雪原の大迷宮。
果てしなく続く白銀の通路を、坂上龍太郎は一人で歩いていた。
「くそっ……! ハジメの奴、どこにいやがるんだよ!」
声を張り上げても、返事はない。
ユエやシアたちとも完全に引き離されたらしい。周囲には雪と氷の壁しかなく、どちらへ進めばいいのかさえ分からなかった。
その時、前方の吹雪が渦を巻いた。
「よう。ずいぶんと情けねえ顔してるじゃねえか」
聞き慣れた声。
龍太郎が顔を上げると、そこにはもう一人の自分が立っていた。
同じ体格。同じ顔。
だが、虚像の龍太郎は、相手を見下すような笑みを浮かべていた。
「……俺?」
「そうだ。お前の心の中にある、弱いお前自身ってところだな」
虚像は腕を組んだ。
「まったく、情けねえ。昔のお前は、考えるより先に殴ってたじゃねえか。強え奴がいりゃ正面からぶつかる。攻撃力の高いモンスターを並べて、相手が倒れるまで殴り続ける。それがお前の戦い方だった」
「……ああ、そうだったな」
龍太郎は苦笑した。
以前の自分なら、否定しなかっただろう。
強いカードを並べて、攻撃する。それ以外の戦術など、深く考えたこともなかった。
「でも今のお前はどうだ? ハジメから借りたデッキを使って、ちまちまカード効果を覚えてる。ギャンブルカードの結果に一喜一憂して、まともに勝ち筋も読めねえ。そんなお前が、本当に強くなれると思ってんのか?」
虚像がデュエルディスクを構えた。
「決闘しようぜ。お前がどれだけ変わったか、見せてみろよ!」
龍太郎もデッキを構えた。
「上等だ! 俺だって、いつまでも昔のままじゃねえ!」
「デュエル!」
第一ターン――力任せの戦術
「俺の先攻!」
虚像はカードを引くと、勢いよくモンスターを召喚した。
「俺は《ゴブリン突撃部隊》を召喚!」
粗暴なゴブリンの軍団が、雪原に現れる。
「攻撃力は二三〇〇! こいつは攻撃した後に守備表示になるが、そんなもん関係ねえ! 強えモンスターで殴り続けりゃ勝てるんだよ!」
虚像はさらにモンスターを展開し、攻撃力の高いモンスターを並べていく。
「これが俺の戦い方だ! 小難しいことなんか考えず、力で押し切る!」
龍太郎は相手のフィールドを見つめた。
確かに、攻撃力だけなら脅威だ。
だが、ハジメとの訓練で学んだことがある。
攻撃力の高いモンスターを並べることと、それを勝利につなげることは同じではない。
「……俺のターン!」
龍太郎はカードを引いた。
「俺は《ランドスターの剣士》を召喚! さらにカードを二枚伏せる!」
虚像は鼻で笑った。
「攻撃力五百のモンスターだと? そんなもんで、俺のゴブリン突撃部隊に勝てるかよ!」
「うるせえ! まだ終わってねえ!」
龍太郎は手札を確認した。
そこには、ハジメから借りたデッキのカードがある。
勝負を一気にひっくり返せるかもしれないカード。
だが、使うタイミングを間違えれば、かえって自分の首を絞める。
「……焦るな。相手が何をしてくるか、ちゃんと考えろ」
それはハジメに何度も言われた言葉だった。
龍太郎は一枚伏せて、ターンを終えた。
「守ってばかりか? つまんねえ奴になったな!」
虚像は笑いながらカードを引いた。
「俺のターン! ゴブリン突撃部隊で攻撃!」
ゴブリンが龍太郎のモンスターに襲いかかる。
「罠カード発動! 《鎖付きブーメラン》!」
鎖が飛び、ゴブリン突撃部隊を拘束する。
龍太郎はさらに効果を使い、相手の攻撃を止めながら装備カードとして利用した。
「なにっ!?」
「攻撃力だけで勝てると思うなよ!」
虚像の攻撃は止まった。
龍太郎は、初めて自分の戦術が相手の力を上回った手応えを感じた。
第二ターン――ギャンブルの始まり
「俺のターン!」
龍太郎はカードを引き、目を見開いた。
「来たぜ……!」
手札には《時の魔術師》があった。
城之内克也の代表的なギャンブルカード。
ハジメから借りたこのデッキを使い始めた時、龍太郎はこのカードを何度も失敗させていた。
時間を操る魔術師の効果は、成功すれば強烈。しかし失敗すれば、自分が不利になる危険もある。
「またそれかよ! そんな運任せのカードで、俺に勝つつもりか?」
虚像が嘲笑う。
「……運任せ、ね」
龍太郎はカードを見つめた。
確かに、結果を完全には制御できない。
だが、城之内はこのカードをただの賭けとして使っていたわけではない。勝負を決める場面で、危険を承知で未来をつかみにいったのだ。
「俺は《時の魔術師》を召喚! 効果を発動する!」
小さな魔術師が時計を掲げる。
「コイントス! 表なら相手フィールドのモンスターを破壊し、その攻撃力の合計の半分を相手にダメージとして与える! 裏なら、その合計の半分のダメージを俺が受ける!」
龍太郎はコインを弾いた。
コインが空中で回転し、雪の上へ落ちる。
――表。
「よっしゃあああっ!」
時の魔術師が杖を振るう。
時間が逆巻き、虚像のモンスターたちは急激に老朽化して崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な!?」
「やったぜ……!」
龍太郎は拳を握りしめた。
しかし、勝利を確信するにはまだ早い。
虚像のフィールドには、伏せカードが残っている。
「調子に乗るなよ!」
虚像は罠カードを発動し、龍太郎の攻撃を妨害した。
時の魔術師の効果で勝負を決めることはできなかった。
「くそっ……!」
「やっぱりお前は運に頼るしかねえんだよ!」
龍太郎は歯を食いしばった。
だが、カードを引いた時の手応えを思い出す。
勝ち筋は見えた。
あとは、最後まで考えることだ。
第三ターン――鉄の意志、鋼の剣
虚像は再びモンスターを展開し、攻撃力で龍太郎を追い詰める。
「どうした! もうギャンブルカードは尽きたか?」
龍太郎はカードを引いた。
「……まだだ!」
彼の手札にあったのは、《鉄の騎士 ギア・フリード》だった。
「俺は《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚!」
鋼鉄の鎧をまとった戦士が、雪原に立つ。
ギア・フリードは装備カードを装備すると、その装備カードを破壊する効果を持つ。装備カードを使う相手への牽制にもなる、城之内らしい戦士だ。
虚像は鼻で笑った。
「攻撃力一八〇〇か! 俺のモンスターには届かねえ!」
「攻撃力だけで決まるなら、決闘なんて必要ねえだろ!」
龍太郎は手札のカードを見せた。
「俺は装備魔法を発動! ギア・フリードに装備する!」
装備魔法がギア・フリードに取り付けられた瞬間、鋼鉄の騎士が反応する。
「ギア・フリードの効果で、その装備カードは破壊される!」
装備魔法は墓地へ送られた。
