拝見。
新学期へ移行して一ヶ月、連邦生徒会長が失踪、それに伴い超法規的機関S.C.H.A.L.Eが設立、『先生』というキヴォトスでは今まで存在していなかった男の大人が現れた。
そして私はこれに対して物申したいことがある、
「それで、ミヤコ。収集されたから来たんだが…何について話すんだ?」
「それは勿論SRT廃校の件…も、ありますが、今はシャーレという組織についてを。まずシャーレの情報をモエに集めてもらったところ、設立されたばかりなのか情報は少なかったのですが、一つ確かな情報を」
なんだろうか、やはり先生で明確な情報というと…生徒へのセクハラ事案だろうか、こんなの何の役にも立たなそうだが…まぁ、取り敢えず聞いてみるか。
「キヴォトスを支配しようとしている、という情報がありました。なので、私達は阻止すべく、まず情報を集めるところから始めましょう。そのためにはまず潜入です、直接確かめることが重要ですので…」
うーん…なんか変な情報掴まされてんな、モエ。変なこと先生にされて今後に影響でも出てしまったら面倒だし…ここは私が出るか。
「それなら私がやるよ、潜入は慣れてるしいざという時は戦える」
「それもそうですね…分かりました、では先生の情報集めは古食さんに任せましょう」
「んじゃ、私は取り敢えず潜入に必要な物でも用意してくるよ」
ミヤコ達にそう言いその場を後にする。準備する、とは言っても用意するものは少ない。学生証に銃、ちょっとばかりのお金で良い、だが念のためサーマルカメラでも用意しておこう。
これで大方準備は整った。本当に必要な物が少ないのだ、何故ならシャーレは警備が固すぎて誰にもバレずに侵入だなんて不可能に近いし、バレた時のリスクも大きい。
だからただ手伝いに来ただけの生徒として潜入し、その過程の中で情報を集めるほうが吉だ。そうだな、当番の申請もしておいた方がより安全に入れそうだ。
おっ…早速返信が来たな。"09:20に来てほしい"か、今は9時丁度だから今から向かえばぴったり着くだろう、ということでミヤコ達に出発することを伝え、ハンガーラックからウィンドブレーカーを取り、少しの装備と学生証の入ったスクールバッグを肩から掛け、ウィンドブレーカーに袖を通しながら玄関を開ける。
別に車で行っても良いけど…まだ時間もあるし歩いて行くか、適当に朝ごはんは近くのコンビニで買おうかな。道行く先でたまに絡んでくる不良共をデザートイーグルで撃ち抜きながら、第一目標のコンビニへと足を運ぶ。
現在、少し歩きコンビニの中、私は少し困っている。いつも食べている焼きそばパンか新商品の卵たっぷり乗せパンか、私には非常に決め難い二択だ。うーむ…どっかの誰かが手助けしてくれれば良いのだが…
"あれ、今日当番に来てくれる
「そうなんだが、二つとも魅力的で選べな…く…先生?」
"はは、分かるよ。二つとも美味しそうだもんね"
私の驚いた表情を気に留めず、悩んでいた二つのパンを手に取る先生。しばしの間固まっている私にようやく先生が話しかける。
"私も朝ごはんまだなんだ、一緒に食べない?"
