元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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悪魔と名乗る少女

……………………

 

 ──悪魔と名乗る少女

 

 

 サタナエルと名乗った少女はじっと俺の方を見つめてくる。

 その瞳は爬虫類のような形をしており、その色は赤。

 

「お見知りおきを、と来たか……。俺のことを取って食うつもりだったんじゃなかったのか?」

 

「そのつもりでした。否定はしません。ですが、今は気が変わりました」

 

「なぜ?」

 

 今さっきまで俺を殺す気満々だったはずだ。

 あれは実は悪魔の愛情表現なんですって話ではないだろう。

 それが突然気変わりした理由が分からない。

 

「あなたが強いからです。ボクは強い人間を求めていたんです」

 

 甘く囁くような声でサタナエルは言う。

 

「強い人間と番うために。愛し合うために。ボクはこの場所を利用させてもらいました。この姿もそのためです。あなたと愛し合いたい。どうですか?」

 

「そうやって油断させたところをがぶりってわけじゃないだろうな?」

 

「ふふ。疑り深いのですね。そういうところも好きですよ」

 

 サタナエルがそう言って身を寄せようとするのに俺は警戒して距離を取った。

 こいつは甘い匂いで誘って獲物を食うような食虫植物だ。

 そう俺の本能が言っている。

 というのも、こいつはまるで作り物のように整いすぎているからだ。

 それはまるで地球という生簀に上位者が垂らしたルアーのように感じられた。

 

「どうしたらあなたに愛していただけますか?」

 

 懇願するように、だが表情は甘い笑みのままにそう尋ねるサタナエル。

 

「……お前を愛するつもりはない。俺はダンジョンに婚活しに来ているわけじゃないんだ。俺がほしいのはダンジョンの最深部にあるといわれるお宝だ」

 

「おや。ボクでは満足できませんか?」

 

「できるかっ」

 

 流石の無法地帯であるダンジョンとその周辺でも、このサタナエルを金にする方法はないだろう。

 ……ないよな……?

 

「とにかく俺を食い殺すつもりがないなら、ここでさよならだ。俺は帰る。お前はどうする? ここに居座って次の獲物を待つか?」

 

「いいえ、いいえ。あなたについていきます」

 

「はあ?」

 

 にこにことした人形のように整った笑顔のままサタナエルはそう言う。

 

「ついていきます。どこまでも。振り向いてくれるまで」

 

「何を馬鹿な……」

 

「ボクは永遠にあなたについて回れる。ボクは眠る必要もないし、食べる必要もないし、あなたを見逃すこともない。だからずっとあなたについて回れます。振り返ってくれるまでずっと、ずーっとついて回ります」

 

「おい……マジふざけんなよ……」

 

 とんでもないストーカーが俺を狙ってしまった。

 

「さあ、地上に戻りますか? それともさらに潜りますか?」

 

 サタナエルは笑顔でそう尋ねてくる。

 

 

 * * * *

 

 

 それから俺──俺たちは地上に向かって戻った。

 本当にサタナエルがついてくることを阻止することは不可能だった。

 いくら制止しようともサタナエルはついてきたし、うっかり間違えばまたこいつはドラゴンに変化して襲い掛かってくるかもしれなかった。

 

 そんなわけで──。

 

「おやおや。ここが地上ですか」

 

「クソ。連れてきちまった……」

 

 俺はサタナエルを連れたまま地上に出てしまったのだ。

 

「さて、ここからどこに向かうのです?」

 

「……お前について調べるように頼んできた相手に会いに行く」

 

 そう、俺が10階層に向かったのは別にドラゴンと戦うためじゃない。

 ドラゴンについて調べて皇に報告するという仕事のためだったのだ。

 しかし、俺はこのことをどう報告したものかと頭を悩ませている。

 ドラゴンの正体は悪魔で美少女で、今現在俺のストーカーですと報告すればいいのだろうか……。

 

「ほう。つまりはボクたちの出会いを演出してくれた方ですか。お礼を言わなければなりませんね」

 

「何が出会いだ」

 

 相変わらずにこにこと微笑みそう言うサタナエルに、俺は頭を抱えた。

 本当にどう説明すればいいんだ、これ……?

