「ありふれた遊戯王で世界最強」   作:武藤 桜

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第三十五話「四つの竜、目覚める魂――雪原に響くシグナーの鼓動」

雪原の大迷宮。

 

白銀の吹雪が吹き荒れる通路で、ユエはたった一人、足を止めていた。

 

先ほどまで隣にいたはずのハジメも、シアも、ティオも、香織もいない。

 

仲間の気配は完全に消えていた。

 

「……転移させられた、ということね」

 

ユエは周囲を見回した。

 

迷宮に入った直後、ハジメのデッキ収納箱から飛び出したカードたち。その不可解な現象を思い返す。あのカードたちが何らかの役割を果たしているのは間違いない。

 

そして今、彼女の目の前にあるのは、果てしなく続く雪原だけだった。

 

「ハジメ……」

 

小さく呟いた、そのとき。

 

「探しても無駄よ」

 

背後から、聞き慣れた声がした。

 

ユエが振り返る。

 

そこに立っていたのは――もう一人のユエだった。

 

同じ金髪。同じ赤い瞳。同じ顔立ち。

 

ただし、その表情には、普段のユエがハジメに向ける柔らかな愛情も、シアたちに見せる親しみもなかった。

 

冷たく、嘲るような笑み。

 

「……あなたは、私?」

 

「そう。あなたの心の奥底にあるものを映した、もう一人のあなた」

 

虚像は手にしたデッキを掲げた。

 

「あなたはハジメがいなければ何もできない。ハジメがそばにいるから強くなれたと思い込んでいるだけ。彼がいなくなれば、あなたはまた孤独な吸血鬼に戻る」

 

「……違う」

 

「本当に?」

 

虚像の赤い瞳が細められる。

 

「ハジメに救われた。ハジメに生きる意味を与えられた。ハジメに愛されている。あなたが今の自分を誇れる理由は、全部ハジメのおかげ。なら、彼がいなくなったら? あなたには何が残るの?」

 

ユエは答えなかった。

 

否定したい言葉だった。

 

だが、胸の奥に突き刺さるものがあった。

 

かつて、暗闇の中で長い年月を過ごした自分。誰も信じず、誰にも心を開かず、ただ生き延びることだけを考えていた自分。

 

そんな自分を変えたのが、ハジメだった。

 

だからこそ、彼を失うことが怖い。

 

「……私は」

 

「さあ、決闘を始めましょう。あなたがどれだけハジメに依存しているのか、証明してあげる」

 

虚像がデュエルディスクを構えた。

 

ユエもまた、静かにデッキをセットする。

 

「いいわ。あなたが私の虚像だというなら……私自身の手で、あなたを否定する」

 

二人のデュエルが始まった。

「私のターン!」

 

虚像のユエはカードを引くと、間髪入れずに手札からモンスターを召喚した。

 

「私は《イービル・ソーン》を召喚! さらに、その効果を発動!」

 

小さな棘の怪物が、雪の上に根を張る。

 

「このカードをリリースし、相手にダメージを与えながら、同名カードを特殊召喚する!」

 

棘が弾け、ユエの足元に黒い蔓が伸びた。虚像は効果ダメージを与えながら、デッキから新たなイービル・ソーンを呼び出す。

 

「一体だけで終わると思った?」

 

虚像は二体目のイービル・ソーンも利用し、墓地に植物族モンスターを送り込んだ。

 

「私はチューナーモンスター《スポーア》を召喚! レベル4の植物族モンスターとレベル1のスポーアで、シンクロ召喚!」

 

雪原に黒い花弁が舞う。

 

「咲き誇れ、黒薔薇の竜! 《ブラック・ローズ・ドラゴン》!」

 

黒い花弁の中心から、薔薇の翼を広げた竜が現れた。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴンのシンクロ召喚に成功した時、その効果を発動! フィールドのカードをすべて破壊する!」

 

竜の翼が開く。

 

黒い薔薇が爆発的に咲き、虚像自身のカードも含めてフィールドを一掃した。

 

「自分のカードまで破壊した……?」

 

ユエが呟く。

 

「そうよ。私の狙いは、フィールドを空にすること。そして墓地を整え、次のターンにあなたを圧倒すること!」

 

虚像は墓地へ送られた植物族カードを見下ろし、薄く笑った。

 

「あなたのブラック・ローズ・ドラゴンも、私の竜も、同じ。違うのは、あなたにはハジメがいることだけ」

 

ユエは答えず、デッキからカードを引いた。

 

「私のターン。私は《ローンファイア・ブロッサム》を召喚する」

 

植物の蕾が地面から伸びる。

 

