元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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ヘッドハンティング

……………………

 

 ──ヘッドハンティング

 

 

 23階層に漂う血の臭い。

 それは間違いなく人間の血の臭いだ。

 あとは僅かだがまだ硝煙の臭いもする。

 

「静かに行く。対人戦になる可能性が高い。マルキダエル、騒ぐなよ?」

 

「ん!」

 

 マルキダエルは無言でぶんぶんと頷いた。

 

 俺はサプレッサーが装着されたショットガンを手に廊下の角を適切にクリアリングし、地雷とばったり出くわさないように足元や頭上に注意し、そうやった前進する。

 

「──まだ見つからないのか──」

 

 そこで男の声が響いた。若い男の声だ。それも複数。

 俺は耳を澄ませて会話を聞き取ろうとする。

 

「対象は24階層に逃走した模様です。今、部隊を派遣しています」

 

「クソ。引き抜きはもっと静かに行うはずだったんだぞ」

 

「どうせ逃げ場ありません。30階層にはやつがいます。素人が突破できる相手じゃない。そこで行き止まりです」

 

「それでもレッドキャップなどに万が一殺されでもしたら……」

 

 どうやら連中も狩りを行っているらしい。

 俺と同じ獲物じゃなければ放っておくのだが、十中八九同じ獲物だ。

 

 俺は慎重に曲がり角から頭だけを出して喋っている連中を確認。

 数12名。その手には全員がSCAR-Hアサルトライフル。体にもドイツ製のボディアーマーなどをきっちりと装備している。

 大井が雇っている民間軍事会社(PMSC)──太平洋保安公司系列の装備じゃない。

 となると……。

 

「サタナエル」

 

 俺は小声でサタナエルを呼ぶ。

 

「俺はこれから連中に声をかける。敵味方を判別しておきたい。だが、連中が少しでも俺を殺そうとしたら、そのときは──」

 

 俺はしゅっと親指で首を掻き切る仕草をした。

 

「畏まりました、旦那様。あなたのことはボクが守ります」

 

「頼むぞ」

 

 サタナエルの殺傷能力が及ぶのは50~70メートルと把握している。

 それならば隠れた位置からも男たちを焼き払えるだろう。

 

「では、行ってくる」

 

 俺はサタナエルにそう声をかけてから物陰から出る。

 

「あんたら」

 

「!? 誰だ!」

 

 男たちはすぐに銃口を俺の方に向けたが、引き金に指は掛けていない。

 

「あんたらはここで何を?」

 

「お前が知る必要のないことだ」

 

「ふうむ。俺()人を探しているんだが……」

 

「何……?」

 

 そこで指揮官らしき男が俺の方を疑るような目で見る。

 

「五十嵐・J・アメリア。ここら辺で見なかったか?」

 

 俺がそう尋ねると明白に殺意が向こうから伝わってきた。

 やはり、こいつらは敵だ。

 

 俺がそう判断してから1秒としない刹那に男たちが燃え上がる。

 ごうごうと松明のように男たちは燃え、悲痛な叫び声をあげながら地面でのたうつ。

 しばしの間、男たちの悲鳴は続いたがやがてそれも途絶え、静寂が訪れた。

 

「旦那様。これでよろしかったでしょうか?」

 

「ばっちりだ」

 

 俺は焼死体になった男たちの死体を探る。

 ドッグタグの類がないか探したが、身元を証明するようなものは何もなかった。

 

「ふうむ。よほど身元を知られたくなかったらしいな……」

 

 これでこいつらが大井が送り込んだ俺以外の捜索救難部隊である可能性は消えた。

 大井の部隊なら身元を隠さなければならない理由はない。

 

「そして、血の臭いだが」

 

「こっちだ!」

 

 俺が鼻を鳴らすのにマルキダエルが前に出る。

 そしてやつが向かった曲がり角の先に死体の山があった。

 

「こっちは装備が大井だな。さっきの連中にやられたか」

 

 積み重ねられた死体は日本製のボディアーマーを装備している。

 大井傘下の太平洋保安公司のロゴ入りのボディアーマーだ。

 

「五十嵐の件は人為的な原因で決定だな。何者かが彼女を追っている」

 

 メガコーポ同士で技術者や研究者を引き抜き合うのはよくあることだ。

 この状況から考えて五十嵐に降りかかったのはそういうことだろう。

 

「ふふ。人の悪意はダンジョンの悪意と同じくらいに深い」

 

「そうだな。この超自然的な場所ですら人間の欲が優るぐらいには、な……」

 

 サタナエルが小さく笑って囁くような声でそう言い、俺も同意して頷いた。

 

「さて、五十嵐が追っ手に捕まる前にこちらで確保しよう。連中が生け捕りを目指しているかどうかは分からんからな」

 

「はい、旦那様」

 

 俺たちは次は24階層を目指す。

 ここからはクリーチャーより対人戦に警戒しなければならない。

 地雷のようなトラップや銃火器。そういう()()()()()に警戒しろと言うことだ。

 

