元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──狂信の果てに
俺たちが体育館に接近すると友軍と合流できた。
「無事だったか」
「ああ。そっちに犠牲者は?」
「いない。狂信者どもは訓練されてはいたが、まあ、所詮は素人だ」
傭兵のひとりが俺の確認にそう返す。
実際にそこまで楽な勝負だったとは思えないが、欠けた人間がいないのは事実だ。
「紳士淑女諸君。これから体育館に突入する。準備しろ」
四月一日はそう指示し、俺たちは体育館への突入準備に入る。
この手の突入はできるならば扉から入りたくない。
扉から入ってくることに敵は警戒している。
だから、特殊作戦などの場合、時間が許すならば扉から突入せず、窓や壁を爆破して突入することが多い。
「どうする? お上品に正面の扉から入るのは気が進まない」
「壁が吹っ飛ばせればいいんだが、あいにく壁の強度が分からない」
「ありったけの爆薬を仕掛けて試してみるか?」
「そうだな。俺たちならずものらしい作戦だ」
傭兵のひとりがそう応じ、持っていた軍用の高性能爆薬を体育館の壁に仕掛ける。
文字通りありったけの爆薬がセットされ、俺たちは遮蔽物に隠れた。
「点火、点火!」
それから爆薬が点火され、壁が吹き飛んだ。
壁は完全に吹き飛び、大きな穴がぽっかりと開く。
「そらっ!」
同時にスタングレネードを放り込み、強烈な閃光が瞬く。
「行け!」
「おうよ!」
俺が叫び四月一日が応じる。
爆発によって生じた灰色の煙が周囲を覆い、俺たちはその煙に塗れて突っ込む。
銃弾による歓迎はなかった。会ったのは別のものだ。
「背信者たちよ!」
それは男の声。あの動画で聞いた老人のしゃがれた声だ。
そう、迷宮寺院の教祖たる浅野・I・ジョセフだ。
「拝金主義者の企業に雇われた傭兵たち! お前たちは間違っている!」
その狂信に身を染めた男の周囲には武装した人間が。
武装した人間の中には女子供もいれば、やせ衰えた老人もいる。
ただ全員が狂信の色を瞳に宿しており、俺たちに殺意を向けていた。
これは……予想していた中では最悪の事態だ。
そして、グリフォンの檻は事前に確認したように、体育館の中にあった。
今は体育館のステージの上に設置されていた。
まるでそれを崇めているかのように。
「何が間違ってるって?」
四月一日はそんな浅野たちににやにやと笑ってそう尋ねる。
「ダンジョンに金を求めていることだ! お前たちは神は御業を前にして金勘定をするのか! その神秘さを、偉大さを、崇高さを感じずにただ低俗な欲望に身を任せるのは愚かである!」
浅野がそう叫ぶ。
「ダンジョンの偉大さに平伏し、この奇跡を与えられた神を讃えるのだ! そうすれば全員が救われるであろう!」
「はん。いかれた狂信者め。話す価値もないな」
四月一日はそう結論し、超電磁抜刀の構えを見せる。
このまま戦闘になれば……虐殺だろう。
「あくまで低俗な欲望に身を任せるか! ダンジョンのことを理解しようともせず! ダンジョンはこの狂った世界を救う神の作り奇跡だと言うのに!」
「落ち着け。お前たちの考えを否定はしない」
俺はそこでそう言う。
「武装解除し、テロの計画を中止すればもう手出しはしない。信仰とは人を害してまで成し遂げることではないだろう?」
俺は武装しているとは言えど女子供を虐殺したくはなかった。
だから、何とか武装解除させ、この場を穏便に収めたかったのだ。
「テロではない! 聖戦だ! 拝金主義者たちから神の御業を守り、救いを得るための聖戦なのだ! 武器を捨てる? それこそが信仰の否定! お前は我々を言葉で誑かそうとする悪魔の手先なのだな!」
クソ。逆効果か……。
「
四月一日は早く相手を斬り殺したくてうずうずしている様子だ。
「やれば虐殺になるぞ」
「だから? どうせ殺すんだ」
