元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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マイホーム

……………………

 

 ──マイホーム

 

 

「では、俺たちはここで」

 

「あ! 待ってください。このあと反省会って名目の雑談やるんですけど、参加してもらえませんか……?」

 

「反省会、ねえ」

 

 地下街メイロがそう言うのに俺は首を横に振る。

 

「あいにくだが、俺は雑談は苦手だ。すまんが報酬を頼む」

 

「それは残念です……。では、お約束の報酬の送信を」

 

 俺は地下街メイロから報酬をウォレットに送信してもらうと、それを確認。

 

「確認した。じゃあ、配信これからも頑張れよ。ただし死なない範囲で」

 

「はーい!」

 

 俺は地下街メイロとヒナにそう言い、彼女たちと別れた。

 

「さて、引っ越しの件を考えるぞ」

 

「そうでしたね。引っ越されるのでしたね」

 

「無事に金は入ったしな」

 

 俺がそう言うのにサタナエルは少し考え込むように空を見上げる。

 

「しかし、借家なら日々に出費になりますし、これからも継続的な稼ぎが必要なのではないでしょうか?」

 

「借家ならな。俺は思い切って家を買うつもりだ」

 

「おお」

 

 俺のその宣言にサタナエルが軽く驚いて見せる。

 

「今の場所より安心できる拠点が欲しかったしな。800万とこれまでの貯蓄があればそこそこの家が買える」

 

 ダンジョンの地価というのは面倒なものになるが、基本的には酷く安い。

 ダンジョンと言う産業があれども、治安は最悪で、いつ死体になってもおかしくない場所に住みたがるやつなんていないだろ?

 

「それはいいですね。ボクたちの愛の巣を選びに行きましょう」

 

「何が愛の巣だよ……」

 

 サタナエルがウキウキした様子で言うのに俺は力なくそう突っ込み、それから目を付けていた物件を見学に向かうことになった。

 

 それはダンジョン中心街からやや外れた位置にある物件だ。

 

「ここだ」

 

 小ぢんまりとした地上2階地下1階の一軒家。

 元の住民はダンジョン出現によって逃げ去り、空き家となっていた。

 今はどこかの不動産会社が管理している。

 前々から気になってはいたのだが、引っ越すメリットとデメリットを天秤にかけ続けていたのである。

 

 そして、そこにサタナエルたちが引っ越してきたので、俺は引っ越しを決意したというわけだ。

 

「ええーっ! 俺はもっと広い家がいいぞ!」

 

「うるさい。お前はここに引っ越しても家賃払えよ」

 

「なんでっ!」

 

「何でもクソもお前は未だに居候だろうが」

 

 こいつ、持ち家になれば家賃はいらないとでも思ったのか?

 

「ボクは素晴らしいと思いますよ。この家はボクたちが暮らすには十分すぎるほどです。お庭もあるし、ダンジョンにもそう遠くない。きっと素敵な愛の巣になりますよ。ですが、他に候補はないのですか?」

 

「今はない。まずは不動産会社に連絡してみないとな」

 

 俺は売家と書かれた看板にある不動産会社のアドレスを読み込み、そのアドレスにメッセージを送って連絡を取るのだった。

 

 

 * * * *

 

 

 最終的に家の購入は無事に即日で完了した。

 ダンジョンの滅茶苦茶な無法は保証人すら必要なく、家が買えるのである。

 

 あとは引っ越しだ。

 この無法地帯に引っ越し業者などはほぼ存在しないので、自分たちで引っ越しはやることになる。

 

 俺は信頼できる人間からトラックを借り、そこに家具と弾薬庫の武器弾薬を詰め込んで、引っ越しを行った。

 

「ここが新しい我が家だ」

 

 俺は家具を設置した室内を見てそう言う。

 

 まだ部屋の広さに対して家具が少なすぎるが、それでもこれまでの兵舎よりずっと広いのは間違いない。

 

 1階はリビング、風呂、トイレ、キッチンがあり、2階には俺たちの寝室となった。

 地下は武器弾薬を収める武器庫として使い、あとはいざという場合のシェルターとすることにした。

 非常用発電機なども地下室にはおいておいた。

 

「いいですね。キッチンが広くなったのが嬉しいです」

 