だが、それこそが龍太郎の狙いだった。
「装備カードが墓地へ送られたことで、俺の伏せカードを発動できる!」
龍太郎は前のターンから伏せていたカードを開いた。
虚像のモンスターを守っていた効果が解除され、ギア・フリードの攻撃が通る道が開かれる。
「バトル! ギア・フリードで攻撃!」
鋼鉄の騎士が剣を振り下ろし、虚像のモンスターを破壊した。
「ぐっ……!」
龍太郎は一歩も退かなかった。
「俺は強いモンスターを出すだけじゃなく、カードの効果を組み合わせて戦えるんだ!」
虚像の顔から笑みが消えた。
第四ターン――人造人間の切り札
「まだだ! 俺のターン!」
虚像はモンスターを召喚し、再び攻撃を仕掛ける。
龍太郎は防御カードで攻撃をしのいだものの、追い詰められていた。
ライフも残り少ない。
一手間違えれば敗北する。
「どうした? もう終わりか?」
龍太郎はカードを引いた。
そこにあったのは、《人造人間-サイコ・ショッカー》だった。
「……来た!」
サイコ・ショッカー。
城之内の切り札の一つであり、罠カードを封じる人造人間。
龍太郎はカードを掲げた。
「俺は《人造人間-サイコ・ショッカー》を召喚!」
機械の身体を持つ人造人間が、雪原に降り立つ。
「サイコ・ショッカーがフィールドに存在する限り、罠カードの効果は無効になる!」
虚像の表情が凍りついた。
「なにっ!?」
「お前は罠カードに頼って、俺の攻撃を止めてきた。だが、もうそれはできねえ!」
龍太郎はギア・フリードに攻撃を命じる。
虚像は罠を発動しようとするが、サイコ・ショッカーの効果によって無効化される。
「そんな……!」
「行け、ギア・フリード!」
鋼鉄の騎士が剣を振るい、虚像のモンスターを破壊した。
続いて、サイコ・ショッカーが攻撃する。
「サイコ・ショッカー! 攻撃!」
電撃が虚像を直撃する。
虚像は膝をついた。
「ば、馬鹿な……。昔のお前は、こんな戦い方はできなかったはずだ!」
龍太郎はカードを握りしめた。
「そうだ。昔の俺なら、攻撃力の高いモンスターを並べて、ひたすら殴ってたと思う」
彼は苦笑した。
「でもよ、俺は今、仲間と一緒に戦ってる。ハジメに教わって、カードの効果を覚えて、失敗して、何度も負けて……それでも、少しずつ強くなってきたんだ」
虚像は立ち上がろうとする。
だが、サイコ・ショッカーがその動きを阻むように立ちはだかった。
「俺はまだ、ハジメほど強くねえ。けど、俺なりの戦い方は見つけられる!」
龍太郎は最後の攻撃を宣言した。
「サイコ・ショッカー! ダイレクトアタック!」
人造人間の電撃が虚像を包み込む。
虚像の身体が砕け、吹雪の中へ消えていった。
龍太郎は大きく息を吐いた。
「……勝った、のか」
彼はギア・フリードとサイコ・ショッカーのカードを見つめた。
「ありがとな、城之内……いや、ハジメのデッキか」
彼は小さく笑った。
「よし。みんなを探すぞ!」
龍太郎は、今度こそ自分の足で歩き出した。
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雪原の大迷宮。
果てしなく続く白銀の通路を、坂上龍太郎は一人で歩いていた。
「くそっ……! ハジメの奴、どこにいやがるんだよ!」
声を張り上げても、返事はない。
ユエやシアたちとも完全に引き離されたらしい。周囲には雪と氷の壁しかなく、どちらへ進めばいいのかさえ分からなかった。
その時、前方の吹雪が渦を巻いた。
「よう。ずいぶんと情けねえ顔してるじゃねえか」
聞き慣れた声。
龍太郎が顔を上げると、そこにはもう一人の自分が立っていた。
同じ体格。同じ顔。
だが、虚像の龍太郎は、相手を見下すような笑みを浮かべていた。
「……俺?」
「そうだ。お前の心の中にある、弱いお前自身ってところだな」
虚像は腕を組んだ。
「まったく、情けねえ。昔のお前は、考えるより先に殴ってたじゃねえか。強え奴がいりゃ正面からぶつかる。攻撃力の高いモンスターを並べて、相手が倒れるまで殴り続ける。それがお前の戦い方だった」
「……ああ、そうだったな」
龍太郎は苦笑した。
以前の自分なら、否定しなかっただろう。
強いカードを並べて、攻撃する。それ以外の戦術など、深く考えたこともなかった。
「でも今のお前はどうだ? ハジメから借りたデッキを使って、ちまちまカード効果を覚えてる。ギャンブルカードの結果に一喜一憂して、まともに勝ち筋も読めねえ。そんなお前が、本当に強くなれると思ってんのか?」
虚像がデュエルディスクを構えた。
「決闘しようぜ。お前がどれだけ変わったか、見せてみろよ!」
龍太郎もデッキを構えた。
「上等だ! 俺だって、いつまでも昔のままじゃねえ!」
「デュエル!」
第一ターン――力任せの戦術
「俺の先攻!」
虚像はカードを引くと、勢いよくモンスターを召喚した。
「俺は《ゴブリン突撃部隊》を召喚!」
粗暴なゴブリンの軍団が、雪原に現れる。
「攻撃力は二三〇〇! こいつは攻撃した後に守備表示になるが、そんなもん関係ねえ! 強えモンスターで殴り続けりゃ勝てるんだよ!」
虚像はさらにモンスターを展開し、攻撃力の高いモンスターを並べていく。
「これが俺の戦い方だ! 小難しいことなんか考えず、力で押し切る!」
龍太郎は相手のフィールドを見つめた。
確かに、攻撃力だけなら脅威だ。
だが、ハジメとの訓練で学んだことがある。
攻撃力の高いモンスターを並べることと、それを勝利につなげることは同じではない。
「……俺のターン!」
龍太郎はカードを引いた。
「俺は《ランドスターの剣士》を召喚! さらにカードを二枚伏せる!」
虚像は鼻で笑った。
「攻撃力五百のモンスターだと? そんなもんで、俺のゴブリン突撃部隊に勝てるかよ!」
「うるせえ! まだ終わってねえ!」
龍太郎は手札を確認した。
そこには、ハジメから借りたデッキのカードがある。
勝負を一気にひっくり返せるかもしれないカード。
だが、使うタイミングを間違えれば、かえって自分の首を絞める。
「……焦るな。相手が何をしてくるか、ちゃんと考えろ」
それはハジメに何度も言われた言葉だった。
龍太郎は一枚伏せて、ターンを終えた。
「守ってばかりか? つまんねえ奴になったな!」
虚像は笑いながらカードを引いた。
「俺のターン! ゴブリン突撃部隊で攻撃!」
ゴブリンが龍太郎のモンスターに襲いかかる。
「罠カード発動! 《鎖付きブーメラン》!」
鎖が飛び、ゴブリン突撃部隊を拘束する。
龍太郎はさらに効果を使い、相手の攻撃を止めながら装備カードとして利用した。
「なにっ!?」
「攻撃力だけで勝てると思うなよ!」
虚像の攻撃は止まった。
