる人を見捨てて、先へ進むのは……もう、したくない」

 

 雫も頷いた。

 

「シアさんのお父さんを助けましょう。私たちなら、きっと力になれます」

 

 ハジメは仲間たちの顔を見渡した。

 

 そして、シアへ視線を戻す。

 

「決まりだな」

 

「……ハジメさん」

 

「樹海の大迷宮は後回しだ。先に帝国へ向かう」

 

 シアの瞳が大きく見開かれた。

 

「いいんですか……?」

 

「お前の親父が勝手に敵の本拠地に突っ込んだんだ。放っておいたら、後で何を言われるか分かったもんじゃねえ」

 

「ハジメさん……!」

 

「勘違いするな。俺はお前の親父を助けるためだけに行くんじゃねえ。亜人族を奴隷にしてる連中がいるなら、そいつらの事情も確かめる。必要なら、まとめて叩き潰す」

 

 ハジメは口元を吊り上げた。

 

「それに、帝国が神の思惑とどう繋がってるかも気になる。どうせ避けて通れない問題なら、今のうちに片づけるのも悪くねえ」

 

 シアは目を潤ませながら、何度も頷いた。

 

「ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます!」

 

「礼は親父を見つけてから言え」

 

「はい!」

 

 シアは拳を握りしめた。

 

 その顔には、まだ不安が残っている。

 

 けれど、それ以上に強い決意が宿っていた。

 

 * * *

 

 飛行船へ戻った一行は、すぐに進路を変更した。

 

 目的地は樹海ではない。

 

 帝国。

 

 亜人族を奴隷として連れ去り、シアの父親カム・ハウリアが消息を絶った場所。

 

 飛行船が再び空へ舞い上がる。

 

 船内では、先ほどまで決闘の訓練に使われていた決闘場が静かになっていた。

 

 光輝は自分のサイバーデッキを見つめ、カードの効果を一枚ずつ確認している。

 

 龍太郎は、シアに教わったエクシーズ召喚の仕組みを何度も復習していた。

 

 鈴は六武衆のカードを手に取り、ひとつひとつの効果を読み直している。恵理の裏切りによる傷は、まだ深い。それでも、彼女はもう一度カードを握ろうとしていた。

 

 清水はインフェルニティのデッキを組み直していた。

 

 ギャンブルカードをすべて抜いたわけではない。

 

 だが、自分を傷つけるためだけにカードを選ぶことは、少しずつやめようとしていた。

 

 雫はブラックフェザーのカードを整理しながら、次にハジメと戦うときは必ず勝つと静かに決意している。

 

 そして、シアは窓の外を見つめていた。

 

 その視線の先にあるのは、まだ見えない帝国の大地。

 

 父親が生きているのか。

 

 どこにいるのか。

 

 無事なのか。

 

 答えは、何一つ分からない。

 

 それでも、彼女は前を向いていた。

 

「お父さん……待っててね」

 

 小さな呟きは、飛行船のエンジン音にかき消された。

 

 その隣に、ハジメが立つ。

 

「心配するなとは言わねえ。だが、最悪の結果を勝手に決めつけるな」

 

「……はい」

 

「生きてる可能性があるなら、探しに行く。見つけたら、あとは本人に説教でも何でもしてやれ」

 

 シアは涙を拭い、少しだけ笑った。

 

「はい! お父さんには、いっぱい言いたいことがありますから!」

 

「だろうな。俺も一発くらい殴ってやりたい気分だ」

 

「えっ!? ハジメさん、お父さんを殴るんですか!?」

 

「生きてたらな」

 

「そ、それは……お父さんが悪いことをしていたら、私も止めますけど……!」

 

「その前に、勝手に帝国へ突っ込んだことを反省させる必要があるだろ」

 

 シアは困ったように笑い、それから再び窓の外を見た。

 

 飛行船は雲を突き抜け、帝国へと進んでいく。

 

 樹海の大迷宮攻略は延期。

 

 新たな目的は、シアの父親の救出と、帝国による亜人族奴隷化の実態調査。

 

 そして、帝国の背後に潜むものを見極めること。

 

 ハジメは義手の決闘ディスクに目を落とした。

 

 神が世界を弄び、人々を駒として扱っている。

 

 ならば、その盤面をひっくり返すために必要なのは、力だけではない。

 

 仲間を信じ、カードを選び、勝つために考え抜くこと。

 

 決闘も、現実の戦いも、本質は同じだ。

 

「さて……帝国には、どんな連中が待ってるのかね」

 

 ハジメの呟きに、ユエが隣から答えた。

 

「邪魔するなら、倒すだけ」

 

「ま、そういうことだ」

 

 ハジメは不敵に笑った。

 

 《アルティマヤ・ツィオルキン》は、帝国へ向けて加速する。

 

 その先に待つのが、救出劇か、戦争か、それとも神の仕掛けた新たな罠なのか。

 

 まだ、誰にも分からない。

 

 ただ一つ確かなことは――。

 

 5D'sは、仲間のために進路を変えた。

 

 そして、その決断が新たな戦いの幕を開けようとしていた。

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