白。
視界を埋め尽くすのは、どこまでも続く白銀の世界だった。
風が吹き荒れるたび、雪原を覆う雪が巻き上げられ、まるで空と大地の境界すら消し去ろうとするかのように舞い上がる。
そんな極寒の地に、ハジメたちを乗せた高速飛行船アルティマヤ・ツィオルキンが降り立った。
「……ようやく到着か」
船外に出た南雲ハジメは、黒いコートの襟を立てながら、目の前にそびえる巨大な山を見上げた。
山腹には、明らかに自然のものではない巨大な門が口を開けている。
雪原の大迷宮。
これまでの大迷宮とは比較にならないほど過酷な環境に築かれた、最後の大迷宮だった。
「うぅ……寒いですぅ……! ハジメさん、早く中に入りましょうよぉ!」
白い息を吐きながら、シアがハジメの腕にしがみつく。
「シア、近い」
「だって寒いんですもん! うさ耳が凍っちゃいます!」
「耳だけじゃなくて、頭の中まで凍ってくれれば少しは静かになるかもな」
「ひどっ!?」
いつものやり取りに、ユエが小さく笑った。
「……シア、ずるい。私も寒い」
そう言いながら、ユエは当然のようにハジメの反対側へ回り、その腕を抱きしめる。
「お前らな……」
「ハジメ、温かい」
「そうですよ! ハジメさんは人間湯たんぽです!」
「誰が湯たんぽだ」
文句を言いながらも、ハジメは二人を振り払わなかった。
少し離れた場所では、ティオが感慨深げに雪原を眺めていた。
「ふむ……これが最後の大迷宮か。妾たちも、随分と遠くまで来たものじゃのう」
「ここまで来るのに、いろいろあったからね」
香織が微笑む。
かつての自分を失い、別の身体で再び歩き始めた彼女にとっても、ここまでの旅路は決して平坦なものではなかった。
その隣には、ブラックバードを降りた雫が立っている。
黒い翼を思わせるデザインのD・ホイールを見回し、彼女は雪原の奥へと視線を向けた。
「ここを攻略すれば、残る大迷宮はなくなるのよね」
「そういうことだ。もっとも、ここが最後だからといって、簡単に終わるとは思ってねぇけどな」
ハジメは肩をすくめる。
その背後では、光輝、龍太郎、鈴、そして清水が、それぞれ防寒具を整えていた。
龍太郎は腰に装着したデッキケースを確かめる。
そこに入っているのは、ハジメから借り受けた城之内克也を思わせるギャンブルデッキだ。
「よし……今回は前より絶対に役に立ってみせるぜ!」
「気合いが入っているのは結構だが、突っ込みすぎるなよ」
「わかってるって、ハジメ!」
「その返事をする奴ほど信用できねぇんだよな……」
「おいっ!?」
軽口を交わしながらも、ハジメの視線は大迷宮の入口から離れなかった。
これまでの迷宮は、いずれも攻略者の覚悟や実力を試してきた。
ならば、この最後の大迷宮が試すものは何なのか。
そして、自分たちは何を突きつけられることになるのか。
その答えは、まだ誰にもわからなかった。
◇
「突入する前に、確認しておくことがある」
ハジメは一同を集め、腰のデッキケースとは別に持っていた金属製の保管箱を取り出した。
「今までの迷宮と同じとは限らねぇ。魔物への対処はもちろん、幻覚や精神干渉にも警戒しておけ。誰かとはぐれた場合、無理に合流しようとして被害を広げるな。自分の身を守ることを優先しろ」
「でも、仲間が危険な目に遭っていたら……」
光輝が言いかける。
「その仲間を助けるために、お前が倒れたらどうする?」
「……っ」
「助けたいなら、まず自分が生き残れ。誰かを救うのは、その後だ」
ハジメの言葉に、光輝は唇を引き結んだ。
以前なら反発していたかもしれない。しかし、これまでの旅で何度も現実を突きつけられてきた彼は、黙ってうなずいた。
「それで、だ」
ハジメは保管箱の蓋を開いた。
中には、彼がこれまでの旅で集め、保管してきた複数のデッキが収められている。
E・HERO、スターダスト、ジャンク、そしてその他にも、異世界へ来る前から愛用していたものや、必要に応じて組み上げたものがあった。
「今回、どのデッキを使うことになるかはわからねぇ。状況によっては、別のデッキを使う必要も出てくる。だから、こいつらも持っていく」
そのときだった。
――カタッ。
保管箱の中で、カードケースがひとつ震えた。
「ん?」
ハジメが目を向けた直後、別のケースが浮き上がった。
次いで、もうひとつ。
さらにもうひとつ。
「おい……?」
複数のデッキケースが、まるで見えない手に引き寄せられたかのように保管箱から飛び出した。
「な、なんですか!?」
シアが目を丸くする。
ケースは地面に落ちることなく、雪原の上を滑るように飛んでいった。