龍太郎は、初めて自分の戦術が相手の力を上回った手応えを感じた。
第二ターン――ギャンブルの始まり
「俺のターン!」
龍太郎はカードを引き、目を見開いた。
「来たぜ……!」
手札には《時の魔術師》があった。
城之内克也の代表的なギャンブルカード。
ハジメから借りたこのデッキを使い始めた時、龍太郎はこのカードを何度も失敗させていた。
時間を操る魔術師の効果は、成功すれば強烈。しかし失敗すれば、自分が不利になる危険もある。
「またそれかよ! そんな運任せのカードで、俺に勝つつもりか?」
虚像が嘲笑う。
「……運任せ、ね」
龍太郎はカードを見つめた。
確かに、結果を完全には制御できない。
だが、城之内はこのカードをただの賭けとして使っていたわけではない。勝負を決める場面で、危険を承知で未来をつかみにいったのだ。
「俺は《時の魔術師》を召喚! 効果を発動する!」
小さな魔術師が時計を掲げる。
「コイントス! 表なら相手フィールドのモンスターを破壊し、その攻撃力の合計の半分を相手にダメージとして与える! 裏なら、その合計の半分のダメージを俺が受ける!」
龍太郎はコインを弾いた。
コインが空中で回転し、雪の上へ落ちる。
――表。
「よっしゃあああっ!」
時の魔術師が杖を振るう。
時間が逆巻き、虚像のモンスターたちは急激に老朽化して崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な!?」
「やったぜ……!」
龍太郎は拳を握りしめた。
しかし、勝利を確信するにはまだ早い。
虚像のフィールドには、伏せカードが残っている。
「調子に乗るなよ!」
虚像は罠カードを発動し、龍太郎の攻撃を妨害した。
時の魔術師の効果で勝負を決めることはできなかった。
「くそっ……!」
「やっぱりお前は運に頼るしかねえんだよ!」
龍太郎は歯を食いしばった。
だが、カードを引いた時の手応えを思い出す。
勝ち筋は見えた。
あとは、最後まで考えることだ。
第三ターン――鉄の意志、鋼の剣
虚像は再びモンスターを展開し、攻撃力で龍太郎を追い詰める。
「どうした! もうギャンブルカードは尽きたか?」
龍太郎はカードを引いた。
「……まだだ!」
彼の手札にあったのは、《鉄の騎士 ギア・フリード》だった。
「俺は《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚!」
鋼鉄の鎧をまとった戦士が、雪原に立つ。
ギア・フリードは装備カードを装備すると、その装備カードを破壊する効果を持つ。装備カードを使う相手への牽制にもなる、城之内らしい戦士だ。
虚像は鼻で笑った。
「攻撃力一八〇〇か! 俺のモンスターには届かねえ!」
「攻撃力だけで決まるなら、決闘なんて必要ねえだろ!」
龍太郎は手札のカードを見せた。
「俺は装備魔法を発動! ギア・フリードに装備する!」
装備魔法がギア・フリードに取り付けられた瞬間、鋼鉄の騎士が反応する。
「ギア・フリードの効果で、その装備カードは破壊される!」
装備魔法は墓地へ送られた。
だが、それこそが龍太郎の狙いだった。
「装備カードが墓地へ送られたことで、俺の伏せカードを発動できる!」
龍太郎は前のターンから伏せていたカードを開いた。
虚像のモンスターを守っていた効果が解除され、ギア・フリードの攻撃が通る道が開かれる。
「バトル! ギア・フリードで攻撃!」
鋼鉄の騎士が剣を振り下ろし、虚像のモンスターを破壊した。
「ぐっ……!」
龍太郎は一歩も退かなかった。
「俺は強いモンスターを出すだけじゃなく、カードの効果を組み合わせて戦えるんだ!」
虚像の顔から笑みが消えた。
第四ターン――人造人間の切り札
「まだだ! 俺のターン!」
虚像はモンスターを召喚し、再び攻撃を仕掛ける。
龍太郎は防御カードで攻撃をしのいだものの、追い詰められていた。
ライフも残り少ない。
一手間違えれば敗北する。
「どうした? もう終わりか?」
龍太郎はカードを引いた。
そこにあったのは、《人造人間-サイコ・ショッカー》だった。
「……来た!」
サイコ・ショッカー。
城之内の切り札の一つであり、罠カードを封じる人造人間。
龍太郎はカードを掲げた。
「俺は《人造人間-サイコ・ショッカー》を召喚!」
機械の身体を持つ人造人間が、雪原に降り立つ。
「サイコ・ショッカーがフィールドに存在する限り、罠カードの効果は無効になる!」
虚像の表情が凍りついた。
「なにっ!?」
「お前は罠カードに頼って、俺の攻撃を止めてきた。だが、もうそれはできねえ!」
龍太郎はギア・フリードに攻撃を命じる。
虚像は罠を発動しようとするが、サイコ・ショッカーの効果によって無効化される。
「そんな……!」
「行け、ギア・フリード!」
鋼鉄の騎士が剣を振るい、虚像のモンスターを破壊した。
続いて、サイコ・ショッカーが攻撃する。
「サイコ・ショッカー! 攻撃!」
電撃が虚像を直撃する。
虚像は膝をついた。
「ば、馬鹿な……。昔のお前は、こんな戦い方はできなかったはずだ!」
龍太郎はカードを握りしめた。
「そうだ。昔の俺なら、攻撃力の高いモンスターを並べて、ひたすら殴ってたと思う」
彼は苦笑した。
「でもよ、俺は今、仲間と一緒に戦ってる。ハジメに教わって、カードの効果を覚えて、失敗して、何度も負けて……それでも、少しずつ強くなってきたんだ」
虚像は立ち上がろうとする。
だが、サイコ・ショッカーがその動きを阻むように立ちはだかった。
「俺はまだ、ハジメほど強くねえ。けど、俺なりの戦い方は見つけられる!」
龍太郎は最後の攻撃を宣言した。
「サイコ・ショッカー! ダイレクトアタック!」
人造人間の電撃が虚像を包み込む。
虚像の身体が砕け、吹雪の中へ消えていった。
龍太郎は大きく息を吐いた。
「……勝った、のか」
彼はギア・フリードとサイコ・ショッカーのカードを見つめた。
「ありがとな、城之内……いや、ハジメのデッキか」
彼は小さく笑った。
「よし。みんなを探すぞ!」
龍太郎は、今度こそ自分の足で歩き出した。
2.裏切りの痛み――鈴 VS 虚像
一方、雪と氷に閉ざされた通路を、鈴は一人で歩いていた。
「……恵理」
思わず、その名前が口から漏れる。
幼い頃からの友人。
一緒に笑い、悩み、くだらない話をしてきた大切な相手。
その恵理が、王都で多くの人々を殺し、仲間たちを裏切った。
しかも、彼女はそれを楽しんでいるようにさえ見えた。
「どうして……」
鈴は拳を握った。
怒りがある。
悲しみもある。
そして、どうしても消せない疑問がある。
――私たちが一緒に過ごした時間は、全部嘘だったの?
