「ありふれた遊戯王で世界最強」   作:武藤 桜

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第四十二話「最終決戦・赤き竜の絆

赤き竜の絆と、黄金の花

 

神域の空は、白く澄み渡っていた。

 

しかし、その中心に立つ少女の姿を見た瞬間、南雲ハジメの胸中から、あらゆる冷静さが消えかけた。

 

「……ユエ」

 

白銀の髪。赤い瞳。見慣れた小柄な身体。

 

間違いない。そこにいるのは、何度も命を懸けて自分を支えてくれた少女――ユエだった。

 

だが、その瞳に宿るものは、ハジメの知る彼女のものではない。

 

「ようやくここまで来たか、南雲ハジメ」

 

ユエの唇が動く。

 

声はユエのもの。それなのに、そこから発せられる言葉には、彼女らしい感情がなかった。

 

「貴様がどれほど足掻こうと、結末は変わらぬ。下界の人間も、魔人も、亜人も、すべて我が意志の下に置かれる」

 

「……ユエの身体から出ていけ」

 

ハジメの声は低かった。

 

「その身体で俺に語りかけるな。ユエの口を使って、くだらねぇ御託を並べるな」

 

「ほう。まだそのようなことを言うか」

 

エヒトは、ユエの顔で笑った。

 

「ならば証明してみせよ。貴様が我を超える存在だというのなら、神域の法に従い、決闘で我を倒してみせろ」

 

エヒトが腕を掲げる。

 

神域の空間が歪み、二台のD・ホイールが出現した。ハジメの愛機――遊星号。そして、神の力によって生み出された、白銀のD・ホイール。

 

「ライディング・デュエルだ。勝者が敗者のすべてを決める」

 

「……上等だ」

 

ハジメは遊星号に跨がり、デュエルディスクを起動させる。

 

「俺が勝つ。お前をユエから引き剥がし、今度こそ終わらせる!」

 

二人は同時にアクセルを開いた。

 

「「ライディング・デュエル! アクセラレーション!」」

 

二台のD・ホイールが白い大地を駆け抜ける。

 

フィールド魔法《スピード・ワールド》が展開され、二人の速度に応じて神域の景色が流れていった。

 

「私のターン!」

 

先攻を取ったエヒトは、カードを一枚引く。

 

「私はモンスターを召喚し、カードを一枚伏せる。ターンエンドだ」

 

最初のターン。互いに速度を上げながら、決闘の準備を進める。

 

「俺のターン!」

 

ハジメもカードを引いた。

 

(エヒトのデッキは時械神。戦闘破壊への耐性、戦闘後に発動する効果、そしてデッキへ戻る効果……。下手に攻撃を仕掛ければ、こっちが消耗させられる)

 

前世で遊戯王を知り尽くしていたハジメにとって、時械神は未知の相手ではない。

 

だが、相手はその使い手として知られるゾーンの戦術を、神域の力でさらに強化している。知識があることと、勝利できることは同じではなかった。

 

「俺はモンスターを召喚し、カードを伏せる。ターンエンド!」

 

二台のD・ホイールは、さらに速度を上げた。

 

エヒトは次のターン、手札から一枚のカードを掲げる。

 

「現れよ、《時械神メタイオン》!」

 

翼を広げた時械神がフィールドに降り立つ。

 

「メタイオンは戦闘では破壊されず、戦闘によって発生する我へのダメージも受けぬ。そして戦闘を行った場合、相手フィールドのモンスターを持ち主の手札へ戻し、その数に応じてダメージを与える!」

 

メタイオンがハジメのモンスターへと突進した。

 

衝撃とともに、ハジメのモンスターがフィールドから消え去る。続けて時械神の効果が発動し、ハジメのライフが削られた。

 

「くっ……!」

 

「どうした、ハジメ。貴様の誇るシンクロ召喚も、時械神の前では無力か?」

 

「黙れ。まだ始まったばかりだ」

 

ハジメは歯を食いしばり、遊星号のアクセルを緩めなかった。

 

次のターン、エヒトは《時械神ミチオン》を呼び出す。

 

「ミチオンの効果により、戦闘後、貴様のライフを半分にする!」

 