「このカードをリリースし、デッキから植物族モンスターを特殊召喚する。私は《ローズ・テンタクルス》を特殊召喚!」

 

ユエはさらに手札のカードを使い、墓地の植物族を蘇生する。

 

「チューナーの《スポーア》を召喚。レベル4の植物族モンスターとレベル1のチューナーで、再びシンクロ召喚!」

 

黒い光が雪原を走った。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴン!」

 

二体目のブラック・ローズ・ドラゴンが、ユエのフィールドに舞い降りる。

 

「また全体破壊を使うつもり?」

 

虚像が笑う。

 

「いいえ。今回は使わない」

 

ユエは手札を一枚伏せた。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴンの効果は、必要な時に使うもの。むやみにフィールドを壊すことが、強さではない」

 

「何を言っているの?」

 

「あなたは破壊することしか考えていない。自分のカードも、相手のカードも、すべて壊せば勝てると思っている。でも、壊した後に何をするかを考えていない」

 

ユエはブラック・ローズ・ドラゴンに手をかざした。

 

「バトル! ブラック・ローズ・ドラゴンで、直接攻撃!」

 

黒い竜が翼を広げ、虚像へ向かって突進する。

 

虚像は伏せていた罠カードを発動した。

 

「《聖なるバリア -ミラーフォース-》! 相手モンスターが攻撃表示で攻撃した時、相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊する!」

 

鏡のような光が立ちはだかり、ブラック・ローズ・ドラゴンを包み込む。

 

「……破壊された?」

 

ユエの竜が光となって消えた。

 

虚像は勝ち誇る。

 

「どう? ハジメがいれば、こんな罠も簡単に見抜いてくれたかもしれないわね!」

 

ユエは墓地へ送られた竜を見つめた。

 

「……そうね。ハジメなら、別の手を考えたかもしれない」

 

「やっと認めたのね!」

 

「でも、今ここで戦っているのは私」

 

ユエは新たなカードを引いた。

 

「私は墓地の植物族モンスターを利用し、フィールドを整える。そして、手札から《薔薇の刻印》を発動!」

 

魔法の薔薇が虚像の墓地からモンスターを奪い、その力をユエの側へ引き寄せる。

 

「あなたの墓地のモンスターを利用させてもらうわ」

 

「私のカードを……!」

 

「あなたが先に墓地へ送ったカードよ。使い方を決めるのは、持ち主だけではない」

 

ユエは奪ったモンスターを足場に、再び植物族の布陣を築く。

 

虚像はブラック・ローズ・ドラゴンを再びシンクロ召喚しようとするが、ユエは伏せカードを発動してその展開を妨害した。

 

「これで、あなたの竜は呼び出せない」

 

「そんな……!」

 

「あなたは私の弱さを映す虚像。でも、私の想いまで決めることはできない」

 

ユエは最後のチューナーを召喚した。

 

「レベル4の植物族モンスターに、レベル1のチューナーをチューニング!」

 

再び黒い薔薇が咲き誇る。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴン!」

 

虚像は焦りながらも、罠を発動して迎撃しようとする。

 

しかし、ユエはその動きを読んでいた。

 

「その罠は、すでに見せてもらったわ」

 

ユエは伏せカードを開く。

 

「罠カード発動! 相手の効果を無効にする!」

 

虚像の罠が発動する前に封じられた。

 

「そんな……!」

 

「バトル! ブラック・ローズ・ドラゴンで攻撃!」

 

黒薔薇の炎が虚像を直撃する。

 

虚像の身体は花弁となって崩れ始めた。

 

「どうして……あなたはハジメがいなければ……!」

 

「ハジメは私に、生きる意味をくれた。でも、今の私がどう生きるかは、私が決める」

 

ユエは静かに告げた。

 

「私はあの人の隣に立ちたい。だから、ここで負けない」

 

黒い花弁が吹雪に溶け、虚像は消滅した。

雪原の大迷宮。

 

白銀の吹雪が吹き荒れる通路で、ユエはたった一人、足を止めていた。

 

先ほどまで隣にいたはずのハジメも、シアも、ティオも、香織もいない。

 

仲間の気配は完全に消えていた。

 

「……転移させられた、ということね」

 

ユエは周囲を見回した。

 

迷宮に入った直後、ハジメのデッキ収納箱から飛び出したカードたち。その不可解な現象を思い返す。あのカードたちが何らかの役割を果たしているのは間違いない。

 

そして今、彼女の目の前にあるのは、果てしなく続く雪原だけだった。

 

「ハジメ……」

 

小さく呟いた、そのとき。

 

「探しても無駄よ」

 