「…まぁ、別に良いよ」
私を朝ごはんに誘い会計に向かおうとする先生の隣に、少し呆れながらもついてゆく。まさかこんな所で先生と合うなんてな、少し計画も狂ったがまぁ別に良いか。
"あっ、今日は私が払うから君は良いよ"
「…相変わらずお人好しだな、分かった。先生がそういうならそうするよ、ありがとな」
"どういたしまして"
微笑みながら会計を済ませた先生からどちらが良いか聞かれ、しばらく悩み結果として新商品の卵たっぷりパンを受け取る。それから少しの間雑談しながら二回のシャーレ本部へと向かい、学生証を翳すとこに学生証を翳し、執務室に歩を進める。
それから執務室に着いて、二人で少し話しながらパンをいただく。先生は私の予想通りの人で、非常に親しみやすい人だった。
「そういや私の名前、教えてなかったな。嘉瀬乃 古食、古食で良い」
"今日はよろしくね、古食"
私に笑いかける先生に、つい微笑み返す。それから仕事を始めるまで少し時間があるため、適度に時間を潰す。
"そう言えば、古食が始めての当番なんだよ"
「そうだったのか、シャーレができてからもう一週間は経ってるから他の生徒が既に来てると思っていた」
"それがそうとも行かなくてね、まぁ、こんなおじさんと二人きりで仕事をしたいだなんて言う物好きはいないよ"
「その物好きがここにいるけどな」
それからも少しだけ雑談をした。趣味だとか、普段の習慣だとか、こういうところからも出てくる情報は少なくない。そしてこれから分かった情報はただ先生はゲーム好きでおもちゃが好きな大人ということだけだった。
悪いやつは大抵ここで悪意が見え隠れするんだがな、先生からは悪意という悪意が微塵も感じられない。どうやら本当に良い奴なようだ、死ぬ前と違う人だから少し心配したが、どうやら杞憂だったようだ。それなら、と気掛かりだったこともなくなったので仕事に取り掛かる。まぁ、言うて5時間で終わるだろう。
◆◇◇
現在、業務開始から8時間後。未だに仕事は減らないどころか少し増えている気がした、まさか先生がこんな激務を毎日こなしているとは…死ぬ前は警戒して当番に立候補しなかったから想像もつかなかった。
"こ、古食…そろそろ休んでも良いんだよ…?"
「馬鹿言うな…先生が休んでろ、できることはこっちでやっておくから」
納得のいかない先生を無理矢理ソファに投げ込み、引き続きデスクに座り引き続きPCのと睨めっこが開始される。
こんな忙殺されては、もはや先生の情報どころじゃなくなってしまう。仕方がないため、今回は諦めるしかなさそうだ。
業務開始から12時間後、ようやく緊急の書類の対処が終わった。やってもやっても舞い込んでくる書類にこちらは疲労困憊、書類仕事を一通り片付けた私と先生は目から生気が失われ、デスクに突っ伏している。
「ようやく緊急の書類が…終わった…」
"古食…古食…ちょっと…来てくれる…?"
先生から呼ばれ、クタクタな身体に鞭を打ち先生の座っているデスクに向かう。するといきなり腕を引き寄せられ、先生の膝に座るように動かされる。
「なっ…先生!?」
"やっぱり古食って良い匂いだね…爽やかな香り…"
後頭部に顔を埋められ、私を寄せるために回された腕を急いで振り払おうとすると先生の疲れた顔が目に写り、どうも抵抗する気がなくなる。
まぁ…私も少しだけ落ち着くし、もうちょっとだけこのままでも良いかな。まぁもう21時だし、誰も来ないはずだろう。先生も寝てしまったし、起きるまで待機かな。
ミヤコ達にも連絡はしておかないと、もし突撃してきてこの状態を見られたら恥ずかしすぎて穴掘って入っちゃいそうだし。
[ミヤコ、少し色々あって明日帰ることになりそうだ。すまん]
[了解しました]
これでミヤコ達にバレることもないだろう、私も大分眠くなってきた。
「…少し、寂しいな」
