「ありふれた遊戯王で世界最強」   作:武藤 桜

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第三十九話「星屑の帰還、決戦への三日間――小さな勇者が取り戻したもの」

魔王城の中庭には、重苦しい静寂が広がっていた。

 

 倒れた魔族たち。破壊された石畳。闇に染まったデュエルディスク。そして、かつて仲間たちの先頭に立って戦っていた少年が、今まさに一線を越えようとしていた場所。

 

 南雲ハジメは、目の前に立つ小さな少女を見下ろしていた。

 

 ミュウ。

 

 自分がこの世界で初めて、心の底から守りたいと思った少女。

 

 そのミュウが、ハジメの捨てたスターダストデッキを抱きしめ、震える手でデュエルディスクを構えている。

 

「……デュエル」

 

 ミュウの声は小さかった。

 

 けれど、その目だけはハジメから逸らさなかった。

 

「デュエル!」

 

 少女の声に応じて、二つのデュエルディスクが起動する。

 

 ハジメのデッキは、憎悪に染まったE-HERO。

 

 ミュウのデッキは、かつてハジメが数え切れないほどの戦いで使ってきたスターダストデッキ。

 

 それは、ただのカードの束ではない。

 

 ハジメが異世界に落ち、絶望の底から這い上がり、ユエと出会い、シアやティオと仲間になり、数々の迷宮を越えてきた証だった。

 

 そのデッキを、今は幼いミュウが握っている。

 

「パパ……ミュウ、がんばる!」

 

「……好きにしろ」

 

 ハジメの声は冷たい。

 

「だが、手加減はしない。お前が俺を止められると思っているなら、その甘さごと叩き潰してやる」

 

「うん……!」

 

 ミュウはびくりと肩を震わせた。

 

 それでも、カードを手放さなかった。

 

「ミュウのターン! ドロー!」

 

 引いたカードを確認する。

 

 しかし、幼いミュウには、ハジメのようにデッキ全体を把握して最善の手順を導き出す技術はない。

 

 カードの効果をすべて覚えているわけでもない。

 

 それでも、知っているカードはあった。

 

 パパが何度も使っていたカード。

 

 パパが勝つために、そして誰かを守るために、何度も手にしていたカード。

 

「ミュウは……《スピード・ウォリアー》を召喚!」

 

 小さな戦士が、ミュウのフィールドに現れた。

 

「それから……カードを、いちまい伏せる!」

 

 ミュウは一生懸命にカードをセットした。

 

 ハジメはその様子を、感情のない目で見つめていた。

 

「ターンエンド!」

 

「俺のターン。ドロー」

 

 ハジメはカードを引く。

 

 そして、迷いなく一枚を手にした。

 

「魔法カード《ダーク・フュージョン》を発動!」

 

 黒い融合の渦がフィールドを覆う。

 

「手札のE-HEROを融合素材にする。融合召喚――《E-HERO インフェルノ・ウィング》!」

 

 炎と闇をまとった邪悪な英雄が、ミュウの前に降り立った。

 

「い、いや……!」

 

 ミュウの表情がこわばる。

 

 その姿は、かつてハジメが使っていたE・HEROとは違う。

 

 同じ英雄の名を持ちながら、そこに宿る力は破壊と憎悪に染まっていた。

 

「インフェルノ・ウィングで、スピード・ウォリアーを攻撃!」

 

「きゃっ……!」

 

 炎が小さな戦士を飲み込んだ。

 

 ミュウのライフが減少する。

 

 衝撃に押され、ミュウの小さな身体が後ずさった。

 

 だが、倒れなかった。

 

「まだ……まだ、だもん!」

 

 涙をこぼしながら、ミュウは顔を上げる。

 

「パパを……ミュウが、止めるんだもん!」

 

「なら、次のターンまで立っていられるといいな」

 

 ハジメは淡々と告げた。

 

 その言葉に、シアが思わず前へ出ようとする。

 

「ハジメさん……!」

 

 しかし、ユエが静かにシアの腕をつかんだ。

 

「……待って」

 

「でも、ユエさん!」

 

「ミュウは、自分で決めた。ハジメを止めるって」

 

 ユエの赤い瞳が、ハジメとミュウを見つめていた。

 

「だから、最後まで見届ける」

 

 ティオは唇を噛みしめた。

 

 香織は祈るように胸元で手を組み、雫は拳を握りしめる。龍太郎と清水も、一歩も動けずにいた。

 

 ハジメの憎悪は、あまりにも深い。

 

 そして、その中心にあるのは、ユエを奪われた絶望だった。

 

 誰も簡単に、彼を責めることはできなかった。

 

 だからこそ、ミュウの小さな声だけが、中庭に響き続けていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ミュウのターン! ドロー!」

 

 ミュウはカードを引いた。

 

 手札を見つめ、必死に考える。

 

 パパなら、どうするだろう。

 

 このカードを引いた時、パパなら何を考えるだろう。

 

