元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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シリアルキラー

……………………

 

 ──シリアルキラー

 

 

 翌朝、特にアルコールによる不快な症状もなく、俺は自室で目覚めた。

 すると俺のARデバイスにメッセージが着信していたのに気づく。

 

「ん……?」

 

 怪訝に思いながらメッセージを開くと、皇からのメッセージだった。

 

『仕事の話がある。可能な限り早く会って話したい』

 

 仕事の内容についての言及が一切ないことが、どうにも妙だった。

 だが、数少ない友人と言える人間からの依頼を断るわけにもいかず、俺は指定されたアレキサンドライトのVIPルームに向かうことに。

 

「サタナエル。仕事が入った。アレキサンドライトに行くぞ」

 

「あら。朝食はどうなさいますか?」

 

 サタナエルはキッチンで朝食を作っているところであった。

 

「食べてからでいいだろう。せっかく作ってくれたんだ」

 

「では、すぐにお出ししますね」

 

 サタナエルはそう言い、すぐに朝食を出してくれた。

 いつものパンを中心した朝食を取りながら、俺はマルキダエルが起きて来ないことに気づく。

 

「マルキダエルを起こしてきてくれないか?」

 

「あの子、昨日飲みすぎたみたいです。起きないかもしれませんよ」

 

「む。それは困ったな……」

 

 マルキダエルを自宅に放置してアレキサンドライトに向かうのは……少しばかり危険を感じる。

 あいつはドラゴンであり、悪魔であり、サタナエルのように大人しくないのだ。

 

「何とかして起こそう。あいつをここに残すのは絶対にリスクだ」

 

 一瞬だけマルキダエルを残して出かけるというのも考えたが、すぐに否定した。

 あいつは残していくにはやはり危険すぎる。

 俺はマルキダエルの部屋に踏み込み、やつを起こすことを決意した。

 

「マルキダエル! 起きろ!」

 

 俺はどんどんと部屋の扉を叩いてから部屋の中に入る。

 

「ふわあ……。うるさいぞ、佐世保……」

 

 マルキダエルは全裸だった。

 全裸でシーツも何もかも滅茶苦茶なベッドに横たわり、眠たそうな半目で鬱陶しげに俺の方を睨む。

 本来ならば俺も男なので全裸の美女に何かしら心を動かされるのだろうが、今は面倒くさいという気持ちしか生じていない。

 

「黙れ。服を着ろ。出かけるぞ」

 

 俺は床に落ちていた下着や服をマルキダエルの方にぶん投げる。

 マルキダエルはそれを拾い上げ、のろのろと欠伸交じりで身に着け始める。

 

「どこに出かけるんだ?」

 

「アレキサンドライト。仕事の話がある」

 

「ふうん……」

 

 マルキダエルは興味さなさそうに欠伸を繰り返し、何とか服を着た。

 

「ふわあ。準備できたぞー」

 

「よし。なら、出発だ」

 

 俺は準備を終えたマルキダエルを連れて、1階にいるサタナエルと合流し、俺たちはアレキサンドライトに向けて出発した。

 

 

 * * * *

 

 

 アレキサンドライトに到着したとき、俺は僅かに違和感を感じた。

 

 やけにアレキサンドライト周りの警備が厳重なのだ。

 いつもより民間軍事会社(PMSC)のコントラクターの数が多く、物々しい歩兵戦闘車(IFV)の類が展開している。

 

「……何かあったのか?」

 

 俺はそう呟きながら、アレキサンドライトの中に入る。

 そして、いつものように用事棒(バウンサー)が俺たちを生体認証し、VIPルームへと案内した。

 

「来てくれたか、佐世保」

 

 皇は今日は酒を手にしておらず、真剣な表情で俺たちを出迎えた。

 

「ああ。何かあったのか?」

 

「まだ事件について聞いてないのか。では、そこから説明すべきだな」

 

 皇はそう言い、俺のARデバイスにあるデータを送信してくる。

 

「ショッキングな映像が入っている。気を付けろ」

 

「ああ」

 

 俺は皇からの警告を受けたのちにデータを開く。

 そこには動画と写真、そしてテキストデータがあった。

 

「これは……」

 

 映像は確かにショッキングだった。

 

 それは路地裏らしき場所で惨殺された人間の映像だった。

 まさに惨殺だ。

 手足はばらばらにされ、内臓は抉り出されている。

 頭部の損壊も酷いもので、人間であると辛うじて判別できるような状態だ。

 そんな死体の写真と動画がずらずらと並び、俺は息を飲む。

 

「……ダンジョンの中の事件か?」

 

「いいや。外だ。やったのはクリーチャーじゃない」

 

 俺が尋ねるのに皇は首を横に振った。

 

「人間がやったのか、これを……」

 

 血も涙もな獣が殺したような惨殺死体だが、やったのは人間。

 信じられないような気になりながらも俺は今回の仕事の内容を察する。

 

「俺にこの話をしたということは、犯人を見つけろって仕事か?」

 

「見つけるだけじゃない。犯人を殺してくれ。こいつはすでに10人殺していて、その中には高度に機械化された手練れのサムライやメガコーポ所属の生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)も含まれている」

 

「ただのいかれた殺人鬼じゃないってわけか……」

 

 サムライや生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)を他の人間と同じように惨殺できる犯人ならば、並大抵の人間では犯人を仕留められない。

 そこで俺に犯人を殺せと言う依頼というわけだ。

 

「分かった。まだ犯人の目星はついていないのか?」

 

 俺はできる限りの情報を得ようと皇に尋ねる。

 

「残念なことに、な。……ただこいつはあたしたちリリスのメンバーも殺害している。まだここに来たばかりの若い探索者の子を……」

 

「そうか」

 

 皇がわざわざこういう依頼をするということは、何かしらの被害がリリスに生じているとは思ったが……。

 

「では、こっちでも犯人を探す。見つけたら俺が殺していいんだが?」

 

「ああ。確実に殺してくれ。できればやったことを後悔させてから」

 

「了解だ。引き受けた」

 

 俺は皇からの依頼を引き受け、アレキサンドライトを出る。

 

「また人間狩りですね、旦那様」

 

「そうだな。今回も良心が痛むような相手じゃないが」

 

 相手は猟奇殺人鬼だ。殺した方が社会のためになる。

 

「ただどうにも引っかかる点もある」

 

「引っかかる点、ですか?」

 

「相手が本当にサムライや生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)を殺したのだとすれば、そいつ自信も高度に機械化されている可能性がある。それも俺のような軍用グレードのそれで、だ。つまり──」

 

 俺はふうと息を吐く。

 

「そいつも俺と同じような戦場帰りかもしれない」

 

 俺が懸念してることはそういうことだった。

 戦場帰りは同じ同胞である人間を殺す技術を豊富に身に着けている。

 そう、俺と同じように。

 

「もしかすると下手なクリーチャーより危険な可能性もある。慎重に対処しなければ俺も惨殺死体の仲間入りだ」

 

「では、どうする、佐世保!」

 

 俺が言うのにマルキダエルがどこかわくわくした様子で尋ねてきた。

 

「まずは情報だ。情報を集めて、犯人の活動範囲を絞り込む。人間狩りはそれからだ。斎藤の場所に向かうぞ」

 

 情報を集めて、犯人の行動範囲を絞り込まなければ。

 迂闊に動き回ってやつの狩場に入り込むのは、不意打ちを受ける恐れもある。

 

 俺は情報を求めて情報屋の斎藤がいる酒場を目指した。

 

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