向かう先は、雪原の大迷宮。
「待て!」
ハジメが手を伸ばしたが、間に合わない。
デッキケースは巨大な門の奥へ吸い込まれるように消えていった。
その直後、保管箱の中から最後のケースが飛び出す。
それは、ハジメが普段から使用しているスターダストデッキの予備ケースだった。
「チッ!」
ハジメは跳躍し、空中でケースをつかみ取った。
だが、残りのデッキはすでに入口の向こうへ消えている。
「何が起きたの……?」
香織が不安げに呟いた。
「……わからねぇ」
ハジメはケースを握りしめ、目を細める。
迷宮がカードを選んだのか。
それとも、カードの中に宿る何かが、迷宮へ引き寄せられたのか。
どちらにしても、偶然で片づけるには不自然すぎた。
「ハジメ、嫌な感じがする」
ユエが真剣な表情で言う。
「ああ。俺もだ」
ハジメは保管箱を閉じた。
「だが、ここまで来て引き返すわけにもいかねぇ。飛んでいったデッキも回収する。全員、気を引き締めろ」
そして、一同は大迷宮の門をくぐった。
◇
内部へ足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような冷気が消えた。
代わりに広がっていたのは、薄暗い岩壁と、氷の結晶が天井から垂れ下がる巨大な洞窟だった。
外の吹雪が嘘のように静かだ。
しかし、その静寂がかえって不気味さを際立たせている。
「……妙だな」
ハジメは足元の雪を踏みしめた。
迷宮の内部だというのに、足場には薄く雪が積もっている。壁面の氷は青白く輝き、遠くには複雑に分岐した通路が見えた。
「魔力の流れも、少しおかしいわ」
ユエが周囲を探る。
「外から感じていた魔力が、ここに入ってから途切れ途切れになっている。まるで、何かが迷宮の中を覆っているみたい」
「精神干渉の類いかもしれないな」
ハジメは警戒を強めた。
その直後。
――グルルルル……。
闇の奥から、獣の唸り声が響いた。
「来るぞ!」
ハジメの叫びと同時に、氷の陰から複数の魔物が飛び出した。
白い毛皮に覆われた狼型の魔物。鋭い角を持つ氷獣。さらに、氷の塊そのものが動き出したかのような魔物までいる。
その数は、十や二十ではきかない。
「数が多い!」
雫が腰を落とし、ブラックウィングのデッキに手をかける。
「全員、隊列を崩すな!」
ハジメはデュエルディスクを展開した。
銃声が洞窟に反響する。
魔物の先頭を吹き飛ばし、突進してきた氷獣の脚を撃ち抜く。だが、後続の魔物たちは仲間の死骸を踏み越えて迫ってきた。
「シア、右を頼む!」
「任せてください!」
シアは巨大なハンマーを振り抜き、氷獣をまとめて吹き飛ばした。
「ユエ!」
「ん」
ユエの魔法が炸裂し、天井から伸びる氷柱が魔物の進路を塞ぐ。続けざまに放たれた雷撃が、氷の身体を持つ魔物たちを貫いた。
「妾も負けてはいられぬのう!」
ティオが竜化した腕を振るい、黒い炎を吐き出す。炎は魔物の群れを飲み込み、洞窟の壁を赤黒く照らした。
香織は古代妖精竜の力を思わせる魔力を展開し、仲間の傷を癒やしながら後方を支援する。
清水はインフェルニティのカードを構え、鈴や光輝たちと連携して、包囲を突破しようとしていた。
「今だ、龍太郎!」
「おうっ!」
龍太郎はデッキからカードを引き抜き、魔物の突進をぎりぎりでかわす。
まだ動きには粗さがある。だが、以前のように何をすればいいのかわからず立ち尽くすことはなかった。
攻撃を誘い、隙を見つけ、仲間が動ける空間を作る。
借り物のデッキで学び始めた戦い方が、実戦にも少しずつ生かされていた。
やがて、最後の魔物が倒れる。
「……ふう。第一波は片づいたか」
ハジメは銃を下ろした。
しかし、安堵する暇はなかった。
――弱い。
不意に、誰かの声が聞こえた。
耳から入った音ではない。
頭の奥に直接響く、冷たい囁きだった。
――お前たちは、弱い。
「……!」
ハジメは目を細める。
周囲を見回しても、誰も口を開いていない。
それなのに、囁きは止まらなかった。
――何度も仲間を危険にさらした。
――何度も救えなかった。
――それでも、お前は先へ進むのか。
「ハジメ?」
ユエが顔を上げる。
「今、何か聞こえなかったか?」
「……声?」
「そうだ。頭の中に直接響くような……」
ハジメが言いかけた、そのときだった。
洞窟全体が、低く唸った。
壁の氷が一斉に輝き、通路の奥から黒い霧が流れ込んでくる。
「全員、警戒しろ!」
ハジメの声が響いた。
だが、黒い霧は床を這い、彼らの足元へまとわりつく。
次の瞬間、視界が歪んだ。
「ハジメ!」
ユエの声が遠ざかる。
