元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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エスコート

……………………

 

 ──エスコート

 

 

 俺は司馬からの仕事を受けることにした。

 

『ありがとう。60階層に向かう隊列は4日後に出発する。一応プロの傭兵を雇っているが、積み荷の重要性から万全を期しておきたいのだ』

 

 司馬はそう言い、俺に輸送計画の詳細情報を送信してくる。

 

「積み荷が何かは書いてないが?」

 

『それは君が知る必要がないものだからだ』

 

 俺が尋ねるのに司馬はきっぱりとそう言った。

 

『とにかく積み荷がひとつとして欠けることなく60階層に届くことを願っている。お願いできるだろうか?』

 

「分かった。努力する。4日後にダンジョンの入り口で隊列と合流だな?」

 

『ああ。それが計画だ。それではよろしく頼む』

 

 司馬はそう言い、通信を切った。

 

「さて、次の仕事は護衛か……」

 

 俺は司馬からの仕事の内容にそう呟く。

 護衛そのものの仕事は初めてじゃない。

 だが、60階層まで行くのは初めてだ。

 

 俺がそうだったように多くの探索者たちは50階層の壁を越えられていない。

 だから、50階層以降の情報は乏しい。

 60階層のエリアボスがグリフォンだということは知っていたが、そこまでの道中にどのような危険があるのか……。

 

「旦那様。どこから手を付けますか?」

 

「まずは情報集めからだな。50階層から60階層までの情報が必要だ」

 

 情報は大事だ。

 脅威を知っていればそれに備えることはできる。

 何も知らずに突っ込むより、はるかに安全だと言えるだろう。

 

「斎藤のところに行くぞ。情報を買ってくる」

 

 俺たちはそれから斎藤にいる半地下の酒場に向かった。

 斎藤はいつものように酒の入ったグラスを遊ばせて客を待っていた。

 

「斎藤」

 

「おお、切り裂き魔(リッパー)。迷宮寺院は潰れたらしいな」

 

「ああ。連中は潰れたよ。そうなるべき連中だった」

 

「確かにな。街の厄介者がひとつ消えたって感じだ」

 

 俺が感情を込めずにそう語るのに斎藤はにやりと笑う。

 街の厄介者か。確かにそうだったのかもしれない……。

 

「今回来たのはその件じゃない。俺が知りたいのは50階層から60階層までの情報だ」

 

「ほう。50階層の壁を越えたのか?」

 

「ああ。ワームは殺せた」

 

「……すげえな。相変わらずほとんどソロみたいな状態でやってるんだろう?」

 

「今はもうソロじゃない」

 

 そう言って俺は視線をサタナエルたちに向ける。

 サタナエルの方は微笑み、マルキダエルの方は過剰なまでに自慢げ。

 

「なるほどな。で、50階層から60階層までの情報だったな。10万だ」

 

「ほら」

 

 俺は元気で斎藤に情報料を渡す。

 

「毎度あり。まずはマップから送信する」

 

 俺は斎藤から51階層から60階層までのマップを受け取った。

 

「このマップは誰が?」

 

「企業の連中からの横流しだ。50階層以降に潜ってマッピングするほど余裕があるのはメガコーポの連中ぐらいだろう?」

 

「それもそうだな」

 

 企業からの横流し情報ならば信頼性は高いだろう。

 まともに働いてもメガコーポがちゃんと報いる保証はないのだ。

 中には情報や物資を流して小遣い稼ぎをする連中もいる。

 

「それからクリーチャーの情報だが、厄介なのが湧く。ワイバーンが湧くし、オーガって言う化け物も湧く。ワイバーンは知っているだろうが、オーガは初めてだろう?」

 

「そうだな。どういうクリーチャーだ?」

 

「巨人さ。3、4メートルは身長があってこん棒を振り回してくる。まともに食らえばミンチだ。しかし、おつむの方はあまりよくない。ただひたすらに狂暴なだけで、冷静に対処すれば銃で殺せる相手だ。ただし、小口径ライフル弾じゃあ効果は薄いがね」

 

「ふむ。他には?」

 

