元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──侵入
俺たちは動き出した。
まずは迷宮寺院施設内に繋がる抜け道の警備が強化されていないかの観察だ。
「これと言った警備はいないな」
「どうする、佐世保?」
「よし。決行だ」
マルキダエルがわくわくした様子で尋ねてくるのに俺は頷いた。
警備が強化されていないならば、踏み込むと決意していた。
俺はアサルトライフルを握り、音を立てずに廃車の扉を開き、その中を潜って教会施設内へと侵入。
「静かだ……」
迷宮寺院の信者たちは夜には教会に集まることはないのだろうか?
教会の中はとても静かだった。
「慎重に進むぞ。今の段階では交戦は避ける。マルキダエル、分かっているな?」
「ん!」
マルキダエルは小さく頷いた。
それから俺たちは教会の中を進む。
事前に見取り図などは手に入らなかったので、ここからは未知の領域だ。
俺たちは夜が明けるまでに可能な限り教会内を探ることにした。
まずはかつて高校の校舎だった場所を探っていく。
校舎内にも人気は少ない。無人なのではないかと思うほどに静かだ。
だが、微かに人の立てる音がするのに耳を澄ませた。
人の声はしないが呼吸や足音が聞こえる。
機械化されていない普通の人間の足音だ。
俺はその足音の主と不意に遭遇しないように慎重に音を聞き分けながら進んでいく。
暫く進むと、そこで明かりが漏れている部屋を見つけた。
教室のひとつであり、明かりがついている。
「あそこに何かありそうだな。だが、まずは明かりをどうにかしなければ」
俺はまずは明かりを消すために配電盤を探すことにした。
校舎を抜けて、配電盤を探すと今も生きている電力源を見つけた。
俺はその配電盤を弄って全ての電源を落とす。
校舎から明かりが消え、真っ暗になった。
「オーケー。これで
俺は再び校舎に戻り、明かりの消えた部屋に忍び込むことを試みた。
「どうなっている? 停電か?」
「分からない。だが、この街で停電なんてよくあることだろう」
「誰か確かめてきてくれ」
明かりの消えた部屋ではこれまでの静けさが消え、人の声がざわざわと響いていた。
それから人が出ていき、俺はそれと入れ替わるように中に入った。
「タブレット端末か。いただいていこう」
今回の仕事は
俺は部屋に置いてあったタブレット端末を盗むとそれを抱えて部屋から脱出。
「次は体育館だ」
俺たちは次に教会風の建物に改装されている体育館を目指す。
しかし、体育館周辺はやけに警備が厳重だ。
カラシニコフで武装した人間があちこちを見張っているし、連中は暗闇の中でもタクティカルライトで辺りを照らして監視している。
「これは何かありそうだな……」
近づけないことが、重要なものの存在を推測させた。
「旦那様。お手伝いしましょうか?」
「相手が分からないとはいえ、焼き殺すのはなしだぞ」
「別の方法がありますよ」
そう言ってにこりと笑うサタナエル。
「一応聞くがどんな方法だ?」
「こんな方法です」
次の瞬間、サタナエルの白い翼が広がり、彼女は俺を掴むとそのまま上空に飛び上がった。
そのときにはぎょっとしたが、これは確かにいい方法だと納得する。
体育館の屋上には流石に見張りもおらず、狙撃手の類もいない。
ここからならば侵入できそうだ。
「助かった、サタナエル」
「いえいえ。ボクは旦那様のお役に立てるのが何よりの幸せですから」
俺が言うのにサタナエルは満面の笑み。
「おいていくなよ、佐世保!」
遅れてマルキダエルも自分の翼で飛び上がってきた。
不満げな様子で今にも暴れ出しそうだ。困ったやつ。
「さて……警戒は継続だ。斎藤の言うように戦場帰りが軍事顧問をやっているならば、ある程度の侵入ルートの想定はしているはず。屋上に航空機も使わず現れるとは思っていないだろうが、そこから先は連中の想定するルートになるかもしれない」
屋上から体育館内に侵入するのに、爆発物を使って道を作るわけにはいかない。
そうなる以上、敵の想定するルートを通過することになるだろうし、そうなれば敵の警備と出くわす可能性も高くなる。
「静かにやるぞ。さあ、スタートだ」
俺たちは静かに、静かに体育館の屋上から侵入できる場所を探す。
ブービートラップや警備に警戒しながら、俺たちは屋上から降りて体育館の2階に繋がる階段にそっと降りた。
その2階から体育館内への侵入を試みる。
扉は施錠されており、俺はピッキングでそれを開錠すると静かに扉を開いた。
この体育館の2階からの侵入に教会のメンバーたちは気づいていないようだ。
警報が鳴る様子も、警備が近づいてくる気配もない。
しかし、体育館に侵入した俺たちは信じられないものを目にすることになった。
「あれは……!」
それは檻に入れられたグリフォンだった。
檻の周りには教会の人間がおり、スタンガンを手にしている。
グリフォンはそんな教会の人間に囲まれた檻の中で低く唸り、周囲に強烈な敵意と殺意を放っていた。
「本当にグリフォンを捕獲していたとはな……」
信じられないが、目の前にあるのが現実だ。
グリフォンは捕獲され、こうしてダンジョンの外に持ち出されている。
しかし、その目的は何だ?
「あれが地上に解き放たれたら、大変なことになりますね」
「そうだな。テロを目的としてるか否かに関わらず、厄介な問題だ」
やつらがテロを起こす気がなくとも、グリフォンが脱走すれば騒ぎになる。
何せグリフォンは飛行できるのだ。この街全体、下手をすると九州全土がパニックになるだろう。
そこで檻が大きく揺れる音がし、周囲でスタンガンを持っていた男の手がグリフォンに食われた。
男の手は手首から先がなくなり、そいつが凄まじい悲鳴を上げる。
すぐに他のメンバーがスタンガンでグリフォンを攻撃し、グリフォンはさらに暴れまわったが、やがて静かになった。
「どうやら可愛いペットってわけでもなさそうだな。いよいよ不味いぞ」
グリフォンは飼いならされてるわけでもなく、危険なままだ。
「なら、ここでぶち殺そうぜ!」
「ダメだ。まずはジョン・ドウに報告する。それからやつの指示で動く」
「ぶーっ!」
マルキダエルが血気盛んに言うのに俺は首を横に振った。
今はまだ交戦の許可はない。
俺たちがここで暴れてグリフォンが何の対策もなしに放たれる方が問題だ。
「しかし……」
俺はこの体育館内でグリフォン以外にも不気味なものを目にしていた。
それは信徒たちである。
50名から60名程度の信者たちは、グリフォンを崇めるかのように膝を付いていた。
中には老人もいるし、子供もいるが、皆一様にグリフォンを見つめている。
その様子には狂信のそれを感じざるを得なかった。
「……信仰の自由とは言ったものだが……」
俺はなぜ彼らがグリフォンなどというダンジョンのクリーチャーにして人食いの化け物を崇めるのか理解できなかった。
それはサタナエルが言ったように未知のものに神秘を見出してるのか……。
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