元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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互いの受容

……………………

 

 ──互いの受容

 

 

 俺たちが迷宮寺院に戻ってくると、四月一日が手当てを受けているところだった。

 

切り裂き魔(リッパー)。グリフォンはどうなった?」

 

「死んだ。地面に落ちて死んだよ」

 

「へえ! あんたがやったのか? でも、どうやって?」

 

「さあな。必死だったからよく覚えていない」

 

 俺はそう言ってはぐらかすことにした。

 

「ま、それならそれで万事解決だな。早速ジョン・ドウからお褒め言葉だ」

 

 四月一日は今の俺の報告でジョン・ドウに仕事の完了を報告したらしい。

 俺たちのARデバイスにジョン・ドウの姿が映る。

 

『迷宮寺院は無事に壊滅したようだね。まあ、生き残りがいるのが気がかりだが』

 

「俺たちの仕事は別に皆殺しではなかったはずだが?」

 

『ふむ。脅威は全て排除せよ。そう命じたはずだ。生き残りが脅威にならない保証はあるかね?』

 

「逃げたのは女子供だ。お前たちがよほど酷いことをしなければ、もうテロなんて企てないだろうさ」

 

『そう願いたいものだ。では、報酬を』

 

 それから俺たちのウォレットに1500万円が送金された。

 あれだけの苦労で1500万というのは……まあ、仕方ない。

 

「じゃあ、これで解散だな」

 

「改めてあんたと組めてよかったよ、切り裂き魔(リッパー)。できればまた一緒に仕事をやろうぜ」

 

「ああ。気が向いたらな」

 

 四月一日はそう言って手を振り、俺たちも四月一日たちに別れを告げた。

 

「さて……。金も入ったことだし、今日は豪華な夕食にするか?」

 

「おおー! それはいいな!」

 

「ああ。それからお前の分の金も渡しておくぞ」

 

 1500万円からマルキダエルの取り分を渡す。

 マルキダエルには命を救われたし、半額をマルキダエルのアカウントに送金した。

 

「うひょー! 大儲けだ!」

 

「ただし、これからも食費と家賃は払ってもらうぞ」

 

「ぶーっ!」

 

 これだけは譲れない。マルキダエルにはちゃんと生活費を払ってもらう。

 こいつ、無駄に大量に食うしな。

 

「それじゃあ、今日は焼肉だ。たっぷり食おう」

 

 

 * * * *

 

 

 食堂街の焼き肉屋でたんまり食ったあとのことだ。

 

 俺は程よく酒に酔い、気持ちよく家路についていた。

 サタナエルも少しばかり酒を飲み、ほんのり白い肌を紅潮させている。

 マルキダエルは……飲みすぎだ。明らかにふらふらしている。

 

「旦那様」

 

 サタナエルがそっと身を俺の方に寄せてくる。

 

「……今日は助かったぞ、サタナエル。2度も世話になったな」

 

「いえいえ。構わないのですよ。旦那様のお役に立てるのはボクの幸せですから」

 

 俺が改めて今日のことの礼を述べるのにサタナエルはそう微笑む。

 

「けど、そろそろボクのことを受け入れてくれる気になってくれましたか?」

 

「…………」

 

 サタナエルの質問に俺は暫しの間、沈黙する。

 こいつは今でも悪魔でありドラゴンだ。

 だが、厄介なストーカーかと言われれば、もうそうではない気がする。

 今では俺のことを助けてくれたばかりか、仕事の役にも立とうとしてくれているのだから。

 

「そうだな。受け入れてもいいのかもしれない」

 

 いつまでもストーカーだとかなんだとか言って意固地になって拒むのは、大人げないような気もしていた。

 そろそろ決断を下すべきだ。

 サタナエルをきっぱりと拒絶するのか、あるいは受け入れるのかを。

 そして、俺はサタナエルを受けれてもいいと思えてきていた。

 

「本当ですか? それはとても嬉しいです」

 

 サタナエルはそう言ってぎゅっと俺の腕に抱き着く。

 

「だが、子供を作る云々は今は無理だぞ。俺はまだまだダンジョンに潜らなければならない。子育てしているような余裕はない」

 

 探索者に産休や育休なんてものはない。

 子供ができてその世話をしなければならなくなっても、何の保証も得られない。

 そして、俺は今はまだダンジョンに潜りたかった。

 最深部のお宝を手にするためにも。

 

「分かっています。今は我慢しますよ。旦那様の最深部に辿り着くという夢は、ボクの夢でもありますから」

 

 サタナエルはそう言って小さく笑い、そして俺の方に顔を近づけた。

 サタナエルからは酒を飲んだあとだというのにアルコールの臭いはせず、甘い果実のような匂いがする。

 そのほんのりと紅潮した顔はとても綺麗だ。こいつは本当に美人なのだ。

 

 俺はそんなサタナエルの顔に自分の顔を近づけ、口づけした。

 酔った勢いと言ってしまえばそれまでだが、今日の俺はなぜかサタナエルを受けれる気持ちが強かった。

 これが吊り橋効果というやつだろうか。

 

「旦那様……」

 

「サタナエル」

 

 俺たちはもう一度キスを交わす。

 サタナエルの頬は今では真っ赤になっていた。

 俺の顔も火照っているのが分かるが、これはアルコールのせいだけではないだろう。

 

 俺たちはこうして受け入れ合った。

 

 

 * * * *

 

 

 その夜に何かあったわけではない。

 ロマンチックな夜は一瞬で、俺たちはすぐに元の温度に戻っていた。

 俺たちはいつものように帰宅すると、風呂に入って眠ったのだ。

 

「……おはよう、サタナエル」

 

「おはようございます、旦那様」

 

 やはり酔った勢いだったのだろう。

 翌朝になると俺は少しばかりの恥ずかしさを覚えていた。

 サタナエルの方はつやつやした表情で笑顔なのだが、それが眩しすぎる。

 

「今日のご予定はどうされますか?」

 

「そうだな。装備を整えてから、身体のメンテナンスだ。昨日の戦闘では結構消耗したからな。金にはまだ余裕があるし、準備を整えておきたい」

 

「分かりました」

 

 昨日のグリフォン戦では無茶苦茶をやった。

 まあ、あれぐらいで超高度軍用グレードの人工筋肉が傷つくとは思わないが、いざというときに動けないのは不味い。

 俺たちは文字通り、身体が資本なのだから。

 

「銃弾を買って、食料を買って、それからメンテだ。マルキダエルは?」

 

「あの子、昨日飲みすぎたみたいでまだ起きてきていません」

 

「そうか……。じゃあ、起きてくるまで待つとするか……」

 

 マルキダエルは本当にドラゴンなんだろうな。酒の弱いところから見て。

 

「ふああああ……。朝飯くれ、サタナエル……」

 

 それから2時間ほどが過ぎてようやくマルキダエルが起きてきた。

 

「はい、朝食ですよ」

 

「うん」

 

 マルキダエルはそう言ってトーストに食らいつく。

 昨日飲みすぎた割には食欲は旺盛だな。

 

「さて、飯を食ったら出かけるぞ」

 

「ダンジョンに潜るのか? それともまた人を殺しに行くのか?」

 

「どっちでもない。今日は準備だ」

 

「ぶーっ!」

 

 こいつは本当に血の気が多いやつだ。

 

「参りましょう、旦那様」

 

「……ああ」

 

 俺はサタナエルが手を差し出すのに、その手を握り、家の外に出た。

 今やサタナエルはストーカーではなく、立派な俺の……恋人と言ったところか。

 

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