背後から、聞き慣れた声がした。

 

ユエが振り返る。

 

そこに立っていたのは――もう一人のユエだった。

 

同じ金髪。同じ赤い瞳。同じ顔立ち。

 

ただし、その表情には、普段のユエがハジメに向ける柔らかな愛情も、シアたちに見せる親しみもなかった。

 

冷たく、嘲るような笑み。

 

「……あなたは、私?」

 

「そう。あなたの心の奥底にあるものを映した、もう一人のあなた」

 

虚像は手にしたデッキを掲げた。

 

「あなたはハジメがいなければ何もできない。ハジメがそばにいるから強くなれたと思い込んでいるだけ。彼がいなくなれば、あなたはまた孤独な吸血鬼に戻る」

 

「……違う」

 

「本当に?」

 

虚像の赤い瞳が細められる。

 

「ハジメに救われた。ハジメに生きる意味を与えられた。ハジメに愛されている。あなたが今の自分を誇れる理由は、全部ハジメのおかげ。なら、彼がいなくなったら? あなたには何が残るの?」

 

ユエは答えなかった。

 

否定したい言葉だった。

 

だが、胸の奥に突き刺さるものがあった。

 

かつて、暗闇の中で長い年月を過ごした自分。誰も信じず、誰にも心を開かず、ただ生き延びることだけを考えていた自分。

 

そんな自分を変えたのが、ハジメだった。

 

だからこそ、彼を失うことが怖い。

 

「……私は」

 

「さあ、決闘を始めましょう。あなたがどれだけハジメに依存しているのか、証明してあげる」

 

虚像がデュエルディスクを構えた。

 

ユエもまた、静かにデッキをセットする。

 

「いいわ。あなたが私の虚像だというなら……私自身の手で、あなたを否定する」

 

二人のデュエルが始まった。

 

「私のターン!」

 

虚像は素早くカードを展開し、植物族モンスターを次々と呼び出していく。

 

「私はチューナーモンスターを召喚! さらに、フィールドのモンスターを素材にシンクロ召喚!」

 

白い雪原に、黒い花弁が舞い上がる。

 

「現れなさい! ブラック・ローズ・ドラゴン!」

 

虚像の背後に、黒い薔薇を思わせる翼を広げた竜が姿を現した。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴン……」

 

ユエの瞳が鋭くなる。

 

自分が扱う竜。

 

そして、自分の心を象徴するようなカード。

 

「このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールドのカードをすべて破壊する!」

 

黒い薔薇が一斉に開花した。

 

爆発的な衝撃が雪原を覆い、フィールドに存在していたカードが吹き飛ばされる。

 

虚像はその破壊を利用して墓地を整え、次のターンには再び植物族モンスターを展開した。

 

「どうしたの? あなたのブラック・ローズ・ドラゴンは、私のものでもあるのよ」

 

虚像のブラック・ローズ・ドラゴンが、黒い炎を吐き出す。

 

「あなたはハジメに守られているだけ。彼がいなければ、あなたは何も決められない!」

 

「……うるさい」

 

ユエはカードを引いた。

 

「私はモンスターを召喚。さらに魔法カードを発動する」

 

植物族モンスターが芽吹き、雪原に蔓を伸ばす。

 

「チューナーとチューナー以外のモンスターを墓地へ送り、シンクロ召喚!」

 

ユエのフィールドにも、黒い花弁が舞い始めた。

 

「咲き誇れ、黒薔薇の竜! ブラック・ローズ・ドラゴン!」

 

彼女の竜が現れ、虚像の竜と向かい合った。

 

二体のブラック・ローズ・ドラゴン。

 

同じ姿、同じ力。

 

しかし、ユエはすぐに攻撃を命じなかった。

 

「……あなたの言うとおり、私はハジメに救われた」

 

虚像の表情がわずかに動く。

 

「ハジメに出会わなければ、今の私はいなかった。あの人が私を暗闇から連れ出してくれたことも、私があの人を愛していることも、否定しない」

 

「なら、認めるのね。あなたは彼なしでは――」

 

「でも」

 

ユエは虚像の言葉を遮った。

 

「ハジメに救われたことと、私が何もできないことは違う」

 

彼女は自分の手札を見つめた。

 

「私はハジメの隣にいたい。彼に守られるだけじゃなくて、彼を守りたい。シアやティオや香織たちと一緒に、あの人が帰る場所を守りたい」

 

ユエは顔を上げた。

 

「それは、ハジメに言われたからじゃない。私が自分で選んだこと」

 

虚像が歯を食いしばる。

 

「綺麗事を……!」

 

「綺麗事でもいい。私の気持ちは、私のもの」

 

