元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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唐突な来訪者

……………………

 

 ──唐突な来訪者

 

 

 ダンジョンを出た俺たちは、賞金を受け取るためにARデバイスで懸賞金をかけたメガコーポ──大井エネルギー&マテリアルの人間に連絡を取る。

 

『誰だ?』

 

 ARデバイスに没個性的なスーツ姿の男のアバターが表示され、その壮年の男が俺の方を訝しげに見る。

 表示された名前にはジョン・ドウとある。名無しの権兵衛とはふざけた名前だ。

 

「あんたらが賞金を懸けた人間の首を取った。確認してくれ」

 

 そう言い、俺はそのスーツの男に死亡したシミズの写真と生体情報を送信。

 

『……確かに対象の死亡を確認した。報酬を送金する。ご苦労だった』

 

 それから俺の端末に600万円が振り込まれ、通信はすぐに切れた。

 

「よぉしっ! 賞金が思ったより多かった。これでしばらくは安泰だ」

 

 斎藤に渡す分を考えても十分な収入に俺はガッツポーズ。

 

「ふむふむ。しかし、あれだけの苦労をして600万っぽちなのですか?」

 

 そこで隣で話を聞いていたサタナエルがそう疑問を呈する。

 

 確かにトレインそのものの始末は大したことはなかったが、そのあとのドラゴン戦は命の危険があった。

 危うくこんがりローストされるか、踏みつぶされてトマトケチャップになっていた。

 それで600万と考えると……少し侘しい気がしなくもない。

 

「そもそも20階層にドラゴンが出るなんてことはあり得ないはずだったんだ。どうしてあそこにドラゴンなんか出やがった……?」

 

 本当ならばもっと簡単な仕事になるはずだったのだ。

 安全な20階層でトレインの連中を始末し、それで帰るだけ。

 トレインの連中がクリーチャーを解き放ったのは確かに計算外だったが……。

 

「あのクリーチャーの解放が何かしらの引き金になったんだろうか……」

 

 俺はそこでサタナエルを見る。

 

「お前、実は何か知っているだろう?」

 

「ふふ。ボクはですね。実は地獄ではかなりの人気者だったんです。そのボクを撃ち破り、屈服させた猛者として旦那様の名は地獄に轟いた! ……のかもしれません」

 

「あの黒いドラゴンは確かに俺たちのことを知っているようだったな……」

 

 サタナエルが笑いながら言うのに俺はあのドラゴンが言っていたことを思い返す。

 あのドラゴンは俺のことをサタナエルを倒した人間として認識しており、それを理由に俺を襲ったかのように思えることを言っていた。

 

「分からん。とりあえず、斎藤に送金しておこう」

 

 この取引に違法性はない。

 斎藤のアカウントにメッセージを添えて送信すると、ARにやつから着信があった。

 

『よう、切り裂き魔(リッパー)。稼ぎは思ったより大きかったみたいだな?』

 

「ああ。メガコーポは太っ腹だ」

 

『だが、20階層の噂を早速聞いたところだ。ドラゴンが出て、そいつをある探索者がソロで討伐したって話だが』

 

「……何が知りたい?」

 

 斎藤は情報屋だ。情報はやつの商品であり、売る価値があると同時に買い取る価値のあるものでもある。

 

『……お前がドラゴンをソロキルした、とは言わないよな……?』

 

 斎藤は少しばかり不安そうな声色でそう尋ねてきた。

 

「だったら、どうする?」

 

『信じられんな。だが、メガコーポや犯罪組織の連中も20階層のことをすでに把握し始めている。これからは慎重に行動した方がいいぞ。連中がドラゴンをソロでキルするようなやつを放っておくとは思えん。それから──』

 

 斎藤が続ける。

 

『ドラゴンの死体が消えたって話も聞こえている。何か知ってるか?』

 

「消えた? 冗談だろ?」

 

『いいや。20階層からの最新のニュースだ』

 

「どういうことだ……」

 

『何か分かったら教えてやる。気前よく分け前をくれたしな』

 

「期待せず待っている」

 

 俺はそう言って通話を切った。

 

「ドラゴンの死体が消えた、か。嫌な予感がするな……」

 

 ドラゴンだろうと分解されるまでには数週間はかかるはずだ。

 俺たちが20階層から戻ってきてからまだ3、4時間しか経っていない。

 

「そうですね。リターンマッチを挑んでくるかもしれませんよ? 負けず嫌いな悪魔かもしれませんから」

 

「勘弁してくれ……。すでにドラゴンで悪魔のストーカーはひとりいるんだぞ……」

 

 そういうとサタナエルは急ににまっとした表情を浮かべる。

 

「それはもうボク以外の悪魔はいらないということですね。それがどれだけ魅力的であったとしても」

 

「当たり前だろ。もうこれ以上、悪魔やドラゴンとは関わりたくない」

 

 サタナエルが言うのに俺は軽く手を振ってそう返した。

 

「ボクも旦那様以外の人間には興味はないです」

 

「そうかい。だからと言って他の人間を気軽にローストするなよ」

 

「ふふ。それはどうでしょう?」

 

「おいおい……」

 

 俺たちはそう言いながらまずは装備を解くために自宅に向かった。

 使わなかった分の弾薬を仕舞い、アサルトライフルからショットガンに持ち替え、拳銃を口径9ミリのグロックに持ち替える。

 それから超高周波振動ナイフをメンテナンスしていく。

 

 サタナエルはその様子をただにこにこして見つめていた。

 

「よし。これでいい。まずは入った金でちょっといいものでも食うか?」

 

「まあまあ。それはデートというわけですね」

 

「断じて違う」

 

 同居人に泡銭で飯を奢るだけで断じてデートなどではない。

 

「それは残念です。ですが、嬉しいですよ、旦那様」

 

「はいはい」

 

 俺はサタナエルが満面の笑みなのに思わらず僅かにつられて笑ってしまった。

 こうしていれば悪魔だとかドラゴンだとかは感じないのだが……。

 

 俺たちはそうして自宅を出るといつも食事をするやっすい大衆食堂ではなく、食堂街の中でもちょっとグレードが高いレストランのドアを潜った。

 

「いらっしゃいませ。2名様ですか?」

 

「ああ。そうだ」

 

「……2名様で本当によろしいですか?」

 

「ん?」

 

 ちゃんとした給仕服に身を包んだウェイターが繰り返し尋ねるのに俺は眉を歪めた。

 

「旦那様」

 

 サタナエルが俺の声をかけたので後ろを見ると──。

 

「おい、人間」

 

 そこには濡れ羽色の髪に褐色の肌をした、見知らぬ10歳程度の少女がいた。

 その体は黒いワンピースで覆われていて──まさか──!?

 

「人間、サタナエルを倒したと言うのは本当だったようだな。噂通りの実力だ。気に入ったぞ! 実に気に入った!」

 

「お前、20階層の……」

 

「そうだ。俺はマルキダエル。ドラゴンにして悪魔。悪魔にしてドラゴン。そして猛者を求めるものだ。以後、よろしくな、人間!」

 

 ああ。畜生、なんてこった。ドラゴンが2匹に増えやがった!

 

「あのー……。3名様でしょうか?」

 

「……すまん。3名で頼む」

 

「畏まりました。どうぞこちらへ」

 

 怪訝そうにマルキダエルを見るウェイターの言葉に俺はため息を吐き、テーブル席へと案内されたのだった。

 

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