元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──マルキダエル再戦
60階層への到達は俺にとって大きな自信になった。
だが、同時に疑問も生じる。
俺は本当にこのまま60階層以降に進めるのか、と。
「おはよう、サタナエル」
「おはようございます、旦那様」
60階層への輸送の仕事が終わった翌日。
俺たちはいつものように朝の挨拶を交わし、朝食の席に着く。
マルキダエルはやっぱり昨日飲みすぎて起きてくるのが遅いが、今日は仕事もないので急ぐ必要もない。
「しかし……」
俺は昨日のグリフォン戦の際に自分のARデバイスで撮影した映像を見ていた。
そこには危うい戦いの様子が映されている。
サタナエルや高橋たちの助けなしでは、グリフォンは撃破できなかっただろう。
俺はこれから60階層を越えて先に進むつもりだ。そのつもりだった。
しかし、先の戦いからその決意が揺らぎ始めていた。
このまま進むのは危険なのではないか。いや、不可能ではないのかと。
「旦那様?」
ARの動画を見てぼうっとしていた俺にサタナエルが心配そうに声をかけてくる。
「悪い。ちょっと気になることはあってな」
「60階層以降のことですか?」
「……ああ。鋭いな」
サタナエルにずばり俺の悩みを言い当てられて、俺は僅かに動揺した。
「旦那様は60階層以降は難しいとそうお考えなのですね」
「まだ諦めるつもりはないが、どこまでいけるのか疑問になってきたのは確かだ」
「またボクと戦ってみますか?」
「いや。流石にそれはお前に悪いだろう」
前に自信を失いかけたときにはサタナエルと戦うことで自信を取り戻した。
だが、彼女をこれ以上傷つけてまで自信が得たいとは思わない。
「ふわああああ。早いな、佐世保、サタナエル」
と、ここでマルキダエルが起きてきた。
「であれば、マルキダエルと対戦してみてはどうですか?」
「……マルキダエルとか……」
サタナエルにそう言われ、俺は寝ぼけまなこで朝食を貪るマルキダエルの方を見た。
マルキダエルはサタナエルと違って俺とやり合う際にも手加減などしないだろう。
ちゃんと本気で殺しに来るはずだ。
それをしのげたら……大きな自信になるかもしれない。
「マルキダエル」
「ん? 何だ、佐世保?」
「俺ともう一度戦ってくれるか?」
俺がそう申し出るのにマルキダエルは瞬時に目を輝かせた。
「やる! 俺が勝ったらお前は俺のものな!」
「そういうことをしたいんじゃない。ただ自分の実力を確かめたいんだ」
「ぶーっ! 何か褒美がないとやるのはやだ!」
「なら、何が欲しいんだ? 俺以外のもので」
「そうだな……お金! 俺が勝ったら1億円くれ!」
「随分とデカく出たな……」
1億円はほぼ俺の全財産だ。
それを取られるのは困るが、そもそもマルキダエルに負けたら俺は死ぬだろう。
「分かった。それでいい。早速、今日の昼にやろう」
「分かった!」
俺たちは人狼がいなければ30階層で戦うことにした。
俺はマルキダエルにちゃんと勝てるだろうか……。
* * * *
30階層には人狼はいなかった。
開けたフロアはがらんとしており、誰もいない。
「マルキダエル。準備はいいか?」
「いつでもいいぞー! 今度はぼこぼこにしてやるからな!」
「ああ。殺すつもりで来てくれ。手加減なしでな」
リターンマッチだとばかりに気合を入れるマルキダエルに俺はそう言う。
「おーしっ! やるぞ、佐世保!」
「ああ」
俺が同意した次の瞬間、黒い翼がマルキダエルを包み、それが開くとやつはドラゴンの姿へと変わった。
「死ね!」
マルキダエルは本当に容赦なく攻撃してきた。
火炎放射がすぐに放たれ、俺は強化脳を起動してすぐさまそれを回避。
それでも炎の狙いは精確であり、高熱の炎は俺の皮膚を焼くように掠めた。
「それでこそだ」
本気で殺しに来てもらわなければ自身には繋がらない。
今の俺には生ぬるい接待試合はいらないのだ。
本気の殺し合いで自分の実力を再確認したい。
60階層以降に潜る資格はあるのかどうかの。
「はーはっはっはっはっ! 近寄らせはしないぞ!」
マルキダエルは以前の俺との戦闘で俺が近接しなければやつにダメージを与えられないことを学習している。
ゆえにやつは炎を振りまき、炎の壁を作って俺の進撃を阻害していた。
「こいつは苦戦しそうだ……!」
近づけなければマルキダエルにダメージは与えられない。
炎の壁を突破しなければ。
「このまま焼き殺す!」
マルキダエルは狂ったように炎を振りまき、30階層全体の温度が急上昇していった。
俺の額にも汗が粒を作って浮かび、下に流れていく。
このまま長期戦になれば蒸し焼きにされるか、酸欠で死ぬな。
「ならば!」
俺は思い切って炎の壁に突っ込んだ。
一瞬炎が身を焼くが、その痛みは感じない。
痛覚をマスキングしている俺にとって炎に感じるのは恐怖だけ。
その恐怖を今、俺は大きく乗り越えた。
「何っ!?」
俺が炎の壁を突破してきたことに、マルキダエルが焦りを見せる。
俺はそのままマルキダエルに向けて突進するが、やつも次は肉弾戦の構えを取った。
「今度は負けない!」
マルキダエル鋭い爪の並ぶ腕を振り上げて斜めに振るう。
俺は後方にステップしてそれを回避すると、すぐに振り終えたあとの隙に乗じてやつの首に飛び掛かろうとした。
「させるか!」
マルキダエルは自分を中心にぐるりと回転し、長い尻尾で俺を薙ぎ払った。
俺にその尻尾が直撃し、彼は壁に叩きつけられる。
「クソ。マジで本気だな……」
「ははははっ! 降参してもいいんだぞ、佐世保!」
マルキダエルはそう余裕の言葉を発する。
だが、俺は諦めない。まだ諦めてはいけない。
「ふんっ!」
機械化した身体の出力を200%を超えて引き出し、人工筋肉を駆動させ、人工の肺をぎりぎりまで酷使し、限界を超えて走る。
「なっ!」
俺のその速度にマルキダエルが動揺するのが見えた。
やつは焦って爪での攻撃を試みるが、俺はそれが放たれるより素早くやつの懐に飛び込んだ。
そして、やつの首に飛び掛かることを再度試みる。
「おのれ!」
マルキダエルは首をひねって攻撃を躱そうとするがもう遅い。
完全に俺の間合いにマルキダエルを捉えた。
「おおおおっ!」
俺は雄たけびとともにマルキダエルの首を滅多刺しにする。
超高周波振動ナイフで貫き、抉り、また刺す。
マルキダエルは抵抗していたが、やがて力を失い、ぐったりと倒れた。
「やったか……」
マルキダエルが動かなくなったのを見て俺はそう呟く。
それからマルキダエルの身体が輝き、やつが人間の姿に戻った。
やつは血まみれで、うへえという残念そうな顔をしている。
「また負けた……。お前、強すぎるぞ! ずるい!」
「お前も強かったよ。危うく本当に死ぬところだった」
「殺すつもりだったからな!」
「ああ。助かった。これで自信がついた」
マルキダエルは大きな胸を張ってそう言い、俺は笑みを浮かべてそう返す。
「旦那様。お見事でした」
「ありがとう、サタナエル。これで自信がまた出てきた。俺は目指すぞ──」
サタナエルも微笑んで俺に声をかけるのに俺は宣言する。
「──このダンジョンの最深部を」
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