こういう、静かで暗い時はふと、エデン条約の時を思い出してしまう。ヒフミが死んだ日、私の目の前は暗くなった、それからというもの、ずっと部屋に引きこもり、何も食べず、布団に包まる毎日だった。
アズサもコハルもハナコ*1も、私を心配してくれて、毎日お見舞いに来てくれた。けどトリニティの現状を知らせるニュースが流れる度に、思い出して立ち直る気がなくなる。それを繰り返していた。
もう死のうと思って樹海を探しに家を出た時、ふと
私はアズサ達を庇い、左腕と右脚を失くして、結果として出血多量で息絶えた。そして目覚めれば二年前のとある朝、全て夢だと思っていた。
けどあの脳に焼き付けられた鮮明な地獄は、夢であることを否定した。だから私は強くなる、全てを守りたい。きっと死に戻ったのはそのためだから、私は使命を果たす。
"ん…んぅ…仕事やだ…"
「先生…」
先生の寝言がこんな静かな執務室を優しく刺し、私を先生の存在に気付かせる。先生に肩に回された腕の暖かさを感じ、思わず擦り寄る。先生の一回り大きな手を握り、抱き寄せる。
「大人って…こんなに暖かいんだな…」
先生の身体に身を傾け、預ける。背中から体温が伝わってきて、心が落ち着く。先生の左腕を抱き寄せてそのまま寝てしまいそうになる。頼れる人がいることに嬉しさを憶え、ずっと甘えたくなる。
「ずるいなぁ…こんな暖かいの、甘えたくなるじゃん」
私はその暖かさに包まれたまま、意識を落としてしまう。先生に包まれたまま、意識が落ちる。こんな安らかな気持ちになったのはいつぶりだろうか、でも、今はこの暖かさに甘えたい。
というより、このままじゃ先生が風邪を引いてしまう。少し惜しいが先生をベッドに運ぼう。
「よっと…大人の男性って意外と軽いんだな」*2
先生を抱え、シャーレの中にある仮眠室へ連れていき、ベッドに寝かせて布団を掛ける。
さてと、本来の仕事を忘れてはならない。先生のことは信用しているとはいえ、信頼している訳ではない。小さな変化だが、先生の性別が変わったように他にも変化があるのかもしれない。
その変化が、+方面に向かっていけば良いのだがな。まぁ取り敢えず情報収集だ、仮眠室の棚やベッドの下…は、薄い本が2冊。なんで仮眠室に置いてんだよ。
「む…ここは…」
情報を求めて約30分、部屋の隅の棚の影に隠れている小さな金庫を見つける。指紋認証にダイヤル、それと鍵穴か。かなり重要な資料が期待できるな。
指紋認証はさっき念のためにつけておいた指紋の取れる手袋で解決、次はダイヤル、ちょっとした裏ワザがあってな、まず鍵穴に鍵に似た凹凸の付いた棒状の何かを差し込み捻る。まぁこのままじゃ開かない、だが捻ったままダイヤルをゆっくり回していけば、どっかで棒が最後まで捻られる所がある。
そこがダイヤルの正解だ、あとは鍵。これは教範にも載っていたピッキング技術が役に立つ、ゆっくり、形を合わせるんだ。よし、これで解錠完了。ということでオープン!
「これは…先生の採用稟議書か」
何故こんな物が厳重に保管されているのか疑問に思いつつ、書類を読み進めていると気掛かりな所を見つける。
「…連邦生徒会長の個人指名、か」
連ちゃんの個人指名、それ即ち、先生はこのキヴォトスという世界の管理を任せられるほどに連ちゃんから信頼されているということ。
何故連ちゃんと親密な関係を持っているのかは不明、この大人の情報も今までなかった。任務の都合上、トリニティやらゲヘナやらワイルドハントを巡ることも多いが、大人の男性などキヴォトスで見たこともない。
全てが不明、最悪の状況、黒服の協力者、ゲマトリアの一員の可能性も否定しきれない。もしもそうなのだとしたら…最悪、殺すこともあるかもしれない。
だが私もそんな汚れ仕事は御免だ、だから明日、黒服の元に直接出向いて問い詰める。それで先生がゲマトリア所属なのだとしたら…勿論戻るように説得してもらう。殺すのは最終手段だ。取り敢えず寝よう。
寝惚けた脳を必死に回しながら、先生の寝ている布団の中へと潜り込む。