 ミュウには分からない。

 

 デッキの使い方も、カードの組み合わせも、まだまだ知らないことばかりだ。

 

 それでも、ミュウは知っていた。

 

 パパはいつも、カードを引いた後にすぐ動くわけではなかった。

 

 カードを見て、相手を見て、フィールドを見て。

 

 何ができるのかを、考えていた。

 

「……ミュウは、《ジャンク・シンクロン》を召喚!」

 

 小さな機械仕掛けの戦士が現れた。

 

「ジャンク・シンクロンの効果で……墓地の、レベル二以下のモンスターを、守備表示で特殊召喚する!」

 

 ミュウが選んだのは、先ほど破壊されたスピード・ウォリアーだった。

 

 戦士が再びフィールドに立つ。

 

「それから……えっと……」

 

 ミュウは手札を見た。

 

 だが、ここから先の展開が分からない。

 

 シンクロ召喚。

 

 パパが何度も見せてくれた、モンスターたちが一つになり、新しい力を生み出す召喚方法。

 

 ミュウは、そのやり方を完全には理解していなかった。

 

 ただ、ジャンク・シンクロンがチューナーであることは覚えていた。

 

「ジャンク・シンクロンは、チューナー……。スピード・ウォリアーは、レベル二……」

 

 指で数えながら、ミュウは必死に考える。

 

「レベル三と、レベル二だから……レベル五……!」

 

 ミュウは、手札から一枚のカードを取り出した。

 

「シンクロ召喚! 来て……《ジャンク・ウォリアー》!」

 

 ジャンク・シンクロンとスピード・ウォリアーが光となり、二つの力が重なる。

 

 そして、力強い戦士がフィールドに現れた。

 

「できた……!」

 

 ミュウの顔に、ほんの少しだけ笑みが戻った。

 

 けれど、ハジメはその光景を見ても表情を変えなかった。

 

「レベル五のシンクロ召喚。手順は間違っていない。だが――」

 

 ハジメは一枚のカードを掲げた。

 

「その程度で、俺を止められると思うな」

 

「っ……!」

 

「俺のターン。ドロー!」

 

 ハジメは、手札を一枚ずつ確認する。

 

 そして、迷いなく魔法カードを発動した。

 

「《ダーク・コーリング》!」

 

 闇の力が渦巻く。

 

「墓地の悪魔族と岩石族を融合素材として除外する! 融合召喚――《E-HERO ダーク・ガイア》!」

 

 巨大な岩石の身体に、悪魔の力を宿した融合モンスターが現れた。

 

 圧倒的な存在感。

 

 その力の前に、ジャンク・ウォリアーが小さく見える。

 

「ダーク・ガイアで、ジャンク・ウォリアーを攻撃!」

 

「だ、だめ……!」

 

 ミュウは伏せていたカードを開いた。

 

「罠カード! 《くず鉄のかかし》!」

 

 その効果によって、ダーク・ガイアの攻撃が止められる。

 

 攻撃を終えた《くず鉄のかかし》は、再びセットされた。

 

 ハジメの目が、ほんのわずかに細くなる。

 

「……そうか。俺のデッキから、何度も見ていたんだったな」

 

「うん……!」

 

 ミュウは涙を拭いた。

 

「パパが、何回も使ってたカードだもん……!」

 

「なら、次はどうする?」

 

 ハジメは冷たく問いかける。

 

「同じカードを伏せ続けていれば、いつまでも俺の攻撃を止められるとでも思っているのか?」

 

「……っ」

 

「お前は、俺のデッキを知っているわけじゃない。俺が使うカードを見ていただけだ。知っていることと、使いこなせることは違う」

 

 ミュウの瞳に涙が浮かぶ。

 

 それでも、ハジメは言葉を止めなかった。

 

「俺を止めたいなら、もっと考えろ。もっと自分で判断しろ。誰かの真似をするだけじゃ、何も変えられない」

 

「……パパ」

 

「ターンエンドだ」

 

 ハジメのフィールドには、E-HERO インフェルノ・ウィングとE-HERO ダーク・ガイア。

 

 ミュウのフィールドには、ジャンク・ウォリアー。

 

 その差は、あまりにも大きかった。

 

 ミュウは震える手でカードを引く。

 

 引いたカードを見つめても、すぐには何も思いつかなかった。

 

 どうすればいいのか分からない。

 

 どうすれば、パパに届くのか分からない。

 

 それでも。

 

「……ミュウは、やめない」

 

 小さな声が、静寂を破った。

 

「パパが、ミュウを助けてくれた時……ミュウ、いっぱい泣いちゃった」

 

 ハジメの指が、ほんのわずかに動いた。

 

「でも、パパは……ミュウを、置いていかなかった。お母さんのところに帰してくれた。帰ってきてくれるって、約束してくれた」

 

 ミュウは、手札を胸元に抱きしめた。

 

「ミュウ、パパが大好き……」

 