 俺はそう悩みながらも皇と連絡を取ることにし、コンタクトレンズに表示された拡張現実(AR)からを取る。

 

「皇? 仕事の件だが……」

 

 俺の声がメッセージになってAR上に表示されていく。

 

『ああ。どうだった? ドラゴンは?』

 

「そのことだが相談したいことがある。どこか人払いしたところで会えるか?」

 

『人払いが必要なのか? 分かった。なら、あとでアレキサンドライトで会おう。VIPルームを準備しておく』

 

「助かる」

 

 アレキサンドライトはダンジョンの近くにある高級クラブだ。

 VIPルームともなればメガコーポが接待に使うレベルで、俺にはご縁がほとんどない。

 

「さて……。で、ついてくるんだな?」

 

「ええ。もちろん」

 

「じゃあ、はぐれないようについてこい」

 

 サタナエルは俺の問いに頷き、俺はサタナエルを連れてアレキサンドライトへ。

 

 アレキサンドライトは以前向かった食堂街とは全く違う場所にある。

 日本の警察機構が治安維持を放棄したため展開している民間軍事会社(PMSC)のコントラクターが厳重に警備する地区にそれはあるのだ。

 

 民間軍事会社(PMSC)装甲兵員輸送車(APC)と軍用四輪駆動車が、その地区の入り口となるゲートを守っておりコントラクターたちが近づく俺たちに警戒した視線を向けてくる。

 

 それもそうだろう。俺はこの手の高級地区に縁のない人間だし、サタナエルは白いワンピースを血に染めている。

 こんな人間がふたりして押しかければ、怪しまれても仕方ない。

 

「止まれ」

 

 当然ながらコントラクターは俺たちがゲートを潜る前に声をかけてきた。

 

「この先に用事か?」

 

「ああ。アレキサンドライトに。皇の客だ。確認してくれ」

 

「待て」

 

 コントラクターはアレキサンドライトに連絡して確認を取る。

 暫く沈黙が流れ、それからややあってコントラクターは頷いた。

 

「確認した。行っていいぞ」

 

「ああ」

 

 コントラクターが道を開け、俺たちはゲートを潜ってアレキサンドライトにある地区に入った。

 

「ほお。ここはまた賑やかですね」

 

 サタナエルは興味深そうに周囲を見渡してそういう。

 

 この場所はホログラムやネオンがキラキラと輝き、食堂街のそばの風俗街とはまた別の猥雑さがある。

 商業主義を突き詰めて他の一切を無視したという感じの景色である。

 そんな商業地区をメガコーポの社員や大手探索者クランの幹部などが談笑しながら歩いていた。

 

「こっちだ」

 

 俺はサタナエルを連れてそんな場所をアレキサンドライトに向けて進む。

 

「あそこだ。あれが目的地のアレキサンドライト」

 

 アレキサンドライトはその名前の由来の宝石と同じ色合いをしたピラミッド状の建物だ。つまりは緑から赤という移り変わる色合いだ。

 そこもまた民間軍事会社(PMSC)のコントラクターによって厳重に警備されており、部外者は立ち入り禁止だ。

 

「止まれ、そこの!」

 

 俺たちはアレキサンドライトに近づくと今度はアレキサンドライトを警備するコントラクターがまた声をかけてくる。

 

「皇琴葉とアポがある。ここのVIPルームにいるはずだ」

 

「生体認証する。そのまま動くな」

 

 コントラクターのARデバイスが俺の顔を捉え、生体認証を実施。

 

「お前のことは確認できたが、そっちのガキは?」

 

 コントラクターはサタナエルにそう質問。

 

「こいつは、その──」

 

「はい。ボクはこの方のお嫁さんです」

 

 俺が答える前にサタナエルがそう答える。

 

「……冗談か?」

 

「冗談だ。ただの連れだ。武装はしていない。いいだろう?」

 

「分かった。通っていいぞ」

 

 コントラクターはやや呆れた様子でそう言い、それから俺たちはアレキサンドライトのエントランスを潜り、その中に入った。

 

「佐世保様ですね」

 

 アレキサンドライトに入るとコントラクターとは別の用心棒(バウンサー)が俺たちの前に立った。

 

「皇様がお待ちです。こちらへ」

 

「ありがとう」

 

 用心棒(バウンサー)に案内されて俺たちはVIPルームへ通される。

 

「失礼する」

 

「ああ。来たか、佐世保」

 

 皇はブランデーのグラスを手に、VIPルームの清潔で華やかな個室のソファーに座って俺を出迎えた。

 彼女は俺に席着くようにソファーを叩く。

 

「さて、調査の結果は?」

 

「本当に言いにくいことなんだが……こいつだ」

 

「こいつ?」

 

 俺がサタナエルの方に視線を向けるのに皇が首をひねる。

 

「ああ。こいつが10階層のドラゴンの正体」

 

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