元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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五十嵐・J・アメリア

……………………

 

 ──五十嵐・J・アメリア

 

 

 俺たちは11階層から20階層を目指している。

 20階層では一度情報収集することを考えていた。

 問題の五十嵐が23階層で消息を絶ったならば、20階層にも立ち寄っているはずだ。

 だから、20階層で少しばかり聞き込み行う。

 

 俺はまだこれが単純なダンジョン内での遭難なのか、人為的な事件なのか分かっていなかった。

 それをはっきりさせておくことも20階層での情報収集には含まれる。

 

「そろそろ20階層だ」

 

 11階層から出没し始めるスケルトンのような厄介な敵を迂回するか、撃破し、無事に20階層が見えてきた。

 あの螺旋階段を下れば20階層だ。

 

 しかし、20階層はあれだけの事件があったあとでも昨日しているのだろうか……。

 俺はそう疑問に思いながら階段を降りていく。

 

「ふむ。見た限りでは大丈夫そうだが……」

 

 階段からは20階層も今は平穏を取り戻しているように見えた。

 

「マルキダエル」

 

「なんだ、佐世保!」

 

 ここで俺はマルキダエルの方を見る。

 

「いいか。お前がここで暴れたドラゴンだとは絶対にばれないようにしろ。ばれたらその時点で俺はお前との縁を一切切る」

 

「分かった!」

 

 マルキダエルは意外と素直だ。うるさいけど。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 俺たちはそれから20階層の市街地に向かう。

 建物が所狭しと並ぶこの場所に入ってからだとやはりマルキダエルが起こした被害のあとが残っているのが見える。

 

 破壊されたままの作業用車両。燃え跡のついた建物。破壊されたベランダ。

 

「あんた!」

 

 そこで俺は不意に声をかけられてびくりとした。

 

「あんただろう! ドラゴンからこの街を守ってくれたの!」

 

 そう声をかけてきたのはエプロンをした中年の男だ。

 記憶にはあまりないが、マルキダエルとの戦いで見たような記憶もある。

 

「うちの店で何か食っていってくれよ! あんたならどれだけ食べてもただで食わせてやるからさ!」

 

 看板に『楽市楽座』と書かれた食堂からは豚骨ラーメンの香りがする。

 20階層の飲食店はダンジョン内のクリーチャーの死体を食材にしている、なんて噂もあるが、これは確かに美味そうな匂いだ。

 

「申し出はありがたいが俺は今は腹は減ってないんだ。それよりこの女をここら辺で見なかったか?」

 

 俺はエプロンの男に五十嵐の顔写真をARデバイスを経由して送信。

 

「ああ! 見た、見た。この前、この店で食事していったよ。うちの自慢のラーメンとチャーハンセットを頼んでたね。味もコスパも最強の定番メニューさ」

 

「本当か? そのとき何か話していなかったか?」

 

「途中でメガコーポの民間軍事会社(PMSC)の連中が来て、連れていっちまったからねえ。『博士、調査を急ぎましょう』って感じで。女の方は名残惜しそうに食べかけのラーメンとチャーハンを見ていたから可哀そうだったよ」

 

「無理やり連れていかれた感じでは?」

 

「確かに強引だったけど誘拐の類ではなかったよ」

 

「そうか。助かった。ありがとう」

 

「こちらこそ! この街を守ってくれてありがとう! いつか食べによっておくれ!」

 

 エプロンの男はぶんぶんと手を振って俺を見送ってくれた。

 

民間軍事会社(PMSC)の連中がついていながら、23階層ってそこまで脅威でもない場所で消息不明か……」

 

 民間軍事会社(PMSC)もピンキリだが店主が一発でメガコーポの連中と判別できるぐらいの装備をしていたなら、そこまで練度の低い連中じゃないはずだ。

 となると、やはり人為的な何かか……?