神の力がハジメを襲う。

 

ライフが大きく削られ、ハジメの視界が一瞬揺れた。

 

「まだだ!」

 

彼は伏せていたカードを発動し、ダメージを抑える。だが、エヒトの攻勢は止まらなかった。

 

《時械神ラフィオン》が現れ、戦闘で相手モンスターに与えた攻撃力分のダメージをハジメへ返そうとする。ハジメはその効果を警戒し、無理な攻撃を避けてターンを終えた。

 

さらに、エヒトは《時械神サンダイオン》を呼び出す。

 

圧倒的な攻撃力を持つ巨体が、神域の空を覆った。

 

「これが時械神の力だ。貴様は何体の竜を並べようと、神の時間を超えることはできぬ!」

 

ハジメは返す言葉を口にしなかった。

 

目の前にいるのは、ただの敵ではない。

 

ユエの身体を奪い、仲間たちを傷つけ、世界そのものを玩具のように扱ってきた存在だ。

 

怒りに任せて突っ込めば、相手の思う壺になる。

 

(落ち着け。俺がやるべきことは、ユエを傷つけずにエヒトだけを引き剥がすことだ)

 

ハジメは自分のデッキを見つめた。

 

そして、墓地と手札を確認する。

 

「俺のターン!」

 

彼はモンスターを展開し、シンクロ召喚の準備を整えた。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす! シンクロ召喚!」

 

光の中から、《ジャンク・ウォリアー》が姿を現す。

 

しかし、エヒトは動じない。

 

「その程度のモンスターで、我の時械神をどうにかできると思うか?」

 

「思ってねぇよ。これは、次につなぐための一手だ」

 

ハジメはカードを伏せ、相手の出方をうかがう。

 

エヒトは再び時械神を展開し、ハジメのモンスターをフィールドから排除していった。攻撃を仕掛けるたびに、時械神の効果がハジメを追い詰める。

 

それでも、ハジメはシンクロ召喚を諦めなかった。

 

「俺はチューナーモンスターを召喚!」

 

小さな機械の戦士がフィールドに現れる。

 

「さらに、フィールドのモンスターを素材にシンクロ召喚!」

 

光が弾け、《フォーミュラ・シンクロン》が姿を現した。

 

「このカードはシンクロチューナー。次のシンクロ召喚へつなぐための要だ!」

 

ハジメは墓地に送られたカードを確認し、必要な素材を揃える。

 

「そして、フィールドの《フォーミュラ・シンクロン》と、シンクロ素材として条件を満たすモンスターを合わせる!」

 

星の光が重なり合う。

 

「集いし星が一つになる時、新たな絆が未来を照らす! 光さす道となれ!」

 

ハジメはカードを掲げた。

 

「シンクロ召喚! 飛翔せよ、《シューティング・スター・ドラゴン》!」

 

星屑の光をまとった竜が、遊星号の上空へと舞い上がる。

 

エヒトの瞳がわずかに細まった。

 

「その竜か……。だが、時械神の力を覆すには足りぬ!」

 

「分かってる。だから、ここからだ!」

 

ハジメは《シューティング・スター・ドラゴン》の効果を使い、相手の攻撃を無効にするための構えを取る。時械神の効果をすべて消し去れるわけではない。だが、相手の攻勢を止め、次の一手を作ることはできる。

 

エヒトは舌打ちし、カードを引いた。

 

「ならば、神の究極を見せてやろう!」

 

彼は複数のカードを展開し、最後に一枚のモンスターを掲げた。

 

「時を超え、すべての時械神を統べる存在よ! 我が前に降臨せよ――《究極時械神セフィロン》!」

 

白い巨体が出現し、神域の空が黄金色に染まった。

 

「セフィロンの力は、墓地の時械神を呼び戻し、攻撃力四千の軍勢を生み出す! そして、我が神域ではその力はさらに強まる!」

 

セフィロンの周囲に、倒されたはずの時械神たちの幻影が現れる。

 

「さあ、ハジメ。貴様の竜がどこまで耐えられるか見せてみろ!」

 

エヒトが攻撃を宣言する。

 

ハジメは《シューティング・スター・ドラゴン》の効果で攻撃を止めようとするが、エヒトはその動きを読んでいた。別の時械神による攻撃を重ね、ハジメの防御を削っていく。

 

ハジメのライフが残り少なくなった。

 

(このままじゃ、押し切られる……!)