「ユエ! シア!」
手を伸ばす。
しかし、指先は誰にも触れなかった。
視界を埋め尽くした白い光が消えたとき、ハジメはひとり、見覚えのある場所に立っていた。
◇
そこは、雪原の大迷宮のはずだった。
しかし、壁も天井もない。
足元に広がっているのは、夜のように黒い水面。
頭上には、星のない空。
そして、目の前には――もうひとりの自分がいた。
黒いコート。
機械仕掛けの義手。
左目を覆う眼帯。
何もかもが、ハジメ自身と同じだった。
ただひとつ違うのは、その男の左目から、眼帯越しに赤黒い光が漏れていること。
「……なるほど。そういう趣向か」
ハジメはデュエルディスクを構えた。
「精神干渉で幻を見せるだけじゃなく、俺自身の姿を使って心を折ろうってわけだ」
「幻、か」
虚像が笑った。
声も、表情も、ハジメそのもの。
「そう思いたいなら、それでもいい」
「回りくどいことを。用件を言え」
「お前は、何のために戦っている?」
虚像は答えず、逆に問いかけた。
「元の世界に帰るためか。仲間を守るためか。それとも、赤き竜に選ばれたからか」
「……全部だと言ったら?」
「欲張りだな」
虚像が一歩踏み出す。
「お前は、異世界に来る前から決闘者だった。カードの知識も、アニメの知識も持っている。だから、この世界でカードが力を持ったとき、自分なら戦えると思った」
「……」
「スターダスト・ドラゴン。ジャンク・シンクロン。アクセルシンクロ。クリアマインド。お前は知っている。どんなカードが、どんな場面で輝くのか。どんな決闘者が、どんな言葉を口にするのか」
虚像は嘲笑した。
「だが、それは本当にお前の力なのか?」
黒い水面に波紋が広がる。
「所詮、アニメの真似事だ」
その一言が、ハジメの胸に突き刺さった。
「お前は、画面の向こうにいた決闘者たちの言葉を借りているだけだ。遊星の戦い方をなぞり、遊星の台詞を思い出し、遊星が乗り越えた壁を自分のものだと思い込んでいる」
「……」
「赤き竜に選ばれた? 笑わせるな。お前が本当に選ばれた人間なら、もっと多くの人間を救えたはずだ」
虚像の背後に、黒い影が浮かび上がる。
救えなかった人々。
届かなかった手。
間に合わなかった瞬間。
ハジメがこれまでの旅で見てきた光景が、ひとつ、またひとつと形を取っていく。
「お前は、力を得たから生き延びた。それだけだ」
「……黙れ」
「違うと言うのか?」
虚像がデュエルディスクを展開した。
「なら、決闘で証明してみろ。お前のスターダストが、ただの借り物ではないということを」
ハジメは小さく息を吐いた。
「いいぜ」
自分の声が、思いのほか静かに響く。
「お前が俺の弱さを映した幻だろうが、迷宮が作った偽物だろうが関係ねぇ」
ハジメはデッキを抜き、デュエルディスクに装填した。
「俺の前に立つなら、叩き潰す。それだけだ」
虚像もまた、デッキを装填する。
その瞬間、黒い水面が円形に広がり、二人を囲む決闘の舞台が形成された。
「デュエル!」
◇
「俺の先攻だ」
虚像がカードを引く。
「俺は《ジャンク・シンクロン》を召喚!」
現れたのは、スクラップを身にまとった小柄な機械戦士。
「《ジャンク・シンクロン》の召喚成功時、墓地のレベル2以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚する! 蘇れ、《スピード・ウォリアー》!」
小さな戦士が、地面を蹴って姿を現す。
「さらに、手札から《ボルト・ヘッジホッグ》を墓地へ送る!」
機械仕掛けのハリネズミが墓地へ落ちた。
「フィールドにチューナーが存在し、俺のフィールドにモンスターがいない場合、墓地の《ボルト・ヘッジホッグ》は特殊召喚できる!」
電気をまとったハリネズミが、墓地から飛び出した。
「レベル3の《ジャンク・シンクロン》に、レベル2の《スピード・ウォリアー》とレベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》をチューニング!」
三体のモンスターが光へと変わり、星の輪を描く。
「集いし星が、新たな力を呼び起こす! シンクロ召喚!」
光の中から、黒と銀の装甲をまとった戦士が現れた。
「現れろ、《ジャンク・ウォリアー》!」
虚像はさらにカードを一枚セットした。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド」
ハジメはその盤面を見据えた。
使っているのは、彼自身のスターダストデッキと同じ系統のカード。
だが、動きに迷いがない。