「鈴」
聞き慣れた声がした。
鈴が振り返る。
そこには、もう一人の鈴が立っていた。
「……私?」
虚像は悲しそうな笑顔を浮かべていた。
「そう。あなたが見ないようにしている、本当の気持ちよ」
「何を……」
「あなたは恵理を憎みきれない」
鈴は息を呑んだ。
「恵理が何をしたのか、分かっている。たくさんの人を殺した。私たちを裏切った。香織が刺された時だって、恵理は敵として私たちの前に立った」
虚像は一歩近づいた。
「それなのに、あなたはまだ、あの子のことを友達だと思っている」
「……違う」
「違わないわ!」
虚像の声が鋭くなる。
「あなたは、恵理を止めることができなかった。あの子が何を考えていたのか、何を望んでいたのか、本当の意味では分かっていなかった。それでも友達だったと言い張るの?」
鈴は俯いた。
「……私は」
「あなたは優しいふりをしているだけ。恵理を憎むのが怖い。恵理との思い出を否定するのが怖い。だから、あの子を本気で裁くことができない!」
鈴の胸が痛んだ。
虚像の言葉は、彼女自身が何度も考えたことだった。
恵理を許せるわけではない。
だが、恵理をただの怪物だと割り切ることもできない。
友達だった時間まで、嘘だったことにしたくない。
「……そうよ」
鈴は震える声で答えた。
「私は、まだ恵理のことを完全には割り切れない」
虚像が笑う。
「やっと認めたわね」
「でも!」
鈴は顔を上げた。
「だからって、恵理がしたことを許すつもりはない!」
虚像の笑顔が消えた。
「私は恵理を止めたい。あの子がこれ以上、誰かを傷つける前に。たとえ、もう昔みたいな友達には戻れなくても……!」
鈴はデュエルディスクを構えた。
「私は、恵理との思い出をなかったことにしない。だけど、その思い出を理由に、今の恵理を見逃したりもしない!」
虚像もまたデッキを構える。
「なら、決闘で証明してみなさい。あなたが本当に、その覚悟を持っているのか!」
「デュエル!」
第一ターン――過去を突きつけるデッキ
虚像は先攻を取り、モンスターを召喚した。
「私はモンスターを召喚し、さらに魔法カードを発動!」
次々とカードが展開され、鈴のフィールドを圧迫していく。
「あなたは恵理のことを考えるたびに、迷ってしまう。あの子を止めるべきなのか、それとも救うべきなのか」
虚像はカードを伏せた。
「その迷いが、あなたの弱さよ」
鈴はカードを引いた。
「私のターン!」
彼女はモンスターを召喚し、守りを固める。
しかし、虚像はそのモンスターを効果で除去し、攻撃を仕掛けてきた。
鈴は防御カードで直撃を避けたものの、追い詰められていく。
「どうしたの? 恵理を止めるんじゃなかったの?」
「……くっ!」
「あなたは恵理を止める勇気がない。あの子を傷つけたくないから!」
鈴はカードを握りしめた。
その言葉を否定できない自分がいる。
恵理を止めることは、彼女と戦うことだ。
戦うということは、恵理が本当に取り返しのつかない道へ進んだと認めることでもある。
「私は……!」
鈴は手札を見つめた。
ハジメなら、きっと迷わずに行動するだろう。
だが、自分はハジメではない。
迷いながらでも、自分で決めなければならない。
第二ターン――友達だった時間
鈴はカードを引いた。
「私はモンスターを召喚! そして、魔法カードを発動する!」
彼女は攻撃を仕掛けるが、虚像は罠カードでそれを止めた。
「そんな攻撃では、私には届かない!」
虚像は反撃し、鈴のモンスターを破壊する。
「あなたはまだ、恵理を見ているのね。昔の恵理を。あなたと一緒に笑っていた頃の恵理を!」
鈴の目に涙が浮かぶ。
「……そうよ」
彼女は震える声で答えた。
「私は、あの頃の恵理が大切だった。たくさん話したし、一緒に笑ったし、くだらないことで喧嘩もした」
虚像は冷たく言い放つ。
「だから何? 今の恵理が殺した人たちは、その思い出で生き返るの?」
鈴は言葉を失った。
「あなたが迷っている間にも、恵理は誰かを傷つける。あなたが思い出にすがっている間にも、恵理は罪を重ねる!」
鈴は涙をぬぐった。
「……分かってる」
彼女はデッキを握りしめる。
「分かってるよ! だから、私は止める!」
虚像が一瞬、目を見開いた。
「私は恵理を許せない。でも、恵理を憎むだけで終わりたくもない。あの子が何を考えていたのか、どうしてあんなことをしたのか……それを聞きたい!」
鈴は前を向いた。
「でも、聞くために、これ以上誰かを犠牲にするわけにはいかない!」
鈴は手札からカードを発動し、墓地のモンスターを蘇生した。
「私はこのモンスターを守備表示で特殊召喚!」
虚像の攻撃を受け止め、鈴は次のターンに備えた。
第三ターン――迷いを抱えたまま
虚像は攻勢を続ける。
「あなたは結局、恵理を救いたいだけなのよ。自分が納得したいから。友達だった自分を否定したくないから!」
「……違う」
鈴は小さく呟いた。
「違うよ……」
だが、その声にはまだ迷いがあった。
虚像はさらに攻撃を仕掛け、鈴のモンスターを破壊する。
鈴は一歩後退した。
苦しい。
恵理を止めたいという気持ちは本物だ。
それでも、友達だった恵理を完全に切り捨てることはできない。
その二つの気持ちが、彼女の中でぶつかり合っていた。
「ほら、決められない!」
虚像が叫ぶ。
「あなたは何も選べない! 恵理を憎むことも、救うこともできない!」
鈴は俯いた。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「……そうかもしれない」
虚像の表情が変わる。
「私はまだ、どうすれば正しいのか分からない。恵理を救えるのかも分からない。あの子が昔のように戻ってくれるのかも分からない」
鈴はカードを引いた。
「でも、分からないからって、何もしないわけにはいかない!」
彼女は手札から魔法カードを発動し、フィールドを整える。
「私は墓地のモンスターを利用して、あなたの攻撃を止める!」
虚像の攻撃が封じられた。
「なにっ!?」
「私は迷っている。苦しいし、怖い。でも、恵理がしたことから目を背けるつもりはない!」
鈴は最後のカードを伏せた。
「そして、恵理を止めることからも逃げない!」
虚像は歯を食いしばった。
「そんな覚悟で、私に勝てると思っているの?」
「勝つためだけじゃない!」
鈴は答えた。
「自分の気持ちから逃げないために、私はここで戦ってるの!」
最終ターン――鈴の答え
鈴はカードを引いた。
手札には、反撃につながるカードが揃っていた。
「私のターン!」
彼女はモンスターを召喚し、墓地のカードを利用して布陣を整える。
虚像は罠カードで妨害しようとする。
だが、鈴は前のターンから準備していたカードを発動した。
「その効果を無効にする!」
虚像の罠が封じられる。
「しまった……!」
「バトル!」
鈴のモンスターが虚像のモンスターを破壊した。
続けて、直接攻撃が決まる。
虚像はよろめき、膝をついた。
「どうして……? あなたは、まだ恵理を割り切れていないのに……」
鈴は静かに答えた。
「割り切れなくても、前に進むことはできるから」
虚像の身体が崩れ始めた。
「私は恵理を忘れない。昔の恵理も、今の恵理も、両方を見て向き合う」
鈴は涙をこらえながら告げた。
「そして、あの子が犯した罪から逃げない。もし、もう戻れないところまで行ってしまったのなら……それでも、私は自分がすべきことをする」
虚像は最後に悲しそうな笑顔を浮かべ、消えていった。
鈴はその場に立ち尽くした。
「……恵理」
彼女は目元をぬぐった。
「私は、あなたと向き合うよ。もう逃げないから」
そして、鈴もまた、仲間たちを探して歩き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雪原の大迷宮。
果てしなく続く白銀の通路を、坂上龍太郎は一人で歩いていた。
「くそっ……! ハジメの奴、どこにいやがるんだよ!」
声を張り上げても、返事はない。
ユエやシアたちとも完全に引き離されたらしい。周囲には雪と氷の壁しかなく、どちらへ進めばいいのかさえ分からなかった。
その時、前方の吹雪が渦を巻いた。
「よう。ずいぶんと情けねえ顔してるじゃねえか」
聞き慣れた声。
龍太郎が顔を上げると、そこにはもう一人の自分が立っていた。
同じ体格。同じ顔。
だが、虚像の龍太郎は、相手を見下すような笑みを浮かべていた。
「……俺?」
「そうだ。お前の心の中にある、弱いお前自身ってところだな」
虚像は腕を組んだ。
「まったく、情けねえ。昔のお前は、考えるより先に殴ってたじゃねえか。強え奴がいりゃ正面からぶつかる。攻撃力の高いモンスターを並べて、相手が倒れるまで殴り続ける。それがお前の戦い方だった」
「……ああ、そうだったな」
龍太郎は苦笑した。
以前の自分なら、否定しなかっただろう。
強いカードを並べて、攻撃する。それ以外の戦術など、深く考えたこともなかった。