 

「旦那様」

 

 そこでサタナエルが囁くように言う。

 

「人間関係であれば、ボクにお任せを……」

 

 冷たい声で、しかし優しげな温かい笑みでサタナエルはそう言った。

 

「ああ。そのときは頼りにしている」

 

 対人戦におけるサタナエルの能力はすでに証明されている。

 やつが人間を殺すことを得意とし、そのことを一切躊躇わないことは。

 そう、俺と同じだ。

 

 それから俺たちは20階層で少しばかり聞き込みを継続したが、得られた情報はあまりなくこのまま21階層に潜って五十嵐を捜索することにした。

 

「21階層以降には新しいクリーチャーが出る。知ってるか?」

 

「知らん! 興味もない! どうせ雑魚だ!」

 

 マルキダエルはそう言う。まあ、ドラゴンにとっちゃ確かに雑魚だろうが。

 

「ここからはレッドキャップって呼ばれているゴブリンの上位種が出る。そいつらは普通のゴブリンより大きく、より賢く、そしてより群れる。流石に刀剣や銃、罠の類を使ったことはこれまで確認されていないが、人質ぐらいは取るかもしれん」

 

「問題の女性が囚われている可能性も?」

 

「ああ。肉盾ぐらいには使ってくるかもしれん。その際には俺が対処するから、お前たちは迂闊に手出しするなよ。救出対象が死んだら報酬はなしだ」

 

「分かりました、旦那様」

 

 俺はこれまでレッドキャップが捕らえた探索者を盾にした光景を見たことがある。

 もっとも俺が見たときにはその探索者はとっくに死んでいたので、俺は容赦なくレッドキャップどもを皆殺しにしたが。

 

 今回は問題の救出対象五十嵐が死んでいたら困るし、人質にされていたら救出しなければならない。

 ちょっとばかり面倒な話だ。

 

 俺たちは事前情報としてこの事実を確認すると、21階層以降に潜り始める。

 

 21階層では生きたレッドキャップも他のクリーチャーも確認できなかった。

 ただ死体だけは転がっている。それも無数に。

 

「レッドキャップの死体、か」

 

 頭や胸に穿たれた銃創の大きさからして使用されたのは口径7.62ミリ。

 どれも無駄なく正確に頭か胸に二連射(ダブルタップ)を決めていた。

 ここら辺が限界深度の素人のやったことではないと断定できる。

 

「ますます怪しくなってきたな」

 

 この熊本ダンジョンは主なメガコーポとして大井コンツェルンが君臨している。

 しかし、他のメガコーポが一切手出ししていないかと言うとそういうこともなく、様々なメガコーポが大井の皿からパイを盗み出そうとしている。

 

 そういうメガコーポ絡みのトラブルであれば……それはレッドキャップなんかより百倍は厄介だろう。

 

「進むぞ」

 

 俺たちは21階層、22階層とクリーチャーが殺し尽くされた階層を下る。

 そして23階層に入ると俺は違和感に気づいた。

 

「……サタナエル、マルキダエル。止まれ」

 

 俺はそう言って機械化している眼球で周囲を探る。

 そして赤外線レーザーがつうっと通路に伝っているのを俺は確認した。

 

「地雷だ」

 

「クリーチャーが設置したのか!」

 

「なわけないだろう。説明、聞いてなかったのか? これは人間の仕業だ。今、解除するから決して動くなよ」

 

 俺はそう言って地雷の方に近づく。

 こういうのは仕掛けるのも解除するのも簡単になっている。

 そしてこれは俺が知っている日本情報軍も使っていた地雷だ。

 戦争でオタワ条約が死文化し、どの国もこの手の地雷を開発・生産している。

 

「解除、と」

 

 俺は手早く地雷を解除し前に進む。

 

「ここから先に地雷はないが……この臭いは……」

 

 俺の鼻を嗅ぎなれた臭いが刺激する。

 

「人間の血の臭い」

 

 そして、サタナエルがその臭いの正体を嬉しそうに告げた。

 そう23階層の奥から強烈な人間の血の臭いがする。

 

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