元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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親の犠牲

……………………

 

 ──親の犠牲

 

 

 俺たちは九条との待ち合わせ場所である喫茶店を訪れた。

 

「佐世保さん」

 

 九条は先に到着しており、俺たちをテーブルで出迎えた。

 

「すまないな。無理を言って」

 

「いいえ。佐世保さんにはお世話になりましたし、これぐらいは」

 

 俺がまず謝罪するのに九条はぶんぶんと首を横に振った。

 

「確認してほしいのは、この男が迷宮寺院の教祖なのかどうかだ」

 

 俺は動画の一部を切り取って九条のARデバイスに送信。

 映像を見た九条の表情が嫌悪をのそれに歪む。

 

「……間違いありません。こいつが教祖の浅野・I・ジョセフです」

 

 絞り出したような声でそういう九条。

 

「助かった。これが確認したかったんだ」

 

「佐世保さん。この男は何をしようとしているのですか? 佐世保さんが調べているということは、何か犯罪を起こそうとしているのでしょう?」

 

 九条は俺が礼を述べるのにそう問いかけてきた。

 

「今は確かなことは言えないが、テロの準備をしているように俺には思える」

 

「テロですか……。あいつらならやりかねませんね……」

 

「……迷宮寺院と何があった?」

 

 俺はあまりにも九条が迷宮寺院に対して敵意を示すのに思わずそう尋ねてしまった。

 

「……母が迷宮寺院にのめり込んでいたんです」

 

 そこで九条はぽつりぽつりと語りだす。

 

「お金を教会に貢ぎ続けて、家はいつも貧乏。何かあれば『神様が助けてくれるから必要なの』って言って……」

 

「父親は?」

 

「父は私が幼いころに亡くなっています。ダンジョンができたころで、だから母も迷宮寺院にのめり込んだんだと思います。やつらは母が弱っているところに付け入って、いいように利用したんです」

 

 怒りを込めて九条はそう語る。

 

「母は結局、教会にお金をつぎ込み続け、それができなくなると無理をしてダンジョンに潜り、そのまま……」

 

「そうか。すまない。嫌なことを聞いたな」

 

「いえ。いずれは話さなければいけないことでしたから……」

 

 俺が改めて謝罪するのに九条はそう力なく笑う。

 

「もし、連中がまた他人を害そうとしてなら止めてください。あいつらが壊滅してしまうぐらいにやっつけやってください。お願いします、佐世保さん」

 

「ああ。今はまだ約束できないが、俺個人としても思うところはある」

 

 九条の話を聞く限り、迷宮寺院は碌な連中じゃない。

 少なくとも迷宮寺院の指導者たちはろくでなしだ。

 人間から金を搾り取って、金がなくなればダンジョンに放り込む。

 そんなのが信仰の在り方であっていいはずがない。

 

「では、何かあればお前にも知らせる。今日はこれで」

 

「はい」

 

 俺は九条に別れを告げて、喫茶店を出ると次はジョン・ドウに連絡を取る。

 

『仕事の進捗はどうかね、佐世保君?』

 

「ああ。情報が手に入った。テロの計画を窺わせる情報だ」

 

『ふむ』

 

 俺はジョン・ドウに潜入で得た情報を送信。

 

『なるほど、なるほど。これは確かに不穏な情報だな。大井が攻撃を受ける可能性があると断定するに十分だ。我々が対処すべきことだろう』

 

「我々が、ね。俺はお前の仲間になったつもりはないぞ」

 

『だが、金は欲しいのだろう、探索者? まずは情報料として500万払おう。それからこちらの上役が決断すれば、恐らく迷宮寺院の解体を目的とした攻撃の仕事を回す。待っていることだ』

 

「はいはい」

 

 ジョン・ドウがいちいち偉そうにいうのに俺はうんざりして通信を切った。

 

「さて……次の仕事は迷宮寺院への攻撃か。流石に俺だけにその仕事を回すとは思えないが、はてさて……」

 

 恐らく複数の探索者を雇うか民間軍事会社(PMSC)を動員することになるだろう。

 そして、報酬は山分け。そこまで稼げる仕事にはならないかもしれない。

 

「だが、今は金が欲しいのも確かだな……。偵察用の無人地上車両(UGV)なんかも手に入ればダンジョン探索はやりやすくなる」

 

「そうですね。お金はいくらあっても困りませんから」

 

 全くもって真理である。金はいくらあっても困らない。

 

「では、戦いに備えるとしよう。まずは弾薬だ」

 

 俺はいつものように一色銃火器に向かった。

 

 商業地区の一角にあるいつもの場所。

 今日も一色銃火器は営業していた。

 

「……いらっしゃい」

 

 今日も店主は俺たちの方には視線を向けず、手元の銃をメンテしている。

 今日弄っているのは……ルガーP08拳銃? 骨董品を越えて歴史的遺産だ。

 

「5.56ミリNATO弾を頼む」

 

「……分かった」

 

 今回は対人戦だ。

 無駄に大きな口径の銃は必要ない。

 ましてアフガニスタンの山岳地帯のような長距離での撃ち合いは想定していない。

 そして5.56ミリ弾でも当たれば敵は死ぬ。当てることが必要だ。

 

「……あなた、有名になってきてるね」

 

 弾薬を準備しながら店主がそう言う。

 

「そうらしいな」

 

「……地下街メイロとコラボした動画、私もちゃんと見たよ。キメラとの戦い、とても凄かったね……」

 

「あれは別に自分の技量を披露したかったわけじゃない。金のためだったんだ」

 

「……それでもあなたは凄い。ダンジョンの最深部、目指しているの?」

 

「ああ。そのつもりだ」

 

「……あなたならきっとやれるね」

 

 店主はそう言い僅かに微笑んで見せた。

 

「だといいんだが……」

 

 俺はまだ最深部にタ到達できる自信はなかった。

 目指してはいるが、メガコーポも同時に最深部を目指し、そして俺たちよりずっと先を行っている。

 メガコーポが先に最深部に到達すれば、俺たちが目指す意味は消えるのだ。

 

「……応援してるから、頑張って」

 

「ありがとう」

 

「……でも、今回は人狩り?」

 

 そこで店主はぼそぼそとした喋りながら的確に俺の狙いを言い当てる。

 

「ああ。ちょっとした対テロ作戦を予定している」

 

「……そう……死なないでね」

 

「そうするつもりだ」

 

 店主からそう静かな声援を送られ、俺は笑みを浮かべてサムズアップすると購入した弾薬を抱えて店を出る。

 

「あの方は旦那様に好意を寄せているように見えますね」

 

 サタナエルがそう言いながら俺の腕に抱き着く。

 

「まさか。ただの顧客へのサービスだろう」

 

「鈍いですね、旦那様。ボクはちゃんとあの方の目からは旦那様への羨望と愛情を感じましたよ」

 

「おいおい。勘弁してくれ。これまで何度もあの店を利用しているが、これまではそんなことは一度もなかったぞ」

 

 俺はダンジョンに来てあの店を紹介されてから、ずっとあの店を利用しているが、これまでずっと店主は不愛想だった。

 そこに愛情など感じようもなかったのだが……。

 

「ふふ。でも、旦那様はボクのものです。あの方には渡しませんよ」

 

「そうかい」

 

 俺はサタナエルがにこにこしながら言うのを適当に流し、それから俺たちは自宅へと戻っていった。

 

 ジョン・ドウから迷宮寺院への攻撃の仕事が回ってくるのがいつかは分からないが、今は待機しておくしかない。

 

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