元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──侵入計画
迷宮寺院の教会は確かにかつて高校があった場所に存在した。
「あれか……妙な感じだ……」
高校だったはずの建物は様変わりしていた。
ジグザグの線で構築された十字架が正門に掲げられ、その門にはカラシニコフで武装した人間が4名立っている。
その人間たちは装備こそ迷彩服だが兵士にしては隙が多く、かといって民間人にしては妙な凄みがある。
ある種の犯罪者に似た空気だが、それより信仰めいたものがあった。
「中に入るのは無理だろうな」
全くの部外者である俺たちが正面から中に入るのは至難を越えて不可能だろう。
そして、ここは元高校という施設の都合上、塀に囲われている。
その塀にも有刺鉄線が張られており、侵入はなかなかに困難だ。
「正面の連中、弱っちそうだから蹴散らしていけばよくないか!」
「ダメだ。現段階で迷宮寺院と交戦する許可はない」
「ぶーっ!」
マルキダエルは不満そうだったが、本当にテロを計画しているのか分からないのに勝手に連中を殺しまわったら俺も天塩と同じ扱いを受ける。
「夜間にまた来てみよう。夜の警備には隙があるかもしれない」
俺がそう言って立ち去ろうとしたときだ。
「……佐世保さん?」
「九条?」
ばったりと会ったのは九条だった。
九条はいつものような陽気さはなく、どちらかと言えば憂鬱そうであった。
「まさか佐世保さんも迷宮寺院に……?」
「少し用事があるんだが、入れてくれそうにないから帰るところだ」
「入信、とかじゃないですよね……?」
九条はとても心配した様子で俺にそう尋ねてくる。
「いいや。俺は宗教には用事はない。ただ仕事でな」
「そうですか。よかった……」
「よかった?」
九条の言葉に俺は首をひねった。
「あ。いや、迷宮寺院っていい噂を聞かないですから、それで……」
「連中について知っているのか?」
「……少しだけ」
九条はどこか言い難そうにしていた。理由があるのだろう。
だが、情報はあるだけ欲しいのも事実。
俺は彼女により深く尋ねるべきか迷った。
「少しでいいから知っていることを教えてくれないか?」
俺は最終的に九条の協力が得られる限りの情報を手に入れようと決意した。
俺の問いにやはり九条は困った表情を浮かべるが、やがて口を開いた。
「……ダンジョンは神様が人類に与えてくださった恩恵だって言っていて、ダンジョンの奥底にあるものを手にすれば世界は救われる。そう信じている頭のおかしい人たちです。ダンジョン深くに潜るために、信者から金銭を巻き上げ、金がなければ肉盾としてダンジョン捜索に……」
「それはまた……外道だな」
「ええ。外道ですよ。とんでもないクソ野郎どもです」
嫌悪をむき出しに九条はそう言った。
「しかし、どうしてそれをお前は知っている?」
「……それは言いたくないです」
九条は俺の問いを拒んだ。
「分かった。無理には聞かない。だが、俺は迷宮寺院について調べる必要があるんだ。やつらの教会の警備の穴なんかまでは知らないか?」
「……彼らを壊滅させてくれたりしますか?」
「それは分からない。仕事の方向によっては可能性としてはありえるかもしれないが……それを望んでいるのか?」
「そうなのかもしれません。自分でも分からないんですが……」
九条は迷宮寺院とどのような関係があるのだろうか?
好意的ではないというどころか、恨みすら感じられる。
「残念だが、今は迷宮寺院を攻撃する予定はない。すまんな」
「いえ。自分の我がままみたいなものですから」
九条はそう言って力なく笑うと少しばかり教会の施設の方を眺めた。
「こっそり出入りできる場所を知っています。案内しますよ」
「助かる」
俺は九条に案内してもらい、教会施設の抜け道と言う場所に向かう。
正門からぐるりと正反対の方向に向かうと、壊れた車両が止めてある場所に到着。
九条はその車両の扉を開けると、塀の向こうに繋がってることを示した。
「ほう。これは連中も知らないのか?」
「ええ。多分、まだ知らないんじゃないでしょうか。用心はしてください」
「ああ。ありがとう、九条」
「いいえ。佐世保さんには助けていただきましたから」
九条はそう言って俺に向けて微笑むと、周囲を見渡した。
何かに警戒している様子だ。恐怖の色が僅かに見える。
「九条?」
「な、何でもないです。そ、それじゃあ、また!」
九条はそう言って逃げるように走り去っていった。
「さて、侵入は夜だ。クリーチャーの有無を確認し、そしてテロ計画について調べる」
「おー」
俺が指示するのにサタナエルが小さく掛け声を上げたのだった。
それから俺たちは教会施設内に侵入するための準備に入った。
まずは装備を整える。
現段階で交戦の許可がないとはいえ不意の交戦に備えなければならない。
相手が殺しに来るのに反撃しないわけにはいかないのだ。
「今回はこれで行くか」
自宅の地下に移した武器庫で俺はアメリカ海兵隊の採用していたアサルトライフルを手に取る。
それにサプレッサーを装着し、隠密行動可能なようにする。
それから4眼の
ダンジョンは薄暗いとはいえ、真っ暗ではないので
それからスタングレネードなどの弾薬、医薬品と言った装備を準備し、チェストリグのポーチに詰め込んでおく。
「旦那様。お夕食は食べてから向かわれますか?」
「そうだな。食べてからにしよう。長期戦は想定していないが、万が一がある」
「分かりました。準備しますね」
サタナエルはそう言って夕食の準備を始めた。
俺が装備の点検をする中で、キッチンから香ばしい香りが漂ってくる。
今日の夕食は何だろうか? そう楽しめるのが最近の小さな喜びだ。
サタナエルという厄介な同居人にも俺も慣れてきたようである。
「サタナエルー! 今日は何だ?」
「今日はオムライスですよ」
マルキダエルが退屈そうにサタナエルに絡んでいるのに、サタナエルはにこにこと笑ってそう答えていた。
俺も準備を終えて食卓に向かうと、食欲をそそる黄色の卵に包まれたオムライスがテーブルに並べられていた。
その卵にはケチャップで『LOVE』と書かれている。……はあ……。
「では、いただきましょう」
サタナエルはそう言って俺に食事を促す。
「作戦開始は
俺は食事をしながらサタナエルとマルキダエルにそう説明。
「問題が生じた場合は延期だ。隙が生じるまで監視体制に入る。その場合は長期戦を覚悟しなければならないな」
「ええー。蹴散らしていけばいいじゃないか!」
「積極的に交戦はしない。自衛戦闘のみを許可。マルキダエル、いらんことするなよ? もし、お前が暴れたら家から叩きだすからな」
「ん!」
マルキダエルは不満そうならが一応頷いた。
「では、作戦開始まで待機しよう」
俺たちは熊本ダンジョンのある街が暗闇に沈むのを待つ。
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