「……」

 

「だから……パパが、そんな顔をしてるの、いやなの……!」

 

 ハジメの表情が、わずかに揺らいだ。

 

 しかし、すぐに冷たい顔へ戻る。

 

「黙れ」

 

「いや!」

 

 ミュウは、初めて声を張り上げた。

 

「パパは、ミュウに優しかったもん! 怖い時、抱っこしてくれた! ミュウが泣いたら、頭をなでてくれた! ミュウが『パパ』って呼んだら、ちゃんと返事してくれた!」

 

「……黙れと言っている」

 

「いや! ミュウ、知ってるもん!」

 

 涙が頬を伝う。

 

「パパは、本当はこんなことしたくないんだもん!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……何も知らないくせに」

 

 ハジメの声が低くなる。

 

「お前に何が分かる。ユエが連れていかれた。俺の目の前で、俺の手が届かない場所へ奪われた。俺がどれだけ強くなろうと、何を手に入れようと、結局、守りたいものを守れなかった」

 

 ハジメの左目の奥が疼く。

 

 眼帯の下に隠された千年眼が、禍々しい光を宿した。

 

「俺はもう、失うのは嫌なんだ。二度と、誰にも奪わせない。そのためなら、邪魔する奴は全員潰す。魔族だろうと、人間だろうと、関係ない」

 

「……ユエおねえちゃんは、そんなこと、望んでないよ」

 

 ミュウの言葉に、ハジメの動きが止まった。

 

「……何だと?」

 

「ユエおねえちゃんは、パパが……パパのことが大好きなんだもん」

 

 ミュウは、スターダストデッキを握りしめた。

 

「だから、パパが帰ってこなくなったら……ユエおねえちゃん、悲しいよ」

 

「……!」

 

「シアおねえちゃんも、ティオおねえちゃんも、カオリおねえちゃんも……みんな、悲しいよ」

 

 ミュウは、一人ずつ仲間たちの顔を思い浮かべるように言った。

 

「パパが、みんなを守ってくれた。みんなと一緒にいてくれた。だから、みんな、パパのことが大好きなんだよ」

 

「……」

 

「でも、今のパパは……みんなを、怖がらせてる」

 

 その言葉は、ハジメの胸に突き刺さった。

 

 彼は、仲間たちを見た。

 

 シアは涙を流し、ティオは苦しそうに拳を握っている。香織は悲しげに目を伏せ、雫は唇を噛みしめていた。龍太郎も、清水も、鈴も、誰一人としてハジメを見捨てようとはしていない。

 

 それでも、誰もが彼の行動を止めようとしていた。

 

 ハジメは、目を閉じた。

 

 脳裏に、ユエの顔が浮かぶ。

 

 いつも自分の隣にいた少女。

 

 どんな時でも、彼を信じ、彼の帰りを待ってくれた少女。

 

 そして、最後に自分の手へ押しつけるように渡してきた、ブラック・ローズ・ドラゴンのカード。

 

 あの時のユエの声が、蘇る。

 

 ――ハジメ。私、待ってる。

 

 ――だから、必ず来て。

 

 ユエは、彼に憎しみを託したのではない。

 

 彼女が託したのは、再会への願いだった。

 

「……俺は……」

 

 ハジメの指が震えた。

 

 千年眼の光が、わずかに弱まる。

 

 その隙を逃さず、ミュウはカードを掲げた。

 

「ミュウのターン! ドロー!」

 

 引いたカードは、《スターライト・ロード》だった。

 

 ミュウはカードを見つめる。

 

 効果を完全に理解しているわけではない。

 

 だが、パパが何度も大切にしていたカードだということは知っていた。

 

「ミュウは……カードを、二枚伏せる!」

 

 ミュウは、慎重にカードをセットした。

 

「それから……ジャンク・ウォリアーで、ダーク・ガイアを攻撃!」

 

「……無謀だな」

 

 ハジメは、反射的にそう告げた。

 

 攻撃力では、ジャンク・ウォリアーはダーク・ガイアに及ばない。

 

 そのまま攻撃すれば、ミュウのライフが削られるだけだ。

 

 しかし、ミュウは攻撃宣言を取り消さなかった。

 

「パパ……お願い。ミュウの声、聞いて……!」

 

 ジャンク・ウォリアーが、巨大なダーク・ガイアへ向かって走り出す。

 

 ハジメは、反射的に罠カードへ手を伸ばしかけた。

 

 だが、その手が止まった。

 

 ミュウの目を見たからだ。

 

 恐怖に震えながらも、決して諦めていない目。

 

 勝てるかどうかではなく、パパを取り戻したいという願いだけを宿した目。

 

 その目は、かつてハジメが絶望の底で見失いかけたものと、よく似ていた。

 

 生きたい。

 

 守りたい。

 

 帰りたい。

 

 そして、もう一度、誰かと笑いたい。

 