 サタナエルはそう言いながらキッチン周りを確認。

 

 キッチンはシステムキッチンで、中古物件でもこれだけちゃんとしたキッチンがあればかなりの値段がするだろうものだった。

 しかし、ここはダンジョンのある街だ。価格は安かった。

 

「料理をこれからもしてくれるのか?」

 

「ええ。そのつもりです。旦那様の喜ぶ顔が見たいですから」

 

 自分では食べないが、人に食べさせるのが好きそうなサタナエルはマルキダエルとは真逆だなと改めて思うのだった。

 

「しかし、今日は引っ越しで疲れた。外食で済ませよう」

 

 俺はそう言い、サタナエルたちを連れて食堂街に向かう。

 入るのはいつもの定食屋だ。

 見せに入ると見知ったを見つけた。

 

「九条。それに桜庭たちも」

 

 九条、桜庭、黒沢、水原の新人パーティが食事をしていたのだ。

 

「ああっ! 噂をすればっす!」

 

「……噂?」

 

 かつ丼を食っていた桜庭が声を上げるのに俺は首をひねる。

 

「佐世保さんですよね? メイちゃんとコラボしたの!」

 

 そこで黒沢がそう尋ねてくる。

 彼女は俺のARデバイスにアドレスを送ってきて、俺はそれを再生。

 それから地下街メイロのチャンネルのアーカイブで、俺とコラボしたときのものだ。

 再生数はかなりのものだった。

 

「まあ、そうだが……」

 

 俺は九条たちの隣のテーブルに座ってどうしたものかと思いながら頷く。

 名前も顔も隠したが、知り合いには当然ながらばれるか……。

 

「凄いですね。地下街メイロって有名なライバーじゃないですか。それとコラボなんて、流石は佐世保さん!」

 

「よしてくれ。金払いがよかったから引き受けただけだ」

 

 九条は純粋に誉めてくれているのだろうが、俺は別に有名人と一緒に配信がしたくて引き受けた仕事じゃない。

 

「佐世保さんはやっぱり滅茶苦茶強いっすね。どのコメントも佐世保さんの変態染みた動体視力に言及してるっすよ!」

 

「変態言うなし」

 

 失礼なやつだなと、そう桜庭に対して思いながら俺は今日は天丼を注文。

 

「ああ。私もメイちゃんとコラボできるぐらい有名な探索者になりたいなぁ」

 

 地下街メイロの熱烈なファンだという黒沢はそんなことを言っていた。

 

「そうっすよねぇ。あたしたちも凄く有名になって、ガンガン稼げるようになりたいっす。自分の機械化率も上げたいですし」

 

「装備も整えたいよね。今は弾薬代だけでひいひいだから」

 

「やっぱりドラゴンをソロで倒せるぐらいにならないとダメなんすかね?」

 

 桜庭たちはそう仕事の愚痴のような話を始める。

 

「そっちは最近の仕事はどうなんだ?」

 

 俺はそんな九条たちの近況が気になり、そう尋ねた。

 無理な仕事を引き受けていないといいのだが。

 

「特に難しい仕事はないですよ。相変わらず1階層から10階層付近の仕事なので。護衛とか輸送とかのですね。けど、クランから定期的に仕事を回してもらえているので稼ぎはそこそこいいです!」

 

「それはよかった。無理せず頑張れよ」

 

「はい。佐世保さんも頑張ってください」

 

「ああ」

 

 俺はそう言って天丼を掻き込む。

 すぐに夕食を食べ終え、俺が席を立ったときだ。

 

「あの、佐世保さん」

 

 そこで黒沢が尋ねてきた。

 

「リアルのメイちゃんってどんな感じでした?」

 

「そうだな……」

 

 俺は考え込む。

 

「動画で見るのと同じくらいいい人間だったぞ」

 

「そうですか!」

 

 俺の言葉に黒沢が明るく頷く。

 

 地下街メイロは動画と現実でまるで人格が異なるということはなかった。

 あれはお芝居ではないのだろう。文字通り、彼女の人生を配信しているわけだ。

 俺にはとてもではないが、そんなことはできそうにない。

 

「それじゃあな。全員、死ぬなよ」

 

 俺はそう言ってサタナエルたちを連れて定食屋を出た。

 

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