元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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求めてもない出会い

……………………

 

 ──求めてもない出会い

 

 

「……はあ?」

 

 皇は大きく首をひねり、俺の方をぽかんと眺める。

 

「はい。ボクはサタナエル。10階層で暴れていたドラゴンです」

 

「いや。血まみれのワンピースは気味が悪いけど、あんたは人間だろ?」

 

「そう思いますか?」

 

 サタナエルの瞳がすっと爬虫類のそれに変化し、皇がさっと腰の刀に手を伸ばす。

 

「ふふ。そう身構えられなくてもいいですよ。旦那様のご友人を傷つけるつもりはありません。まして、ボクと旦那様を結び付けるきっかけを作ってくださった方ならば、なおさらのことです」

 

「旦那様……?」

 

「はい」

 

 サタナエルはそう言い、俺の方に視線を向けてくる。

 

「佐世保。ちゃんと説明してくれるか?」

 

「分かった」

 

 俺は依頼通り10階層に調査に向かったこと。

 そこでサタナエルと遭遇し、交戦したこと。

 それを何とか撃破したと思ったら、サタナエルは死んでいなかったこと。

 そして、サタナエルは強者を愛すると言い、ストーカーになったこと。

 それらを皇に説明していった。

 

「って、あんたさらっと言ったけどドラゴンをソロで相手にしたのかい?」

 

「ああ。何とかな」

 

「信じられない……」

 

 皇は俺の方を化け物でも見るような目で見た。

 

「そういう目で見るな。俺だって余裕だったわけじゃない。危うく死ぬところだった」

 

「ソロでドラゴンを相手にして五体満足というだけで異常だよ……。前々から思ってたけどあんた本当にどうかしているね……」

 

「どうかしてるってなんだよ」

 

 俺が渋い顔をするのに皇ははあとため息を吐いてそういう。

 

「で、そのドラゴンを倒したら女の子になった、と?」

 

「いや。少女がドラゴンになり、ドラゴンがまた少女になったんだ」

 

「面倒くさいな。女の子とドラゴンのどっちが本性なんだい?」

 

 皇はそう言ってサタナエルの方を見る。

 

「どちらもボクです。ボクは悪魔ですので」

 

「今度は悪魔と来たか」

 

「ええ。地獄からやってきました。出会いを求めて」

 

「それはロマンチックなことで」

 

 皇はもうどうリアクションしていいのか分からないらしく、頷くだけになっていた。

 

「とにかく、報告としてはそういうことになる。ドラゴンはいた。だが、今はこうなっている。10階層はもう通過できるはずだ」

 

「分かった。ありがとう、佐世保。潜っていた仲間を引き上げるよ」

 

「それで相談なんだが……。ぶっちゃけた話、サタナエルについてはどうするべきだと思う?」

 

「あたしに聞かれてもな……」

 

 俺の切り出した話題に皇はしげしげとサタナエルを見る。

 

「一応確認したいが外でドラゴンになったりしないよな? そうなると大騒ぎだぞ」

 

「旦那様のご迷惑になることはしませんよ」

 

「だってさ、旦那様?」

 

 皇はサタナエルの言葉を受けて俺にそうにやにやと笑いかける。

 

「はあ。迷惑になることをやめてくれるのなら、ストーカーもやめてくれないか?」

 

「旦那様を愛することだけはやめられません」

 

 未だ目的は不明だが、こいつが本気を出せば俺を殺すのはたやすいだろう。

 いきなりドラゴンに変化して背後から襲われたら、俺でも簡単に死ぬ。

 そんな恐ろしい存在がこれからさきずっとストーキングしてくるとか……勘弁してくれ……。

 

「あたしから言えるのは、だ」

 

 皇がそこで発言する。

 

「その年齢の子供をここら辺で連れまわしていたら不審者だよ。ちょっかいかけてくる人間だっているだろう。それは理解しておいた方がいい。こいつの場合はちょっかいかけた方も危ないだろう」

 