「畜生」
俺は四月一日の言葉に悪態をつく。
こいつは殺すことしか考えてない。それは分かっているはずだったのに。
「最終警告だ!」
俺が可能な限り大きな声で叫ぶ。
「武器を置いて投降しなければ殺す! 死なずに信仰を続けたいなら武装解除しろ!」
俺は大声で威圧するようにそう叫んだ。
そこには慈悲ではなく、殺意を込めた。
すると、数名の女子供が震えるのが分かった。
それから彼らは武器を捨てて逃走を始める。
それにつられて他の人間たちも武器を放り投げて逃げていく。
「へえ。やるじゃないか」
四月一日はその様子を見てひゅうと口笛を吹く。
「士気崩壊だ。残った連中はどうしようもない。やるぞ」
残ったのは浅野と狂信を強く滲ませる男女が数名。
「オーケー。暴れようぜ」
四月一日は嬉しそうに笑い、正面に立つ浅野との距離をじりりと詰める。
それでも浅野の表情に焦りや恐怖はなく、狂信の濁った色で俺たちを見つめる。
「であるならば、死ぬがいい」
浅野は短くそう言い、次の瞬間──。
「──────ッッ!」
グリフォンの檻が開かれた。
グリフォンは解き放たれてすぐに檻から飛び出す。
「畜生! クソッタレめ! やりやがったな!」
「ははははっ! 神の奇跡を前にして死ぬがいい!」
俺が怒りから叫ぶのに浅野は狂ったように笑っていた。
「おおっと。こいつはやべえな……! どうする!?」
「敵を殺したいんだろう! 好きなだけ殺せ! グリフォンを含めてな!」
「そうするしかなさそうだ!」
四月一日が困惑の声を上げるのに俺はそう命じる。
四月一日はまず武装した浅野と信徒たちに斬りかかろうとするが、そこで浅野は四月一日に背を向けて素早く逃げた。
グリフォンはそれに入れ替わるようにして四月一日の前に立つ。
「はははは! はははは! これぞ神の奇跡! 素晴らしいダンジョンの贈り物だ!」
浅野は笑っている。いかれちまったように。
いや、いかれちまっているんだろう。
あいつはグリフォンが俺たちだけを攻撃して、自分たちは攻撃しないとでも思っているのか?
「──────────ッッッッ!」
グリフォンは獅子の咆哮を響かせ、翼を大きく広げる。
しかし、次にグリフォンが襲ったのは俺たちではなく、迷宮寺院の信徒たちだ。
グリフォンは爪で信徒たちを引き裂き、信徒たちは体育館内に悲鳴を響かせる。
「な、何をしているのですか、神の使いよ!? 神の敵はあのものたちです!」
浅野が困惑した声を上げている。愚かなクソ野郎だ。
「弾幕を展開しろ! グリフォンを仕留めるぞ!」
「了解だ!」
俺たち傭兵部隊は信徒たちを襲っているグリフォンに向けて銃弾を叩き込む。
しかし、対人戦の小口径の銃で武装していた俺たちの銃弾は、グリフォンに対してあまり効果を発揮しない。
ダメージは負っているのだろうか、いつまでも倒れないのだ。
分厚い皮膚と筋肉が銃弾を食い止め、致命傷に至らない。
そしている間にも信徒たちはほぼ全滅し、浅野だけが残る。
そして、グリフォンは地面にへたり込んでいる浅野を見下すようにしてみる。
「おお……! 神の使いよ! 私はあなたの忠実な下僕です! なので、どうか我らが敵を御打ちください!」
浅野はグリフォンに頭を下げてそう言う。
グリフォンは一瞬それに沈黙し、浅野の表情に喜びが浮かんだかのように見えた。
だが、次の刹那グリフォンはその嘴で浅野を食らい、浅野が悲鳴と血をまき散らす。
浅野だったものが辺りに散らばり、それからグリフォンは俺たちの方を向いた。
「グリフォンを倒したことは?」
「俺はない」
「俺もだ。だが、これで童貞卒業だな」
「はあ」
四月一日があくまで冗談みたいにこの状況を語るのに俺は溜め息しか出なかった。
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