 幸いにして他の探索者より俺は対人戦に慣れている。

 それは人を殺す技術に長けているというそういう意味だ。

 

「おっと……」

 

 24階層に降りてからまた人間の血の臭いがした。

 それから微かだがサプレッサーに抑制された銃声も聞こえてくる。

 いや、そう思ったすぐ後に剥き出しの銃声が聞こえた。ショットガンのそれだ。

 

「間違いなく人間同士で撃ち合っている。大井の護衛(エスコート)の残存戦力か、それとも……」

 

「目的の人物か、ですね」

 

「ああ。急いだ方がよさそうだ」

 

 銃撃戦を行っているということは、撃ち合いに巻き込まれて五十嵐が死ぬ可能性があるということだ。

 そうなると報酬はなしである。急がないと。

 

 俺たちは静かに、静かに、そして慎重に銃声のする方向に向かっていたが──。

 

「ぬぐぐぐ……! もう我慢できん!」

 

「おい、マルキダエルッ!?」

 

「俺も戦いたいっ!」

 

 これまでは大人しくしていたマルキダエルが飛び出していっちまった。

 俺たちは慌ててマルキダエルを追う。

 

 やつを追って曲がり角を曲がると、マルキダエルが23階層にいた連中と同じ装備をした連中に飛び掛かっていくのが見えた。

 間違いない。連中は敵だ。

 しかし、マルキダエルが射線上にいて撃てない。

 

「死ねえ!」

 

 そう思ったときマルキダエルの両手に炎の剣──炎を纏った剣ではなく、炎そのものでできた剣が握られると、それが敵をボディアーマーごと真っ二つにした。

 

「ははっ! 脆弱、脆弱! 実に弱いぞ!」

 

「何だ、こいつは!?」

 

 敵は一斉にマルキダエルの方を向き、銃弾を浴びせるがマルキダエルはそれを炎の剣で弾いていく。

 そしてマルキダエルは敵に肉薄し、敵の兵士たちを斬り刻んでいった。

 

「あの馬鹿……! やつが目標を殺さないようにしないといかん! 俺も突っ込む!」

 

 俺は頭に血が上ったとしか思えないマルキダエルが、間違って五十嵐を殺したりしないようにするためにマルキダエルを追い越し、やつより前に出る。

 

「俺の獲物を取るな、佐世保! ずるいぞ!」

 

「うるさい。これは捜索救難任務だ。狩りじゃない」

 

 俺は吠えるマルキダエルにそう言い、混乱しながらも発砲する敵を撃破していく。

 

「あの動き、生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)か!?」

 

「肉薄させるな! 弾幕を張れ!」

 

 流石に敵はトレインのような木っ端の犯罪組織と違って訓練されている。

 最初は乱れていた射撃も短時間で正確になってきたし、お互いに連携し合っているのも分かった。

 

 ただ、すでに連中は俺の間合いにいる。

 

 強化脳インプラントを起動すると超高周波振動ナイフの刃が踊り、敵の喉を裂き、心臓を貫き、腎臓を抉り、肝臓を滅多刺しにする。

 鮮血が飛び、俺は血塗れなになりながら前に出続けた。

 

「撤退だ、撤退!」

 

 やがて敵は撤退を選んだ。殿が弾幕を展開しながら逃げようとする。だが──。

 

「はっはーっ! 逃がさん!」

 

 マルキダエルがそれを追撃。

 銃撃を恐れないマルキダエルに牽制射撃は意味がなく、敵は追いつかれ、ひとり、ひとりと炎に包まれながら斬り殺されていった。

 悲鳴が聞こえ、怒号が聞こえ、やがて何も聞こえなくなった。

 

「満足!」

 

 マルキダエルが切断され、焼かれた死体の山を見てふんすっ! と鼻を鳴らすのに俺はぺちんとやつの頭を叩いた。

 

「俺の指示に従えと言ったはずだぞ? お前の分の報酬は減額だ」

 

「ええーっ!? 何でだ! 役に立っただろう!」

 

「俺たちの仕事は捜索救難だ。敵の殲滅じゃない」

 

「ぐぬぬぬ!」

 

 マルキダエルは納得していない様子だったが、俺たちは五十嵐を確保しに来たのであって、敵を残らず殺せとは命令されていない。

 この騒ぎで目標が死んでいないといいが……。

 

 そう願いながら俺たちはショットガンの銃声が聞こえた方に行く。

 そこは24階層で小部屋のようになっている空間だ。

 

「誰だね!」

 

 俺たちがそこに近づくのに女の声が制止する。

 

「大井に雇われた使いだ。お前は五十嵐・J・アメリアか?」

 

 それから小部屋の前に築かれていたバリケードからゆっくりと女が顔を出す。

 顔にはスマートグラスを兼ねたボストン型のメガネを掛けた迷彩服姿の女だ。

 その顔は間違いなく、救出目標の五十嵐だった。

 

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