元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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 ──スポンサー

 

 

「お前たちがスポンサーになるとして、俺に何を求めるんだ? お前たちのために使い走りをしろってことだろう?」

 

 俺は司馬の言葉に肩を竦めてそう尋ねる。

 

「もちろん我々の利益になる仕事をしてもらうことになる」

 

 そこで司馬が俺のARデバイスにデータを送信してきた。

 

「我々はダンジョン最下層を目指している。しかし、そこに到達するためにはベテランの探索者が必要だ。君のような、ね」

 

 データには大井が計画しているダンジョン探索計画の一部が記されていた。

 20階層のような拠点をあちこちに作りながら、現在の熊本ダンジョンの人類到達深度である69階層以降に進もうと言う計画だ。

 

「……ふうん」

 

 俺はどう返事をするべきか迷っていた。

 メガコーポがスポンサーになれば、食う金にも遊ぶ金にも苦労しなくなるだろう。

 しかし、メガコーポと関わることの危険性も俺は知っている。

 最下層に到達してしまえば連中にとって探索者は必要なくなる。

 そうなれば、だ。連中は分け前を与える前にこれまでこき使った探索者たちを始末するだろう。

 

「少し考えさせてくれ」

 

「待とう。決断したらこのアカウントに連絡を」

 

 司馬は俺に連絡先のアカウントを伝えるとVIPルームから出ていった。

 

「皇」

 

 司馬が退室すると俺は皇の方を向く。

 

「メガコーポに知り合いがいたとは初めて知ったぞ」

 

「知り合いじゃない。連中から一方的に連絡してきんだ」

 

 俺が言うのに皇は渋い表情でそう返す。

 

「『佐世保朔太郎という探索者を知っているな? 会談の場を設けてほしい』って。あたしも今日初めてあの司馬って男に会ったが、あいつあたしたちのことかなり詳しく知っていたぞ」

 

「メガコーポの情報部にでも所属しているのかね」

 

「さあな?」

 

 皇も本当に今日初めて司馬に会ったらしく、やつの情報はあまり持っていなかった。

 しかし、やつの方は俺や皇の情報を持っている。それは不気味だ。

 

「ところで、佐世保。20階層の話だが」

 

「ああ。どうした?」

 

「連中、あんたにかなり感謝していたぞ。命の恩人だってな」

 

「ふん。俺はただ自衛しただけだ」

 

「ははっ。そう恥ずかしがるなよ。戦場帰りがこの手の賞賛に慣れていないのは知っているがね」

 

「うるさい」

 

 確かに俺たち戦場帰りは人に賞賛されるということがなかった。

 いきなり命の恩人だのと言われても、それほ本心で言っているのかと疑ってしまう。

 俺たちは英雄だと賞賛され、軍のお偉いさんたちから勲章も貰ったが、それでも社会から除け者にされていたのだから。

 

「もうひとつ。20階層からドラゴンの死体が消えたって話は聞いたか?」

 

「……ああ。聞いてる」

 

「心当たりは?」

 

「ないわけじゃない……」

 

 どうする? 皇にもマルキダエルのことは説明しておくべきか?

 

「佐世保ーっ!」

 

 と、ここでVIPルームの扉が開いてマルキダエルとサタナエルが勝手に入ってきた。

 

「……その女は? まさか、あんたまた……」

 

「そのまさかだ。もう言わなくても分かるだろう?」

 

「はああ……」

 

 皇はマルキダエルこそが消えた20階層のドラゴンだと察してため息を吐く。

 

「名前は?」

 

「マルキダエル。こいつに関しては衣食住にかかる金は自分で稼ぐように言ってある」

 

「ドラゴンが自分で金を稼ぐ、ねえ。ドワーフの王国でも襲うのかい?」

 

「探索者として活動させるつもりだ」

 

「へえ。そいつは面白そうだけど、ちゃんとあんたが手綱握っておきなよ?」

 

「それはもちろん」

 

 皇の懸念することはしっかりと分かっている。

 本来ならばエリアボスであるドラゴンがダンジョン内をうろうろするのは、ちょっとした恐怖だろう。

 