カードの効果を熟知しているだけではない。ハジメが何度も繰り返してきた展開を、寸分違わず再現している。
「……俺のターン」
ハジメはカードを引いた。
「俺は《ジャンク・シンクロン》を召喚! 効果で墓地の《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」
ハジメのフィールドにも、同じ二体が並ぶ。
「さらに、手札から《ドッペル・ウォリアー》を特殊召喚!」
ジャンク・シンクロンの効果によって墓地からモンスターが特殊召喚されたことを受け、ドッペル・ウォリアーが手札から姿を現した。
「レベル3の《ジャンク・シンクロン》に、レベル2の《スピード・ウォリアー》をチューニング!」
星の輪が広がり、ジャンク・ウォリアーが現れる。
「シンクロ召喚! 《ジャンク・ウォリアー》!」
さらに、ドッペル・ウォリアーの効果でドッペル・トークンが二体生み出された。
「俺は《ジャンク・ウォリアー》とドッペル・トークンを使い、次のシンクロ召喚へつなぐ!」
ハジメは墓地から別のカードを取り出し、展開を続ける。
互いに同じデッキを使っている。
それでも、ハジメは自分なりの手順を選び、場を組み立てていった。
だが、虚像はその一手一手を、まるで先読みしているかのように受け止める。
「その程度か?」
虚像が伏せカードを表にした。
「罠カード《シンクロ・バリア》! このターン、シンクロモンスターが戦闘で破壊される場合、その破壊を無効にする!」
「チッ……!」
「お前の戦術は、知っている。何を狙い、何を切り札にするか。すべてな」
ハジメは舌打ちしながらも、手札を確認する。
まだ、ここで決着をつけるつもりはなかった。
「ターンエンドだ」
「なら、次は俺の番だ」
虚像はカードを引いた。
「俺は《ジャンク・シンクロン》を召喚! 墓地の《スピード・ウォリアー》を特殊召喚!」
同じ展開。
しかし、虚像の動きはさらに速かった。
「レベル3の《ジャンク・シンクロン》に、レベル2の《スピード・ウォリアー》をチューニング!」
シンクロ召喚されたのは、《ジャンク・ウォリアー》。
さらに、虚像は手札から別のモンスターを特殊召喚し、レベルを調整していく。
「レベル2のチューナーと、レベル5のシンクロモンスターをチューニング!」
星の輪が重なり、眩い光が虚像のフィールドを覆った。
「集いし星が、加速する魂を呼び覚ます! 光差す道となれ! アクセルシンクロ!」
光の中から現れたのは、鋼の鎧をまとった戦士。
背中には巨大な推進機構。両腕には、星の力を圧縮した刃が備わっている。
「シンクロ召喚! 《スターダスト・ウォリアー》!」
レベル10のシンクロモンスター。
スターダストの力を受け継いだ、戦士の姿だった。
「《スターダスト・ウォリアー》の効果発動!」
虚像の声が響く。
「相手がモンスターを特殊召喚しようとしたとき、このカードをリリースすることで、その特殊召喚を無効にし、モンスターを破壊する!」
虚像はさらに一枚、カードを伏せた。
「これで、お前の展開は止まる」
ハジメはスターダスト・ウォリアーを見つめた。
そのカードは、彼も知っている。
シンクロ召喚を軸とするデッキにおいて、相手の展開を止める強力な切り札。
そして、虚像はそのカードを、ハジメが最も嫌がるタイミングで使うつもりなのだ。
「どうした?」
虚像が笑う。
「お前の知識なら、対処法も知っているはずだろう?」
「……」
「だが、知っていることと、実際にできることは違う。アニメの決闘者たちは、いつだって都合よく新しい力を手に入れた。お前もそうなると思っているのか?」
ハジメは答えなかった。
ただ、手札を握りしめる。
その指先に、わずかな力がこもった。
◇
決闘は続いた。
虚像はスターダスト・ウォリアーを軸に、シンクロモンスターを次々と展開する。
ハジメが特殊召喚を狙えば、スターダスト・ウォリアーの効果で妨害する。
その効果を使わせようとすれば、伏せカードが立ちはだかる。
ハジメが戦闘で突破しようとしても、虚像は戦闘破壊を防ぎ、次のターンにはさらに強力なシンクロモンスターを呼び出した。
「くっ……!」
ハジメの場にいたモンスターが、次々と破壊されていく。
「どうした、ハジメ?」
虚像の声が響いた。
「お前はもっと知っているはずだ。もっと強いカードも、もっと強い戦術も、知っているはずだろう?」
「……」
「それなのに、なぜ勝てない?」
虚像は、ハジメの眼帯を指差した。
「力を得た代償に、目を失った。大切な仲間を何度も危険にさらした。それでも、お前は自分が選ばれた人間だと思っている」