「ああ。そうだな。うっかり手を出して来たらばくりと食われちまうだろう」

 

 食虫植物のように見た目だけはいいサタナエルだ。

 うっかりとどこかの馬鹿が本性を知らずに手を出してくれば、たちまち焼き殺されるか、食い殺されるだろう。

 

「では、こうするのはどうでしょうか?」

 

 サタナエルはそう言うと白い翼を広げ、その身を包んだ。

 いきなりのことに俺も皇も思わず身を引き、目を丸くした。

 

 それからゆっくりと翼が広げられ──。

 

「いかがです、旦那様?」

 

 現れたのは18歳ほどまで年齢が引きあがったサタナエルであった。

 平坦だった胸には大きな膨らみが生まれ、すらりと伸びた細い手足がワンピースから伸びる。

 顔立ちにまだあどけなさが残るが、立派な大人の女性として通じるだろう。

 ……というか、本性さえ知らなければ本当に凄まじい美人で通じるよな……。

 

「……さっきまではまだ半信半疑だったけど、これで信じれるようになったよ。こいつは間違いなく人間じゃないね……」

 

「やっと信じてくれたか」

 

 これまでは信じていなかったのかと俺は内心で突っ込む。

 

「これなら言えるね。嫁さんができてよかったな、佐世保」

 

「勘弁してくれ。こいつの正体はドラゴンだぞ?」

 

 けらけらと笑う皇に俺は思いっきり渋い顔をした

 

「旦那様。ボクは気にしませんよ」

 

「俺が気にするんだ」

 

 サタナエルはそう言い、俺はそう返す。

 

「諦めなよ。そいつ、殺しても死ななかったんだろう? なら、追い払うのは無理だ。受け入れた方がいい。そこで早速なんだけど」

 

 そう言って皇が立ち上がる。

 

「服を買いに行こう」

 

「服? 誰の?」

 

「そいつのだよ。そんなホラー映画に出てきそうな白いワンピースでここらをぶらぶらしている人間なんて、あんた見たことあるかい?」

 

「それはないが……」

 

「なら分かるだろ。怪しまれないことが今は必要だ。そのための努力をしな」

 

 そう言って俺にも席を立つように促す皇。

 

「待て。この流れだともしかして俺がこいつの衣食住を満たす感じか……?」

 

「他に誰が面倒見るんだい。あんたの嫁だろ」

 

「畜生。マジかよ……」

 

 俺は恨めしげにサタナエルの方を見る。

 

「分かった。腹をくくろう。下手にこいつの機嫌を損ねて暴れられたくはない」

 

「素敵です、旦那様。ボクは一生あなたについていきますよ」

 

「俺のことを本当に思ってるならダンジョンに帰ってくれ」

 

 求めてもいなかった出会いのせいで、俺はサタナエルという負債を抱えることになってしまった。

 

「それじゃあ、服屋に行こうか。ブランドものとはいかなくても恥ずかしくないものを着せておやりよ。あんたの隣にずっと居座るみたいだし」

 

「はあ。俺は女物の服には詳しくない。皇、頼っていいか?」

 

「任せときな」

 

 俺たちはそういうことでアレキサンドライトを出ると高級商業地区を出て、探索者などの装備を売っている商店街に入った。

 

「旦那様」

 

 すると、ぴたりとサタナエルがそばに寄ってくる。

 僅かに残る血の臭いに混じって果実のような甘い匂いがした。

 それから確かなサタナエルの体温も感じ取れた。

 

「おい。あまり引っ付くな。勘違いされるぞ」

 

「ふふ。気にする必要はありません。ボクと旦那様の間にあるものを理解できる人間など存在しないのですから」

 

「単なるストーカーとその被害者って関係だろう」

 

「いいえ、いいえ。ボクと旦那様の間にある関係は──」

 

 くすくすとサタナエルは笑う。

 

「──血より濃いものですよ」

 

「ふん」

 

 意味不明なサタナエルの言葉を俺は鼻を鳴らして聞き流した。

 

……………………

 

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