「でも今のお前はどうだ? ハジメから借りたデッキを使って、ちまちまカード効果を覚えてる。ギャンブルカードの結果に一喜一憂して、まともに勝ち筋も読めねえ。そんなお前が、本当に強くなれると思ってんのか?」
虚像がデュエルディスクを構えた。
「決闘しようぜ。お前がどれだけ変わったか、見せてみろよ!」
龍太郎もデッキを構えた。
「上等だ! 俺だって、いつまでも昔のままじゃねえ!」
「デュエル!」
第一ターン――力任せの戦術
「俺の先攻!」
虚像はカードを引くと、勢いよくモンスターを召喚した。
「俺は《ゴブリン突撃部隊》を召喚!」
粗暴なゴブリンの軍団が、雪原に現れる。
「攻撃力は二三〇〇! こいつは攻撃した後に守備表示になるが、そんなもん関係ねえ! 強えモンスターで殴り続けりゃ勝てるんだよ!」
虚像はさらにモンスターを展開し、攻撃力の高いモンスターを並べていく。
「これが俺の戦い方だ! 小難しいことなんか考えず、力で押し切る!」
龍太郎は相手のフィールドを見つめた。
確かに、攻撃力だけなら脅威だ。
だが、ハジメとの訓練で学んだことがある。
攻撃力の高いモンスターを並べることと、それを勝利につなげることは同じではない。
「……俺のターン!」
龍太郎はカードを引いた。
「俺は《ランドスターの剣士》を召喚! さらにカードを二枚伏せる!」
虚像は鼻で笑った。
「攻撃力五百のモンスターだと? そんなもんで、俺のゴブリン突撃部隊に勝てるかよ!」
「うるせえ! まだ終わってねえ!」
龍太郎は手札を確認した。
そこには、ハジメから借りたデッキのカードがある。
勝負を一気にひっくり返せるかもしれないカード。
だが、使うタイミングを間違えれば、かえって自分の首を絞める。
「……焦るな。相手が何をしてくるか、ちゃんと考えろ」
それはハジメに何度も言われた言葉だった。
龍太郎は一枚伏せて、ターンを終えた。
「守ってばかりか? つまんねえ奴になったな!」
虚像は笑いながらカードを引いた。
「俺のターン! ゴブリン突撃部隊で攻撃!」
ゴブリンが龍太郎のモンスターに襲いかかる。
「罠カード発動! 《鎖付きブーメラン》!」
鎖が飛び、ゴブリン突撃部隊を拘束する。
龍太郎はさらに効果を使い、相手の攻撃を止めながら装備カードとして利用した。
「なにっ!?」
「攻撃力だけで勝てると思うなよ!」
虚像の攻撃は止まった。
龍太郎は、初めて自分の戦術が相手の力を上回った手応えを感じた。
第二ターン――ギャンブルの始まり
「俺のターン!」
龍太郎はカードを引き、目を見開いた。
「来たぜ……!」
手札には《時の魔術師》があった。
城之内克也の代表的なギャンブルカード。
ハジメから借りたこのデッキを使い始めた時、龍太郎はこのカードを何度も失敗させていた。
時間を操る魔術師の効果は、成功すれば強烈。しかし失敗すれば、自分が不利になる危険もある。
「またそれかよ! そんな運任せのカードで、俺に勝つつもりか?」
虚像が嘲笑う。
「……運任せ、ね」
龍太郎はカードを見つめた。
確かに、結果を完全には制御できない。
だが、城之内はこのカードをただの賭けとして使っていたわけではない。勝負を決める場面で、危険を承知で未来をつかみにいったのだ。
「俺は《時の魔術師》を召喚! 効果を発動する!」
小さな魔術師が時計を掲げる。
「コイントス! 表なら相手フィールドのモンスターを破壊し、その攻撃力の合計の半分を相手にダメージとして与える! 裏なら、その合計の半分のダメージを俺が受ける!」
龍太郎はコインを弾いた。
コインが空中で回転し、雪の上へ落ちる。
――表。
「よっしゃあああっ!」
時の魔術師が杖を振るう。
時間が逆巻き、虚像のモンスターたちは急激に老朽化して崩れ落ちた。
「ば、馬鹿な!?」
「やったぜ……!」
龍太郎は拳を握りしめた。
しかし、勝利を確信するにはまだ早い。
虚像のフィールドには、伏せカードが残っている。
「調子に乗るなよ!」
虚像は罠カードを発動し、龍太郎の攻撃を妨害した。
時の魔術師の効果で勝負を決めることはできなかった。
「くそっ……!」
「やっぱりお前は運に頼るしかねえんだよ!」
龍太郎は歯を食いしばった。
だが、カードを引いた時の手応えを思い出す。
勝ち筋は見えた。
あとは、最後まで考えることだ。
第三ターン――鉄の意志、鋼の剣
虚像は再びモンスターを展開し、攻撃力で龍太郎を追い詰める。
「どうした! もうギャンブルカードは尽きたか?」
龍太郎はカードを引いた。
「……まだだ!」
彼の手札にあったのは、《鉄の騎士 ギア・フリード》だった。
「俺は《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚!」
鋼鉄の鎧をまとった戦士が、雪原に立つ。
ギア・フリードは装備カードを装備すると、その装備カードを破壊する効果を持つ。装備カードを使う相手への牽制にもなる、城之内らしい戦士だ。
虚像は鼻で笑った。
「攻撃力一八〇〇か! 俺のモンスターには届かねえ!」
「攻撃力だけで決まるなら、決闘なんて必要ねえだろ!」
龍太郎は手札のカードを見せた。
「俺は装備魔法を発動! ギア・フリードに装備する!」
装備魔法がギア・フリードに取り付けられた瞬間、鋼鉄の騎士が反応する。
「ギア・フリードの効果で、その装備カードは破壊される!」
装備魔法は墓地へ送られた。
だが、それこそが龍太郎の狙いだった。
「装備カードが墓地へ送られたことで、俺の伏せカードを発動できる!」
龍太郎は前のターンから伏せていたカードを開いた。
虚像のモンスターを守っていた効果が解除され、ギア・フリードの攻撃が通る道が開かれる。
「バトル! ギア・フリードで攻撃!」
鋼鉄の騎士が剣を振り下ろし、虚像のモンスターを破壊した。
「ぐっ……!」
龍太郎は一歩も退かなかった。
「俺は強いモンスターを出すだけじゃなく、カードの効果を組み合わせて戦えるんだ!」
虚像の顔から笑みが消えた。
第四ターン――人造人間の切り札
「まだだ! 俺のターン!」
虚像はモンスターを召喚し、再び攻撃を仕掛ける。
龍太郎は防御カードで攻撃をしのいだものの、追い詰められていた。
ライフも残り少ない。
一手間違えれば敗北する。
「どうした? もう終わりか?」
龍太郎はカードを引いた。
そこにあったのは、《人造人間-サイコ・ショッカー》だった。
「……来た!」
サイコ・ショッカー。
城之内の切り札の一つであり、罠カードを封じる人造人間。
龍太郎はカードを掲げた。
「俺は《人造人間-サイコ・ショッカー》を召喚!」
機械の身体を持つ人造人間が、雪原に降り立つ。
「サイコ・ショッカーがフィールドに存在する限り、罠カードの効果は無効になる!」
虚像の表情が凍りついた。
「なにっ!?」
「お前は罠カードに頼って、俺の攻撃を止めてきた。だが、もうそれはできねえ!」
龍太郎はギア・フリードに攻撃を命じる。
虚像は罠を発動しようとするが、サイコ・ショッカーの効果によって無効化される。
「そんな……!」
「行け、ギア・フリード!」
鋼鉄の騎士が剣を振るい、虚像のモンスターを破壊した。
続いて、サイコ・ショッカーが攻撃する。
「サイコ・ショッカー! 攻撃!」
電撃が虚像を直撃する。
虚像は膝をついた。
「ば、馬鹿な……。昔のお前は、こんな戦い方はできなかったはずだ!」
龍太郎はカードを握りしめた。
「そうだ。昔の俺なら、攻撃力の高いモンスターを並べて、ひたすら殴ってたと思う」
彼は苦笑した。
「でもよ、俺は今、仲間と一緒に戦ってる。ハジメに教わって、カードの効果を覚えて、失敗して、何度も負けて……それでも、少しずつ強くなってきたんだ」
虚像は立ち上がろうとする。
だが、サイコ・ショッカーがその動きを阻むように立ちはだかった。
「俺はまだ、ハジメほど強くねえ。けど、俺なりの戦い方は見つけられる!」
龍太郎は最後の攻撃を宣言した。
「サイコ・ショッカー! ダイレクトアタック!」
人造人間の電撃が虚像を包み込む。
虚像の身体が砕け、吹雪の中へ消えていった。
龍太郎は大きく息を吐いた。
「……勝った、のか」
彼はギア・フリードとサイコ・ショッカーのカードを見つめた。
「ありがとな、城之内……いや、ハジメのデッキか」
彼は小さく笑った。
「よし。みんなを探すぞ!」
龍太郎は、今度こそ自分の足で歩き出した。
2.裏切りの痛み――鈴 VS 虚像
一方、雪と氷に閉ざされた通路を、鈴は一人で歩いていた。
「……恵理」
思わず、その名前が口から漏れる。
幼い頃からの友人。
一緒に笑い、悩み、くだらない話をしてきた大切な相手。
その恵理が、王都で多くの人々を殺し、仲間たちを裏切った。
しかも、彼女はそれを楽しんでいるようにさえ見えた。
「どうして……」
鈴は拳を握った。
怒りがある。
悲しみもある。
そして、どうしても消せない疑問がある。
――私たちが一緒に過ごした時間は、全部嘘だったの?
