元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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陽動

……………………

 

 ──陽動

 

 

「へえ! じゃあ、あんた事実上ナイフ一本でドラゴンを殺ったてのか!?」

 

 道中の車内で俺の話を聞いた四月一日が大げさに驚く。

 

「お前だってサムライだろう。刀一本でドラゴンを殺すんじゃないのか?」

 

「冗談言うなよ。サムライは他の連中とつるむのが前提だ。知ってるだろ?」

 

「まあ、一応は」

 

 サムライだけのパーティは存在しないと言っていい。

 サムライは不意な遭遇戦に備えるための人間で、普段は銃を持った他の仲間がカバーするのが鉄則だ。

 

「だからさ。マジであんたはすげえんだよ。サムライだって刀一本でドラゴンは殺せない。焼き殺されるか、食い殺されるか、あるいは踏み殺されるかだ。あんたはいずれでもなく生還したばかりか、ドラゴンを殺したときた」

 

 現代のジークフリートだぜと四月一日。

 

「本当に尊敬する。マジでな。あんたとこうして一緒に仕事ができるのは光栄だ、切り裂き魔(リッパー)

 

「そうかい。お前もそれなりにできるように見えるが?」

 

 こいつは一目見てサタナエルとマルキダエルのことを見抜いた。

 そして、見る限りこいつもかなりの割合を機械化している。

 80%以上とはいかないだろうが、80%以上はいかれた数値だからな。

 

「大井に腕は買ってもらっているが、最近じゃ要人(VIP)──司馬さんの警備(エスコート)ばかりでな。正直、腕が鈍っているんじゃないかって心配している」

 

「今回はその司馬は?」

 

「東京の本社にいる。あの人は外にも内にも敵ばかりだが、本社で襲われることはないって思ったんだろうさ」

 

「ふうん。お前も東京についていく気はなかったのか?」

 

「言っただろう。腕が鈍っていないか心配だった、と。だから、ちいと頼み込んで今回の仕事に混ぜてもらったわけだよ。何人か斬り殺せばはっきりする」

 

 そう言って愉快そうに笑う四月一日。

 

「なら、ジョン・ドウとは知り合いか?」

 

「おいおい。ジョン・ドウの上役が誰か分かってないのか? 司馬さんだぞ?」

 

「……それは知らなかったな」

 

 ジョン・ドウは大井の中でもそれなりの人間だと思っていたが、やつはただの使い走りらしい。

 いや、司馬の地位が高いならば異なるかもしれないが。

 

「ま、そういうことで今回の仕事は俺の慣らし運転だとも思ってくれ」

 

「はあ」

 

 こいつは真面目に仕事をやる気はないのだ。

 ただ殺したいだけだ。

 人殺しで金を貰っているのは俺も同じだが、こいつは軽すぎる。

 

「……確認したいが本当に皆殺しにするつもりか?」

 

 俺は低く警戒する声で四月一日たちにそう尋ねる。

 

「あんたは嫌そうだな?」

 

 俺のそんな態度から流石に四月一日も察したのか、にやりと意地悪く笑ってそう尋ね返してきた。

 

「ああ。偵察してきたが、中には民間人もいる。非武装の女子供だ」

 

「だが、教団のメンバーではあるんだろう?」

 

「それはそうだが、本当に皆殺しにしろと言われているのか?」

 

 俺は疑問を呈する。

 本当に命令は発されたのか。発されたとすれば誰からか。そしてその理由は何か。

 それに納得できなければ俺は従えない。

 

「メガコーポの連中はお上品な言い方をするんだよ。直接、皆殺しにして来いなんて言わない。『我々の脅威になっている団体について最終的解決をしたい』って風にな」

 

「最終的解決、か」

 

 それはユダヤ人を絶滅させることを決意したナチ・ドイツの決めた政策の名前だ。

 それならば確かに皆殺しをオーダーする意味と受け取るだろう。

 

「なら、直接は皆殺しを指示されていない、と。なら、俺が皆殺しにしなくても報酬は出ると言うわけだな?」

 