◇◆◇
"あ、古食おはよう"
「…?」
鳥の鳴き声が聞こえ、瞼を開く。暖かさに気付いて先生に抱き寄せられていることに気づき、同衾してしまったことを思い出して途端に恥ずかしい気持ちが溢れ出る。
「なっ…変態!」
"痛っ、ちょっ…痛いからポカポカするのやめて…"
先生が怪我しない程度には手加減しつつ、胸元を軽く叩く。叩いていて気付いたが、やっぱ男って筋肉質なんだな、私達より非力なのに。でもゴツゴツしている身体を触るのは初めてだ。
「まぁ良いや。取り敢えずまたな、多分、いつか、行けるか分かんないけど、また当番に行けたら行く」
"それは来ないって言ってるのも同然なんじゃ…"
適当に別れの挨拶をして、ソファに掛けられていたウィンドブレーカーに袖を通しながらスクールバッグを肩に掛け、シャーレを後にする。
一階のエンジェル24で適当に朝食の焼きそばパンを購入し、食べ歩きながらウサギ公園に向かう。どうやら私がシャーレで情報収集をしている間に寮が使用不可になってウサギ公園にしばらく滞在することになったようだ。あと卵たっぷりパンはあまり好みじゃなかった。
先輩達は元気にしているだろうか、できればちゃんとした所で過ごしてほしいものだな。というかSRTが廃校してしまった影響で任務もこれから少なくなるし、民間の任務だから貰えるお金もかなり減ってしまう。まずそこら辺の問題を解決しないとな。
っと…そろそろ着くかな。ウサギ公園に到着すると、なんかものすごい大きなテントが建てられていた。そのテントに恐る恐る近づけば私の気配に気付いたミヤコが顔を出し、手を引っ張られテントの中に引きずり込まれる。
「いつの間にこんなテント建ててたんだよ」
「古食ちゃんが…先生の情報を集めてる間に頑張ったの…」
オドオドしながらも微笑むミユを膝に乗せ撫で、嫉妬して抱き着こうとするミヤコを抑えながら話を続ける。
「あー…そうそう、先生の情報なんだがな、採用稟議書が見つかった。どうやら先生は連ちゃん…連邦生徒会長が直々に任命した人らしい」
「連邦生徒会長が直々に…?」
「ああ、こうなれば連邦生徒会長の私兵である私達は迂闊に手を出せない」
私の報告に頭を抱えるミヤコ達、さっきも言ったが連ちゃんの指名とあらば私兵の私達は手を出せない状況にある。理由は簡単、持ち主の知り合いを持ち物が壊して良い訳がない。
もし先生に危害を加えれば私達はすぐさま指名手配されるだろう。寮も使用できなくなり、マトモに過ごせる所がない今の私達が追われる身になるというのは死活問題だ。
「まぁ、取り敢えず様子を見よう。それが今一番最善な選択だ」
「そうですね、私もそれに同意します」
「あー…それにしても、これからキャンプ暮らしか〜、爆弾とかが満足に手に入らないから慎重にだなんて、つまんないなー」
モエの狂言は放っておき、次の議題へと移行する。次の議題は金銭面だ、任務で稼ぐとしても、民間の任務じゃ5人分を賄うのは限度がある。
「─ということで、しばらくアルバイトをしようと思う」
「アルバイトですか?それなら私も一緒に…」
「いや、働くのは私だけだ。少し良さげな所を見つけてだな、シャーレに当番とは別の働き手を求めるポスターを見つけてだな、給料もそこそこ、行くなら一度顔を合わせたことのある私が適任だろうと思って」
「そうだな、古食なら初対面の私と違うし、リスクも減る」
という訳で早速シャーレにモモトークでバイトの申請、即受かった。明日から働いてほしいと書かれたメールと共に可愛らしいペロロのスタンプが送られる。
「即受かった、明日から働くらしい」
「そうですか、では私も当番に申請しておきますね。古食さん一人では籠絡されないか心配ですので」
「私ってそんなチョロく見えるかな…古食ちゃんショック…」
まぁ別に良いけど、取り敢えず今日はゆっくりするか。
「古食さん、リボンが少しほつれてますよ。私が直してあげます」