「他はレッドキャップや人食いネズミがいるくらいだな。あんたにとっちゃ大した脅威じゃないだろう?」

 

「敵が俺を殺せる以上はどんなクリーチャーだって未だ脅威さ」

 

 レッドキャップも人食いネズミも俺を殺す能力はある。

 間抜けなことをやらかせば、俺はそんな雑魚にも殺されるかもしれないのだ。

 だから、どんなクリーチャーだろうと用心はしておいた方がいい。

 

「そして、60階層のエリアボスはグリフォン。これは知ってるか」

 

「ああ。それについてはよくよく」

 

「そう言えばこの間、街の真ん中でグリフォンの死体が見つかったらしいが、何か知っているか?」

 

「さてね」

 

 俺は斎藤の求めに答えをはぐらかす。

 素直に喋るとサタナエルとマルキダエルと一緒に飛んだことを白状する必要が生じてしまう。

 

「あんたなら何か知っていると思ったんだけどな。まあ、いい。情報はこれぐらいだ」

 

「助かった。また何かあったら頼む」

 

「おうよ」

 

 俺は斎藤に礼を述べ、それから酒場を出る。

 

「やはり50階層以降にもワイバーンは出没するのか……」

 

 一番厄介なのは空を飛んで襲い掛かってくるワイバーンだろう。

 機動力はそれだけで戦力になり、3次元的な動きをする敵はいつだって厄介だ。

 

「旦那様。今回の仕事ではボクたちがお手伝いをしてもいいのですか?」

 

「……いや。可能であれば何もしないでくれ。大井の連中が一緒だからな……」

 

 今回の仕事は大井の仕事だ。それも大井の重役である司馬直々の依頼だ。

 仕事の調査はしっかりと行われるだろうし、ARデバイスで現場の様子は撮影されることは間違いない。

 そうなるとサタナエルとマルキダエルがうっかりドラゴンとしての力を出して、人目を引くのは好ましくない。

 

「分かりました。では、今回の仕事では大人しくしておきますね」

 

「ああ。すまんな」

 

「いえいえ。旦那様のご迷惑にはなりたくないですから」

 

 にこにことそう微笑むサタナエルを見ながら、俺たちは自宅に戻り、それから4日後の仕事の準備を始めた。

 

 

 * * * *

 

 

 俺は完全武装でダンジョンの入り口に立っている。

 ここで大井の輸送隊列と合流する予定だ。

 

 暫く待つと時間丁度に大井傘下の民間軍事会社(PMSC)である太平洋保安公司の車列が現れた。

 大きな軍用トラックを引きつれており、そこには巨大な軍用のミュールボットとコンテナが乗せられている。

 

「あんたが佐世保?」

 

 太平洋保安公司側の指揮官だろう男がそう声をかけてくる。

 ボディアーマーとチェストリグを付けており、恐らくは身体の一部を機械化している人間だ。

 

「ああ。今回はよろしく頼む」

 

「こちらこそ。上からは凄腕を護衛(エスコート)に付けたって聞いている。頼りにしているぜ」

 

 同じプロ同士の無駄のない会話が気持ちよく、それから俺たちは早速輸送の計画を話し合った。

 

「今回は運ぶのはあの3つのコンテナだ。中身は俺も知らん。だが、上は必ず全部を60階層に届けろと命令している」

 

「途中のエリアボスは?」

 

「50階層までは先遣隊がクリアにしているはずだ。だが、60階層のグリフォンはまだだと聞いている。そこで60階層に踏み込む前にエリアボスを倒さなければならん」

 

「ふむ」

 

 グリフォンはもう復活したのか。厄介だな……。

 

「というところだ。オーケーか?」

 

「ああ。頭に入った。こちらから忠告だが途中で人間にも警戒しろ。前にそっちの下請けのコンテナが人間に襲われていた」

 

「だろうな。それにも備えている」

 

 太平洋保安公司側の部隊には対人戦用の小口径ライフル弾のアサルトライフルで武装した兵士もいる。

 彼らも俺が忠告するまでもなく、対人戦に備えているのだ。

 

「では、行こう。60階層まで」

 

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