ユエはブラック・ローズ・ドラゴンに手をかざした。

 

「ブラック・ローズ・ドラゴンの効果を発動! シンクロ召喚に成功した時、フィールドのカードをすべて破壊する!」

 

黒薔薇が咲き誇り、二体の竜を包み込む。

 

虚像のフィールドが崩壊した。

 

だが、ユエのカードもまた破壊されていく。

 

「自分のカードまで破壊したですって?」

 

「ええ。ブラック・ローズ・ドラゴンの力は、敵だけを選んで壊す力じゃない」

 

ユエは墓地へ送られたカードを見つめた。

 

「だからこそ、使い方を間違えない。破壊したあとに、何を残すのか。それを決めるのは私」

 

次のターン、ユエは墓地のモンスターを利用して再び植物族の布陣を整えた。

 

虚像もまた、ブラック・ローズ・ドラゴンを呼び戻そうとする。

 

しかし、ユエの方が一歩早かった。

 

「私はモンスターを展開し、シンクロ召喚! ブラック・ローズ・ドラゴン!」

 

黒い竜が再び咆哮する。

 

「そして、墓地のカードを利用して、あなたの防御を崩す!」

 

ユエの連続攻撃が虚像の戦術を切り崩していく。

 

「どうして……! あなたはハジメがいないと何もできないはずなのに!」

 

「まだ分からないの?」

 

ユエは静かに告げた。

 

「ハジメがいないからこそ、私はここで勝つ。あの人と再会するために。私自身の意思で!」

 

ブラック・ローズ・ドラゴンが翼を広げた。

 

「攻撃! ブラック・ローズ・フレア!」

 

黒い炎が虚像を包み込む。

 

虚像の身体が花弁のように崩れ、吹雪の中へ溶けていった。

 

「……ハジメに会いたい」

 

ユエは、誰もいない雪原で呟く。

 

「だから、私は負けない」

 

彼女は前を向いた。

 

その赤い瞳に、迷いはなかった。

 

2.力だけでは届かない――シア

 

別の場所。

 

シアは、巨大な氷柱が立ち並ぶ谷間にいた。

 

「うう……。ハジメさん、ユエさん……どこですかぁ……」

 

不安を押し殺しながら歩いていた彼女の前に、一人の少女が姿を現した。

 

長い耳。見慣れた髪型。自分と同じ顔。

 

しかし、その少女はシアの知る笑顔を浮かべていなかった。

 

「やっと来たわね」

 

「……もう一人の、私?」

 

「そうよ」

 

虚像のシアは、巨大なハンマーを肩に担ぐような仕草を見せた。

 

「あなたは力を手に入れた。ハジメに鍛えられて、昔の自分とは比べ物にならないほど強くなった」

 

「そ、それは……」

 

「でも、あなたはまだ誰かの後ろにいるだけ。ハジメが強いから。ユエが強いから。ティオが強いから。あなたはその仲間に守られて、安心しているだけなのよ」

 

「違います!」

 

シアは思わず声を張り上げた。

 

「私は、みんなの役に立ちたくて……!」

 

「なら、証明しなさい。あなた一人で、私に勝ってみせなさい!」

 

虚像はデュエルディスクを構えた。

 

シアは唇を噛む。

 

「……望むところです!」

 

彼女もまたデッキをセットした。

 

「デュエル!」

「私のターン!」

 

虚像のシアは《ブースト・ウォリアー》を特殊召喚し、さらにチューナーモンスターを召喚した。

 

「レベル2のチューナーとレベル4のモンスターをチューニング! シンクロ召喚!」

 

「《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 

機械の竜が咆哮し、巨大な工具のような翼を広げる。

 

「私は装備魔法を三枚デッキから選び、そのうち一枚を相手に選ばせる! 選ばれたカードを手札に加える!」

 

虚像はパワー・ツール・ドラゴンの効果で装備魔法を確保し、次々と装備させていく。

 

攻撃力が上昇し、機械の竜が黄金の光をまとった。

 

「どう? 強い装備を集めれば、力はどこまでも増していく!」

 

虚像は攻撃を命じた。

 

シアのモンスターが破壊され、雪原に衝撃が走る。

 

「きゃあっ!」

 

シアは一歩後退した。

 

「あなたはパワー・ツール・ドラゴンを使っている。でも、その力を本当に理解しているの? ハジメに教えてもらった戦術を真似しているだけじゃない?」

 

「ち、違います!」

 

「なら、勝ってみせなさい!」

 

虚像は装備魔法をさらに使い、パワー・ツール・ドラゴンを強化する。

 