 ジャンク・ウォリアーの拳が、ダーク・ガイアへ迫る。

 

 その瞬間、ミュウの伏せカードが光を放った。

 

「罠カード! 《スターライト・ロード》!」

 

 ミュウは必死に叫んだ。

 

「相手の効果で、たくさんのカードが破壊される時……それを無効にして、スターダスト・ドラゴンを呼べるんだよね……!」

 

 ただし、今回の攻撃そのものは、カードを複数破壊する効果ではない。

 

 発動条件は満たされていなかった。

 

 罠は発動せず、光はすぐに消えてしまう。

 

「あ……」

 

 ミュウの顔が青ざめた。

 

 間違えた。

 

 効果を勘違いしていた。

 

 パパなら、こんなミスはしない。

 

 ジャンク・ウォリアーはダーク・ガイアの前で弾き飛ばされ、ミュウのライフが大きく削られた。

 

 ミュウは膝をついた。

 

「……っ、うぅ……」

 

 それでも、彼女は泣きながら顔を上げた。

 

「……パパ……」

 

 ハジメは、何も言わなかった。

 

 ただ、ミュウを見つめていた。

 

 自分が勝つために使ってきたカードを、幼い少女が必死に使おうとしている。

 

 効果を間違え、戦術を誤り、それでも一歩も引かない。

 

 その姿は、かつての自分を思い出させた。

 

 異世界に落ちたばかりの頃。

 

 何も知らず、何も持たず、ただ生き延びるために必死だった自分。

 

 失敗して、傷ついて、それでも諦めずに立ち上がった自分。

 

 ハジメの中で、何かが音を立てて崩れ始めた。

 

「……ミュウ」

 

「……なあに、パパ……?」

 

「どうして、そこまでして俺を止めようとする」

 

 ミュウは、涙を拭いた。

 

「……だって」

 

 そして、精いっぱいの笑顔を浮かべた。

 

「パパが、ミュウのパパだから」

 

 ハジメの目が見開かれた。

 

「……っ」

 

「ミュウ、パパがいなくなるの、いやだよ……。ユエおねえちゃんを助けに行くのは、いいよ。ミュウも、助けてほしいもん。でも……」

 

 ミュウの声が震える。

 

「パパまで、いなくならないで……!」

 

 その瞬間。

 

 ハジメの中で、憎悪の壁が砕けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ハジメは、ゆっくりと自分の手を見下ろした。

 

 血に染まっているわけではない。

 

 だが、その手は、つい先ほどまで無関係な者たちへ向けられていた。

 

 怒りに任せて、何も考えず、目の前にいる者を敵と決めつけていた。

 

 ユエを奪われた。

 

 その事実は変わらない。

 

 エヒトを許すつもりもない。

 

 ユエを取り戻すためなら、どんな危険も引き受ける。

 

 それも変わらない。

 

 だが――。

 

「……俺は、何をしていたんだ」

 

 ハジメの声が、かすれた。

 

 眼帯の下で、千年眼の光が消えていく。

 

 黒く染まっていたE-HEROのカードが、かすかな光を放った。

 

 そして、ハジメのデッキから、あの星屑の竜の気配が感じられた。

 

 捨てたはずのスターダストデッキ。

 

 ミュウが抱きしめている、もう一つの自分。

 

「……ミュウ」

 

「パパ……?」

 

「……悪かった」

 

 ハジメは、膝をついた。

 

 ミュウと目線を合わせる。

 

「怖かったよな。痛かったよな。こんなことに巻き込んで……悪かった」

 

「……パパ?」

 

「俺は、ユエを助けるためなら何でもするつもりだった。だが、そのために関係ない奴らまで傷つけるなら……それは、ユエが好きになった俺じゃない」

 

 ハジメは、自分の左腕を握りしめた。

 

「俺は、あいつを取り戻す。絶対にだ。だが、もう二度と、憎しみに飲まれて道を見失ったりしない」

 

 ミュウの瞳から、再び涙がこぼれた。

 

「……パパぁ……!」

 

 ミュウが飛びつく。

 

 ハジメはその小さな身体を、両腕で抱きしめた。

 

「……ごめんな、ミュウ」

 

「ううん……! パパ……パパぁ……!」

 

 ミュウは、声を上げて泣いた。

 

 その泣き声を聞いた瞬間、ハジメの胸に、温かいものが戻ってきた。

 

 怒りが消えたわけではない。

 

 悲しみがなくなったわけでもない。

 

 ユエを失った痛みは、今も胸を抉り続けている。

 

 だが、それでも。

 

 自分には、まだ守るべきものがある。

 

 自分を信じてくれる仲間たちがいる。

 

 そして、帰ってこいと願ってくれる少女がいる。

 

「……ハジメさん!」

 

 シアが駆け寄り、二人を抱きしめる。

 

「もう……もう、よかったです……!」

 

「ハジメ……」

 

 ユエのいない場所で、ユエの名を呼ぶように、シアは彼の胸元へ顔を埋めた。

 

