元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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配信に向けて

……………………

 

 ──配信に向けて

 

 

 地下街メイロから連絡があったのは、アレキサンドライトでやつに会ってから2日後。

 

『今からお話しできますか? 住所はここ!』

 

 と、メッセージがARデバイスに着信していた。

 

 俺はサタナエルとマルキダエルを連れて問題の住所に向かう。

 そこは古い雑居ビルの中にある寂れた喫茶店で、俺たちは1階にあるそこに扉を潜って入った。

 

「ああ。お待ちしてました、佐世保さん!」

 

「どうも」

 

 出迎えたのは地下街メイロともうひとりメガネのボーイッシュな雰囲気の若い女だ。

 地下街メイロとは違って寡黙そうなその女が彼女が言っていた親友とやらだろうか?

 

「ああ。企画がまとまったのか?」

 

「ええ。ここにいる私のプロデューサーであり親友のヒナPが考えてくれたんですよ!」

 

 そう言って地下街メイロは隣に立っている女を指さす。

 

「はい。自分が一応メイちゃんのプロデューサーをしているヒナって言います。よろしくお願いします、佐世保さん」

 

 ヒナと名乗った女はそう言い、俺に自己紹介する。

 

「よろしく。では、早速だが企画内容について教えてくれ」

 

「ええ。これを見てください」

 

 ヒナから俺のARデバイスにメッセージが着信。

 それはそれを開いて確認する。

 

「ふむ。40階層のエリアボスを倒すこと言うことでは変わらずか」

 

 企画書には配信の目標である40階層エリアボスを倒すというものと、その40階層に向かうまでの具体的な日程案が記されていた。

 

 最初は20階層に向かい、そこで準備の様子を撮影。

 それから30階層のエリアボスである人狼が復活していないかを確認し、復活していなければそのまま40階層に向かう。

 復活していた場合は撮影は延期とするそうだ。

 

「30階層の人狼に変異種が出たって話は聞いてるか?」

 

 俺は30階層のエリアボスのことを思い出してそう尋ねる。

 俺と皇が相手にした人狼変異種。あれは二度と相手したくない。

 

「ええ。聞いてます。けど、一度ある探索者パーティに倒されてからは、同様の個体は出ていないらしいですよ」

 

「そうか。あれは面倒な相手だったからな……」

 

「もしやもしや、人狼変異種を倒されたのも佐世保さんだったり!?」

 

 地下街メイロが興味津々にそう尋ね返してきた。

 不味い。藪蛇をつついた。

 

「皇とな。俺だけじゃない」

 

「へえへえ! そのときの様子もぜひ聞きたいですね!」

 

「機会があれば」

 

 正直、あまり自分の手札を披露したくないので話したくはないのだが。

 

「メイちゃん。あんまり佐世保さんに無理に迫ったらだめだよ?」

 

 そこでヒナが地下街メイロの服の裾を引っ張ってそういう。

 

「ごめんごめん! まずは企画の説明だよね!」

 

「そうだよ。まずはそっちからです」

 

 地下街メイロの手綱はどうやらヒナがしっかり握っているらしく随分と従順だ。

 

「40階層のエリアボスはキメラ。これは佐世保さんも知っているかもしれませんが、発生する度に変化する代物です。いつもなら偵察してから攻略することになります。ですが、今回は事前に情報をゲットしているんです」

 

 そう説明するのは地下街メイロではなくヒナ。

 

「ほう。誰か雇って確かめさせたのか?」

 

「はい。探索者のパーティに頼んでキメラの偵察を行ってもらいました」

 

「なるほど」

 

「今回はコラボ企画となる以上、あまり佐世保さんたちを長時間拘束しておくわけにはいきませんから」

 

「そこまで考えてくれたのは助かる」

 

 ヒナと言うのはなかなかできる女のようだ。

 

「それじゃあ今回のキメラのタイプについて教えてくれ」

 

「今回のキメラは大型猫タイプです。恐らくはジャガーをベースにしたものです」

 

「なるほど。それならまだマシか……」

 

