元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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再接触

……………………

 

 ──再接触

 

 

 それから五十嵐から再び連絡があったのは次の日の昼のことだった。

 ARデバイスに着信があり、五十嵐からのメッセージが表示された。

 

「五十嵐から連絡だ。アレキサンドライトで会いたいと」

 

 五十嵐からのメッセージにはアレキサンドライトのVIPルームで打ち合わせをしたいという旨が書かれていた。

 アレキサンドライトは政治的中立地帯であり、VIPルームでの話し合いは外に漏れることも避けられる。

 五十嵐は俺に約束したように大井にがっつり関わることなく、個人的な依頼として今回の仕事を回してくれるのだろう。

 

「では、向かいましょう、旦那様」

 

「行くぞーっ!」

 

 サタナエルとマルキダエルがそれぞれそう言う。

 

 それから俺たちは家を出て、アレキサンドライトに向かった。

 いつものようにコントラクターからの誰何を受け、アレキサンドライトの用事棒(バウンサー)に承認されると俺たちはVIPルームへ。

 

「おお。来たね、佐世保君。待っていたよ」

 

 意外にも五十嵐は護衛なしで俺を待っていた。

 

「大丈夫なのか、先生?」

 

「何がだね?」

 

「ついこの前、荒っぽい引き抜きに遭いそうになったばかりだろう?」

 

 そう、五十嵐はまさに昨日ダンジョン内で襲撃されていたのだ。

 どこかのメガコーポが五十嵐を引き抜こうとしたことで。

 

「ああ。それなら問題はない。あの件は大井が対処しているよ。引き抜かれて困るのは彼らだからね」

 

「そうか」

 

 本人がそう言うならば問題はないのだろう。

 大井としても優秀な学者が何度も引き抜かれそうになるのを放置するほど間抜けでもないはずだ。

 

「それでは仕事の話をしよう」

 

 五十嵐はそう言い、あるデータを俺たちのARデバイスに送信。

 それは動画ファイルだった。2分ほどの短い動画だ。

 

「これは?」

 

 開く前に俺は五十嵐に尋ねる。

 

「例の人狼の変異種に遭遇した探索者から回収されたデータだ。まあ、見てみたまえ」

 

「回収した、か」

 

 それは本人は死んでいると案に言っているようなものだ。

 死人が残したという不気味な動画を俺は再生する。

 

 最初に映ったのは30階層の様子だ。

 30階層は開けた空間になっており、そこに人狼は存在する。

 

『おい。何もいないぞ』

 

 動画の中で探索者のひとりがそう言うのが聞こえる。

 確かに開けた空間に本来いるはずの人狼の姿は見たらない。

 

『待て。音がする』

 

 次に別の探索者がそう言うのが聞こえ、探索者たちが映像に映った次の瞬間──。

 

『うわああああっ!』

 

 鮮血が舞った。

 探索者のひとりの首が刎ね飛ばされ、そこから激しく吹き上がった血が撮影者の顔面に降りかかる。

 

『撃て、撃て!』

 

『畜生!』

 

 銃声が響き、撮影者も人狼を狙おうとするが捉えられないほど相手は速い。

 俺も映像からは明白に人狼の姿を見ることはできなかった。

 ただ最後に白い影が一瞬で撮影者に肉薄するのだけはよく見え、そしてそこで映像は途絶えた。

 

「どうだね?」

 

 映像を見終えたと判断して五十嵐がそう尋ねてくる。

 

「確かに通常の人狼ではなさそうだ。あまりにも速すぎる」

 

 人狼は確かにスピードとパワーの両方を持ち合わせたクリーチャーであるが、ここまでいかれた速度で動き回るような化け物ではなかった。

 これまでの人狼はそれなりに強くはあったが、中堅探索者がパーティを組んでいれば撃破できない相手ではなかったのだから。

 

