元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──新しい肉体
ダンジョン内で身体の動きを試す。
まずはゴブリンやダイヤウルフ、人食いネズミを相手に慣らし運転だ。
「悪くないな……」
俺は自分の動きが格段に向上していることに僅かに驚きながらも、確実にクリーチャーを仕留めていく。
強化脳の動きに身体がスムーズについて行っている。
超高度軍用グレードの人工筋肉に相応しい脳が備わったと言える状態であり、それに今までより強化脳への負担も感じない。
「これなら60階層にいけるかもしれん」
俺は慣らし運転の中でそういう希望を抱き始めた。
そして、無事に20階層に到着。
「この身体は悪くない。60階層を目指すのは無理じゃなさそうだ」
「ふふ。それは何よりです、旦那様」
俺が身体の動きに満足する中で、サタナエルもそう言って微笑む。
「次はしっかりと準備して60階層を目指すぞ。そして、その次は70階層だ」
俺はそう決意して再び地上を目指す。
戻り始めて16階層付近に来たときだ。
銃声が聞こえてきた。
「銃撃戦……?」
クリーチャーとの戦闘ではない。
これはお互いに撃ち合っている音だ。
クリーチャーが銃を持たない上、銃撃戦を行っているのは人間同士である。
「不味いな。トラブルの予感がする」
「退屈だし、混ざろうぜ!」
「おい、マルキダエル!」
マルキダエルはそう言って銃声のする方に走っていく。
俺たちは慌ててマルキダエルを追いかけて進む。
俺たちが走っていく先からは銃声が激しくなっている。
クリーチャー対策の中口径ライフル弾の銃声に混じって、対人目的の小口径ライフル弾の音もする。
どうやら最初から人殺しを目指していた連中がいるらしい。
「嫌な予感がする。気を付けろよ、マルキダエル!」
「はっはーっ! 派手に暴れてやるぞ!」
マルキダエルは俺の警告も無視して銃声の音源に向けて突っ込む。
「何だ!?」
突然現れたマルキダエルに驚愕するのはふたつのグループ。
ひとつは覆面を身に着けたアサルトライフルで武装した集団で、もう一方は──。
「佐世保さん!」
「九条!」
九条たちであった。
九条たちはどうやら覆面の集団に襲われたらしく、ダンジョン内の遮蔽物に隠れて覆面の人間たちに応戦している。
「クソ! あいつ、
「殺せ! 仕事の邪魔だ!」
覆面集団の殺意が九条たちから俺の方に向けられる。
俺は完全に銃口が自分の方を向く前に強化脳を起動。
全ての時間が緩やかに流れる中で、飛来する銃弾の軌道すら取れた。
ライフリングによって回転しながら迫るライフル弾を俺は最適な動きで回避し、それからマルキダエルとともに的に向けて踏み込む。
「はっはーっ! 死ね!」
マルキダエルは以前のような超電磁抜刀を真似た抜刀術で、炎を剣を振るい、それが覆面集団を焼く。
「畜生、畜生! 何だ、こいつ!」
「火炎放射器か!?」
マルキダエルの炎を受けた人間が悲鳴の混じった声を上げ、俺はその隙に男たちに肉薄した。
超高度軍用グレードの人工筋肉と完全にマッチした強化脳のOSは俺に適切な動きを可能にさせ、俺は覆面集団の首を裂き、心臓を貫き、腎臓や肝臓を滅多刺しにする。
「やるな、佐世保!」
「お前は俺まで焼くなよ!」
マルキダエルは炎を振りまき、俺はそれに巻き込まれないようにしながら敵を引き裂いていく。
「に、逃げろ! 話が違う!」
「クソ、クソ!」
やがて覆面集団は逃走を始めた。とは言え生き残ったのは3名だ。
「逃がすかー!」
それをマルキダエルが追撃。
背後から炎の刃を放って、生き残りを焼き殺した。
焼死体があちこちに転がり、人間の焼ける臭いが漂う。
「満足っ!」
マルキダエルはその光景を見てふんすっと鼻を鳴らした。
「そいつはよかったな」
今回はマルキダエルもまともに役に立った。
文句を言うつもりはない。
「九条。無事か?」
「は、はい。また助けられてしまいました。ありがとうございます」
「気にするな」
九条が申し訳なさそうにそう言い、俺は軽く手を振ってそう返した。
「それよりさっきの状況はどういうわけだ? こいつらは?」
「分からないです。いきなり襲われて……」
九条は首を横に振る。
「もしかすると、あたしたちは運んでいる荷物が狙いなのかもしれないっす」
九条とパーティを組んでいた桜庭がそう言う。
彼女たちの後ろには大型のミュールボットで運んでいるコンテナが。
「そう言えば荷物を運んでいるんだったな……。依頼主は?」
「ええっと。大井の下請けですね。メガコーポの仕事ではないです」
「ふむ。それでも価値のある荷物だったのかもな。それがどこかで情報が漏れて、襲われたというところか。まあ、ダンジョン内ではそう珍しくもないことだ」
ダンジョン内はまさに無法地帯だ。
メガコーポの荷物でなかろうと強盗目当てに襲う人間はいる。
だから、ただ荷物を運ぶだけでも依頼主は護衛を付けなければならないのだ。
「これから20階層までは問題なく行けそうか?」
「はい! 少しぐらいは自分たちで戦えるようにしないとですね……」
「そうか。なら、頑張れよ」
以前の九条たちならば俺に付いてきて欲しいと言っただろうが、今の九条たちは力をつけたようだ。
彼女たちも着実に成長しつつあると言うわけか。
「じゃあ、無事に仕事を終えられるのを祈っている」
俺はそう言って九条たちと分かれると、地上を目指した。
その途中で他にも荷物を運んでいる探索者を見かけた。
大型のミュールボットや軍用のミュールボットを使ってコンテナが地下に向けて運び込まれている。
「……何かあるのか……?」
九条は大井の下請けの仕事だと言っていたが、大井に関係してないわけではない。
メガコーポは迷宮の地下で何かを進めているのだろうか。
もしそれが最下層に至るためのものだとしたらと思うと焦りが生まれる。
* * * *
俺たちは地上に戻ったとき、ARデバイスに着信があった。
「……司馬?」
それは以前大井の渉外担当を名乗った男──司馬からだ。
「もしもし?」
俺は怪訝に思いながらも一応着信に応じる。
『佐世保君。仕事の話がある。私の部下から話を聞いて、君の実力を改めて高く評価した上での仕事だ。よければ受けてほしい』
やたらと丁寧な口調で司馬は俺にそう求めてきた。
「……仕事の内容による」
『簡単な仕事だ。荷物を運ぶ隊列を60階層まで護衛してほしい。君が50階層を突破したことは聞いているよ。60階層を目指すのも無理ではないだろう?』
俺が50階層を突破したことを司馬は知っているのか。
まあ、あの場には大井系列の
『報酬は6000万。君の相方にも同額支払おう』
ほう。メガコーポの親玉は流石に太っ腹だな。
ジョン・ドウのような下っ端とは違うか。
「分かった。受けよう。詳しい内容を教えてくれ」
俺はどうせ60階層を目指すつもりだったので、司馬の提案に乗ることにした。
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