「黙れ」
「赤き竜の使徒? その名前が、お前を特別な存在にしてくれるのか?」
黒い水面に、仲間たちの姿が浮かび上がる。
ユエ。
シア。
ティオ。
香織。
雫。
清水。
光輝、鈴、龍太郎。
彼らが苦しむ姿が、次々と映し出される。
「お前が守ると言った仲間たちだ。だが、彼らが傷つくたび、お前は何をしてきた?」
「……!」
「自分だけが強くなればいい。自分だけが戦えばいい。そう考えていたから、誰もお前と同じ場所には立てなかったんじゃないのか?」
ハジメの手が止まる。
その一瞬を、虚像は逃さなかった。
「バトル!」
スターダスト・ウォリアーが突撃する。
「《スターダスト・ウォリアー》で攻撃!」
鋼の戦士が星の光をまとい、ハジメのモンスターを撃破した。
衝撃が走る。
ハジメは片膝をつき、床を滑った。
「どうした? 立てよ」
虚像が見下ろす。
「お前は、ただのカードゲーム好きだったはずだ。アニメを見て、カードを集めて、好きな決闘者に憧れていただけの人間だろう?」
「……」
「それが異世界に来た途端、自分は物語の主人公になったつもりか?」
虚像は嘲笑した。
「所詮、アニメの真似事だ」
その言葉が、再びハジメの心を揺さぶる。
自分が戦ってきた理由。
自分が選んできたカード。
自分が口にしてきた言葉。
そのすべてが、誰かの真似事にすぎないのだとしたら。
自分が知っている物語をなぞっているだけだとしたら。
赤き竜が自分を選んだのも、何かの間違いなのだとしたら。
自分は本当に、ここにいる意味があるのだろうか。
「……違う」
ハジメが、かすれた声で呟いた。
「何?」
「……違うって言ってんだよ」
ゆっくりと立ち上がる。
その顔には、まだ迷いが残っていた。
だが、目の奥に宿る光は消えていなかった。
「確かに、俺は遊星の戦い方を知っている。カードの効果も、アニメの展開も、知っている。お前の言うとおり、俺が使っている技術の多くは、元の世界で見たものだ」
「ならば――」
「だがな」
ハジメは虚像を見据えた。
「知っているだけで、ここまで生き残れるほど、この世界は甘くねぇ」
銃弾を浴び、魔物に襲われ、何度も死にかけた。
そのたびに、彼は自分で考え、自分で選び、自分で戦ってきた。
カードの効果を知っているからといって、勝利が保証されるわけではない。
知識を現実の力に変えられるかどうかは、本人次第だ。
「俺は遊星じゃねぇ。お前の言うとおり、あいつの真似をしたって、あいつそのものにはなれねぇ」
ハジメはカードを一枚、デュエルディスクに差し込んだ。
「だが、俺は俺だ」
声に力が戻る。
「俺が選んだカードで、俺が積み重ねた経験で、俺が守りたいもののために戦う。それの何が悪い?」
「……!」
「赤き竜に選ばれたことが、俺のすべてじゃねぇ。俺が何をするかは、俺自身が決める!」
ハジメの言葉に応えるように、デュエルディスクの紋章が赤く輝いた。
遠くから、竜の咆哮のような音が響く。
黒い空に、赤い光が走った。
「俺のターンだ!」
ハジメはカードを引いた。
「俺は墓地の《ボルト・ヘッジホッグ》の効果を発動! フィールドにチューナーが存在し、俺のフィールドに他のモンスターがいない場合、墓地から特殊召喚する!」
電気をまとったハリネズミが、再び姿を現した。
「さらに、手札から《ソニック・ウォリアー》を召喚!」
風を切るような音とともに、小柄な戦士が現れる。
「レベル2の《ボルト・ヘッジホッグ》に、レベル2の《ソニック・ウォリアー》をチューニング!」
二体のモンスターが光へと変わり、星の輪を描いた。
「シンクロ召喚! 《フォーミュラ・シンクロン》!」
小型のシンクロモンスターが姿を現す。
「《フォーミュラ・シンクロン》のシンクロ召喚に成功したことで、カードを1枚ドロー!」
ハジメはカードを引き、手札に加えた。
「そして、俺は《フォーミュラ・シンクロン》の効果を発動! 相手のメインフェイズにもシンクロ召喚を行える!」
「何をするつもりだ?」
「決まってんだろ」
ハジメは墓地のカードを確認した。
「俺はフィールドの《フォーミュラ・シンクロン》と、墓地から蘇生した《ジャンク・ウォリアー》を使い、さらなるシンクロ召喚へつなぐ!」
星の光が渦を巻く。
だが、虚像は即座に反応した。
「《スターダスト・ウォリアー》の効果発動! 特殊召喚を無効にし、破壊する!」
虚像は自身をリリースしようとした。
その瞬間、ハジメは別のカードを掲げた。
「その効果にチェーンして、速攻魔法《シンクロ・チェイス》! このターン、シンクロ召喚されたモンスターが効果で破壊された場合、墓地から素材に使用したモンスターを特殊召喚する!」