「それからメガコーポの申し出は受けるのかい?」

 

「連中がスポンサーになるメリットとデメリットを天秤にかけているところだ」

 

「そうだね。慎重に考えるべきことだ。下手をすると命を取られる」

 

「だな」

 

 メガコーポの連中は日本の領土の一部を無法地帯にできるような権力がある。

 それを相手にただの底辺探索者である俺が戦えるとは思えない。

 連中は俺を利用するだけ利用して、始末することも簡単にできるのだ。

 

「命を取られる、ですか」

 

 そこでサタナエルが静かに言う。

 

「それは許せませんね」

 

 にこりと微笑むサタナエルだが、目は全く笑っておらず凍てつくような冷たさだ。

 

「メガコーポと組んだらの話だ。今は関係ない」

 

「それならばよいのですが」

 

 全く……このまま大井の本社にドラゴンの姿で討ち入りに入りそうな雰囲気だったサタナエルが静まって俺はほっとした。

 

「佐世保~っ! 酒、酒だ! ここには酒があるだろう! 酒飲みたい!」

 

「ダメ。もう出るぞ。ここの酒はクソ高いんだ」

 

「クソ高い酒飲みたい!」

 

「ダメ!」

 

 マルキダエルが吠えるのに俺はやつの首根っこを掴んでアレキサンドライトを出た。

 

「しかし、旦那様もどんどん注目されてゆきますね」

 

「嬉しいやら迷惑やらだ。しかし、ダンジョンにこれからも潜り続けるとなると金は必要だ。そして、得てして金ってのはコネがないと入ってこない」

 

 俺は大井の申し出を期間限定で受けて、連中が最下層に到達する前にスポンサー契約を向こうにすることも考えた。

 

 メガコーポの連中が最下層に到達すれば俺が始末される恐れがあるというのもあるが、俺はやはり最下層のお宝を手に入れて莫大な富を手に入れたいのである。

 

「心配なさらず。旦那様にはボクがついていますよ」

 

「期待させてもらおう」

 

 俺にあるコネと言えばサタナエルのそれぐらいだ。

 ダンジョンでも最強格のドラゴンが一応は俺を助けてくれるというのは大きなアドバンテージになる。

 マルキダエルのはコネというより、悪縁だからな……。

 

「それじゃあ、予定通りここからは明日の探索の準備だ。買い出しに行くぞ」

 

「はい、旦那様」

 

 俺たちはアレキサンドライトなどがある高級商業地区を出ていく。

 

 

 * * * *

 

 

 それから俺たちは一般商業地区にある食料品店を訪れていた。

 ここで携行食糧を購入し、探索に備えるのだ。

 

「これ、美味いのか?」

 

「賞味期限が切れてるから安い。それが重要だ」

 

「うへえっ!」

 

 マルキダエルが陳列されている缶詰を手に取って尋ねるのに俺はそう返す。

 

 ここにはどこから横流しされたのか、軍用の携行食糧も売ってある。日本国防四軍が共通して使用する戦闘糧食III型なんかもあったりするのだ。

 戦闘糧食III型は少量で高カロリー、高蛋白質を実現したものであり、長期潜入作戦などの際に支給される物だった。

 味はどうかって? クソ不味いぞ!

 

「旦那様。ご夕食はどうしましょうか?」

 

「そうだな。今日は家で食べるか?」

 

「でしたら、その分の買い出しにもいきませんと。冷蔵庫、ほとんど何も入っていませんでしたよ?」

 

「ああ。そうだな」

 

 俺は栄養分はほとんどサプリで済ませていたため、冷蔵庫にあるのはミネラルウォーターと空腹を満たすゼリー飲料ばかりだった。

 

「では、帰りにスーパーにも寄っていこう。その前に弾薬だ」

 

 俺は会計を済ませると、背嚢に購入した携行食糧を収めて店を出る。

 ずしりと重くなった背嚢だが、機械化されている俺にはこれぐらいは余裕だ。

 

 そして、弾薬を買うのはいつものように一色銃火器店である。

 

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