元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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網を張る

……………………

 

 ──網を張る

 

 

 皇はすぐに連絡に応じた。

 

『佐世保? 犯人は見つかったのか?』

 

 皇はそう尋ねてくる。

 

「見つけた。だが、まだ始末はできていない。問題がある」

 

『聞こう』

 

「まず殺人鬼の名前は天塩海斗。俺と同じ元情報軍の兵士で戦場帰りだ」

 

『戦場帰りか……厄介だな……』

 

 俺の言葉に皇が低く唸る。

 

「問題はやつの活動範囲が広いこと。そして、大井がちょっかいを出そうとしている気配がある。大井もやつに懸賞金をかけた。ただし、大井の場合は殺害ではなく、生け捕りを指定している」

 

 俺がそう言うと、皇は戸惑ったように暫し沈黙した。

 

『……大井はなぜ生け捕りなんてことを求めている?』

 

「連中の試作インプラントの被験者だから、というのが理由らしい。だが、どうして生け捕りに拘るのかまでは分からん」

 

『クソ。で、お前はどうするつもりだ?』

 

「お前から先に仕事を受けたからそっちを優先すつもりだ。だが、大井が横から殴りかかって来た場合は、仕事は達成できなくなる可能性もある」

 

『あたしは仲間を殺した野郎を許せない。絶対に殺してやりたい』

 

「その気持ちは分かる。だから、手を貸してくれ」

 

 俺は怒りの滲む声でそういう皇にそう持ち掛ける。

 

「やつは地下水路を移動手段にしている。地下水路で待ち伏せれば、やつを捉えることもできるだろう。俺だけでは手が足りない。リリスから人間を出してくれないか?」

 

『……分かった。だが、戦場帰りの生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)の相手ができる人間は、あたしのクランの中でも限られている。そいつらが手を貸してくれるか、まずはそれを確かめておく』

 

「ああ。なるべく早く頼む。やつは正気じゃない。次の犯行まではすぐかもしれない」

 

『了解だ。今日の夕方までには確認して、動員する』

 

「頼むぞ」

 

 俺は皇にそう伝えてから、ふうと息を吐いた。

 

「これで人手は足りるようになるだろう。地下水路で待ち伏せ、やつを発見したら俺が対処する」

 

「リリスの方々に任せるつもりはないのですね」

 

「ああ。あいつは危険だ。優れた人殺しの技術を持っていて、そして正気でない。そのことは分かっているからな」

 

「ふふ。旦那様にとっては相手にとって不足なしという具合ですか?」

 

「さてな。ただ──」

 

 サタナエルが小さく笑うのに俺は言う。

 

「やつを葬るなら俺がやってやりたい。あれはまだ自分が戦場にいると思っているに違いないようだからな……」

 

 あの天塩の言動を見れば、あいつが平和に適合できなかったことは分かる。

 俺も平和に適合し損ねた口として理解できるのだ。

 今も戦争が続いているような気分が。

 

「お優しい旦那様。好きですよ、そういうところ……」

 

 サタナエルはそう言って楽しそうに微笑んでいた。

 

 

 * * * *

 

 

 皇からクランメンバーの動員ができたという知らせを受け取ったのは、その日の夕方だった。

 

『戦場帰りの生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)を相手にできる人間を動員するのには苦労した。だが、10名は集まったぞ』

 

「助かる、皇。索敵さえできれば、始末自体は俺がつける。そっちはやつを見つけることに集中してくれ」

 

『そのつもりだ。今回の敵は下手なエリアボスより危険だからな』

 

 皇も天塩の危険性は理解していた。

 戦場帰りの生体機械化兵(マシナリー・ソルジャー)

 それはダンジョンのクリーチャーより危険なのは間違いない。

 

「では、地下水路を探る連中に俺の連絡先を送っておいてくれ。見つけたら無理に交戦せずに俺に連絡を。そうすればすぐに向かう」

 

『了解した。しかし、足はあるのか?』

 

「それは問題だが……」

 

 俺はバイクや車を持っていない。

 運転できないわけではないが、そういう装備を維持するコストが賄えなかった。

 

『こっちで足は出す。それを使ってくれ。車を待たせている場所の位置情報を送った』

 

「ありがとう、皇」

 

『あたしたちの敵討ちのために働いてくれているんだ。これぐらいはしないとな』

 

 皇が車を出してくれることになり、俺たちはその場所に向かうことに。

 指定された場所は商業地区のそばにある駐車場だ。

 俺たちがそこまで向かうと軍用四輪駆動車が待機していた。

 

「佐世保。来たな。作戦はすでに始まったぞ」

 

「ドライバーはお前か、皇」

 

「ああ。あたしも戦闘に参加するつもりだからな」

 

 車とともに待っていたのは皇だった。

 

「おおっ! これ、格好いいな! 欲しい!」

 

「欲しがるな。俺たちには手の出ないものだ」

 

「ええーっ! 金ならあるだろ!」

 

「ない」

 

 そもそも俺が車を積極的に持たなかった理由と言うにダンジョン周辺の道路環境が劣悪だからという理由もある。

 普通の車では道路が荒れすぎていてまともに走れない。

 メガコーポは自分たちに必要な道路の整備はするが、そういう道路は企業が占有しているので意味がない。

 まともにこのダンジョン周辺の道路を走るならば不整地踏破能力がある軍用車両が必要だ。

 そして、その手の車両を維持する金は……高額だ。

 

「さて、地下水路の捜索は10名を2名組(ツーマン・セル)にして行っている。全員、それなりの技量を持った探索者だ。連絡もできずに殺されることはないだろう」

 

「これ以上誰も殺させるつもりはない」

 

「ああ。あたしもそのつもりだ」

 

 それから俺たちは捜索を行っているリリスのメンバーからの連絡を待った。

 捜索隊の位置情報は皇が把握しており、俺と皇は地下水路をじわじわと捜索していくメンバーからの連絡を待った。

 

「……思うところがあるように見えるぞ、佐世保」

 

 そこで不意に皇が俺にそう言ってくる。

 じっと俺の顔を見て、どこか心配そうにしていた。

 

「思うところか……」

 

「同じ戦場帰りとして同情でもしているのか?」

 

「別にそういうわけじゃない。ただ俺も少し間違っていれば、やつみたいになっていたのではないかと思ってな」

 

「そんなことはないだろう。お前は狂うほど弱くない」

 

「ふん。そうとも言えないさ。俺も戦場から帰ってきて、平和なこの国で挫けそうになったことは何度もある」

 

 皇が言うのに俺は首を横に振った。

 

 アルバイトとしても雇ってもらえず、常に社会から除け者にされて来た時期に、俺ももう自分の人生はお終いだと思った。

 そのときは気が狂いそうだった。

 

 そんなときにダンジョンの財宝の噂を聞き、俺は僅かだが希望が持てたのだ。

 

「旦那様はそれでも乗り切られた。あなたはだから強い人なのです。あの殺人鬼とは違います。そう自分を卑下しないでください。ボクが惚れた人なのですから」

 

「そう言ってくれるのはありがたいが、俺は超人じゃない。人並みに悩みもするさ」

 

「ふふ。そういうときはボクに相談してください。ボクが力になりますよ」

 

「期待していいやら、どうやら」

 

 サタナエルの言葉に俺は肩を竦めてそう返す。

 

「佐世保」

 

 皇がそこで鋭く告げる。

 

「連絡があった。やつの痕跡を見つけたそうだ」

 

 ついに天塩が網にかかった。

 

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