虚像の目が見開かれた。
「何っ!?」
「さらに、俺はこの効果で《スターダスト・ウォリアー》の妨害を使わせた! これで、お前の切り札は一度フィールドを離れる!」
スターダスト・ウォリアーが光となって消えた。
ハジメはその隙を逃さなかった。
「行くぜ!」
新たな光が、黒い水面を照らす。
「集いし星が、加速する魂を呼び覚ます! 光差す道となれ!」
ハジメの声が、迷宮の闇を貫いた。
「アクセルシンクロ!」
星の輪が重なり、巨大な光の柱が立ち上がる。
「シンクロ召喚! 現れろ、《シューティング・スター・ドラゴン》!」
流星のような光をまとった竜が、雄大な翼を広げた。
だが、虚像は笑った。
「それで終わりか? お前が知っている最強のカードを出せば、俺に勝てるとでも?」
「まだだ」
ハジメは首を振った。
「こいつは、始まりにすぎねぇ」
◇
虚像は再びデュエルディスクを構えた。
「俺のターン!」
墓地から《スターダスト・ウォリアー》が蘇る。
さらに、虚像は別のシンクロモンスターを展開し、ハジメのシューティング・スター・ドラゴンを包囲した。
「お前の切り札を封じる!」
虚像のモンスターが一斉に攻撃態勢に入る。
シューティング・スター・ドラゴンは、その攻撃を受け止めた。
だが、連続する攻撃の衝撃に、翼が大きく揺らぐ。
「どうした、ハジメ!」
虚像の声が響く。
「アクセルシンクロを使っても、まだ足りない! お前は遊星の力を借りても、遊星を超えられない!」
ハジメは、静かにカードを握った。
確かに、目の前の虚像は強い。
カードの組み合わせも、展開も、妨害のタイミングも、すべてハジメ自身の知識をなぞっている。
自分が知るスターダストデッキの戦術を、最も効率よく使う存在。
それが、この虚像だった。
ならば、同じ戦術を繰り返すだけでは勝てない。
必要なのは、カードを知っているだけではない。
カードに託した思いを、現実の力に変えること。
ハジメは、自分のデッキを見下ろした。
そこには、スターダスト・ドラゴンだけではなく、数えきれないほどの仲間たちがいた。
小さな機械戦士。
走り続ける戦士。
道を切り開く小さな鳥。
電気をまとったハリネズミ。
音速で走る戦士。
彼らは決して、最初から強かったわけではない。
何度も倒され、何度も立ち上がり、仲間と力を合わせて進んできた。
それは、ハジメ自身の旅路にも重なる。
「……そうか」
ハジメの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
「お前は、カードの効果を知っている。俺の戦術も知っている。だが、ひとつだけ知らねぇことがある」
「何だと?」
「俺が、このカードたちと一緒に何を乗り越えてきたかだ」
ハジメはカードを一枚引き抜いた。
その瞬間、カードの表面に赤い光が走る。
《スピード・ウォリアー》。
ハジメが何度も使ってきた、小さな戦士。
そのカードが、今までにない輝きを放っていた。
「……カードが、変わっている?」
虚像が目を見開く。
ハジメのデッキの中で、複数のカードが光り始めた。
《ロードランナー》。
《ボルト・ヘッジホッグ》。
《ソニック・ウォリアー》。
さらに、ほかの仲間たちのカードも、赤き竜の紋章に呼応するように輝きを増していく。
カードのイラストが、ゆっくりと変化していった。
「これは……」
ハジメは、カードに宿る新たな力を感じ取った。
ただ攻撃力や守備力が上がったわけではない。
それぞれのカードが、これまでの姿を越え、新たな役割を得ようとしている。
「そうか……お前たちも、まだ進化できるんだな」
ハジメはカードをデュエルディスクに置いた。
「俺は《スピード・ウォリアー》の進化形、《フルスピード・ウォリアー》を手札に加える!」
カードから光があふれた。
現れたのは、全身に流線型の装甲をまとい、背中に加速機構を備えた戦士だった。
「《フルスピード・ウォリアー》は、召喚・特殊召喚に成功したとき、フィールドの戦士族モンスター1体の攻撃力をこのターン倍にする! 俺は自身を対象にする!」
フルスピード・ウォリアーの身体が光に包まれる。
「さらに、バトルフェイズ中、このカードが攻撃する場合、相手モンスターの効果による攻撃力上昇を無視して戦闘を行う!」
虚像の表情が険しくなった。
「攻撃力を上げるだけでは、俺の場は突破できない!」
「なら、次だ!」
ハジメは二枚目のカードを掲げる。
「《ロードランナー》の進化形、《クロスロードランナー》!」
