元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──迷宮寺院
ジョン・ドウからの新しい依頼。
それは宗教団体の調査依頼だった。
「迷宮寺院……?」
聞きなれない単語がまず目に入るのに俺は首をひねる。
『この街を根城にするカルト団体だ。狂った終末論者どもだよ』
「そいつらを壊滅させたいのか?」
カルトとメガコーポの相性がいいとは思えない。
俺にわざわざカルトについて調査しろというのは、結局はカルトを壊滅させろということではないのだろうかと思ってそう尋ねる。
『現段階では我々は迷宮寺院と敵対するつもりはない。だが、調査結果によっては我々は迷宮寺院を攻撃しなければならなくなる。そのときはそのときだ。別の仕事として君に依頼するとしよう』
「分かった。具体的には何ついて調べるんだ?」
『連中は最近60階層から特別なクリーチャーを持ち帰ったらしい。それについて調べてほしい。それが事実なのかどうか。そして、そのクリーチャーを持ち帰った目的は何か。大井はこれがテロ目的の犯行ではないかと思っているようだ』
「テロ、か。クリーチャーを使った?」
『その通り。最近、ダンジョンに出没するようになった変異種については君も聞いているだろう。あれが地上に持ち込まれたら困るのは大井だけではない』
「だろうな」
変異種の脅威は俺も知っている。
ミノタウロス変異種、人狼変異種、キメラ変異種。
どれも危険な化け物だ。それが地上に現れたら……地獄だろう。
しかし、同時に疑問も生じる。
それだけ危険な変異種をどうやってダンジョンから持ち出したのか?
「まずは調査だな。この時点では迷宮寺院との交戦も、持ち出されたクリーチャーの排除も必要ない。そうだな?」
『その認識で間違いない。君が今度はちゃんと仕事を果たしてくれることを祈るよ』
ジョン・ドウは相変わらず偉そうにそう言い、通話を切った。
「さて……次の仕事か」
まずは情報が必要だ。
俺は迷宮寺院なるカルトについて何も知らない。
ジョン・ドウも情報を大して寄越していない。
なので、俺はまず情報収集から始めることにした。
「サタナエル、マルキダエル。斎藤のところに向かう」
「はい、旦那様」
俺はサタナエルたちを連れて、斎藤のいる半地下の酒場を目指す。
相変わらず治安の悪い飲み屋街を進むが、ちょっかいを出し来る人間はいない。
それは俺の悪名が知れ渡ったせいか、あるいはサタナエルの悪名か。
「斎藤」
「よう、
「ああ。何とかな」
「大したもんだな……。流石は戦場帰り」
斎藤は薄ら笑いを浮かべて俺に向けてそう言う。
「それより情報がほしい。新しい仕事を引き受けた」
「次は何だい?」
「迷宮寺院。聞いたことは?」
「ああ。あの狂ったカルトか。関わり合いたくない連中だな」
俺の言葉に斎藤は明白に嫌悪の感情を示した。
まるで見るもおぞましい汚物についてでも語られたかのような、そんな反応だ。
「迷宮寺院について調べるように仕事を受けた。何でもやつらは60階層から何かクリーチャーを持ち帰ったらしい。俺に仕事を依頼した人間はそれがテロに使われる可能性を恐れているとさ」
「へえ。そいつは初耳だな。60階層のクリーチャーと言えば、そう、グリフォンだろう? あれを捕まえて連れて帰って来たってのか?」
60階層のエリアボスはグリフォン。
ワシとライオンの組み合わさった化け物で、翼を有して飛び回るため戦うのには苦労する相手だと記憶している。
それを倒すだけではなく、捕まえたとなると大したものだ。
「グリフォンの件が本当かどうかは分からないが、とりあえず迷宮寺院について調査するつもりだ。やつらの情報をあるだけ頼む」
「了解だ。迷宮寺院ってのはそこまで歴史が深い団体じゃない。熊本にダンジョンが生まれてから次の年にできたって程度で、まさに新興宗教だ。ただ、母体となったカルト団体があってな。そっちの方は割と長い歴史がある」
「歴史や成り立ちはどうでもいい。知りたいのはやつらの居場所、装備、テロの計画、そして兵士として練度。俺の依頼主も興味を持っているのはそこだろうからな」
迷宮寺院の歴史や戒律になんて興味はない。
カルトが何を信じていようと別に俺は気にしない。
ただ、やつらがその教えとやらで他者を攻撃する可能性を調査するのが仕事だ。
「オーケー、オーケー。迷宮寺院はかつて高校だった場所に教会を作っている。そこが拠点で間違いないだろう。比較的大きな拠点だぞ」
そう言って斎藤は俺に迷宮寺院の位置情報を送ってくる。
確かにこの位置には何か妙な施設が作られていたな……。
「装備についてはロシア製の装備で武装している。どうも統一ロシア政府と繋がりがあるらしい。カラシニコフをたんまり持っているって話だな」
「ふむ。練度は?」
「迷宮寺院にも戦場帰りが少しばかり加わったって話を聞いている。そいつらが軍事教練を教会メンバーに施しているとも。戦場帰りに教会の教えが響いたのかもな」
「そうか……」
何にも希望が見い出せずに死に場を求めた天塩を見たあとでは、カルトとはいえ少しでも希望を見い出せたその教会の戦場帰りに俺は少しばかり同情に似た感触を覚えた。
社会に拒絶された中で、受け入れてくれたのがカルトだけだったのかもしれない。
「テロの計画については俺も分からん。あんたが無事に調べて、もしそれが存在すれば阻止してくれることを祈るよ。以前の殺人鬼騒ぎでこの街は大変だったからな。もうあの手の騒ぎはごめんだぜ」
「ああ。そのつもりだ」
俺は斎藤の現金で情報代を払い、半地下の酒場を出る。
「迷宮寺院というのはダンジョンを崇めているのでしょうか?」
「さてな。そこには興味はない。やつらがピンクのユニコーンを崇めていようと俺は気にしない。だが、やつらが他者を害するつもりならば、それは阻止させてもらう。それが今回の仕事だしな」
「ですが、ボクはちょっと興味があります。これまで人間たちはダンジョンに富や名声を求めても、信仰は求めていなかったと記憶していますから」
「確かにな。ダンジョンに信仰を求める、か。どうしてだろうな」
「人間は様々なものに信仰を求めるように思えます。それが神秘的で理解できなければ、それに信仰を見出している」
「理解できないものは神様のそれってのは確かにあるな。死後の世界ってのはいい例だ。俺たちは死んだ後に自分たちがどうなるかを理解できない。だから、死後の世界はずっと宗教の管轄だった」
今の科学では理解できないものには宗教が付け入る隙がある。
逆に言えば科学で解明できてしまえば、そこから神秘は消え、信仰も消える。
だが、人間が自分が死んだあとにどう感じるのかを理解できる日は近い間には来ないだろうから、もう暫くは宗教には存続できる余地はあった。
「では、俺も神だな! 人間には理解できまい!」
「はいはい」
マルキダエルは話を理解できているのか、いないのかそういう。
「ふふ。ボクたちも人間には理解できないと言う点では信仰に値しますね。けど、ボクが信仰するのは愛すべき旦那様だけですよ。旦那様はボクの神様です」
「……はいはい」
サタナエルがぴとっと俺の腕を抱いてそういうのに、俺はそう返したのみ。
「では、教会の施設に行ってみよう。まずは偵察だ」
俺はそう言い、迷宮寺院の施設がある場所へと向かった。
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