「鈴」
聞き慣れた声がした。
鈴が振り返る。
そこには、もう一人の鈴が立っていた。
「……私?」
虚像は悲しそうな笑顔を浮かべていた。
「そう。あなたが見ないようにしている、本当の気持ちよ」
「何を……」
「あなたは恵理を憎みきれない」
鈴は息を呑んだ。
「恵理が何をしたのか、分かっている。たくさんの人を殺した。私たちを裏切った。香織が刺された時だって、恵理は敵として私たちの前に立った」
虚像は一歩近づいた。
「それなのに、あなたはまだ、あの子のことを友達だと思っている」
「……違う」
「違わないわ!」
虚像の声が鋭くなる。
「あなたは、恵理を止めることができなかった。あの子が何を考えていたのか、何を望んでいたのか、本当の意味では分かっていなかった。それでも友達だったと言い張るの?」
鈴は俯いた。
「……私は」
「あなたは優しいふりをしているだけ。恵理を憎むのが怖い。恵理との思い出を否定するのが怖い。だから、あの子を本気で裁くことができない!」
鈴の胸が痛んだ。
虚像の言葉は、彼女自身が何度も考えたことだった。
恵理を許せるわけではない。
だが、恵理をただの怪物だと割り切ることもできない。
友達だった時間まで、嘘だったことにしたくない。
「……そうよ」
鈴は震える声で答えた。
「私は、まだ恵理のことを完全には割り切れない」
虚像が笑う。
「やっと認めたわね」
「でも!」
鈴は顔を上げた。
「だからって、恵理がしたことを許すつもりはない!」
虚像の笑顔が消えた。
「私は恵理を止めたい。あの子がこれ以上、誰かを傷つける前に。たとえ、もう昔みたいな友達には戻れなくても……!」
鈴はデュエルディスクを構えた。
「私は、恵理との思い出をなかったことにしない。だけど、その思い出を理由に、今の恵理を見逃したりもしない!」
虚像もまたデッキを構える。
「なら、決闘で証明してみなさい。あなたが本当に、その覚悟を持っているのか!」
「デュエル!」
第一ターン――過去を突きつけるデッキ
虚像は先攻を取り、モンスターを召喚した。
「私はモンスターを召喚し、さらに魔法カードを発動!」
次々とカードが展開され、鈴のフィールドを圧迫していく。
「あなたは恵理のことを考えるたびに、迷ってしまう。あの子を止めるべきなのか、それとも救うべきなのか」
虚像はカードを伏せた。
「その迷いが、あなたの弱さよ」
鈴はカードを引いた。
「私のターン!」
彼女はモンスターを召喚し、守りを固める。
しかし、虚像はそのモンスターを効果で除去し、攻撃を仕掛けてきた。
鈴は防御カードで直撃を避けたものの、追い詰められていく。
「どうしたの? 恵理を止めるんじゃなかったの?」
「……くっ!」
「あなたは恵理を止める勇気がない。あの子を傷つけたくないから!」
鈴はカードを握りしめた。
その言葉を否定できない自分がいる。
恵理を止めることは、彼女と戦うことだ。
戦うということは、恵理が本当に取り返しのつかない道へ進んだと認めることでもある。
「私は……!」
鈴は手札を見つめた。
ハジメなら、きっと迷わずに行動するだろう。
だが、自分はハジメではない。
迷いながらでも、自分で決めなければならない。
第二ターン――友達だった時間
鈴はカードを引いた。
「私はモンスターを召喚! そして、魔法カードを発動する!」
彼女は攻撃を仕掛けるが、虚像は罠カードでそれを止めた。
「そんな攻撃では、私には届かない!」
虚像は反撃し、鈴のモンスターを破壊する。
「あなたはまだ、恵理を見ているのね。昔の恵理を。あなたと一緒に笑っていた頃の恵理を!」
鈴の目に涙が浮かぶ。
「……そうよ」
彼女は震える声で答えた。
「私は、あの頃の恵理が大切だった。たくさん話したし、一緒に笑ったし、くだらないことで喧嘩もした」
虚像は冷たく言い放つ。
「だから何? 今の恵理が殺した人たちは、その思い出で生き返るの?」
鈴は言葉を失った。
「あなたが迷っている間にも、恵理は誰かを傷つける。あなたが思い出にすがっている間にも、恵理は罪を重ねる!」
鈴は涙をぬぐった。
「……分かってる」
彼女はデッキを握りしめる。
「分かってるよ! だから、私は止める!」
虚像が一瞬、目を見開いた。
「私は恵理を許せない。でも、恵理を憎むだけで終わりたくもない。あの子が何を考えていたのか、どうしてあんなことをしたのか……それを聞きたい!」
鈴は前を向いた。
「でも、聞くために、これ以上誰かを犠牲にするわけにはいかない!」
鈴は手札からカードを発動し、墓地のモンスターを蘇生した。
「私はこのモンスターを守備表示で特殊召喚!」
虚像の攻撃を受け止め、鈴は次のターンに備えた。
第三ターン――迷いを抱えたまま
虚像は攻勢を続ける。
「あなたは結局、恵理を救いたいだけなのよ。自分が納得したいから。友達だった自分を否定したくないから!」
「……違う」
鈴は小さく呟いた。
「違うよ……」
だが、その声にはまだ迷いがあった。
虚像はさらに攻撃を仕掛け、鈴のモンスターを破壊する。
鈴は一歩後退した。
苦しい。
恵理を止めたいという気持ちは本物だ。
それでも、友達だった恵理を完全に切り捨てることはできない。
その二つの気持ちが、彼女の中でぶつかり合っていた。
「ほら、決められない!」
虚像が叫ぶ。
「あなたは何も選べない! 恵理を憎むことも、救うこともできない!」
鈴は俯いた。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「……そうかもしれない」
虚像の表情が変わる。
「私はまだ、どうすれば正しいのか分からない。恵理を救えるのかも分からない。あの子が昔のように戻ってくれるのかも分からない」
鈴はカードを引いた。
「でも、分からないからって、何もしないわけにはいかない!」
彼女は手札から魔法カードを発動し、フィールドを整える。
「私は墓地のモンスターを利用して、あなたの攻撃を止める!」
虚像の攻撃が封じられた。
「なにっ!?」
「私は迷っている。苦しいし、怖い。でも、恵理がしたことから目を背けるつもりはない!」
鈴は最後のカードを伏せた。
「そして、恵理を止めることからも逃げない!」
虚像は歯を食いしばった。
「そんな覚悟で、私に勝てると思っているの?」
「勝つためだけじゃない!」
鈴は答えた。
「自分の気持ちから逃げないために、私はここで戦ってるの!」
最終ターン――鈴の答え
鈴はカードを引いた。
手札には、反撃につながるカードが揃っていた。
「私のターン!」
彼女はモンスターを召喚し、墓地のカードを利用して布陣を整える。
虚像は罠カードで妨害しようとする。
だが、鈴は前のターンから準備していたカードを発動した。
「その効果を無効にする!」
虚像の罠が封じられる。
「しまった……!」
「バトル!」
鈴のモンスターが虚像のモンスターを破壊した。
続けて、直接攻撃が決まる。
虚像はよろめき、膝をついた。
「どうして……? あなたは、まだ恵理を割り切れていないのに……」
鈴は静かに答えた。
「割り切れなくても、前に進むことはできるから」
虚像の身体が崩れ始めた。
「私は恵理を忘れない。昔の恵理も、今の恵理も、両方を見て向き合う」