 

彼はデッキを握りしめた。

 

ユエのカードが、そこにある。

 

彼女が最後に自分へ託してくれた《ブラック・ローズ・ドラゴン》。そして、仲間たちがそれぞれの想いを託したシグナーの竜。

 

ハジメは仲間たちを振り返った。

 

「シア、ティオ、香織、雫!」

 

四人はすぐに彼の意図を理解した。

 

シアが《パワー・ツール・ドラゴン》のカードを握りしめる。

 

ティオは《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を掲げた。

 

香織は《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》を、雫は《ブラックフェザー・ドラゴン》を、それぞれハジメへ託す。

 

「ハジメさん……!」

 

「ハジメ、妾たちの竜を使うのじゃ!」

 

「ハジメ君、ユエをお願い!」

 

「必ず、連れ戻してください!」

 

ハジメは四枚のカードを受け取った。

 

「……ああ。必ず連れ戻す!」

 

だが、カードを受け取っただけではシンクロ召喚はできない。竜のカードをフィールドへ出すためには、それぞれの召喚条件を満たす必要がある。

 

ハジメは自分の墓地と手札を確認した。

 

「俺は手札からチューナーモンスターを召喚! そして、フィールドのモンスターと合わせてシンクロ召喚!」

 

素材となるモンスターのレベルが光となって重なり、必要なレベルに到達する。

 

「シンクロ召喚! 現れよ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 

シアが大きく頷いた。

 

「私の竜……ハジメさん、お願いします!」

 

続けてハジメは、別のチューナーと非チューナーを展開し、必要なレベルを揃える。

 

「シンクロ召喚! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」

 

ティオが拳を握りしめる。

 

「ゆけ、紅き竜よ!」

 

さらに、フィールドのカードを整理し、必要な素材を揃え直す。

 

「シンクロ召喚! 《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》!」

 

香織の目に、希望の光が戻る。

 

最後に、ハジメは墓地のカードを利用してチューナーを呼び戻し、レベルを合わせた。

 

「シンクロ召喚! 《ブラックフェザー・ドラゴン》!」

 

雫は静かに頷いた。

 

「ハジメ……みんなの想いを、貴方に託すわ」

 

四体のシグナーの竜が、神域の空に並び立つ。

 

それぞれの竜は、仲間たちが歩んできた道と、その魂を象徴していた。

 

エヒトはそれを見ても、余裕を崩さない。

 

「竜を並べたところで、何が変わる? 我がセフィロンの前では、すべてが無意味だ!」

 

「そうかもしれねぇな」

 

ハジメは静かに答えた。

 

「だが、こいつらはただのカードじゃない。シアが、ティオが、香織が、雫が、今まで積み上げてきたものだ。お前に、それを否定させるつもりはねぇ」

 

ハジメはさらに、フィールドのモンスターと墓地のカードを確認した。

 

(まだ足りない。限界を超えるためには、正しい素材が必要だ)

 

彼はチューナーと非チューナーのレベルを確認し、最後の準備を始めた。

 

「俺はチューナーと非チューナーを合わせ、シンクロ召喚!」

 

光の中から、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が姿を現した。

 

レベル八のシンクロチューナー。その竜が放つ光は、他のシグナーの竜たちを包み込む。

 

「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の力で、フィールドのシンクロモンスターたちのレベルを一つへと変える!」

 

神域のルールに、ハジメの意志が割り込む。

 

パワー・ツール・ドラゴン。レッド・デーモンズ・ドラゴン。エンシェント・フェアリー・ドラゴン。ブラックフェザー・ドラゴン。

 

四体の竜のレベルが、それぞれ一つへと変化した。

 

「レベル八のシンクロチューナー、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》! そして、レベル一となった四体のシンクロモンスター!」

 

五つの星が、遊星号の前方に並ぶ。

 

「集いし星が一つになる時、新たな絆が未来を照らす! 光さす道となれ!」

 

ハジメはアクセルを限界まで開いた。

 

