元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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鳥かご

……………………

 

 ──鳥かご

 

 

 俺は50階層を目指す決意をした。

 

 ミュールボットに必要な物資を詰め込む。

 医薬品、食料、水、武器弾薬。想定されるあらゆる危険に対応できるように。

 

「よしっ!」

 

 俺は荷造りを終えて立ち上がる。

 時間は朝の6時ほど。昨日は死んだようによく眠り、コンディションを整えた。

 

「旦那様。朝食ができていますよ」

 

「助かる、サタナエル」

 

 サタナエルがいつものように朝食を準備してくれている。

 カットした果物にトーストしたパン、目玉焼きとベーコン。朝から腹いっぱい食べることはダンジョン探索と言う肉体労働にとって重要だ。

 サタナエルはにこにこと笑って俺が食べているのを見て、マルキダエルは必要もないのにがっついていた。

 

「さて、今日は50階層まで潜る」

 

 俺は改めて目標を提示する。

 

「20階層に立ち寄る他にはほとんど無休憩で50階層までいき、そしてエリアボス撃破後にすぐに地上に戻る。これは俺が最深部に到達できるということを自分自身に証明するためのものだ」

 

 サタナエルのおかげで心理的な自信はできた。今の俺には精神的な余裕がある。

 だが、実際問題として本当に最深部に到達できるかは分からない。

 そのことを今回の遠征で確かめるのだ。

 

「50階層までの脅威は?」

 

「41階層から49階層までは亜竜が出没する。ワイバーンだ」

 

 41階層から49階層までにはワイバーンというドラゴンの親戚が出没する。

 少数で、群れることはないが単体の危険度が極めて高いため、50階層に向かう探索者たちにとっては大きな障害となっていた。

 

 しかし、今の俺はドラゴンに対してソロで勝利を確立した男だ。

 ワイバーンはドラゴンとは違って銃弾でその鱗が貫通でき、ドラゴンとは違って炎は吹かず、ドラゴンとは違って知能もない。

 

 今の俺ならば、障害にはならないはずだ。

 

「無事に49階層を抜け50階層に入るとエリアボスが待ち構えている」

 

「50階層のエリアボスってなんだ!」

 

 マルキダエルが問うのに俺はゆっくりと口を開く。

 

「──ワームだ」

 

 ワーム──。

 それは翼のないドラゴンであり、戦車のごとき圧倒的なパワーとスピードで機動し、強力な火炎放射も駆使するという化け物だ。

 50階層の壁と言われるだけあって、その強さは折り紙付き。

 俺は今までこいつに挑むのを避けたため、49階層で止まっていた。

 

「戦うのは初めてだが、先に挑んだ連中からの情報はある」

 

 俺たち探索者は情報をある程度共有している。

 もちろん命がけで得た情報を無償で提供するやつはいないが、ギブ&テイクという形で情報を交換し合ううちに探索者の情報ネットワークができ、それによって情報の共有が進んだのだ。

 

「こいつの鱗は装甲車のそれだ。銃弾は恐らく通用しない」

 

 ワイバーンと違ってこいつの鱗は頑丈だ。

 これまで探索者たちは7.62ミリNATO弾を始めとする銃弾をワイバーンに叩き込んでいるが、さしたる効果は報告されていない。

 

「では、これまではどのようにして撃破を?」

 

「対戦車ロケットの類を使用することや、もっと強力な爆薬の使用だ。装甲車だって吹き飛ばせる火力を叩き込めば相手は死ぬ。あるいは──」

 

 俺は続ける。

 

「超高周波振動ナイフなどによる斬撃。幾人かのサムライが刀でワームを撃破している。ワームに肉薄しなければいけないが、少ない費用でワームを撃破できる」

 

 対戦車ロケットや爆薬には大金がかかるし、パーティで連携しなければ命中させるのも難しい。

 今の俺には金はあるが仲間は依然としてサタナエルとマルキダエルのみ。

 だから、俺は選んだ。

 

「ワームはナイフで始末する。今の俺にならそれができる」

 

 下手に爆発物を使うよりもナイフの方が確実だと今の俺は判断した。

 

「ええ。旦那様ならできるはずです」

 

「俺も手伝ってやってもいいぞ!」

 

 サタナエルとマルキダエルのふたりがそう言う。

 