 ティオも、香織も、雫も、龍太郎も、清水も、鈴も、安堵の息を吐いた。

 

 誰もが、ハジメを失いかけていた。

 

 だが、ミュウが取り戻してくれた。

 

 小さな少女の、まっすぐな願いが。

 

 ハジメはミュウの頭を優しく撫でた。

 

「……ありがとな」

 

「……えへへ」

 

 ミュウは涙を拭い、小さく笑った。

 

「パパ、もう、こわい顔しない?」

 

「……努力する」

 

「約束?」

 

「ああ。約束だ」

 

 ハジメは、もう一度ミュウを抱きしめた。

 

 その腕には、先ほどまでの冷たい力ではなく、確かな温もりが戻っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー魔王城の一室には、ハジメたちと、解放された人々が集まっていた。

 

 エヒトは、ユエを器として取り込み、神域へと退いた。

 

 そして、三日後。

 

 この世界へ本格的な侵攻を開始する。

 

 エヒトの目的は、ただユエを器として使うことだけではない。

 

 この世界そのものを、自らの意志で作り替えること。

 

 人間も、魔族も、亜人も、すべてを自分の思い通りに動かすこと。

 

 そして、世界のすべてを支配することだった。

 

「……時間がないな」

 

 ハジメは地図を広げた。

 

「エヒトが侵攻を始めるまで、あと三日。その間に、神域へ乗り込む準備を整える」

 

「神域に直接乗り込む、ということですね」

 

 雫が確認する。

 

「ああ。向こうがこちらへ来るのを待つ必要はない。ユエを取り戻す。エヒトを倒す。そのために、俺たちから神域へ攻め込む」

 

 誰も異を唱えなかった。

 

 ユエを取り戻すため。

 

 この世界を守るため。

 

 そして、元の世界へ帰るため。

 

 それぞれに理由は違っても、進むべき道は同じだった。

 

「まず、こちら側の準備を整える」

 

 ハジメは、地図の各国を指で示した。

 

「神域へ乗り込む俺たちだけじゃない。エヒトが侵攻してくるなら、この世界全体が戦場になる可能性がある。各国に危機を知らせ、迎撃態勢を整えさせる必要がある」

 

「その役目は、私たちが引き受けます」

 

 リリアーナが力強く答えた。

 

 彼女はすでに王都へ戻っていたが、今回の事態を知り、各国との連絡を取るために駆けつけていた。

 

「王国の名で各国へ使者を送ります。エヒトが神を名乗る存在であり、神域から侵攻してくること。そして、彼を放置すれば世界そのものが危機に陥ることを伝えます」

 

「俺たちの話を、信じてもらえるか?」

 

 龍太郎が心配そうに尋ねた。

 

「信じてもらわなければ困ります。ですが、信じさせるための証拠はあります」

 

 リリアーナは、ハジメが用意した資料に目を落とした。

 

「これまでの迷宮で得た情報、エヒトの使徒が残した痕跡、魔王軍が確認した神域の異変。そして、実際にエヒトの力を受けた者たちの証言。これらを提示すれば、少なくとも無視はできないはずです」

 

「それに、各国が互いに協力する必要があることも伝えてくれ」

 

 ハジメが付け加える。

 

「どこか一国だけで対処できる相手じゃない。エヒトの力がどれほどのものか、俺たちは身をもって知っている。各国には兵力の動員だけじゃなく、住民の避難、食料や医療物資の確保、通信手段の整備も進めさせろ」

 

「分かりました」

 

 リリアーナは真剣な顔で頷いた。

 

「各国の王族や代表者にも、直接説明する場を設けます。愛子先生にも協力していただき、召喚されたクラスメイトたちの証言も集めましょう」

 

「愛子先生は、クラスメイトたちの保護と連絡を頼む。戦える奴は迎撃の準備を、戦えない奴は避難と支援を。全員が前線に出る必要はない」

 

 ハジメは、はっきりと言い切った。

 

「大事なのは、誰もが自分にできる役目を果たすことだ」

 

 その言葉に、リリアーナは深く頷いた。

 

「必ず、各国へ伝えます」

 

 世界を守るための準備が、動き始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

会議が終わると、神域へ突入する者たちは、それぞれの準備を始めた。

 

 ユエを取り戻す。

 

 エヒトを倒す。

 

 その目的を果たすためには、ただ力を合わせるだけでは足りない。

 

 それぞれが、自分自身の弱さと向き合い、決戦で何をすべきかを理解しておく必要があった。

 

 最初にハジメのもとへ来たのは、天之河光輝だった。

 

「……ハジメ。頼みがある」

 

「何だ」

 

「俺を、もう一度鍛えてほしい」

 

 光輝は、真っ直ぐにハジメを見た。

 

「雪原の大迷宮で、俺は自分の弱さを突きつけられた。自分が勇者だから正しいと思っていた。けど、違った。俺は何も知らないまま、自分の考えを押し通そうとしていた」

 

