元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──次なる冒険への準備
いつものように一色銃火器店に向かう俺たち。
「いらっしゃい……」
店主は今日も銃を弄っている。
今日のは……フリントロックのピストル……!? マジの骨董品かよ。
「いつものやつを頼む」
「分かった……」
俺たちはもうこのやり取りだけで必要な口径7.62ミリNATO弾と12ゲージのスラッグ弾の購入取引ができるようになっていた。
「それにしても……」
店主が俺とサタナエルの方を見つめる。
「もうストーカーじゃなくなったの……?」
俺とサタナエルの様子を見て、店主はそう尋ねてきた。
「あ、ああ。ちょっとばかり関係が進展したというか……よく分かったな?」
「何か雰囲気が以前と違ったから……。でも、よかった……。刺される前に関係が進展して……」
「刺されるって、おいおい……」
サタナエルたちのことをどう思っていたやら……。
だが、ストーカーがストーカーのままならば、確かにそういう騒ぎになっても仕方なかったかもしれない。
そう考えると関係が進展したのはいいことなのかもな。
「じゃあ、いつものやつ……。気を付けてね……」
俺は店主から弾薬を受け取り、そして店を出た。
「ふふ。やはり分かる人には分かるのですね」
「そうかもな。嬉しいのか?」
「それはもちろんですよ。旦那様の恋人になれるのはボクの最大の幸せですから」
サタナエルはにこにこととても嬉しそうだ。
まあ、ここまで喜ばれると俺の方も悪い気はしなかった。
マルキダエルと言い争うわけでもないから、修羅場にはなってないからな。
マルキダエルの方……依然として眠そうなままだ。
それから俺たちは買い物を済ませて、かかりつけの病院である
受付ボットを相手に手続きを済ませ、俺は待合室で待つ。
いつものようにクリニックの待合室はあまり混んでいない。
「佐世保様」
俺の名が呼ばれて、俺は診察室に入る。
「今日は身体のメンテナンスを希望されていましたね」
「ああ。少しばかり無理をしたからな。一応お願いしたい」
「分かりました」
このクリニックの主である女医の忍野が俺の脊椎にあるポートにケーブルを接続し、ARデバイスで状態を確認していく。
「……人工筋肉の方はほとんど傷がありませんが、強化脳の方には負荷が大きくかかったのでしょう。少しばかりメンテナンスが必要ですね」
「強化脳のメンテナンスか……」
よりによって一番壊れると不味い場所に負担がかかったらしい。
「その、分かっていると思うが俺の強化脳は……」
「日本情報軍の超高度軍用グレードのもの、ですね? 大井医療技研の」
「ああ。だから、メンテは難しいと思うが……」
「大丈夫ですよ。以前にも扱ったことはありますから」
「これをか?」
「ええ。あなたと同じ戦場帰りの方でしたね」
「……そうか。では、よろしく頼もう」
俺と同じ戦場帰りがこのクリニックで治療を受けていたという事実を初めて知った。
まさか天塩や迷宮寺院にいた兵士たちだったりするのだろうか……。
「では、今日のうちに処置しておきますか?」
「頼めるならばそうしたい。これは命綱だからな。いつでも起動できないと困る」
「では、すぐに始めましょう」
簡単なメンテなのだろう。忍野はすぐにやってくれることになった。
この手のメンテは情報軍時代にも受けたが、別に頭を切り開いて直接強化脳を弄るわけではない。
今どきの主流の脳手術はナノマシンを注入することで、メスで切ったり縫ったりすることなく行われるのだ。
「しかし、一体何と戦われましたか? 結構な負荷がかかったようですが」
「いろいろだ。クリーチャーもいれば人間もいる」
「そうですか。佐世保さんはお得意さんですから、死なないで欲しいですよ」
「努力はする」
忍野が言うのに俺は少し笑ってそう返した。
「しかし……強化脳のOSも少し古いですね」
「そうなのか? 軍にいたときから特に変えていないが」
「今の環境が身体に合っているならば特に変更する必要はありませんが、身体全体の出力を上げる方向にも持っていけますよ。どうしますか?」
「ふむ……」
俺はそう言われて悩んだ。
今のコンディションに不満があるわけではない。
だが、もっと高い状態を維持できるならばそうしたいのは事実だ。
「では、OSの更新も頼もう」
「分かりました。一緒に済ませますね」
それからナノマシンを利用した強化脳のメンテが行われる。
点滴のようにナノマシンを入れて、それを外部から忍野が操作して強化脳の修復を行っていく。
痛みも何もないので起きたままで受けられるものだ。
ときどき忍野が脳の状態を確認するのに話しかけてきて、俺はそれに答える。
メンテは1時間程度で終わり、俺の強化脳はまた万全の状態に戻った。
「助かった、忍野。また何かあれば頼む」
「ええ。いつでもいらしてください。この通り閑古鳥が鳴いていますから」
俺が支払いを行って言うのに忍野は苦笑してそう返す。
どうしてここまで腕のいい医者のクリニックが儲からないのかは謎だな……。
「終わりましたか、旦那様」
「退屈だったぞ!」
俺が待合室に戻るとサタナエルとマルキダエルがやってきてそう言う。
「終わったぞ。また慣らし運転のためにダンジョンに潜ることになるだろう」
「次は60階層を目指されるのでしたね」
「ああ。そのつもりだ」
50階層の壁を越えることはできた。
次は60階層だ。
* * * *
俺たちはダンジョンに潜る準備を進めた。
購入した弾薬をマガジンに詰め込み、いつものようにチェストリグのポーチに必要なものを詰めていく。
いつものように12ゲージのショットガンがメインウェポンである。
「今回は20階層まで行って、身体の動きを確認する。不味いことになったらサポートを頼むぞ、サタナエル」
「ええ。お任せください」
俺はサタナエルにそう頼んだ。
マルキダエルには……頼むと大変なことになりそうな気がしたのでやめた。
「では、出発だ」
俺たちはダンジョンに向けて出発する。
そろそろダンジョンまでの移動にも足が欲しいが、どうしたものか。
車やバイクがあれば便利だが、この街の道路事情だと結構な値段のオフロードの車両を買わなければならないだろう。
俺たちがダンジョンの入り口に到達すると、そこで顔見知りを見つけた。
「九条」
「あ、佐世保さん!」
九条は以前のように明るい笑顔で俺の方に手を振る。
「噂、聞きましたよ。迷宮寺院が壊滅したって」
「ああ。らしいな……」
「佐世保さんがやってくれたんですよね?」
「それは話せない。守秘義務があるんだ。すまんな」
期待した眼差しで九条が俺を見るのに、俺は首を横に振って返した。
「そうですか……。でも、もう母みたいに騙される人がいないなら、それで十分です」
九条はそう言ってちょっと疲れた笑みを見せる。
「そうだな。もう迷宮寺院に利用される人間はいないだろう……」
利用されていた人間を全員救えたわけではない。
あの戦いの中で死んだ人間もいる。それが俺には複雑だった。
「これからダンジョンか?」
「はい! 20階層に運ぶ荷物の護衛です。今、凪ちゃんたちが荷物を運んでくるのを待っているところです」
「そうか。頑張れよ」
俺は九条にそう言い、彼女より先にダンジョンへと潜った。
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