元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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竜と虎

……………………

 

 ──竜と虎

 

 

 威勢のいい声を上げたマルキダエル。

 

「加勢してやろう、佐世保!」

 

 次の瞬間、やつの手には例の炎の剣が二振り握られていた。

 五十嵐を救出する仕事において、24階層で傭兵たちを斬り刻んだ刃だ。

 

「分かった! だが、気を付けろ! やつはなかなかに強いぞ!」

 

「ふふんっ! 俺にかかれば大したものではない!」

 

 マルキダエルのやつが俺の指示に従うとは思わなかったので、俺の方でやつに合わせることにした。

 マルキダエルが双剣を振るってキメラに襲い掛かるのに、キメラは一瞬怯えたように後ずさりしてそれを躱す。

 

「逃げるな!」

 

 後方に下がるキメラをマルキダエルがぶんぶんと双剣をでたらめに振り回して追撃するも、動きがでたらめすぎてまるで攻撃は当たらない。

 しかし、マルキダエルの方にキメラの注意は引けている。

 仕掛けるならば、今だ。

 

「そら!」

 

 俺はマルキダエルの攻撃の当たらない斜め後方からキメラを襲う。

 狙うはその首。超高周波振動ナイフが鈍い振動音を立て、剣呑な輝きがキメラの首筋に迫る。

 しかし、またしても後方からの奇襲であったにかかわらず、キメラは素早く攻撃を回避した。

 背後に目でもついているのかというぐらいの正確さだ。

 

 まさか……。

 

 もしやと思って俺は脅威にならないだろうと放置していたキメラの尾を見る。

 その蛇の尾となっているものには蛇の頭があり、その爬虫類の目が俺の方をじっと捉えていた。

 

「そういうことか」

 

 からくりが分かってしまえばやることはひとつだ。

 俺はマルキダエルとキメラを挟み撃ちにし、俺は蛇の頭を狙う。

 

 蛇は素早く頭を動かしてナイフを躱そうとするが、俺は最初からナイフでお上品に頭を斬り落としてやるつもりはなかった。

 俺は勢いよく蛇の頭に飛び掛かり、そしてそれを掴むと思いっきり引っ張る。

 ぶちぶちと肉に千切れる音が響き、キメラの蛇の頭が引きちぎられた。

 

「よし、背後の目は奪ったぞ」

 

 俺が蛇の頭を引きちぎったのにキメラがマルキダエルの方から、俺の方へと振り返って怒りに満ちた表情で身体をぐっと低く構える。。

 それから腕を前足のようにして地面につけ、四足歩行の姿勢となり、地面を大きく蹴ると俺の方に飛び掛かってきた。

 狙いは俺と同じで首筋。そこに顎に並ぶ牙を突き立てようと飛び掛かってくる。

 

「ふん!」

 

 俺は横なぎにナイフを振るってやつの突進を逸らす。

 ジャガーの頭である部位の右頬が大きく裂けて、鮮血がほとばしる。

 

「────────ッッッッ!」

 

 それでもやつは雄たけびを上げて、執拗に俺を狙って飛び掛かってきた。

 俺はそれを徹底的に捌きながら、カウンターのチャンスを窺う。

 キメラの速度は機械化した人間並みであり、なかなかに手が出せない。

 

「佐世保! 邪魔だ! 退け!」

 

 そこでマルキダエルが叫ぶのを聞き、やつの方を見るとぎょっとした。

 やつは炎の剣で皇のようなサムライが行う超電磁抜刀の構えを取っていたのだ。

 

「行くぞ!」

 

「クソ! やばい──」

 

 本能的に危険を察知した俺は素早く前転して回避行動を取る。

 

「喰らえっ!」

 

 マルキダエルが炎の剣を超電磁抜刀のように素早く抜くと、炎がそこを起点に火炎放射器のように伸びて、キメラを襲った。

 近くにいた俺にもその触れずとも火傷するような熱量が感じられるほどの炎であり、危うく俺まで巻き込まれるところだった。

 

「────────ッッッッ!」

 

 炎は直撃し、身体が炎に包まれるキメラ。

 しかし、それでもキメラはまだ死んでいなかった。

 やつは雄たけびを響かせて、俺を道連れにしようというのか突っ込んでくる。

 これまでとは違って考えなしの突撃だ。

 

「ひとりで死ね」

 

 俺は燃え上がるキメラに向けてハイキックを叩き込む。

 顎を蹴り上げられたキメラはよろめきながらも、再び態勢を立て直して俺に迫る。

 しつこい野郎だ。

 