 彼は一度、拳を握る。

 

「神域にいる虚像は、俺の記憶も、俺のデッキも、俺の力も使っていた。あいつは、俺の弱さそのものだ。だから……今度こそ、俺自身の手で決着をつけたい」

 

 ハジメはしばらく光輝を見つめた。

 

「……いいだろう」

 

「本当か?」

 

「ただし、甘やかすつもりはない。三日で劇的に強くなれるとは思うな。やれることを全部やる。それだけだ」

 

「それでいい」

 

 光輝は頷いた。

 

「俺は、もう誰かに正しさを押しつけない。自分で考えて、自分で戦う」

 

「なら、まずはデッキを見直すところからだ」

 

 ハジメは、収納ケースを開いた。

 

 その中から取り出したのは、E・HEROデッキだった。

 

「これを使え」

 

「……E・HERO?」

 

「俺が以前使っていたデッキの一つだ。今のお前のデッキとは戦術が違う。だが、基本的な召喚方法、カードの効果、モンスター同士の連携を理解するにはいい教材になる」

 

 ハジメはデッキを光輝へ渡した。

 

「三日で完璧に理解しろ。カードの名前と効果を覚えるだけじゃない。どういう状況で使うのか、何を狙って組み合わせるのか、相手が何をしてくるかまで考えろ」

 

「……分かった」

 

「分かった、だけじゃ足りねぇ。使いこなせ。お前が虚像に勝つために必要なのは、借りたデッキの強さじゃない。自分で考えて、最後まで選択を続ける力だ」

 

 光輝はデッキを両手で受け取った。

 

「必ず、使いこなしてみせる」

 

 その目に、以前のような根拠のない自信はなかった。

 

 代わりに宿っていたのは、自分の弱さを認めた者の決意だった。

 

 続いてやって来たのは、鈴だった。

 

「ハジメ君。私にも、お願いがあるの」

 

「……オシリスデッキか?」

 

 ハジメが尋ねると、鈴は驚いたように目を見開いた。

 

「どうして分かったの?」

 

「お前が何を考えているか、だいたい分かる。恵理と向き合うつもりなんだろ」

 

 鈴は、ゆっくりと頷いた。

 

「……うん。恵理は、私の友達だった。今でも、そう思っている自分がいる。でも、あの子がしたことを許すつもりはない。たくさんの人を傷つけて、命を奪って……それをなかったことにはできない」

 

 鈴は拳を握りしめた。

 

「だから、今度こそ、ちゃんと向き合いたい。恵理が何を考えているのか、どうしてあんなことをしたのか。私は、逃げたくない」

 

「……そうか」

 

 ハジメは、別のデッキケースを取り出した。

 

 中に入っているのは、オシリスの天空竜を中心としたデッキ。

 

「これを使え」

 

「オシリスの天空竜……!」

 

「三幻神のカードを扱うのは簡単じゃない。だが、お前が恵理と戦うつもりなら、これ以上にふさわしいデッキもないだろう」

 

 ハジメは、デッキケースを鈴へ渡した。

 

「三日で、オシリスを使いこなせ。神のカードだから強い、なんて考えるな。どんな手札を維持するのか、どうやって召喚のための生け贄を用意するのか、召喚後に何を守るのか。全部、自分で考えろ」

 

「……うん!」

 

 鈴は、デッキケースを胸に抱いた。

 

「ありがとう、ハジメ君。絶対に、無駄にしない」

 

「勘違いするな。俺はカードを貸しただけだ。勝つのはお前自身だ」

 

「分かってる」

 

 鈴は顔を上げた。

 

「私自身の意志で、恵理と向き合う」

 

 その言葉には、確かな決意が宿っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ハジメは、二人を訓練場へ連れていった。

 

 そこには、決闘用の設備と、デッキの動きを確認するための訓練機が並んでいる。

 

「光輝はE・HERO。鈴はオシリス。どちらも、今まで使ってきたデッキとは違う。まずはカードを一枚ずつ確認しろ」

 

「分かった」

 

「はい!」

 

「カードの効果を覚えるのは当然だ。だが、そこで満足するな。自分のデッキに何が入っているかだけじゃなく、何ができないのかも理解しろ」

 

 ハジメは訓練機を起動させた。

 

「デッキは、都合よく欲しいカードを引かせてくれるわけじゃない。手札が悪い時にどうするか。相手に展開を止められた時にどうするか。切り札を出せない時に、何を残すか。そういうことを考えろ」

 

「……厳しいな」

 

 光輝が苦笑する。

 

「三日しかねぇんだ。優しく教えている暇はない」

 

「それはそうだけどさ……」

 

「不満があるなら、デッキを返せ」

 

「いや、やる!」

 

 光輝は即座にデッキを抱え直した。

 

 ハジメは鈴へ視線を向ける。

 