シアはモンスターを召喚して守りを固めるが、攻撃を受け止めきれない。

 

次のターン、虚像は再びパワー・ツール・ドラゴンの効果を使って装備魔法を確保した。

 

「《団結の力》を装備! 私のフィールドのモンスターの数だけ、攻撃力を上げる!」

 

さらに装備魔法が重なり、パワー・ツール・ドラゴンは圧倒的な攻撃力を得た。

 

「これで終わりよ!」

 

竜の攻撃がシアを襲う。

 

シアは最後の防御カードを発動し、かろうじて直撃を防いだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「もう終わりね。あなたは誰かの助けがなければ戦えない!」

 

シアは俯いた。

 

確かに、ハジメに鍛えられた。仲間たちに助けられた。自分一人ではできないことも多い。

 

だが――。

 

「……それでも」

 

シアは顔を上げた。

 

「私は、何度も自分で立ち上がってきました!」

 

胸元の紋章が輝く。

 

赤き竜の力が、シアの心に応えるように燃え上がった。

 

「この光……!」

 

シアのデッキから一枚のカードが浮かび上がる。

 

「私が、誰かを守りたいと思う気持ちに……応えてくれるんですね!」

 

虚像は叫んだ。

 

「認めない! そんな力、あなたには扱えない!」

 

シアはカードを引き、フィールドにチューナーモンスターを召喚した。

 

「私はレベル1のチューナーを召喚! そして、フィールドのレベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》とチューニングします!」

 

パワー・ツール・ドラゴンの身体が黄金の光に包まれる。

 

「レベル7のシンクロモンスターとレベル1のチューナーで、レベル8のシンクロ召喚!」

 

光の輪が幾重にも重なった。

 

「生命の鼓動よ、希望の未来を刻め! 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」

 

黄金の竜が現れた。

 

シアの胸元に浮かぶ紋章と、竜の額の光が共鳴する。

 

「ライフ・ストリーム・ドラゴンの効果を発動! 私のライフを回復する!」

 

黄金の光がシアを包み込み、彼女の傷ついた心を奮い立たせた。

 

さらにシアは、墓地に送られていた装備魔法を回収するカードを発動する。

 

「装備魔法を手札に戻します。そして、ライフ・ストリーム・ドラゴンを守るカードを伏せる!」

 

虚像は歯を食いしばった。

 

「装備魔法がなくても、私のパワー・ツール・ドラゴンは強い!」

 

次のターン、虚像は攻撃を仕掛ける。

 

「パワー・ツール・ドラゴンで、ライフ・ストリーム・ドラゴンを攻撃!」

 

機械の竜が突進する。

 

シアは伏せカードを発動し、攻撃を受け止めた。

 

「なにっ!」

 

「私はもう、ただ攻撃するだけじゃありません。守るべきものがあるなら、守るための手段を考えます!」

 

シアは反撃に転じた。

 

「ライフ・ストリーム・ドラゴンで攻撃!」

 

黄金の竜が翼を広げ、パワー・ツール・ドラゴンへ突撃する。

 

装備魔法で強化されていた機械の竜は、衝撃に耐えきれず破壊された。

 

「そんな……私の竜が!」

 

「私はまだ未熟です。でも、仲間の後ろに隠れているだけじゃありません!」

 

シアは最後のカードを引いた。

 

「私は装備魔法を発動し、ライフ・ストリーム・ドラゴンを強化します!」

 

黄金の竜がさらに輝きを増した。

 

「バトル! ライフ・ストリーム・ドラゴン、直接攻撃!」

 

竜の光が虚像を貫く。

 

「私は……負けるの……?」

 

虚像は崩れ始めた。

 

「あなたはハジメがいなくても……!」

 

「ええ。ハジメさんがいなくても、私は戦います。ハジメさんの隣に立てるように!」

 

虚像が消える。

 

シアはライフ・ストリーム・ドラゴンのカードを抱きしめた。

 

「私、もっと強くなります……!」

別の雪原。

 

ティオは、吹雪の中で静かにデッキを構えていた。

 

「ふむ……見事に分断されたようじゃな」

 

周囲を見回しても、仲間の姿はない。

 

「ハジメたちと離れたのは不本意じゃが……妾にも妾の戦いがある」

 

その時、遠くから低い笑い声が響いた。

 

「そうだな。お前には、お前の戦いがある」

 

ティオが顔を上げる。

 

そこに立っていたのは、もう一人のティオだった。

 

同じ顔。同じ姿。

 

しかし、その目は獲物をいたぶる竜のように冷酷だった。

 

「……妾の虚像か」

 