「だろうな。だが、本当にいかれたカルトの連中に慈悲なんてかけるのか?」

 

「いかれたカルトにも事情はある」

 

 夫を亡くし、迷宮寺院に利用された九条の母のように。

 

「ふん。まあ、考えておいてやるよ」

 

 四月一日がそう言ったときに装甲バンが停車した。

 どうやら位置に付いたらしい。

 

「さあ、仕事だ。面倒くさい話はあとにしようぜ」

 

 結局、四月一日は明確な答えはせず、装甲バンを降りていく。

 俺たちが降りたのは抜け道がある付近の道路で、そこからは俺が抜け道まで案内することになっている。

 

「旦那様。もし、皆殺しを防ぎたいのならばお役に立てますよ」

 

「それは四月一日を焼き殺すと言う意味か?」

 

「ふふ。そうかもしれません」

 

「やめておけ。あとあと問題になる」

 

 サタナエルに俺はそう言って首を横に振り、それから俺は抜け道を四月一日に示す。

 廃車の扉を開け、迷宮寺院の施設内に忍び込める道を見せた。

 

「まずは隠密(ステルス)で忍び込み、それからある程度内部に忍び込んだら派手にぶちかます。それでいいか?」

 

「オーケー、オーケー」

 

 俺が確認するのに四月一日は軽く頷く。

 

「それでは作戦開始だ」

 

 俺たちは廃車の中を潜り、教会施設内に侵入。

 密かに侵入した俺たちは、まず物陰へと隠れる

 

「さあて。どう派手にぶち上げようか」

 

「爆発物を持ってきている。それを使うか?」

 

「いいね。わんさか敵が寄ってきそうだ」

 

 俺は戦闘工兵が使用するような爆薬を持ってきていた。

 それを使って教会施設の重要設備を吹き飛ばし、開戦の狼煙にすることも考えていたからだ。

 

「狙うとすれば配電盤だろうな。あるいは非常用の発電装置」

 

「そっちの選択は任せる。好きな方を吹っ飛ばしてくれ」

 

「了解だ」

 

 時間帯は暗闇に包まれつつある時間帯。

 ここで電気が途絶えて、光が消えれば大混乱が起きるだろう。

 陽動としては十分だ。

 

「配電盤を狙おう。非常用発電装置はそこまで大したものじゃないはずだ」

 

 以前にも俺が配電盤を弄ったときに、すぐに明かりはつかなかった。

 それは非常用発電装置が脆弱であることを意味する。

 

「なら、決まりだ。吹っ飛ばしてやろうぜ」

 

 にやりと笑ってそう言う四月一日。

 

「行くぞ」

 

 俺たちは物陰から出ると配電盤に向けて駆ける。

 まだ信徒も武装した男たちも、俺たちの侵入に気づいた様子はない。

 

「爆薬セット」

 

 配電盤を完全に吹き飛ばすのに十分な爆薬を俺はセットする。

 軍から横流しされた高性能爆薬だ。少量でもかなりの威力になる。

 

「じゃあ、花火を打ち上げようぜ」

 

「ああ。やるぞ」

 

 俺たちは遮蔽物に潜み、それから爆薬の点火スイッチを二回押す。

 

 点火──。

 爆薬が点火されて激しい爆炎をまき散らす。

 同時に爆発音が辺り一面に響き渡り、開戦の狼煙となる。

 

「始まったぞ。くくっ!」

 

 そんな爆発音を聞いて四月一日が楽しげに笑う。

 

「全員、突入だ! やっちまえ!」

 

 ARデバイス経由で四月一日がそう指示し、周囲を包囲していた友軍が交戦を開始。

 周囲から乾いた銃声が響いてくる。

 

「さあ、俺たちもおっぱじめようぜ、切り裂き魔(リッパー)?」

 

「ああ。暴れるとしよう」

 

 俺たちの方にも爆発音を聞いた信徒たちが押し寄せている。

 全員がカラシニコフで武装しており、俺たちを殺そうとしていた。

 楽しくない時間の始まりだ。

 

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