「鈴も同じだ。オシリスの攻撃力は手札の枚数に左右される。手札を使い切ればいいってわけじゃない。だが、手札を抱え込むだけでも勝てない。いつ、何を使うか。そこを考えろ」

 

「うん。ちゃんと考える」

 

「それから、二人とも覚えておけ」

 

 ハジメの声が、少しだけ厳しくなった。

 

「デッキを貸したからといって、俺の戦い方をそのまま真似する必要はない。俺と同じプレイをしようとすれば、かえって動きが鈍る。カードの使い方を理解した上で、自分なりの答えを出せ」

 

 光輝と鈴は、真剣な顔で頷いた。

 

「三日後、神域で待っているのは、これまでの敵とは違う。エヒトは俺たちの想像以上に狡猾で、強い。虚像も恵理も、俺たちの弱点を突いてくるだろう」

 

「……それでも、戦う」

 

 光輝が答えた。

 

「逃げない。今度こそ、自分で選んで戦う」

 

「私も。恵理から目を逸らさない」

 

 鈴も続いた。

 

 ハジメは、二人の決意を確かめるように頷いた。

 

「なら、始めるぞ。三日間、寝る間も惜しんで覚えろ。食事と休憩は取らせるが、訓練は徹底的にやる」

 

「……えっ、寝る間も惜しんで?」

 

「聞こえなかったか?」

 

「い、いや、聞こえたけど……!」

 

「覚悟を決めたんだろう?」

 

「……はい!」

 

 鈴も、思わず背筋を伸ばした。

 

「よし。まずは初手の展開を十通り考えろ。次に、相手の妨害を受けた場合の立て直しを十通り。その後、実際に訓練機と対戦だ」

 

「十通り!?」

 

「文句があるなら二十通りにするぞ」

 

「ありません!」

 

 光輝は即座に答えた。

 

 その様子を見ていた鈴が、少しだけ笑う。

 

 張り詰めた空気の中に、ほんのわずかな余裕が戻っていた。

 

 だが、二人はすぐに真剣な表情へ戻る。

 

 三日後には、決戦が待っている。

 

 その三日間で、自分たちにできることをすべてやらなければならない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 訓練場の外では、ほかの仲間たちも準備を進めていた。

 

 香織は新たな身体に馴染んだ戦い方を確認しながら、エンシェント・フェアリー・ドラゴンのデッキを調整している。

 

 以前の身体を失い、ノイントの身体を得たことで、魔力の感覚も、身体の使い方も変わった。

 

 それでも、香織はもう迷っていなかった。

 

「……今度こそ、みんなを守る」

 

 彼女はカードを一枚、デッキへ戻した。

 

「ハジメさんに助けてもらった命だから。私は、自分にできることを最後までやりたい」

 

 隣では、雫がブラックフェザーのカードを確認していた。

 

 雪原の大迷宮で、彼女は自分自身の虚像を乗り越えた。

 

 誰かの真似をするだけではなく、自分の判断で戦うこと。

 

 その意味を、彼女は身をもって知った。

 

「……私も、もう迷わない」

 

 雫はブラックフェザー・ドラゴンのカードを見つめる。

 

「ハジメさんに頼るだけじゃなく、私自身が戦えるように。決戦では、自分の力で道を切り開く」

 

 龍太郎は、借りている城之内克也のギャンブルデッキを手にしていた。

 

 まだ完璧とは言えない。

 

 だが、時の魔術師やロケット戦士、ギャンブル要素のあるカードを使う感覚は、少しずつ身についてきている。

 

「よし……! 俺だって、いつまでも初心者のままじゃいられねぇ!」

 

 龍太郎は拳を握った。

 

「ハジメに借りたデッキだけど、俺の戦い方を見つけてみせる!」

 

 その近くでは、清水がインフェルニティデッキを調整していた。

 

 かつてダークシグナーとして、人々を傷つけた自分。

 

 自分が犯した罪は、決して消えない。

 

 それでも、彼は今度こそ仲間のために戦うと決めていた。

 

「……もう、誰かを失うのは嫌だ」

 

 清水は、インフェルニティ・デス・ドラゴンのカードを見つめた。

 

「俺の過去は消えない。だからこそ、これから何をするかで示すしかない」

 

 シアは、パワー・ツール・ドラゴンのカードを手にしていた。

 

 いつもなら明るく振る舞う彼女も、今は真剣な表情を浮かべている。

 

「ハジメさんは、ユエさんを取り戻すために戦うんです。だったら、シアも一緒に戦います!」

 

 そして、ティオはレッド・デーモンズ・ドラゴンのカードを見つめていた。

 

「妾は、ハジメと共に歩むと決めた。ならば、最後までついていくのみじゃ」

 

 彼女はカードをデッキへ戻し、デュエルディスクを装着した。

 

「今度こそ、フリードのような輩に好き勝手はさせぬ。エヒトとて例外ではない」

 