 ここで俺は強化脳を起動。

 燃え上がりながらも俺に迫るキメラに向けてスローモーの中で的確にその首を狙ってナイフを振るう。

 殺意の籠った刃が機械化によって強化された膂力によって繰り出され、弾丸並の速度でキメラを襲った。

 

 今度は決まった。

 ばっさりとナイフはキメラの首を裂き、キメラの首から鮮血がほとばしると今度こそキメラは倒れたのだった。

 

「やったな……」

 

 俺は失血死か、あるいは酸欠で死亡したキメラを見て呟く。

 

「ふーはっはっはっは! 俺のおかげで勝てたな、佐世保──」

 

 マルキダエルが誇らしげにそういう中で、ぺちんとその後頭部が叩かれた。

 

「旦那様まで殺すところでしたよ? もう少し考えてください」

 

「うう~っ!」

 

 やつの頭を叩いたのはサタナエルで、彼女はにこにことしているようで目は笑っていなかった。

 力関係としてはサタナエルの方がマルキダエルより上なのか……。

 

「本当だ。危うく俺までローストされるところだったぞ。勘弁してくれ」

 

 俺はそう愚痴りながら倒れたキメラが本当に死んでいるかを確認する。

 間違いなくキメラは死んでいた。

 

「メイロ、ヒナ。大丈夫か?」

 

 俺はそこでふたりが無事かを確認。

 護衛対象であるふたりが死んでしまったら仕事は失敗だ。

 

「だ、大丈夫です!」

 

 地下街メイロがそう言い、ヒナもこくこくと頷いていた。

 

「よし。じゃあ、撮影は終了ってことでいいか?」

 

「はい! 同接とコメント、凄いことになってますよ!」

 

「今はそういうのはいいだろう……」

 

 危うく死にかけた光景を見られて、他人に盛り上がられても嬉しくない。

 

「そ、そうですよね。すみません……」

 

「今日は引き上げよう。キメラは死んで目的は果たしたからな」

 

「了解です」

 

 俺たちはまずは20階層を目指して上層に戻っていく。

 

「でも、本当にコメント凄いですよ。シエラさんこと滅茶苦茶誉めてます」

 

「誉めるって何を?」

 

「『動きが半端なく正確すぎて神!』とか『この人、冷静過ぎて機械みたい……』とか『あれだけの動きができる探索者ってほとんどいないだろう』とか。あとは大勢が『シエラさん、強すぎ!』って!」

 

「そうか」

 

「……嬉しくないんですか?」

 

 俺が淡白に返事を返すのに地下街メイロが首を傾げる。

 

「別にな……」

 

 もし、社会が本当に俺の持っている技術──人殺しの技術を高く評価してくれているならば、俺はこうしてダンジョンなどに潜らずともよかったのだ。

 結局はモニターの向こうで自分たちとは関係ない殺戮に盛り上がっているだけに過ぎず、俺を本当に評価してくれているわけじゃない。

 

「『そういうところもクールでカッコいい!』ってコメント付きましたよ」

 

「もはや箸が転がってもコメントが付きそうだな」

 

 俺は地下街メイロのリスナーたちに呆れながらも、地上に向けて足を進める。

 

「……けど、本当にカッコよかったですよ、シエラさんたち」

 

 そこでヒナが呟くようにそう言った。

 

「……マルキダエルのことも映ったんだよな?」

 

「ええ。問題、でした……?」

 

「問題と言えば問題かもしれないな……。マルキダエルのあの炎についてコメントがあったりするか?」

 

「あります。『どういうサイバネティクスなんだろう?』って」

 

「やっぱりか……」

 

 マルキダエルの力も、サタナエルの力も人に説明できるものではないだろう。

 それが迂闊に衆人の目にさらされるのは避けたかったのだが……。

 

「あれは俺のドラ──」

 

「馬鹿!」

 

 危うくドラゴンであることを明かそうとしたマルキダエルの口をふさぐ。

 

「ふふ。あまり旦那様にご迷惑をおかけしてはいけませんよ?」

 

「……うぐぐぐぐ……」

 

 サタナエルも依然として目が笑っていない笑みでマルキダエルの顔をを覗き込み、マルキダエルは不満げな犬のように唸っていた。

 

「さて、地上だ。お疲れ様だった」

 

「お疲れ様でしたー!」

 

 俺たちは無事に地上に出て、そう声を掛け合ったのだった。

 

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