「そうか、なら頼むよ」
ミヤコは椅子から立ち上がり、私の後ろに移動してリボンを結び直す。時々感じるミヤコの指の感触に安心感を覚え、少し身を任せてしまう。
「よし、できましたよ」
「ああ、ありがとな。ミヤコ」
「そういえば古食ちゃんって…髪、長いよね…」
「確かに、言われてみれば古食の髪ってかなり長いよな。お手入れとか大変だろ」
ミユに髪の長さを指摘され、ふと髪を持ち上げる。まぁ確かにお手入れは大変だし、毎回使うシャンプーの量も多い。けどこの髪型は私の一番のお気に入りだから切らないのだ。
「私はそんな気にならないけどな、気に入ってるし。いざとなればマフラー替わりにもなる、こんな感じに」
持ち上げた髪を首に回し、マフラーを巻き付けるように動かす。これが意外と暖かくて落ち着くんだよ、やっぱり嗅ぎ慣れた香りだからだろうか。
「少し失礼しますね、古食さん」
「ん…どうした、そんなに私の髪マフラーが気になるのか?良いぞ」
私の首に巻いていた髪を一旦解き、ミヤコも一緒に巻く。しかし微妙に長さが足りず、頬と頬がくっつくくらい近づいてしまった。少し気恥ずかしいが、ミヤコも楽しそうな様子なので解く気が起きない。
それからしばらくそのままで過ごしていると、段々眠気に襲われ、ミヤコの肩に頭を預けてしまう。体温と、髪の暖かさで眠気は加速される。
「あっ、古食さん、寝てしまいましたね」
「全く…何やってんだか、私は銃のお手入れをしてくる」
「くひひ、じゃあ私は爆弾でも見に行こーっと」
───
視点は切り替わりミヤコ…何ですが、皆居なくなってしまいましたね。*3折角ですし、少し古食さんにイタズラをしてみましょう。
「…イタズラと言えるイタズラが思いつきませんね」
普段こういうことに無縁でやったことがなかったのが仇になってしまいましたね、少し惜しいですが、今はこの時間を堪能しましょうか。
ふふっ、普段はあまり表情が変わらず、頼りになる印象ばかり勝っていましたが、寝てしまうとその頼りになる印象も鳴りを潜め、今はただ可愛いだけになってしまいましたね。
古食さんの左手、私より一回り小さいですね。いっつもデザートイーグルなんていう反動の強い銃を扱っている古食さんからは想像がつかないほどに柔らかくて、可愛いです。
私は意識をズラし、対面するように座り古食さんの手の平から太ももや頬に手を滑り込ませる。前にも古食さんの色々な部位を触ったことはありますが、特に太もももスベスベしていて…
「えっ、えっと…ミヤコちゃん…」
「…ミユ?」
テント内のゴミ箱から出てくるミユを発見し、しばしの間固まる。そうでした、ミユの存在が頭からすっかり抜けていました。ということは今のも全部見られて…マズイです、サキ達ももうすぐ帰ってくる。この場を見られる訳にはいきません、まずはミユの口止めから。
「ミユ…今のは他言無用で」
「ミ、ミヤコちゃん…?」
「
「ひゃう…」
このことをサキ達に言わないように
「戻ったぞー…ミヤコ、お前何やってんだ?」
「サ、サキ…これはあれです、訓練です。そう、その…ハニートラップの訓練を…」
「そんなの教範には載ってないし、ただミヤコがやりたいことをしていただけだろ。全く…何やってんだか」
───
「これは一体どういう…?」
視点は戻り古食だ、現在私はよく分からない状況に置かれている。目を覚ましたかと思えば、隣でミヤコが顔を赤らめながらサキに問い詰められて、モエには揶揄われているし。
唯一この状況で頼れそうなミユに話を聞こうとするが、ミユは涙目でゴミ箱に籠もってしまう。困ったな、これじゃイマイチ状況が掴めない。
サキに話しかけたら右フックを喰らわされそうだし、モエは笑いすぎて過呼吸だし、ミヤコ…は皆まで言わなくても分かるか。
取り敢えず、この状況で私ができることもないので銃の整備に向かう。たしかテントの裏側に銃の整備道具一式が置いてあったはずなので、それを持って訓練所に歩を進める。