「ありがとうな」

 

 少なくとも今はダンジョンで死んでも、孤独にひとりで死ぬことだけはない。

 

 

 * * * *

 

 

 それから俺たちは装備を整えて、ダンジョンに潜った。

 まず20階層までは雑魚に構わず一気に、そこから慎重に弾薬量などを見ながら交戦と迂回を選択していく。

 

 40階層に到達すると、そこにキメラはおらずがらんとした空間が広がっていた。

 

「30階層の人狼も40階層のキメラも復活していない、か。今回は随分と長い休みなのか、それとももう復活しないのか……?」

 

 俺が人狼変異種とキメラの推定変異種を倒したあとで、再び変異種が現れたと言う話は聞いていない。

 そもそもエリアボスを誰がいつ倒したかなど、なかなか把握しずらいのだが。

 

「しかし、おかげで体力の消耗は避けられた。毎回、あれだけの損耗を強いられるのは困るからな……」

 

 人狼変異種とキメラ変異種との連戦になったら、間違いなく50階層に到着することには疲労困憊で戦うこともできない。

 

「さて、50階層まで駆け抜けるぞ」

 

「はい、旦那様」

 

 俺たちは40階層から50階層に向けて探索を継続した。

 

 41階層から49階層までには、事前に説明したようにワイバーンが出没する。

 ワイバーンは大抵は単独で行動し、多くても2体だけだ。

 だが、その速度と攻撃力はあまり馬鹿にはできない。

 

 そして、そんなワイバーンが出没する41階層から49階層までの空間は、他のダンジョンの階層よりずっと広い。

 広いと言うよりも天井が高いというべきなのかもしれない。

 ワンバーンが上空から襲ってこれる高さであり、探索者の中にはここら辺のことを『鳥かご』という人間もいる。

 

 つまりここからは上空からの攻撃にも警戒しなければならない。

 

「さて……」

 

 俺はスラッグ弾を装填したショットガンを構えて前進。

 ワイバーンは先の述べたように弾丸が有効であるし、火炎放射も使用しない。

 高速で上空、または地上から接近し、噛みつくことや鋭い爪での攻撃を繰り出してくるのである。

 

 俺は慎重に周囲を探りながら、前進を続けた。

 

「聞こえた」

 

 そこで俺はワイバーンの羽音を捉えた。

 鳥もよりも巨大な何かが羽ばたく音。間違いなくワイバーンの羽音だ。

 高い天井に僅かにだが音が反響している。

 

 音の方向にじっと銃口を向けながら俺が進むと、予想通りワイバーンがいた。

 ワイバーンはドラゴンと違って翼から独立した腕がなく、ある種の鳥、または太古に絶滅した翼竜のような骨格をしている。

 そんなワイバーンが1体、上空を飛んでおり、俺を見つけると急降下してきた。

 猛禽が狩りをするように一直線に降下してくるワイバーン。

 

「そらよっと!」

 

 それに対して俺はショットガンの狙いを定めて銃弾を叩き込む。

 狙いは心臓。銃弾はワイバーンの鱗と肉を貫き、その心臓を破壊した。

 ワイバーンは暫し野生動物的な根性で飛行していたが、やがて墜落する。

 

「オーケー。この調子なら問題はない」

 

「退屈だな!」

 

「お前は静かにしてろよ」

 

「ん!」

 

 マルキダエルがぶーっと文句を言うのに、俺はそう注意。

 こいつにダンジョンで騒がれてさっきのワイバーンが群れで襲ってくるようなことになれば、50階層に到達することはできない。

 

「旦那様。お食事は大丈夫ですか? お昼が過ぎるぐらいの時間ですが」

 

「そうだな。歩きながらでも食べておくか」

 

 サタナエルの言葉に俺はミュールボットに積んでおいたレーションを取り出す。

 日本国防四軍から横流しされたのだろう。戦闘糧食III型を買っておいた。

 味は……感想を述べる気にもならないが、少量で必要なカロリーと栄養素を満たし、空腹感も改善するという優れものだ。

 ただ味は……本当に何も言う気になれない。

 

 俺は一応はチョコレート味となっているそれを片手で食べながら、水分を補給し、それから再び前進を始めた。

 

 50階層まではもう少しだ。

 

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