「そうだ。お前は強くなった。ハジメに認められ、仲間として受け入れられた。だが、お前の本質は変わっていない」

 

虚像は笑った。

 

「お前は本当の自分を隠している。竜人族としての力も、誇りも、欲望も。ハジメに嫌われたくないから、仲間に拒絶されたくないから、必死に自分を抑え込んでいるだけだ」

 

ティオの眉が動いた。

 

「……言いたいことはそれだけか?」

 

「違うな。お前は自分の力を誇りながら、その力を恐れている。誰かを傷つけることを恐れ、また孤独になることを恐れている。そんな中途半端な竜人族に、真の竜の力を扱えるものか!」

 

虚像がデュエルディスクを構える。

 

「お前の竜を、私が打ち砕いてやろう!」

 

ティオはゆっくりと口元を吊り上げた。

 

「面白い。ならば見せてやろう。妾が何を恐れ、何を選んだのかをな」

 

二人のデュエルが始まった。

虚像のティオは、最初のターンから闇属性のモンスターを展開した。

 

「私は《クリムゾン・リゾネーター》を召喚!」

 

赤いチューナーが炎を放つ。

 

「フィールドに他のモンスターがいない時、このカードの効果を発動! デッキからレベル4以下の悪魔族モンスターを特殊召喚する!」

 

虚像はモンスターを二体並べ、シンクロ素材を揃える。

 

「レベル2のチューナーとレベル6のモンスターをチューニング! シンクロ召喚!」

 

紅蓮の竜が雪原を震わせた。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

虚像はさらに、フィールドのモンスターを利用して墓地を整える。

 

「スカーライトの効果! 特殊召喚された効果モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

 

紅蓮の炎がティオのモンスターを焼き払う。

 

ティオは防御に回るが、虚像は攻撃の手を緩めない。

 

「どうした? お前の竜は、この程度か!」

 

次のターン、虚像はチューナーを二体揃えた。

 

「二体のチューナーを用いたダブルチューニング!」

 

スカーライトが紅蓮の炎に包まれる。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》!」

 

巨大な竜が出現し、虚像のフィールドを支配した。

 

ティオは静かにその姿を見つめた。

 

「スカーライトに、タイラント……妾の竜の力を、妾自身に突きつけるつもりか」

 

「そうだ! お前は竜の力を恐れている! ハジメに嫌われないために、仲間に拒絶されないために、自分を抑えている!」

 

タイラントの攻撃がティオのモンスターを破壊する。

 

ティオは罠カードで直撃を防ぐが、追い詰められていく。

 

「お前は本当の力を使えない!」

 

ティオは一度目を閉じた。

 

「……妾は、かつて力を振るうことしか知らなかった」

 

彼女はゆっくりと顔を上げた。

 

「じゃが、今は違う。妾は自分の力を恐れているのではない。力をどう使うべきか、考えるようになったのじゃ」

 

ティオの胸元に、赤き竜の紋章が浮かび上がった。

 

「この光は……!」

 

ティオはデッキからカードを引いた。

 

「妾のターンじゃ!」

 

彼女は《クリムゾン・リゾネーター》を召喚し、その効果でレベル4以下の悪魔族モンスターを特殊召喚する。

 

「レベル2のチューナーとレベル4のモンスターをチューニング!」

 

赤き光が走る。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

 

ティオの竜が現れた。

 

続けて、彼女はもう一体のチューナーを展開する。

 

「さらに、レベル2のチューナーとレベル6のシンクロモンスターをチューニング!」

 

二体目のチューナーが光の輪を描き、レッド・デーモンズ・ドラゴンを包み込む。

 

「ダブルチューニング! 紅蓮の王者よ、さらなる力を解き放て!」

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》!」

 

ティオのフィールドにも、タイラントが姿を現した。

 

虚像は笑った。

 

「同じ竜を呼んだところで、何が変わる!」

 

「まだじゃ」

 

ティオは最後のカードを発動した。

 

「墓地のチューナーを蘇生!」

 

小さなチューナーがフィールドに戻る。

 

「妾はレベル2のチューナーを、レベル8の《レッド・デーモンズ・ドラゴン》と、レベル10の《レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント》に重ねるのではない。それぞれを正しいシンクロ素材として用い、さらにチューナーを追加して、三重の調律を完成させる!」

 

ティオの周囲に三つの光輪が現れた。

 

※この三重調律は、この世界でシグナーの力に応じて成立する特殊な召喚法。通常のOCGにおけるシンクロ召喚の素材条件をそのまま適用したものではない。

 

「トリプルチューニング!」

 

紅蓮の竜たちが一つの光へと収束していく。

 

