元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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異常なコレクション

……………………

 

 ──異常なコレクション

 

 

 俺は斎藤のいる半地下の酒場にやってきた。

 店内に入り、やつを探すとすぐに見つかった。

 いつものよれよれの軍用ジャケットとスーツで酒のグラスを遊ばせている。

 

「斎藤」

 

「……よう、切り裂き魔(リッパー)

 

 俺が声をかけるのに、斎藤はどこか警戒した様子でそう返した。

 

「情報が欲しい。殺人鬼の話は聞いてるか?」

 

「ああ。一応確認したんだが……お前の仕業じゃないよな?」

 

「はあ?」

 

 いきなりの斎藤の言葉に俺は首をひねる。

 

「まさか俺が殺人鬼だって疑っているのか?」

 

 それからすぐに俺はそう尋ね返した。

 

「……犯人の手口、知ってるか?」

 

「まだ何も知らん」

 

「こいつを見ろ。例の殺人鬼にやられた人間の検死解剖の報告だ」

 

 そう言って斎藤は俺のARデバイスにデータを送ってくる。

 

「……推定される致命傷となった傷の凶器は超高周波振動ナイフ。またその他の外傷の具合から犯人は高度に人体を機械化している可能性が高い、と」

 

「俺はここら辺で超高周波振動ナイフを好んで使う機械化された人間を僅かにしか知らない。お前を含めてな」

 

 そう言って斎藤はじっと俺の方を見てくる。

 

「俺じゃない。と言っても俺がそう言うだけでは納得できない感じか?」

 

「いいや。ここまで話しても俺を殺しに来ないから納得したよ。まあ、とりあえずお前が犯人ってわけではなさそうだ。疑って悪かったな」

 

 そう言って小さく笑う斎藤。

 

「で、殺人鬼を捕まえる仕事でも引き受けたのか?」

 

「ああ。皇からな」

 

「なるほど。リリスもクランのメンバーを殺されてるからな……」

 

 俺の言葉に斎藤が頷く。

 

「知りたいことは何だ? 俺も今回は提供できる情報はそう多くはないが」

 

「まずやつの行動範囲が知りたい。どの辺りで犯行を繰り返している?」

 

 俺は殺人鬼の狩場についてまずは把握することにした。

 それが分かれば、こちらとしても犯人を狩りやすくなる。

 

「それは難しい質問だな。こいつはまさに神出鬼没って言葉が似合う野郎だ。食堂街の路地で殺したと思えば、ダンジョン周辺のぼったくりクリニックの裏手で殺したり。特定の場所に拘っているようには見えない」

 

「ふむ。厄介だな……」

 

「一応これまでの犯行が行われた場所のデータはあるぞ。どうする?」

 

「買おう」

 

「毎度あり」

 

 俺は金を払って斎藤から殺人鬼の犯行現場のデータを貰う。

 

「確かにこれはばらばらだな……」

 

 熊本ダンジョン周辺のあちこちで犯行は起きていた。

 確認されているだけで14件。特に規則性はなさそうだが……。

 

「他に欲しい情報は?」

 

「本当に犯人の目星は全くついていないのか?」

 

「ああ。全くだ。ただ先週から急に犯行が起きたことから考えると、元々ここにいた人間ではないかもしれない」

 

「そうか」

 

 分かっていることは僅かだ。

 犯人は超高周波振動ナイフを使い、高度に機械化された人間。

 犯行現場に規則性はなく、でたらめに殺しているように見える。

 そして、犯行は先週から起きている。

 

「ああ。忘れていた。犯行にひとつだけ規則性がある。やつは耳を集めているらしい」

 

「耳を?」

 

「そうだ。男でも女でも、殺した人間の右耳を切り取って持っていったらしい。何のためにそんなものを集めているのかは知らんが……」

 

「……ふむ……」

 

 俺にも具体的な理由は謎だった。

 だが、思い当たることが僅かにあった。

 戦場でいかれてしまった戦友がやっていたこと──それを思い出したのだ。

 

「分かった。情報に感謝する。何か新しい情報があったら教えてくれ」

 

「ああ。俺としてもこんな物騒な野郎がうろついているのは不気味でかなわん。さっさと始末してしまってくれ、切り裂き魔(リッパー)

 

 俺は席を立ち、斎藤に別れを告げて酒場を出た。

 

 俺は酒場を出ると考え込みながら歩く。

 下を向き、顎に手を置き、じっと考え込んでいた。

 今回の事件の犯人について。

 

「旦那様?」

 

 サタナエルがそんな俺に声をかけてくる。

 

「……薄々感じていたが今回の犯人は俺と同じ戦場帰りだと思う」

 

 俺はサタナエルにそう告げた。

 

「おや? 犯人に心当たりが?」

 

「いいや。犯人の名前なんかが分かるわけじゃない。ただあの右耳を集めていたって話は、前に戦場で似たような話を聞いたことがあるんだ」

 

「似たような話ですか?」

 

「ああ。戦場に長くいすぎておかしくなった戦友がいた。そいつは殺した敵兵の指を切断して集めていた。戦場のストレスでいかれちまってたんだ」

 

 俺の戦友のひとりは殺した敵兵の薬指を切断して集めていた。

 その理由は今でも俺には分からない。

 ただ分かっているのは、そいつはどうかしちまっていたということだけだ。

 

「斎藤から殺人鬼が右耳を集めているということを聞いて連想したのはそれだった。それにやはりサムライや生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)を殺せる技量を有する人間となると……」

 

 どの情報も俺に犯人は戦場帰りだと告げている。

 高い殺しの技術と崩れたメンタル。それはどうしても戦場帰りを連想させる。

 俺はそこから戦場帰りが嫌われる所以のようなものを感じ、社会から自分たちがいかに孤立しているのかを突き付けられた気分になっていた。

 

「旦那様」

 

 そこでサタナエルが俺の手をそっと握る。

 

「旦那様がこの世界に拒絶されていたとしても、ボクは旦那様を拒絶したりはしませんよ。旦那様とボクはずっと一緒なのですから」

 

「そうかい……」

 

 励ましてるつもりなのか、それとも永遠にストーキングすると宣言しているのか。

 どちらにせよ、俺は孤独ではないようだ。良くも悪くも。

 

「さて、仕事にかかろう。まずは犯行現場を見てみることからだろうな」

 

 俺はそう言って犯行現場に向かう。

 

 最初に死体が発見された犯行現場は風俗街の路地裏で、殺されていたのは娼婦。

 死体はミンチにしたみたいにぐちゃぐちゃで、辛うじて残っていたARデバイスの情報で本人確認が行われたとある。

 

「ここか……」

 

 猥雑なピンクのネオンと看板が並ぶ空間。その裏に入ると死体があった場所に出る。

 一見して特に特徴のない場所であり、よくある薄汚れた路地裏だ。

 風俗店のごみ置き場があり、生ごみの臭いがする。

 

「死体はここにあった」

 

 俺は死体のあった位置に立って周囲を見渡す。

 周辺に監視カメラの類はない。あればとっくに犯人は特定されているから当然か。

 

「佐世保。血の臭いがするぞ」

 

 ここでマルキダエルが不意にそういう。

 

「何?」

 

「臭う。流れたばかりの血の臭いだ。あっちからだ!」

 

 マルキダエルがそう言って指さすのは風俗店の裏口。

 俺は怪訝に思いながらもそちらの方向にゆっくりと近づく。

 鋼鉄製の扉の向こうから臭いが……?

 

 店内から女の甲高い悲鳴が扉越しに響いたのは、その次の瞬間だった。

 

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