鈴は涙をこらえながら告げた。
「そして、あの子が犯した罪から逃げない。もし、もう戻れないところまで行ってしまったのなら……それでも、私は自分がすべきことをする」
虚像は最後に悲しそうな笑顔を浮かべ、消えていった。
鈴はその場に立ち尽くした。
「……恵理」
彼女は目元をぬぐった。
「私は、あなたと向き合うよ。もう逃げないから」
そして、鈴もまた、仲間たちを探して歩き始めた。
3.勇者の影――光輝 VS 虚像
その頃、天之河光輝は、氷の壁に囲まれた広い空間に立っていた。
「……ここは?」
周囲を見回しても、仲間の姿はない。
光輝は剣を握りしめた。
雪原の大迷宮へ入る前、ハジメは何度も警告していた。
この迷宮では、心の隙を突く幻影が現れる可能性がある。
それでも、光輝は自分なら大丈夫だと思っていた。
これまで数々の魔物と戦ってきた。勇者として、多くの人を救ってきた。
自分には力がある。
そう信じていた。
「……光輝」
声がした。
光輝が振り返る。
そこに立っていたのは、もう一人の光輝だった。
同じ顔。同じ剣。
だが、虚像の目には、光輝が普段見せる正義感とは違う、冷たい嘲笑が宿っていた。
「……お前は、俺なのか?」
「そうだ。お前が見たくない自分自身だよ」
虚像はデッキを取り出した。
「お前は勇者だ。正義を信じ、仲間を守り、悪を倒す。そのために強くなろうとしてきた」
光輝は剣を下ろさなかった。
「それが、何だ?」
「でも、今のお前はどうだ?」
虚像は笑った。
「ハジメに勝てない。彼の力も、知識も、判断力も、お前には及ばない。お前が勇者として積み重ねてきたものを、あいつはあっさり超えていく」
「……!」
「お前はそれを認めたくない。だから、あいつに反発する。あいつのやり方を否定する。あいつが何かを隠していると知れば、なぜ教えてくれなかったのかと責める」
光輝の表情が強張った。
「俺は……仲間のために……」
「本当に?」
虚像が一歩近づく。
「お前は、仲間を守りたいのか。それとも、仲間を守る自分でいたいのか?」
光輝は言葉を失った。
虚像はさらに続ける。
「お前はハジメが神の真実を知っていたと聞いて、なぜ教えなかったのかと責めた。だが、あいつが話したところで、お前は信じたのか?」
「……それは」
「お前は神を信じていた。自分の正義を信じていた。だから、ハジメの言葉を受け入れられなかっただろう。今だって、あいつが正しいと認めるのが怖いんだ」
光輝は拳を握りしめた。
否定したい。
しかし、王都での出来事が脳裏をよぎる。
恵理の裏切り。香織が刺された瞬間。ハジメが現れ、圧倒的な力で戦況を変えたこと。
自分は何もできなかった。
それでも、光輝は顔を上げた。
「……俺は、まだ強くなれる」
虚像は薄く笑った。
「なら、決闘で証明しろ」
光輝はデュエルディスクを構えた。
「いいだろう。俺のデッキで、お前を倒す!」
「デュエル!」
第一ターン――サイバーの力
「俺のターン!」
光輝はカードを引いた。
「俺は《サイバー・ドラゴン・コア》を召喚!」
小型の機械竜がフィールドに現れる。
「召喚に成功した時、デッキからサイバー魔法・罠カードを手札に加える!」
光輝は必要なカードを手札に加え、続けて魔法カードを発動した。
「俺は《サイバー・リペア・プラント》を発動!」
墓地の状況に応じた効果を使い、デッキから必要な機械族モンスターを手札に加える。
さらに光輝は、手札の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚した。
「フィールドにモンスターがいない時、このカードを特殊召喚できる!」
光輝は二体のモンスターを並べた。
「俺は二体のモンスターを素材に、リンク召喚!」
機械の竜を模したリンクモンスターが現れる。
光輝はカードを伏せ、ターンを終えた。
虚像はその盤面を見て、笑った。
「なるほど。以前のお前なら、攻撃力の高いモンスターを出すことばかり考えていた。でも今は、サイバーのカードを組み合わせることを覚えたらしい」
「当たり前だ。俺は学んでいる!」
「だが、お前は本当にそのデッキを理解しているのか?」
虚像はカードを引いた。
「俺のターン!」
第二ターン――闇の鎧
虚像は闇属性の機械族モンスターを召喚した。
「俺は《サイバー・ダーク・キール》を召喚!」
黒い機械の竜が、虚像のフィールドに現れる。
「サイバー・ダークの効果を発動! 墓地のレベル3以下のドラゴン族モンスターを装備する!」
虚像は墓地からドラゴン族モンスターを選び、サイバー・ダーク・キールに装備した。
黒い機械の竜が、装備したドラゴンの力を取り込む。
「サイバー・ダークは、装備したドラゴンの攻撃力を自身に加える! さらに、戦闘で相手モンスターを破壊した時、効果ダメージを与える!」
「くっ……!」
虚像はさらにモンスターを展開し、サイバー・ダークの装備先を増やしていく。
「お前はサイバーの力を使っているつもりだろう。だが、本当の意味で機械の竜を理解しているのは、俺の方だ!」
虚像は《サイバー・ダーク・ホーン》を召喚し、墓地のドラゴン族を装備させた。
二体のサイバー・ダークが、光輝のモンスターを狙う。
「サイバー・ダーク・ホーンで攻撃!」
光輝のモンスターが破壊される。
続いてキールの攻撃が襲いかかる。
光輝は罠カードで直撃を防いだが、盤面は一気に不利になった。
「どうした、光輝?」
虚像が笑う。
「お前は正義のために戦う勇者だ。なら、なぜハジメに勝てない? なぜあいつの判断を信じられない?」
「黙れ!」
光輝は叫んだ。
「俺は俺のやり方で強くなる!」
「本当にそうか? お前はハジメの知識を借り、ハジメの助言を受け、ハジメの力を見ているだけだろう!」
虚像の言葉が、光輝の胸をえぐった。
第三ターン――崩れ始める自信
光輝はカードを引いた。
「俺のターン!」
彼は墓地のカードを利用し、サイバーのモンスターを再びフィールドへ戻した。
「俺は《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚! さらに、魔法カードを発動する!」
光輝は融合素材を揃え、融合召喚を行う。
「融合召喚! 《キメラテック・ランページ・ドラゴン》!」
複数の機械竜が融合した竜が現れた。
「このカードが融合召喚に成功した時、デッキから機械族・光属性モンスターを墓地へ送ることができる!」
光輝は効果を利用して墓地を整える。
さらにランページ・ドラゴンの効果で魔法・罠カードを破壊し、攻撃回数を増やした。
「これでお前のサイバー・ダークを倒す!」
光輝は攻撃を宣言する。
ランページ・ドラゴンの連続攻撃が、虚像のモンスターを次々と破壊した。
「やった……!」
光輝の顔に、久しぶりに自信が戻った。
だが、虚像は笑った。
「それが、お前の限界だ」
虚像は手札から罠カードを発動し、ランページ・ドラゴンの攻撃を止めた。
さらに墓地のサイバー・ダークを利用し、次のターンのための布陣を整える。
「お前は強いカードを使いこなせるようになった。だが、勝利を確信するのが早すぎる」
光輝の表情が固まった。
「……何だと?」
