元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──ライオンとワシ
高橋たちが合流するのを待ちながら、俺は60階層のグリフォンを見張る。
ライオンの手足を持ち、ワシの頭と翼を有するグリフォン。
その脅威は迷宮寺院での戦いで知ったつもりだが……。
「佐世保、佐世保。俺たちだけでやっちまおうぜ」
「ダメ。絶対にダメだ。高橋たちがじきに来る。お前は待機だ」
「ぶーっ!」
グリフォンを相手にマルキダエルが先走ろうとするのに俺は断固としてノー。
「旦那様、連れてきました」
それからサタナエルがそっと現れ、高橋たちが用心して接近してくる。
「本当にあれが60階層のグリフォンか……? 妙にデカいし、何か威圧されるものを感じるが……」
「ああ。俺も前にグリフォンは見たが明らかにデカい」
「クソ。変異種ってやつか……」
俺の言葉に高橋が呻く。
「どうする? 作戦があるなら聞くぞ」
「とにかく銃弾を叩き込んで始末する以外に方法があるか? 十字砲火を浴びせて、短期決戦を目指そう」
「了解だ。何かあれば俺が前に出る」
「頼りにしている」
それから高橋の部下たちが配置に付き、狙いをグリフォンに定める。
グリフォンは未だ俺たちには気づていないが、気づいたらどうなるのやら……。
「撃ち方用意」
静かに高橋が命じる。
動員された10名のコントラクターたちが射撃命令を待った。
「撃て!」
そして、グリフォンに向けて十字砲火が浴びせられた。
「────────ッッッッ!」
2方向からの射撃はグリフォンに多少のダメージは負わせたらしく、グリフォンは悲鳴のような叫びをあげる。
しかし、致命傷とはいかなかったようだ。
分厚い皮膚と脂肪、筋肉が銃弾を受け止め、バイタルを貫けなかった。
「撃て、撃て!」
それでも高橋たちは撃ち続けた。
銃弾に対して無敵の化け物などいない。
すぐにバイタルが貫けなくとも失血死は望める。
だが、それよりも早くグリフォンが反撃に動いた。
「────────ッッッッ!」
グリフォンが雄たけびを響かせると高橋たちに向けて突撃してきた。
展開される弾幕を無視し、グリフォンは高橋たちに迫る。
「不味い。散れ、散れ! 散会だ!」
すぐに高橋たちは散会し、グリフォンの突撃を回避しようとする。
「うわああっ!」
しかし、数名が突撃に巻き込まれ、弾き飛ばされた。
それから壁に叩きつけれ、呻き声を上げるだけになっている。戦闘不能だ。
「畜生! こいつ、本当に殺せるのか!?」
流石の高橋も動揺している。
「銃だけでは難しいかもしれん」
こちらには有利な陣地があるわけじゃない。
ミュールボットを盾にできればいいのだが、ミュールボットにはひとつも欠けるなと命じられた積み荷がある。
だから、俺たちは突撃を繰り返すグリフォンを相手に実に不利だった。
実質、戦車や騎兵による突撃をまともに受けるのと同じなのだから。
「俺が前に出る。やつが弱体化したら、まだ銃弾を叩き込み続けろ」
「分かった!」
俺は超高周波振動ナイフを手に前に出て、グリフォンと対峙。
グリフォンは俺が前に出るのに少しばかり警戒した仕草を見せた。
人狼変異種の時と同じだ。
やつは人間が予想外のことをするのに戸惑っている。
「さあ、来いよ、チキン野郎」
俺が挑発するような笑みを浮かべて言うのに、グリフォンは一瞬で怒りに燃えるのが分かった。
やつはすぐに俺に向けて突撃してくる。怒りに任せた突撃だ。
「来たな!」
俺はグリフォンの突撃を真っ向から受ける。
突撃してくるグリフォンを受け止め、衝撃に耐えながらしがみつく。
すでに強化脳はフルに稼働し、機械化した身体の出力も200%。
グリフォンの突撃に対する備えはできていた。
「くたばりやがれ」
俺はグリフォンの首に超高周波振動ナイフを突き立てて抉る。
グリフォンが悲鳴を上げて俺を振り払おうとするが、俺は必死にしがみつき、攻撃を続けた。
しかし、グリフォンが羽ばたき、飛び始めると俺も焦った。
天井の高さが40メートルほどあるこのフロアで空を飛び始めたグリフォンに振り落とされないように俺はしがみつくことに懸命になる。
落とされれば軍用のボディでもダメージは避けられない。
ばさばさと翼をはためかせて飛ぶグリフォン。
俺はやつの首にしがみつき、必死にやつが地上に降りることを祈った。
そこで不意にやつの翼が燃えた。
何が起きたのかはすぐ分かった。サタナエルだ。
翼が燃えたグリフォンは飛行し続けることが困難になり、地上に向けて緩やかに降下していく。
そして地面に付いたときにはやつも出血が激しく、かなり疲弊していた。
「高橋! 撃て!」
俺はすぐさまグリフォンから距離を取り、退避する。
それと入れ違うように無数の銃弾が再びグリフォンに浴びせかけられた。
グリフォンは耐えていたが、やがて出血と痛みが激しく、気絶するように倒れ、そのままくたばったのだった。
「やったな……」
「危ないところだった……」
俺が呟くように言うのに高橋が隣に来てそう言う。
「グリフォンがここまでしぶといクリーチャーだったとはな」
「変異種だからだろう。毎回こんなことをやらされていたら、企業だってここから先に進むのは難しかったはずだ」
「変異種、か。どうしてそんなものが今になって湧き始めたのやら……」
「分からん。だが、ダンジョンは俺たちを拒んでいるように感じる」
俺は高橋とそう言葉を交わしながらサタナエルとマルキダエルの方を見た。
サタナエルはにこにこと微笑み、マルキダエルは不完全燃焼気味だ。
ダンジョンは最初は俺たちを誘い込むかのように金銀宝石をダンジョン内に生じさせていた。
それは今もそうだが、次に変異種と呼ばれる危険なクリーチャーを生み出し始め、俺たちを拒もうとしている。
この先のいるのはメガコーポである大井だ。
大井が何かやっているのが原因か……?
「ともあれ、荷物は無事に60階層に届けた。あんたの仕事は終わりだ。報酬を受け取ってくれ」
「ああ」
俺たちの端末に約束通り6000万円が振り込まれた。
「ではな。あんたと一緒に戦えてよかったよ。俺たちだけだったらここで全滅していたかもしれない」
「俺だってくたばりかけた。運がよかっただけさ」
高橋がくすぐったくなるような言葉を言うのに俺は苦笑い。
それから高橋たちと別れて、俺たちは地上を目指す。
その道中で隣に立つサタナエルの方を俺は見る。
「サタナエル。さっきは助かった」
「いえ。余計な手出しだったかもしれないと思いましたが、旦那様が心配でしたので」
「余計じゃない。本当に助かったよ」
サタナエルがグリフォンの翼を燃やし、地上に降下させていなければ俺も今頃は死んでいたかもしれない。
「さあ、金が入ったし、いいものを食って、酒を飲もう」
「おおーっ!」
俺がそう言うのみマルキダエルが嬉しげに叫ぶ。
サタナエルはにこにことしたまま、グリフォンの血にまみれた俺の手を握っていた。
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