元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

75 / 75
エスコート

……………………

 

 ──エスコート

 

 

 俺は司馬からの仕事を受けることにした。

 

『ありがとう。60階層に向かう隊列は4日後に出発する。一応プロの傭兵を雇っているが、積み荷の重要性から万全を期しておきたいのだ』

 

 司馬はそう言い、俺に輸送計画の詳細情報を送信してくる。

 

「積み荷が何かは書いてないが?」

 

『それは君が知る必要がないものだからだ』

 

 俺が尋ねるのに司馬はきっぱりとそう言った。

 

『とにかく積み荷がひとつとして欠けることなく60階層に届くことを願っている。お願いできるだろうか?』

 

「分かった。努力する。4日後にダンジョンの入り口で隊列と合流だな?」

 

『ああ。それが計画だ。それではよろしく頼む』

 

 司馬はそう言い、通信を切った。

 

「さて、次の仕事は護衛か……」

 

 俺は司馬からの仕事の内容にそう呟く。

 護衛そのものの仕事は初めてじゃない。

 だが、60階層まで行くのは初めてだ。

 

 俺がそうだったように多くの探索者たちは50階層の壁を越えられていない。

 だから、50階層以降の情報は乏しい。

 60階層のエリアボスがグリフォンだということは知っていたが、そこまでの道中にどのような危険があるのか……。

 

「旦那様。どこから手を付けますか?」

 

「まずは情報集めからだな。50階層から60階層までの情報が必要だ」

 

 情報は大事だ。

 脅威を知っていればそれに備えることはできる。

 何も知らずに突っ込むより、はるかに安全だと言えるだろう。

 

「斎藤のところに行くぞ。情報を買ってくる」

 

 俺たちはそれから斎藤にいる半地下の酒場に向かった。

 斎藤はいつものように酒の入ったグラスを遊ばせて客を待っていた。

 

「斎藤」

 

「おお、切り裂き魔(リッパー)。迷宮寺院は潰れたらしいな」

 

「ああ。連中は潰れたよ。そうなるべき連中だった」

 

「確かにな。街の厄介者がひとつ消えたって感じだ」

 

 俺が感情を込めずにそう語るのに斎藤はにやりと笑う。

 街の厄介者か。確かにそうだったのかもしれない……。

 

「今回来たのはその件じゃない。俺が知りたいのは50階層から60階層までの情報だ」

 

「ほう。50階層の壁を越えたのか?」

 

「ああ。ワームは殺せた」

 

「……すげえな。相変わらずほとんどソロみたいな状態でやってるんだろう?」

 

「今はもうソロじゃない」

 

 そう言って俺は視線をサタナエルたちに向ける。

 サタナエルの方は微笑み、マルキダエルの方は過剰なまでに自慢げ。

 

「なるほどな。で、50階層から60階層までの情報だったな。10万だ」

 

「ほら」

 

 俺は元気で斎藤に情報料を渡す。

 

「毎度あり。まずはマップから送信する」

 

 俺は斎藤から51階層から60階層までのマップを受け取った。

 

「このマップは誰が?」

 

「企業の連中からの横流しだ。50階層以降に潜ってマッピングするほど余裕があるのはメガコーポの連中ぐらいだろう?」

 

「それもそうだな」

 

 企業からの横流し情報ならば信頼性は高いだろう。

 まともに働いてもメガコーポがちゃんと報いる保証はないのだ。

 中には情報や物資を流して小遣い稼ぎをする連中もいる。

 

「それからクリーチャーの情報だが、厄介なのが湧く。ワイバーンが湧くし、オーガって言う化け物も湧く。ワイバーンは知っているだろうが、オーガは初めてだろう?」

 

「そうだな。どういうクリーチャーだ?」

 

「巨人さ。3、4メートルは身長があってこん棒を振り回してくる。まともに食らえばミンチだ。しかし、おつむの方はあまりよくない。ただひたすらに狂暴なだけで、冷静に対処すれば銃で殺せる相手だ。ただし、小口径ライフル弾じゃあ効果は薄いがね」

 

「ふむ。他には?」

 

「他はレッドキャップや人食いネズミがいるくらいだな。あんたにとっちゃ大した脅威じゃないだろう?」

 

「敵が俺を殺せる以上はどんなクリーチャーだって未だ脅威さ」

 

 レッドキャップも人食いネズミも俺を殺す能力はある。

 間抜けなことをやらかせば、俺はそんな雑魚にも殺されるかもしれないのだ。

 だから、どんなクリーチャーだろうと用心はしておいた方がいい。

 

「そして、60階層のエリアボスはグリフォン。これは知ってるか」

 

「ああ。それについてはよくよく」

 

「そう言えばこの間、街の真ん中でグリフォンの死体が見つかったらしいが、何か知っているか?」

 

「さてね」

 

 俺は斎藤の求めに答えをはぐらかす。

 素直に喋るとサタナエルとマルキダエルと一緒に飛んだことを白状する必要が生じてしまう。

 

「あんたなら何か知っていると思ったんだけどな。まあ、いい。情報はこれぐらいだ」

 

「助かった。また何かあったら頼む」

 

「おうよ」

 

 俺は斎藤に礼を述べ、それから酒場を出る。

 

「やはり50階層以降にもワイバーンは出没するのか……」

 

 一番厄介なのは空を飛んで襲い掛かってくるワイバーンだろう。

 機動力はそれだけで戦力になり、3次元的な動きをする敵はいつだって厄介だ。

 

「旦那様。今回の仕事ではボクたちがお手伝いをしてもいいのですか?」

 

「……いや。可能であれば何もしないでくれ。大井の連中が一緒だからな……」

 