 大型猫タイプのキメラはまだ倒しやすい方だ。

 

「では、企画書にあるように明日から早速?」

 

「そちらのご都合がよければ、お願いします」

 

「こっちは大丈夫だ。いつでも動ける」

 

「ありがとうございます」

 

 ヒナはそう言い、俺に丁寧に頭を下げた。

 

「しかし、もう一度確認するが俺は顔と名前は出さないし、経歴も話さないぞ。それでいいんだな?」

 

「ばっちりですよ。ヒナちゃんがその点は考えてくれましたから!」

 

 そう言って地下街メイロはヒナの方を見る。

 

「はい。いつもこのARデバイスで撮影しているんですけど、それにフィルターをかけて配信しようと思います。佐世保さんの顔がしっかり隠れるように」

 

「試してみてくれるか?」

 

「ええ。こんな感じになります」

 

 ヒナのメガネ型のARデバイスで撮影されている情報が俺の方に送信されてくる。

 その映像では俺の顔には確かにモザイクがかけられており、何者か分からないようになっていた。

 モザイクはちゃんと俺の動きに追随しており、外れることもない。

 

「これなら大丈夫そうだな」

 

 俺はその映像を見て頷く。

 

「それでは明日、待ち合わせ場所は?」

 

「ダンジョン入り口でお願いします」

 

「了解だ」

 

 俺はヒナにそう言い、手を振った。

 

「コラボ、楽しみにしてますから!」

 

「こっちは報酬を楽しみにしている」

 

 地下街メイロが言うのに俺はそう返して、喫茶店を出た。

 

 

 * * * *

 

 

 翌日。

 

 今回の装備はいつものショットガンと45口径の自動拳銃、超高周波振動ナイフ。

 

 万が一に備えて医薬品は多めに持ってきた。

 今回もある意味では五十嵐の護衛をしたときと似たようなものだ。

 お守りをしながらの戦闘。ならば、護衛対象の安全に配慮する必要がある。

 

「サタナエル、マルキダエル。準備はいいか?」

 

「荷物が重い!」

 

「文句言うな」

 

 いつものようにマルキダエルには荷物を背負わせている。

 軍用背嚢に15キロほどの弾薬と清潔な水、そして医薬品が詰まっている。

 

「サタナエル。なるべく動画には映らないようにしろよ」

 

「やっぱりボクが動画に映って他の人に好意を寄せられたりするのは嫌ですか?」

 

「そういうことじゃないって言っただろう。トラブル防止だ」

 

 サタナエルはその美貌ゆえに目立つ。

 白い髪をした途轍もない美人なんて、ダンジョン周辺を探しても早々いない。

 これからサタナエルも対人戦の仕事に関係するかもしれないと考えると、有名人になるのは避けた方がいいという判断だ。

 

「もっと嫉妬なさってくれてもいいのに」

 

「男の嫉妬はみっともないものだ」

 

 サタナエルがからかうように言うのに俺はそう言い返す。

 

「さてさて、地下街メイロたちと合流しよう」

 

 俺はそう言ってダンジョンの入り口に向かう。

 

「あ! こっちです、こっち!」

 

 地下街メイロたちは俺の姿を見つけるとぶんぶんと手を振ってくる。

 地下街メイロは動画で見たのと同じ民生用の強化外骨格(エグゾ)にショットガンという出で立ち。

 ヒナの方も同じタイプの強化外骨格(エグゾ)と狩猟用ライフルだ。

 

「よう。もう配信は始まっているのか?」

 

「まだですよ。ちょっと決めておくのを忘れていたことがあって。配信中に佐世保さんのことをなんと呼んだらいいかなんですけど」

 

「そうだったな。名前を呼べないから、ニックネームみたいなものがいるか……」

 

 しかし、俺はニックネームで呼ばれたことなんてないからな……。

 

「シエラさんではどうです?」

 

 そこでヒナがそう提案。

 

「佐世保のSでシエラか? 悪くないな」

 

「では、それで行きましょう! いざ、配信開始ーっ!」

 

 地下街メイロがそう宣言し、配信が始まった。

 

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