元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──戦争から帰れなかったもの
迷宮寺院の戦場帰りたちと白兵戦を繰り広げる俺と四月一日。
「ふん!」
相手も機械化しているが、機械化率はどうやら俺と四月一日の方が上らしい。
純粋な力による殴り合いでは俺たちの方が優っている。
だが、相手にも技術がある。近接格闘の高度な訓練を受けている動きだ。
「その動きは陸軍か」
俺は相手の動きを見てそう告げる。
俺と対峙している男は大柄な男で、顔に大きな傷跡があった。
砲弾の破片か、あるは銃弾でついただろう傷のある顔が僅かに驚きに歪む。
「……お前の動きは情報軍だな?」
「そうだ。お前と同じ戦場帰りだ」
「そうか……」
傷のある男は後退し、俺から一度距離を取る。
「どこで戦った?」
男が俺に尋ねる。
「東南アジア、それから中央アジア」
「俺は東シナ海戦線だ。上海強襲上陸のあとの攻撃に参加した」
「なら、陸軍の精鋭だな」
「……ああ。そう思っていた。俺たちは優れていると。英雄だと。だが──」
大きな傷を歪ませて男が怒りを燃やす。
「俺たちが戦いから帰ってきたら政府も民衆も俺たちを無視した。あらゆる場所から理由を付けて追い出し、疎外し、そして孤立させた。俺たちは……ただの……使い捨ての駒だったんだ……!」
「だから、迷宮寺院に縋ったのか? 救ってくれると?」
「そうだ。実際に彼らは俺たちを受け入れてくれた。食事をくれた。居場所をくれた。必要だと言ってくれた。だから──」
男が地面を蹴って俺に肉薄。
「この教会を守らなければならん!」
そして繰り出される斬撃。ナイフが突き出されて、俺の顔面に迫る。
寸でのところで俺はそれを回避し、そしてカウンターを放った。
ナイフを振るって男の喉を狙う。
男は瞬時に身を捻り、ナイフは僅かに男の皮膚を裂いたのみ。
「なら、俺はお前を殺すだけだ。俺も自分の身は守りたいし、何より生きていかなければならない」
「そうだな。お互いにこれまでずっと生きるために殺してきたんだ。今さらその生き方が変えられるか」
俺たちは戦場で生き延びるために殺してきた。
生きるために、勝利するために殺してきた。
……その生き方を変えられなかったから、今も俺たちは戦場帰りなのだろう。
「手加減はしないぞ」
それから先に攻撃を繰り出したのは傷のある男の方だった。
男はナイフで俺を狙う。狙うのは装甲化された胸部ではなく、比較的脆弱な首。
ナイフは機械化された肉体から繰り出される銃弾のような速度の一撃。
「お前は優れた兵士だった」
しかし、俺はすでに強化脳を起動している。
強化脳の中でスローモーになって動く男の動きを見きりながら、俺は反撃の一手を繰り出した。
ナイフが俺の喉に向かて振るわれるのを身を屈めて躱し、俺は下から男の顎と喉に向けてナイフを突き立てる。
「ぐあっ……!」
ナイフが喉から顎を裂き、男がぼとぼとと血を流しながら倒れた。
「……居場所が欲しかった気持ちはよく分かる。だが、ここは間違っている」
俺は倒れた男に向けてそう呟いた。
戦争が終わり、居場所を失った気持ちは理解できた。
だが、迷宮寺院はテロを計画している。それは阻止しなければ。
「そいつが一番の手練れだったようだな?」
俺が傷のある男を相手していた間に四月一日は3人斬り殺していた。
これで戦場帰りは残り1人のはず。
「教会のために! 兄弟たちのために!」
その最後のひとりは驚くべき行動に出た。
手榴弾のピンを抜くとそれを握ったまま俺と四月一日に突っ込んできたのだ。
「クソ」