 今回の仕事は大井の仕事だ。それも大井の重役である司馬直々の依頼だ。

 仕事の調査はしっかりと行われるだろうし、ARデバイスで現場の様子は撮影されることは間違いない。

 そうなるとサタナエルとマルキダエルがうっかりドラゴンとしての力を出して、人目を引くのは好ましくない。

 

「分かりました。では、今回の仕事では大人しくしておきますね」

 

「ああ。すまんな」

 

「いえいえ。旦那様のご迷惑にはなりたくないですから」

 

 にこにことそう微笑むサタナエルを見ながら、俺たちは自宅に戻り、それから4日後の仕事の準備を始めた。

 

 

 * * * *

 

 

 俺は完全武装でダンジョンの入り口に立っている。

 ここで大井の輸送隊列と合流する予定だ。

 

 暫く待つと時間丁度に大井傘下の民間軍事会社(PMSC)である太平洋保安公司の車列が現れた。

 大きな軍用トラックを引きつれており、そこには巨大な軍用のミュールボットとコンテナが乗せられている。

 

「あんたが佐世保?」

 

 太平洋保安公司側の指揮官だろう男がそう声をかけてくる。

 ボディアーマーとチェストリグを付けており、恐らくは身体の一部を機械化している人間だ。

 

「ああ。今回はよろしく頼む」

 

「こちらこそ。上からは凄腕を護衛(エスコート)に付けたって聞いている。頼りにしているぜ」

 

 同じプロ同士の無駄のない会話が気持ちよく、それから俺たちは早速輸送の計画を話し合った。

 

「今回は運ぶのはあの3つのコンテナだ。中身は俺も知らん。だが、上は必ず全部を60階層に届けろと命令している」

 

「途中のエリアボスは?」

 

「50階層までは先遣隊がクリアにしているはずだ。だが、60階層のグリフォンはまだだと聞いている。そこで60階層に踏み込む前にエリアボスを倒さなければならん」

 

「ふむ」

 

 グリフォンはもう復活したのか。厄介だな……。

 

「というところだ。オーケーか?」

 

「ああ。頭に入った。こちらから忠告だが途中で人間にも警戒しろ。お前にそっちの下請けのコンテナが人間に襲われていた」

 

「だろうな。それにも備えている」

 

 太平洋保安公司側の部隊には対人戦用の小口径ライフル弾のアサルトライフルで武装した兵士もいる。

 彼らも俺が忠告するまでもなく、対人戦に備えているのだ。

 

「では、行こう。60階層まで」

 

……………………

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍発売中】転生宰相のダンジョン魔改造録 ~ポンコツ魔王様に頼られたので、壊滅した魔王軍を再建します~(作者:パンダプリン)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

女神さまにハズレ扱いされた俺は、ラスボスの魔王が超高難易度で有名なとあるゲームの世界へ転生させられてしまった。▼スキルはダンジョンマスター。種族は魔族。どう見ても主人公側ではなく、敵側としてだ……。▼途方に暮れていたところ、明らかに格上の存在と出会ってしまったが、あなたが魔王……?▼勇者たちを倒したはいいけど、部下もダンジョンも失ってやる気がない……?▼俺、…


総合評価:630/評価:8.56/連載:122話/更新日時:2026年06月04日(木) 11:50 小説情報

怪異をぶちのめす(作者:富士伸太)(オリジナル現代/冒険・バトル)

ガッツで耐えつつ被ダメを攻撃力に変えて浪漫砲を撃つバーサーカー構成で、事故物件つかまされた被害者やよくわからんフラグを踏んだだけの被害者を殺しにくる日本の理不尽系怪異をぶちのめしていこうと思います。▼※カクヨムにも掲載しています 


総合評価:4235/評価:8.55/連載:41話/更新日時:2026年05月17日(日) 21:42 小説情報

魔王様は現代人ですので。 ~転生したら魔王だったけど滅びたくないので堅実にやります~(作者:第616特別情報大隊)(オリジナルファンタジー/戦記)

 剣と魔法の世界はすでになく、銃と科学の世界となった異世界にて。▼ 若き魔王の下、魔族同士の対立と内戦を乗り越えて北の大地にて統一された魔族国家たる魔王国。その魔王とは元人間の悪魔であった──。▼ これは偉大なる指導者にして魔族の父たる魔王陛下の名において、人類世界を蹂躙する魔王軍のお話。▼ なお、魔王本人に滅亡したくない以外の野心はほとんどないものとする。…


総合評価:668/評価:7.67/完結:58話/更新日時:2026年03月09日(月) 15:13 小説情報

ダンジョン中毒から抜け出したい【書籍化&コミカライズ決定】(作者:1パチより4パチ派)(オリジナル現代/コメディ)

ダンジョンのドロップにどハマりして身を崩した主人公が、過去に脳を焼いちゃった仲間や世間からの妨害(ほぼ自業自得)にめげずに社会復帰を目指す話。▼※2026年2月10日 書籍化&コミカライズ決定しました。


総合評価:7312/評価:8.24/連載:85話/更新日時:2026年06月03日(水) 12:34 小説情報

在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。(作者:その辺の束子)(オリジナルSF/冒険・バトル)

▼ ロボットでドンパチやり合うシビアで退廃的なSF世界。▼ そんな世界に嫌気が差し、もっと気楽に頭空っぽに、その辺のモブの様に生きようとしていた賞金稼ぎ(バウンティハンター)の『レイト・ナモナ』▼ だが彼はただのモブに収まらないその凄腕パイロットスキルを手に余らせていた。▼「賞金稼ぎは良いぞ〜。悪党ブチのめすとスカッとするしお金も貰える。」▼ これはそんな頭…


総合評価:603/評価:7.62/連載:16話/更新日時:2026年05月04日(月) 12:02 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>