「これが我々が変異種と呼んでいるものだ。これについて詳細な情報を集めたいので君たちに仕事を依頼したい。が、その前に」

 

 五十嵐がそう言ってARデバイスを操作する。恐らくは時間の確認だ。

 

「大井に君たちの優れた実績を伝えたのだが、君たちだけでは調査は了承しかねると言われてしまった」

 

「おいおい。じゃあ、この話はなかったことに?」

 

「いいや。君たち()()では不十分という話なんだ。ならば、君たち以外の戦力も加えれば了承されるということになる」

 

 そこでVIPルームの扉が開いた。

 

「よ、佐世保」

 

「皇。お前も呼ばれたのか?」

 

「ああ。信頼できる探索者としてな」

 

 皇はそう言うとソファーに腰を下ろす。

 

「そう、信頼できる人間に相談したところ皇君を推薦されてね。君たちと皇君で調査に付き合ってもらおうと考えている」

 

「5000万円は半分こってところか」

 

「そうなる。申し訳ないが……」

 

 俺が言うのに五十嵐がそう返した。

 

「いいや。構わんよ。皇は信頼できるやつだ。この映像にあるような化け物を相手にするなら隣にいてほしい探索者になる」

 

 映像を見た限りでは俺ひとりで五十嵐を守りながら相手にできるとは思えなかった。

 それだけ映像に映っていた人狼──その変異種は明白な脅威であった。

 

「では、皇君を加えることに問題はないね。具体的な仕事の内容に移ろう」

 

 五十嵐はそう言って30階層のマップを広げる。

 

「現在30階層に地形的な変化は見受けられない。そこで、我々は観測機材をこの地点に持ち込み、同時に人狼の撃破を目指す」

 

「観測機材? そんなものを設置している余裕があるとは思えないが……」

 

「簡単なものだよ。30階層そのもののデータを採取するためのものだ。単純に人狼に変化が起きたのか、30階層という空間がおかしくなったのかのデータを採取する」

 

「分かった、分かった。設置までそっちを守ればいいのだろう?」

 

「ああ。設置は1、2分で終わる。それからは人狼の撃破だ」

 

 人狼を撃破して、その死体をその場でばらして検分して、可能であれば精密検査を行いたい部位を地上に持ち帰ると五十嵐。

 

「人狼の撃破は君たちに完全に委任する。だが、可能であれば多くのデータを手に入れたい。無理しない範囲で引き延ばしてくれると助かる」

 

「無理しない範囲でよければ、努力はしましょう」

 

 五十嵐が言うのに皇がそう応じた。

 

「俺としても無理のない範囲であれば、データ採取に協力する」

 

「助かるよ。では、調査の実行日だが3日後ではどうかね?」

 

「問題ない。皇は?」

 

 俺は頷きながら、皇に尋ねる。

 

「あたしも問題はない。3日後にまた会おう、先生」

 

「期待しているよ。ダンジョンの謎がまたひとつ解き明かされるかもしれないんだ。では、今日はここで失礼する」

 

 五十嵐はそう言い、VIPルームから出ていった。

 

「まさかお前が来るとは思って見なかったぞ。大井にパイプがあるのか?」

 

 俺は五十嵐が帰ると皇にそう尋ねた。

 

「パイプっていうほどの繋がりじゃない。何度か連中の依頼を受けただけだ。メガコーポに深々と関わる気は、あたしにはさらさらないからな。特に大井のようなクソみたいな連中に関わり合い続けたくない」

 

「それでも今回の仕事は引き受けてくれるんだな」

 

「ああ。あんたが加わるって聞かされたからな。久しぶりに切り裂き魔(リッパー)の腕前を拝見させてもらおう」

 

「はいはい。じゃあ、仕事ではよろしく頼む」

 

「こっちこそ」

 

 俺は皇に手を振ってVIPルームを出て、アレキサンドライトを出る。

 

 いよいよ3日後には人狼狩りだ。

 

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