「…鉄パイプの塗装、少し剥がれてきてるな」
手始めに鉄パイプの整備を
取り敢えず塗装のことは放置して、洗剤で洗い、水で流した後に乾拭きをして整備は完了。次はデフテリの番だな。
「古食ちゃんの30分メンテナンス〜」
やっぱ恥ずかしいな、これ。久々にやってみようかと思ったけどもう金輪際やらん、まぁ取り敢えず気を取り直して、用意するものはこれ。パッチ、ガンオイル、ソルベント、真鍮、クリーニングロッドだ。
まずは安全確認として中に弾薬が残っていないかを確認。デザートイーグルは銃床からマガジンを取り除けば終わりだから楽だな、お次は銃身内に移行する。
真鍮ブラシにソルベントを付け、汚れを擦り落とす。その後はパッチをロッドに通し、擦り落とした汚れを取る。あとは可動部やらを歯ブラシで洗い、スス汚れ等を磨く。最後にガンオイルをまたもや可動部に薄く塗る、錆止めのためだな。
「よし、これで完了っと。んじゃ、少し試し撃ちでもしようかな」
メンテナンスも全て完了したことを把握し、立ち上がりデザートイーグルを構える。
「うん、かんぺき〜」
整備の仕上がりに満足したところで、整備用具を片付けテントに戻る。そういや、エデン条約まであとどんくらいだっけな。そこら辺だけモヤがかかっていて思い出せないんだよな、それに思い出そうとすると頭が痛くなる。うーむ…まぁ、別に今は良いか。
「戻ったぞー」
「くひひ、おかえり古食。私達がいない間に随分と面白そうなことしてたじゃーん」
「私からすれば何のことやら状態なんだよな」
まぁ、あの状況からミヤコが私に何かしてたのは把握できたんだが、その何かが分かんないんだよな。別にミヤコなら良いけど…取り敢えず任務にでも向かうか〜。
たしか今回の任務は…迷い猫の捜索と壊れた壁の修復か、平和な任務だな。壊れた壁の修復の任務はミヤコに任せるとして、私は迷い猫だな。
今回はただの猫探しだし、鉄パイプ君はもうそろそろ修理に出さないといけないからデフテリだけで良いかな。それじゃさっさと向かうか。
「あれ、私のウィンドブレーカーどこ行ったんだ…?」
「ん?ああ、それなら洗濯して今は干してる。大分汚れていたからな」
「あちゃぁ…なら制服のままで行くか、今思えばウィンドブレーカーを着ずに外出するって久々だな」
ま、そんなことは別に良いやと切り替え、スクールバッグを肩に掛けて玄関を出る。ミヤコもそれに続き家から出てきて、目の前の別れ道で別れる。まずは依頼主に挨拶しないとな、たしか住所は◯-△-◇だったはず。さっさと向かってさっさと終わらせるか。
出発から約10分後、依頼主の家に到着し、アラームを鳴らすと同年代らしきゲヘナの制服に身を包んだ生徒が出てくる。その依頼主の話を聞くには、猫が昨日からいなくなっていて普段は数時間で帰ってくるが、それから戻ってきていないようだ。
うーむ…いなくなったのが昨日なら大分遠い所に言っちゃってそうだな、少し面倒だがモエに手助けしてもらうか。
スクールバッグからトランシーバーを取り出し、モエに連絡する。モエは二つ返事で了承してくれ、ドローンを使ってここから半径100m以内を探索してくれるようだ。
「おーい、猫ちゃんや。出ておいでー」
あれからしばらく探しているが、一行に見つかる気配がしない。おかしいな…モエのドローンではこの辺で目撃したとの情報があったのだが…。
「ん〜…ん?」
そうやってあちこち探しているとようやく目的の猫を発見する、任務の疲労感と達成感に覆われながら、捕獲しようとするが逃げられる。
あー…まぁ猫みたいな生き物は知らない人から逃げるよな、仕方がない、追うか。
「うーん…このままじゃジリ貧だな、中々追いつけん。どうしたものか…」
別に本気で走って捕まえても良いんだが、それだと猫が怪我してしまう可能性も捨てきれない。故に本気で走れないのだ、けどこのままじゃ先に私の体力切れちゃうし…少しペースを上げるか。