「紅蓮の王者よ、超新星の炎をまとい、恐怖を焼き尽くせ!」

 

「《スカーライト・スーパーノヴァ・ドラゴン》!」

 

巨大な竜が降臨した。

 

虚像のタイラントが咆哮する。

 

「私の竜を超えることなどできない!」

 

「ならば、確かめるがよい!」

 

ティオはカードを掲げた。

 

「スカーライト・スーパーノヴァ・ドラゴンの力を解放する!」

 

超新星の炎が、虚像のタイラントを包み込む。

 

虚像は罠カードを発動して抵抗するが、ティオは伏せカードでその効果を無効にした。

 

「妾はもう、己の力から逃げぬ!」

 

スーパーノヴァ・ドラゴンが翼を広げ、虚像の竜へ突撃する。

 

紅蓮の衝撃が雪原を揺らした。

 

虚像のタイラントは砕け散り、虚像自身も光の中へ消えていった。

 

「妾は……妾自身の意志で、仲間と生きる!」

 

ティオは静かに息を吐いた。

 

「ハジメ。お主の隣に立つために、妾は進み続けるのじゃ」

その頃、別の通路では香織が一人で雪原を歩いていた。

 

「……みんな、無事かな」

 

彼女は胸元のカードを握りしめる。

 

ハジメたちと離れたことへの不安はあった。だが、それ以上に、自分がここで何をすべきなのかを考えていた。

 

新しい身体を得て、再び生きることができた自分。

 

その命は、決して当たり前のものではない。

 

ハジメが自分を救ってくれたからこそ、今ここにいる。

 

だからこそ、もう二度と、大切な人を守れない自分には戻りたくなかった。

 

「……あれ?」

 

前方に、人影が見えた。

 

そこに立っていたのは、香織自身だった。

 

「香織……?」

 

虚像は微笑んだ。

 

「久しぶりね、香織」

 

「あなたは……私の幻影?」

 

「そうよ。あなたが心の奥に押し込めた、弱い自分」

 

虚像は一歩近づいた。

 

「あなたは一度、死んだ。大切な人を守ろうとして、命を落とした。今の身体も、あなた自身のものではない。ハジメが用意した器に、あなたの魂が宿っているだけ」

 

香織の表情が強張った。

 

「……それは」

 

「あなたは本当に、今の自分を自分だと思っているの? ハジメが助けてくれなければ、あなたはもう存在していなかった。新しい身体で生きることも、もう一度みんなと会うこともできなかった」

 

虚像は冷たく言い放つ。

 

「あなたは救われただけ。誰かを救う資格なんてない」

 

香織は言葉を失った。

 

かつての自分の身体は、もうない。

 

ハジメが自分を救うために、どれほどの覚悟を決めたのかも知っている。

 

そして、自分が生き返ったことを、素直に喜んでいいのか悩んだこともあった。

 

「……私は」

 

「もう一度、同じことが起きたらどうするの? また誰かを守ろうとして倒れる? それとも、今度は怖くなって逃げる?」

 

虚像がデュエルディスクを構えた。

 

「決闘しましょう。あなたが本当に生きる価値のある存在なのか、確かめてあげる」

 

香織は目を閉じた。

 

胸の奥に、痛みが広がる。

 

けれど、すぐに思い出した。

 

ハジメが自分を見つめた時の、あの真剣な眼差し。

 

彼は、香織が以前の身体を失ったことを責めなかった。

 

ただ、生きていてほしいと願ってくれた。

 

「……分かった」

 

香織はデッキをセットした。

 

「あなたが私の弱さだというのなら、逃げずに向き合う。私はもう、過去の自分だけを見て生きたりしない!」

 

二人の決闘が始まった。

虚像の香織は、先攻で《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》をシンクロ召喚した。

 

「この竜の力は、フィールド魔法を破壊し、ライフを回復する力。あなたはその力を持ちながら、誰も救えなかった!」

 

虚像はフィールド魔法を利用しながら戦術を展開し、香織のモンスターを次々と破壊していく。

 

香織は防御カードを使い、なんとか攻撃をしのいだ。

 

「あなたは一度死んだ。今の身体も、ハジメが与えてくれたもの。あなたは自分の力で生きているわけじゃない!」

 

香織は唇を噛む。

 

「……それでも、私は生きています」

 

彼女はカードを引いた。

 

「私はチューナーを召喚! そして、レベル4のモンスターとチューニング!」

 

光が雪原に広がる。

 

「《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》!」

 

香織の竜が姿を現した。

 

虚像の竜と、香織の竜。

 

二体の古代の妖精竜が向かい合った。

 