小さな鳥型モンスターが、二本の光の翼を広げた。
「《クロスロードランナー》は、相手モンスターの攻撃宣言時に手札から特殊召喚できる! 特殊召喚に成功した場合、その攻撃対象をこのカードに変更する!」
クロスロードランナーが空中を駆け、シューティング・スター・ドラゴンの前に立ちはだかる。
「さらに、戦闘で破壊された場合、デッキからレベル2以下のチューナー1体を手札に加える!」
小さな鳥は、仲間を守るために自ら攻撃を受け止める。
虚像の攻撃が逸れ、シューティング・スター・ドラゴンへの直撃を免れた。
「馬鹿な……!」
「まだ終わらねぇ!」
ハジメは三枚目のカードを掲げた。
「《ボルト・ヘッジホッグ》の進化形、《アンカーボルト・ヘッジホッグ》!」
電気をまとったハリネズミが、巨大なアンカー状の装甲を背負って現れる。
「このカードが墓地に存在し、俺のフィールドにチューナーがいる場合、墓地から特殊召喚できる! そして、特殊召喚に成功したとき、相手フィールドの表側表示モンスター1体の効果をターン終了時まで無効にする!」
アンカーボルト・ヘッジホッグの背中から電撃が走り、虚像のモンスターを拘束した。
「くっ……!」
「さらに、シンクロ素材として墓地へ送られた場合、墓地のレベル2以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚できる!」
アンカーボルト・ヘッジホッグが光となって消える。
その光の中から、再び仲間が立ち上がった。
ハジメの展開が、少しずつつながっていく。
最後に、ハジメは四枚目のカードを取り出した。
「そして、《ソニック・ウォリアー》の進化形……《バスター・ソニック・ウォリアー》!」
音速の戦士が、赤と銀の装甲をまとって姿を現した。
背中のブースターが点火し、周囲の空気が震える。
「《バスター・ソニック・ウォリアー》は、自分フィールドのモンスターが戦闘を行う場合、そのモンスターの攻撃力をバトルフェイズ終了時まで800ポイントアップさせる! さらに、1ターンに1度、墓地の戦士族モンスター1体を除外することで、相手フィールドのカード1枚を破壊できる!」
「そんなカード……俺の知識にはない!」
「当たり前だ」
ハジメは不敵に笑った。
「こいつらは、俺がここで手に入れた力だ。アニメの中にも、過去のカードプールにも存在しなかった。俺たちが進んできたからこそ、生まれた力だ!」
赤き竜の紋章が、さらに強く輝いた。
虚像は初めて、後ずさった。
「あり得ない……!」
「あり得るかどうかなんて、関係ねぇ」
ハジメはシューティング・スター・ドラゴンを見上げた。
「俺は、もう一度加速する」
◇
「俺は《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を発動!」
ハジメの声が響いた。
「デッキの上からカードを5枚めくり、その中のチューナーの数だけ攻撃できる!」
デッキからカードがめくられる。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
五枚。
その中には、チューナーが三体。
「よって、シューティング・スター・ドラゴンはこのターン、3回まで攻撃できる!」
竜の翼が大きく広がった。
「さらに、《フルスピード・ウォリアー》の効果で攻撃力を倍にし、《バスター・ソニック・ウォリアー》の効果で戦闘時の攻撃力を上げる!」
虚像のモンスターたちが、次々と撃破されていく。
しかし、虚像も黙ってはいなかった。
「罠カード発動! 《シンクロ・バリア》! このターン、シンクロモンスターが戦闘で破壊される場合、その破壊を無効にする!」
ハジメの攻撃が止められる。
虚像は息を整え、笑みを取り戻した。
「新しいカードを手に入れたところで、結局は同じだ。お前は、俺を倒せない!」
「……いや」
ハジメは首を振った。
「ここからだ」
彼は、手札に残っていた最後のカードを掲げた。
「俺は墓地の《アンカーボルト・ヘッジホッグ》と、《バスター・ソニック・ウォリアー》の効果で墓地へ送られた仲間たちを使い、シンクロ召喚の準備を整える!」
虚像が目を見開く。
「まだシンクロ召喚をするつもりか!?」
「もちろんだ」
ハジメはシューティング・スター・ドラゴンを見上げた。
「お前は、俺がアクセルシンクロを使えば勝てると思っていた。だが、俺が本当に目指しているのは、その先だ」
黒い空に、赤い竜の紋章が浮かび上がる。
「アクセルシンクロのさらに先……デルタアクセルシンクロ!」
ハジメの声が、世界そのものを震わせた。