「リミットオーバー・アクセルシンクロ!」

 

星々が一つの光となり、神域を貫く。

 

「降臨せよ――《コズミック・クェーサー・ドラゴン》!!」

 

宇宙そのものを背負うかのような竜が、神域の空に姿を現した。

 

エヒトの表情が、初めて険しくなる。

 

「そのような竜が……我の神域で生まれるだと……!」

 

「生まれたんじゃねぇ。俺たちが、ここまで繋いできたんだ!」

 

ハジメは《コズミック・クェーサー・ドラゴン》を見上げる。

 

「仲間から託された竜。俺が積み重ねてきた決闘。そして、ユエが俺に託してくれた想い。その全部を背負って、俺はお前を倒す!」

 

エヒトは最後の抵抗として、セフィロンと時械神たちに攻撃を命じた。

 

だが、《コズミック・クェーサー・ドラゴン》はその攻撃を真正面から受け止める。神域の力と竜の光がぶつかり合い、白い大地に巨大な亀裂が走った。

 

「馬鹿な……! 神の力を押し返すだと!?」

 

「神だろうが何だろうが、関係ねぇ!」

 

ハジメはアクセルをさらに開く。

 

「俺の大切な仲間を、これ以上好き勝手に扱わせるか!」

 

《コズミック・クェーサー・ドラゴン》が咆哮し、光の翼を広げた。

 

ハジメはその力を、エヒトのカードと効果に対抗するために使う。神域の決闘において特別に与えられた竜の力が、時械神の効果を打ち消し、セフィロンの攻撃を止めた。

 

「これで終わりだ、エヒト!」

 

竜の光が神域を貫く。

 

セフィロンの巨体が崩れ、時械神たちの姿が次々と消えていった。

 

エヒトのライフがゼロになる。

 

「馬鹿な……我は神だ……! 人間ごときに……!」

 

ユエの身体から、黒い光が剥がれ落ちた。

 

それは人の形を保とうとするように蠢いたが、やがて光の中へと溶けていく。

 

ハジメはD・ホイールを止め、倒れかけたユエへ駆け寄った。

 

「ユエ!」

 

彼女の身体を受け止める。

 

白銀の髪が、ハジメの腕の中で揺れた。

 

「……ハジメ……?」

 

赤い瞳に、いつもの感情が戻ってくる。

 

「……遅い」

 

かすれた声。それは間違いなく、ハジメの知るユエの声だった。

 

ハジメは息を呑み、彼女を強く抱きしめる。

 

「……悪い。待たせた」

 

「……でも、来てくれた」

 

ユエは彼の胸に顔を埋めた。

 

「……ただいま、ハジメ」

 

「……おかえり、ユエ」

 

その瞬間、神域全体が大きく揺れ始めた。

 

エヒトの支配を失った空間が、崩壊を始めている。

 

「ハジメ! ここも長くは持たぬぞ!」

 

ティオの声が響く。

 

ハジメはユエを抱きかかえ、仲間たちを見渡した。

 

「全員、撤退だ! 下界に戻るぞ!」

 

四人の竜のカードを、それぞれの持ち主へ返す。

 

シアはパワー・ツール・ドラゴンを胸に抱き、ティオはレッド・デーモンズ・ドラゴンを手に取り、香織と雫もそれぞれの竜を受け取った。

 

「みんな、助かった。ありがとう」

 

ハジメの言葉に、仲間たちは頷く。

 

「礼なんていりませんよ、ハジメさん!」

 

「妾たちは仲間じゃ。当然のことをしたまでじゃ」

 

「ユエちゃんが戻ってきてくれて、本当によかった……!」

 

「……帰りましょう。みんなで」

 

ユエはハジメの腕の中で、そっと目を閉じた。

 

彼女を取り戻した。

 

エヒトとの決闘に、決着をつけた。

 

だが、下界にはまだ機皇帝の軍勢が迫っている。仲間たちが守っている世界も、まだ救われたわけではない。

 

ハジメは遊星号へ乗り込み、仲間たちとともに崩れゆく神域を駆け抜けた。

 

「待ってろよ、みんな。今、帰る」

 

赤き竜の光を背に、彼らは最後の出口へと向かった。

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