「同じ竜を呼んでも無駄よ!」

 

虚像はフィールド魔法を発動し、香織の竜を追い詰める。

 

「エンシェント・フェアリー・ドラゴンの効果を発動! フィールド魔法を破壊し、ライフを回復する!」

 

虚像は自らのフィールド魔法を破壊し、ライフを回復した。さらにデッキから新たなフィールド魔法を手札に加え、次の展開へつなげる。

 

香織はその動きを見つめた。

 

「あなたは、竜の力を回復するためだけに使っている……」

 

「それの何が悪いの?」

 

「悪くはないよ。でも、竜の力はそれだけじゃない!」

 

香織は墓地のカードを確認し、手札から魔法カードを発動した。

 

「墓地のモンスターを蘇生! そして、フィールドのモンスターを守備表示にする!」

 

香織は攻撃をしのぎながら、次のターンに向けて布陣を整えた。

 

しかし、虚像は強力なモンスターを並べ、再び攻勢に出る。

 

「これで終わりよ! あなたはもう一度、誰も救えずに倒れる!」

 

香織は攻撃を受け止め、カードを握りしめた。

 

「私は、確かにハジメくんに救われました。今の身体も、あの人がいなければ得られなかった」

 

彼女は顔を上げる。

 

「でも、助けてもらったことを恥じるつもりはない! この命で、誰かを救いたい!」

 

その瞬間、エンシェント・フェアリー・ドラゴンのカードが輝いた。

 

優しい光が香織を包み込み、竜の翼が大きく広がる。

 

「何が起きているの……?」

 

香織はカードを掲げた。

 

「新たな生命の輝きよ、絶望を癒やし、未来への道を照らせ!」

 

古代の妖精竜の姿が光の中で変わっていく。

 

「進化して……!」

 

「《エンシェント・フェアリー・ライフ・ドラゴン》!」

 

新たな竜が降臨した。

 

その翼から広がる光は、傷ついた大地を癒やすように雪原を照らしていく。

 

※エンシェント・フェアリー・ライフ・ドラゴンは、このクロスオーバー世界における進化形態であり、通常のOCGカードとしての効果ではなく、シグナーの竜の力に応じて発現した特殊能力を持つ。

 

「この竜の力は……命をつなぐ力!」

 

香織は墓地のモンスターを蘇生し、守備を固める。さらに、ライフ・ドラゴンの特殊能力によって、破壊された仲間のカードの力を一時的に回復させた。

 

虚像は焦った。

 

「そんな力、あなたに扱えるはずがない!」

 

「私は弱さを知っているから、誰かの痛みを分かりたい。助けてもらったからこそ、今度は私が手を伸ばしたい!」

 

香織は攻撃を命じた。

 

「エンシェント・フェアリー・ライフ・ドラゴン、攻撃!」

 

生命の光が虚像のエンシェント・フェアリー・ドラゴンを包み込む。

 

虚像は罠カードを発動しようとするが、香織は前のターンに伏せていたカウンター罠でその効果を無効にした。

 

「あなたは……本当に、生きることを選んだのね……」

 

虚像の身体が光の粒へと変わっていく。

 

「ええ。私は、この命で前に進む」

 

香織は竜を見上げた。

 

「ハジメくんが救ってくれた命だからこそ、自分の足で歩いていく!」

 

虚像は消え、雪原に静寂が戻った。

 

香織はカードを胸に抱きしめた。

 

「ありがとう……エンシェント・フェアリー・ライフ・ドラゴン」

雪原の大迷宮。

 

離れ離れになった仲間たちは、それぞれ自分自身の虚像と向き合い、戦い続けていた。

 

ユエは、ハジメへの愛を依存ではなく自ら選んだ想いとして受け入れた。

 

シアは、誰かに守られるだけではない、自分自身の意志で立ち上がる力を知った。そして、シグナーの紋章とともに、ライフ・ストリーム・ドラゴンを目覚めさせた。

 

ティオは、竜人族としての誇りと過去の罪を否定せず、仲間と生きる未来を選び取った。スカーライト・スーパーノヴァ・ドラゴンという新たな力は、その覚悟の証だった。

 

香織は、救われた命を恥じるのではなく、その命で誰かを救おうと決意した。エンシェント・フェアリー・ドラゴンは、彼女の想いに応じてエンシェント・フェアリー・ライフ・ドラゴンへと進化した。

 

だが、迷宮はまだ終わっていない。

 

幻影を打ち破った者たちの前には、さらに深い試練が待ち受けている。

 

そして、彼らがそれぞれの答えを手に入れた時――雪原のどこかで、赤き竜の力が静かに脈打ち始めていた。

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