「俺はフィールドのシンクロモンスター三体を、さらなる進化の素材とする!」
シューティング・スター・ドラゴンを含む三体のシンクロモンスターが、星の光へと変わる。
星の輪が三つ重なり、巨大な光の門を形作った。
「集いし星が、ひとつの奇跡を呼び起こす!」
光が収束する。
「光差す道となれ! デルタアクセルシンクロ!」
赤き竜の咆哮が響き渡った。
「シンクロ召喚! 《シューティング・クェーサー・ドラゴン》!」
星々を束ねた光の中から、巨大な竜が姿を現した。
全身を覆う装甲は、まるで宇宙そのものをまとったかのように輝いている。
六枚の翼が広がり、星の光が黒い水面を照らした。
その姿を見た瞬間、虚像の顔から笑みが消えた。
「……そんな、馬鹿な」
「お前は言ったな。俺はアニメの真似事をしているだけだと」
ハジメは、クェーサー・ドラゴンを見上げた。
「確かに、俺は遊星に憧れた。あいつの戦い方を学び、あいつのカードを使ってきた」
クェーサー・ドラゴンが、低く咆哮する。
「だが、今ここにいるのは不動遊星じゃない。南雲ハジメだ」
ハジメは虚像を見据えた。
「俺は俺のやり方で、この世界を生き抜く。仲間を守る。元の世界に帰る。そして、赤き竜に選ばれた者として、果たすべき責務を果たす!」
虚像は歯を食いしばった。
「認めない……! そんなものは、ただの都合のいい奇跡だ!」
「なら、最後まで見ていけ」
ハジメは右手を振り上げた。
「《シューティング・クェーサー・ドラゴン》の効果発動! このカードは、シンクロ素材にしたシンクロモンスターの数まで攻撃できる!」
星の竜が翼を広げる。
「そして、1ターンに1度、相手がカードの効果を発動したとき、その発動を無効にして破壊できる!」
虚像が最後の伏せカードを発動しようとする。
しかし、クェーサー・ドラゴンの翼が輝いた瞬間、その効果は無効化された。
「なっ……!」
「これで終わりだ!」
ハジメの声が響き渡る。
「攻撃! シューティング・クェーサー・ドラゴン!」
星の竜が突撃した。
その一撃は、虚像のモンスターをまとめて貫き、黒い水面を光で塗りつぶす。
「ぐああああああっ!」
虚像の身体に亀裂が走った。
その亀裂から、黒い霧が噴き出していく。
「俺は……俺は、お前自身だぞ……!」
虚像が叫ぶ。
「お前の弱さだ! お前の迷いだ! お前が認めたくない自分自身だ!」
「……ああ、そうだろうな」
ハジメは静かに答えた。
「俺は弱い。迷うこともある。救えなかった奴もいる。これからだって、すべてを救えるとは限らねぇ」
彼は一歩、前に出た。
「それでも、俺は進む」
クェーサー・ドラゴンが、最後の光を放つ。
「仲間と一緒に、俺自身の意志でな!」
星の光が、虚像を飲み込んだ。
黒い水面が砕け散り、空が裂ける。
虚像は最後まで何かを叫んでいたが、その声は光の中へ消えていった。
そして、ハジメの視界が白く染まった。
◇
目を覚ますと静寂だった。
「勝ったんだな…」
ハジメは小さく呟き周囲を見回した。
通路の奥には、先ほどまで存在しなかった扉が開いている。
その向こうから、複数のデッキケースが静かに浮かび上がってきた。
ハジメが手を伸ばすと、ケースはひとつずつ彼の手元へ降りてくる。
保管箱から飛び出していったデッキの一つが戻ってきたようだった。
ただし、それぞれのケースの表面には、見覚えのない赤い紋章が刻まれている。
「……やっぱり、偶然じゃなかったか」
ハジメはケースを確かめた。
そのうちのひとつを開く。
中のカードは、先ほど虚像との決闘で見たものと同じように、いくつかのイラストが変化していた。
《フルスピード・ウォリアー》。
《クロスロードランナー》。
《アンカーボルト・ヘッジホッグ》。
《バスター・ソニック・ウォリアー》。
そして、最後の一枚。
《シューティング・クェーサー・ドラゴン》。
ハジメは、そのカードをしばらく見つめた。
「……お前たちも、俺と一緒に先へ進むってことか」
カードは、何も答えない。
だが、表面に宿る赤い光は、確かにハジメの言葉に呼応しているように見えた。
「うかうかしてられねぇ。皆も戦ってるはずだ」
ハジメ重くなった体に鞭を打ち歩き出した。
雪原の大迷宮は、まだ本当の姿を見せていない。
彼らを待つのは、さらなる魔物との戦いか。
それとも、心の奥に封じてきた過去との対峙か。
答えは、迷宮のさらに深い場所にある。
赤き竜の使徒たちは、白銀の闇へと足を踏み入れた。
その先で待ち受けるものが、たとえ自分自身の姿をしていたとしても。
彼らは、もう立ち止まらない。