ペースを上げ始めれば、次第に猫との距離も縮まり、もう目前となる。しかし最後の最後で何故か中々追いつけない、ちょっとしぶとすぎるな…これ以上は私が疲れる。
「あっ、そっちは道路…!」
猫がいきなり右に方向転換し、道路に飛び出してしまう。それを見た私はさっさと捕まえようとするのだが、横からトラックが猛スピードで走ってきているのを見て、思わず脚に力を入れてトラックの前に移動し、猫を抱えて逃げる。
「全く…本当にビビったぞ、猫が死ぬとか夢でも見たくないわ」
まぁ結果オーライとして切り替え、この猫を返却すべく依頼主の元へ歩を進める。にしてもこの子、毛並みも良くてふくよかだな。さぞ愛されてるんたろうな、羨ましくなってしまう、こちとらテント生活だぞ。
「はぁ…前の寮に戻りたい」
まぁ猫に愚痴っても仕方がないな。肉球に頬をポンポンされながら微笑み返す、ちくしょう可愛いなコイツ。でもまぁ…私は兎派だけどもね、兎はモフモフしてて可愛いんだよ。特にあのまん丸い目が好きなんだ。
っと、そんなことを言っていれば着いたな。それじゃさっさと返却して帰ろう、そう思考を巡らせながらインターホンを鳴らす。
「すんませーん、猫ちゃん持ってきましたよー」
「す、すぐ出ます!」
インターホンと私の声に反応した依頼主は慌てているのか扉の奥からドタドタと大きく足音を響かせている。ほんの少し待機していると玄関が開き、依頼主が顔を出す、それから猫を返し、報酬金として5万円をいただく。
「それではまた、困ったことがあればいつでも言ってくださいね」
「はい、今回はありがとうございました」
スクールバッグに報酬金を入れて、背を向け歩を進める。最後に一言残してから帰る、本来は3万円の予定だったはずなのに想像以上にもらっちゃったな。折角だしミヤコ達に何か買っていくか。
「あっ、古食さん」
「ミヤコか、任務終わりか?」
「はい、その様子では古食さんも任務終わりのようですね」
「丁度良かった、ケーキでも買いに行かないか?報酬金に色付けてもらったんだ」
ケーキの話を持ち出すと、ミヤコの目が即座に輝き賛同する。その
私はブルーベリーチーズケーキ、ミヤコはウサギモンブランのようだ。そんなケーキがあるのなら私もそっちにしておけば良かったな。
「ご機嫌ですね、古食さん」
「ん?まぁな、ケーキを買うのは久々なんだ」
「ふふっ」
「む、なんだよ…そんな見つめてきて」
スキップに近い歩法で歩いていると、ミヤコが私の顔をまじまじと見つめて笑う。私はそれにちょっとの恥ずかしさを覚え、見つめ返す。
そんな私に対して何も言わずに近寄ってきて、肩に手を回される。何をされるのか少しばかり警戒心を持つと、段々顔を近づけられ、唐突な行動に慌てて離れようとするがガッチリホールドされる。
「ちょっ…待っ…!」
ミヤコの顔が目と鼻の先の所で目を瞑ると、体温特有の暖かい感触に包まれ、思わず力が抜けてしまう。
「ッ…ん?」
「ふふっ…何されると思っていたんですか?」
「ッ〜!」
ミヤコは私のことを抱きしめ、頭を撫でていた。しばしの間硬直しているとミヤコはまた笑い、からかうような表情を浮かべていた。
私はそこでハメられたことに気付き、顔を赤らめながらポカポカと軽く叩く。
「こ、この…!」
「痛いですよ、古食さん」
そう言いつつも笑顔のミヤコに悔しくなり、咄嗟に抱き着く。そうすればまた撫でられ、また悔しさが沸いてくる。
そんなミヤコは私の拗ねた様子に見かねて手を取り引っ張られる。
「早く帰ってケーキ食べますよ」
「む…仕方がないな」
そのミヤコの笑顔に釣られて私も笑ってしまう、まぁ…笑っていた方が良いよな。本当に…助けられてばっかりなんだな、私は。
ひぃん…ひぃん…絵を描くのが大変すぎて辛いよ…ということで、読者様の感想(とお気に入り登録、評価)おくれーっ!!