「お前は、勝てると思った瞬間に周囲が見えなくなる。自分の正しさを信じすぎる。相手が何を考えているかより、自分が正しいと証明することを優先してしまう」
虚像はゆっくりと歩み寄る。
「それが、お前の弱さだ」
光輝は言い返そうとした。
だが、王都での自分の姿が脳裏をよぎった。
ハジメを責めた時。
恵理に裏切られた時。
自分の信じていたものが崩れた時。
自分は本当に、仲間のために行動していたのだろうか。
それとも、自分の正義が正しいと信じたかっただけなのだろうか。
「違う……俺は……!」
声が震えた。
第四ターン――サイバー・ダークの牙
虚像はカードを引いた。
「俺のターン!」
彼は再びサイバー・ダークのモンスターを召喚し、墓地のドラゴン族を装備させた。
さらに、融合魔法を発動する。
「俺はフィールドと墓地の素材を融合する!」
サイバー・ダークの機械とドラゴンが一つになり、巨大な竜が姿を現した。
「融合召喚! 《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》!」
闇の鎧をまとった巨大な竜が、光輝を見下ろす。
「サイバー・ダークネス・ドラゴンは、融合素材となったサイバー・ダークの力を受け継ぐ。そして装備カードを利用して、相手の効果を無効にすることもできる!」
虚像は墓地からドラゴン族を装備させた。
「お前が何をしようと、俺の竜がすべてをねじ伏せる!」
サイバー・ダークネス・ドラゴンが攻撃を開始する。
光輝は残ったカードを使って防御しようとするが、虚像はその効果を無効にした。
「なっ……!」
「終わりだ、光輝!」
巨大な竜の攻撃が直撃する。
光輝は吹き飛ばされ、雪の上に倒れ込んだ。
「ぐ……あ……!」
デュエルの敗北が、彼の意識を揺さぶった。
虚像は彼を見下ろした。
「お前は勇者だと信じてきた。正義のために戦う者だと信じてきた。だが、お前は自分が信じたいものしか見ていなかった」
光輝は立ち上がろうとする。
「俺は……まだ……」
「もういい。お前は十分に戦った」
虚像は手を伸ばした。
「ここからは、俺が代わってやる」
その手が光輝の額に触れた瞬間、黒い影が彼の身体へ流れ込んだ。
「な……に……?」
光輝の視界が暗くなる。
意識が沈んでいく。
最後に浮かんだのは、ハジメの姿だった。
――なぜ、俺はあいつを信じられなかったんだ。
その問いに答えを出す前に、光輝の意識は闇へ落ちた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
雪原の通路。
ユエ、シア、ティオ、香織、清水、雫、龍太郎、鈴は、迷宮の一角でようやく合流していた。
「全員、無事か?」
ハジメが周囲を確認する。
「うん。みんな、なんとか勝てたみたい」
香織が安堵の息を吐く。
「シア、胸の紋章は……」
ハジメが尋ねると、シアは少し照れくさそうに笑った。
「えへへ……ライフ・ストリーム・ドラゴンが、私の力に応えてくれたんです!」
「……そうか」
ハジメはシアのカードを見つめた。
「シグナーの力に目覚めたってことか。まだ分からないことは多いが、今はその力を制御することを優先しろ。力に振り回されるなよ」
「はい!」
ティオも腕を組んだ。
「妾も、新たな竜の力を得たぞ。ハジメ、後でじっくり見せてやろう」
「後にしろ。今は全員の無事を確認する方が先だ」
「むぅ……つれないのう」
いつものやり取りに、わずかに空気が和らぐ。
龍太郎は頭を掻いた。
「いやあ、俺もなんとか勝てたぜ。最初はどうなるかと思ったけどよ」
「ギャンブルカードの使い方が、少しは分かってきたようだな」
ハジメが言うと、龍太郎は得意げに胸を張った。
「おう! 時の魔術師にサイコ・ショッカー、それにギア・フリード! あの辺のカード、かなり面白いぜ!」
「面白いだけで使うなよ。時の魔術師は失敗した時のリスクもある。勝負どころを見極めろ」
「分かってるって!」
その隣で、鈴は俯いていた。
「鈴?」
シアが心配そうに声をかける。
「……うん。大丈夫」
鈴は無理に笑おうとした。
「ちょっと、恵理のことを思い出しただけ」
ハジメは何も言わなかった。
鈴が抱えているものは、簡単に割り切れるものではない。
だからこそ、彼女自身が向き合うしかないのだ。
「……光輝は?」
雫が周囲を見回した。
「そういえば、まだ合流していないな」
清水が呟く。
ハジメの表情が変わった。
「……確かに、まだだな」
「でも、光輝なら大丈夫じゃないかな?」
シアが言う。
「一応、勇者ですし……」
「勇者だから大丈夫、なんて保証はない」
ハジメは冷静に答えた。
「この迷宮は、力だけじゃなく精神も狙ってくる。自分自身の弱さを突きつけられた時、どうなるかは本人次第だ」
その時だった。
通路の奥から、足音が響いた。
「……みんな」
聞き慣れた声。
全員が振り返る。
そこには、天之河光輝が立っていた。
「光輝!」
鈴が駆け寄ろうとする。
だが、ハジメは片手を上げて制した。
「待て」
「え……?」
光輝は笑っていた。
いつもの、誰かを安心させるような笑顔。
だが、その目は違った。
瞳の奥に、冷たい影が揺らいでいる。
「みんな、無事だったんだな」
光輝はゆっくりと近づいてきた。
「よかった……本当に、よかった」
「光輝、お前……」
ハジメが口を開いた瞬間、光輝の表情が変わった。
「……お前のせいだ」
「何?」
「全部、お前のせいだよ。南雲」
光輝の声が低くなる。
「お前がもっと早く話していれば。お前がもっと協力していれば。俺たちは、あんなことにならなかった!」
ユエが眉をひそめた。
「……おかしい」
「ハジメ……?」
香織が不安そうに呟く。
光輝は頭を押さえた。
「俺は……俺は、みんなを守りたかったんだ……!」
一瞬だけ、いつもの光輝の声が戻る。
しかし、すぐに別の声が重なった。
「そうだ。お前は仲間を守りたかった。なのに、南雲は何もかも知っていたのに、教えなかった!」
光輝の口元が歪む。
「だから、俺が代わりに裁いてやる!」
その瞬間、彼のデュエルディスクが起動した。
「南雲ハジメ! 俺と決闘しろ!」
シアが息を呑む。
「光輝さん……?」
「おい、光輝。落ち着け」
龍太郎が一歩前へ出る。
だが、光輝は龍太郎を睨みつけた。
「黙れ! これは俺と南雲の問題だ!」
ハジメは光輝をじっと見つめた。
彼の身体から感じる魔力。
その奥にある、本人のものではない異質な気配。
ハジメは確信した。
「……お前、光輝じゃないな」
光輝の口元が、ゆっくりと吊り上がった。
「さあな?」
彼はデュエルディスクを構え直す。
「それを確かめたければ、決闘で俺を倒してみろよ。お前の得意なカードゲームでな!」
ハジメは一歩前へ出た。
「……いいだろう」
左目の眼帯の奥で、千年眼がかすかに輝く。
「ただし、光輝の身体を傷つけるつもりはない。お前だけを引きずり出してやる」
虚像に乗っ取られた光輝が、狂気を帯びた笑みを浮かべた。
「できるものなら、やってみろ!」
雪原の大迷宮に、二人のデュエルディスクの起動音が響いた。
次の決闘は、ただの勝敗を決めるためのものではない。
仲間の身体を取り戻すための戦い。
そして、光輝が自分自身の弱さと向き合うための戦いが、始まろうとしていた。