俺は自動拳銃で男の頭に2発叩き込み、男はぐらりとよろめくと地面に倒れ、その手から手榴弾がごろりと転がる。
だが、近すぎる。俺たちは手榴弾の殺傷範囲内だ。
「伏せろ!」
俺は四月一日に向けてそう叫ぶと同時に自分も頭を低くして伏せた。
手榴弾が炸裂し、辺りに鉄片がまき散らされる。
至近距離での炸裂のために耳鳴りがするが、すぐに俺は立ち上がって周囲を確認。
「サタナエル……?」
手榴弾と俺の間にサタナエルがいつの間にか立っていた。
「ご無事ですか、旦那様?」
サタナエルが振り返る。
その身体には手榴弾の爆発が直撃しただろうに傷のひとつもなく、やつは優しげに微笑んでいた。
「あ、ああ。お前が守ってくれたのか?」
「ふふ。そうなりますね。旦那様が本当に危ないときはお助けすると約束していたでしょう?」
「そうだったな……」
サタナエルが至近距離で炸裂した手榴弾から俺を守ってくれたのは明白だった。
これでサタナエルは俺の命恩人か……認めたくはないがストーカーからレベルアップだな……。
「……生きているか、四月一日」
「当たり前だ。生きているぜ」
四月一日もいくつか怪我をしていたが、無事そうだ。
「なら、このまま内部に進むぞ。友軍と合流する」
「了解」
俺たちはそれから少数の警備を蹴散らしながら、迷宮寺院の施設の奥へと進む。
抵抗はもはやないも同然かのように思われたが、体育館に近づくと再び大量の武装した信徒たちが俺たちを迎え撃った。
「おいおい。体育館を死守しようってのか?」
猛烈なカラシニコフの銃声を前に四月一日が呟く。
「あそこにはグリフォンがいる。それを守っているんだろう」
「おっと。そうだったな。しかし、俺たちからグリフォンを守ってるのか?」
「テロに使うつもりだったんだろう。爆弾と同じだ」
四月一日が軽い調子で尋ねてくるのに俺は肩を竦めてそう返す。
「なら、
「その通りだ。グリフォンをばらばらに解体するぞ」
俺たちは体育館の警備に改めて目を向ける。
信徒たちはアサルトライフルに加えて機関銃まで持ち出している。
猛烈な射撃が俺たちの隠れる廊下の遮蔽物に向けて叩き込まれ、金属が甲高い悲鳴のような響きを上げている。
「手榴弾!」
俺はそう警告したのちに敵の陣地に向けて手榴弾を投擲。
手榴弾は吠え続けている機関銃の設置された即席の陣地に入り込んで炸裂した。
これで機関銃は沈黙だ。
「突っ込むぞ、四月一日!」
「ああ!」
俺と四月一日は同時に爆発によって混乱している信徒たちに向けて突撃し、銃撃と斬撃で殺戮を繰り広げる。
敵の中にはまだ少年と言われるような子供もいた。
手に握るカラシニコフが大きすぎような子供だ。
しかし、武装して殺しに来るならば子供であろうと殺さなければならない。
そうでなければ自分が死ぬ。
こういう倫理の危機に立たされたときは、生存本能に従えと訓練された。
俺たちは自己保存の本能に従い、生き延びなければならない。
そうしなければ自分も死に、友軍も死に、敗北が訪れる。
戦え。戦え。生き延びるために戦え。
自分にそう言い聞かせて俺はアサルトライフルで
俺の覗き込む光学照準器の中で
「クリアだ」
俺たちは体育館の警備を片付けた。
死体があちこちに転がり、血の臭いが濃く漂っている。
俺はぽっかりと頭に穴が開いた16歳ぐらいの少年の死体を見た。
吐き気がするが、これはやらなければならないことだった。
「このままグリフォンを片付けてテロを阻止するぞ」
「ああ。そうしよう」
これ以上、無実の人間が死なないようにしなければならない。
そうでなければ彼らの死は無駄死にだ。
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