 それぞれの想いは違う。

 

 だが、進むべき場所は同じだった。

 

 神域。

 

 ユエが囚われている場所。

 

 そして、エヒトがこの世界を支配しようとしている場所。

 

 そこへ乗り込むため、全員が自分にできる準備を始めていた。

 夜。

 

 神域突入組の全員が、一堂に会した。

 

 ハジメ、香織、雫、龍太郎、清水、シア、ティオ、光輝、鈴。

 

 そして、彼らを見送るリリアーナと愛子、クラスメイトたち。

 

 それぞれのデッキが、デュエルディスクに収められている。

 

 E・HERO。

 

 オシリスの天空竜。

 

 エンシェント・フェアリー・ドラゴン。

 

 ブラックフェザー。

 

 城之内のギャンブルデッキ。

 

 インフェルニティ。

 

 パワー・ツール・ドラゴン。

 

 レッド・デーモンズ・ドラゴン。

 

 そして、ハジメが最後まで手放さなかったスターダストデッキ。

 

 かつて、彼らはそれぞれ違う場所で戦っていた。

 

 異なる目的を持ち、異なる過去を背負い、時には互いの考えを理解できずにぶつかり合った。

 

 それでも、今は同じ場所に立っている。

 

 ユエを取り戻すため。

 

 エヒトを倒すため。

 

 この世界を守るため。

 

 そして、帰るべき場所へ帰るため。

 

 ハジメは全員を見渡した。

 

「……準備はいいか」

 

「ああ!」

 

 光輝が答える。

 

「もちろん!」

 

 鈴が頷く。

 

「シアは、いつでも大丈夫です!」

 

「妾もじゃ。ハジメ、今度こそ最後まで共に戦うぞ」

 

 ティオが胸を張った。

 

 香織はエンシェント・フェアリー・ドラゴンのカードを握りしめ、雫はブラックフェザーのデッキを構える。龍太郎は緊張を隠せないながらも、真っ直ぐ前を見ていた。

 

 清水もまた、迷いのない目で頷いた。

 

 ハジメは、全員の顔を確認する。

 

「いいか。これから向かうのは、俺たちの常識が通用しない場所だ。相手は神を名乗り、世界そのものを好き勝手に作り替えようとしている。普通の戦い方が通じないこともある。デュエルのルールさえ、歪められるかもしれない」

 

 誰も口を挟まなかった。

 

「だが、だからといって、俺たちが何もできないわけじゃない。相手がどれだけ強くても、どれだけ理不尽でも、考えることをやめるな。諦めるな。自分のカードを信じろ。仲間の判断を信じろ。そして、最後まで自分で選べ」

 

 ハジメは、スターダストデッキを手に取った。

 

「俺は、ユエを取り戻す。エヒトを倒す。だが、俺一人で全部を背負うつもりはない」

 

 彼は仲間たちを見渡した。

 

「お前たちがここにいるのは、俺のためだけじゃない。それぞれに守りたいものがある。それぞれに決着をつけたい相手がいる。なら、最後まで自分の意志で戦え。誰かに言われたからじゃない。誰かに頼まれたからでもない。自分がそうしたいと思ったから、ここに立っているんだろう?」

 

「ああ!」

 

 光輝が強く頷く。

 

「俺は、虚像との決着をつける。もう、誰かのせいにはしない!」

 

「私は、恵理と向き合う。友達だったからこそ、逃げずに伝えたいことがある!」

 

 鈴が声を張り上げた。

 

「シアも、ハジメさんとユエさんを助けます!」

 

「妾もじゃ。神だろうと何だろうと、ハジメと仲間たちを奪わせはせぬ!」

 

 ティオの声が響く。

 

 香織、雫、龍太郎、清水も、それぞれの決意を口にした。

 

 ハジメは小さく頷いた。

 

 そして、最後に言った。

 

「――俺たちは、赤き竜の使徒。誰かに与えられた役目をこなすだけの駒じゃない。自分の意志で立ち、自分の意志で戦い、自分の意志で未来を掴み取るデュエリストだ!」

 

 彼はデッキを掲げた。

 

「三日後、神域で決着をつける。ユエを取り戻す。エヒトを倒す。この世界を守る。そして――全員で、帰るぞ!」

 

「おおおおおっ!」

 

 仲間たちの声が、夜の城に響き渡った。

 

 それぞれのデュエルディスクが、決戦に備えて光を放つ。

 

 勝てる保証はない。

 

 誰も傷つかずに済む保証もない。

 

 それでも、彼らは進む。

 

 小さな少女が取り戻した一人の男の理性。

 

 仲間たちがそれぞれの胸に抱いた決意。

 

 そして、帰るべき場所を諦めない者たちの執念。

 

 そのすべてを胸に、赤き竜の使徒たちは、神域への扉を見据えた。

 

 決戦まで、残り三日。

 

 世界の命運を懸けた最後の戦いが、今、始まろうとしていた。

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