元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──3つ首の獣
ケルベロスの前足に抑え込まれた俺。
身動きの出来ない俺にケルベロスの牙が迫り、硫黄の臭いがする。
前足に込められた力がさらに強まり、俺の機械化されている身体が軋みを上げた。
「クソ……!」
ARデバイスに身体のエラーがあちこちで生じていることが報告される。
俺の身体が壊れていっている。
このまま俺は死ぬのか……?
「放せ、この野郎……っ!」
ケルベロスの迫る頭に向けて俺はナイフを振るうが、やつの鼻先を裂いただけで、ケルベロスへの反撃にはなっていない。
「クソ……畜生……」
ケルベロスの前足はがっちりと俺を抑え込み、爪がバイタルを守る装甲に食い込み、さらにエラーがARデバイスに表示されていく。
抵抗を試みるが、全て上手く行かない。
ケルベロスの前足にナイフを突き立ててもやつは平然とている。
そこで心肺機能が圧迫され、致命的なエラーを吐き始めた。
呼吸が苦しい。痛覚マスキングでもごまかしきれないほどの苦しさだ。
不味い。このままでは俺は本当に……。
そこでケルベロスが燃え上がった。
やつは炎に覆われた状態で悲鳴のような咆哮を上げ、転がりまわって火を消す。
「旦那様。大丈夫ですか?」
サタナエルだ。やつが助けに来てくれたのだ。
「いや……。少しばかり不味いな……」
身体の損傷が大きい。
このままではまともに戦えないだろう……。
「でも、諦めたくはないのですね?」
「ああ。当然だ」
俺の身体は傷つき、戦うのが難しくなっている。
だが、俺の闘志まで折れたわけではない。
俺は今でもケルベロスをぶちのめし、70階層を踏破すると言う野心に燃えている。
「であるならば、ボクの力を旦那様にお貸しします」
サタナエルはそう言うと、俺をぎゅっと抱きしめて唇にキスをした。
この非常時に何を……と思ったが、すぐに何が起きたか分かった。
俺の機械化された身体に生じていたエラーが次々に修復されていき、エラーは全て解決したのだ。
「これは……」
それどこかさっきより遥かに身体が軽い。
どこまでも飛び出していけそうなほどに軽くなった身体を感じながら、俺はナイフを握り立ち上がる。
「サタナエル。理由は分からないが助かった。今から俺はあの化け物を殺す」
「はい、旦那様」
俺はナイフを握り直し、そしてケルベロスに向けて殺意を向けた。
ケルベロスがたじろぐのが分かった。
やつはどうして俺がまだ立ち上がれるのかと疑問に思っているようにも見えたが、実際にあのクリーチャーが何を考えているかは不明だ。
だが、関係ない。俺はやつを殺すのみ。
「うおおおおっ!」
俺はケルベロスに向け突進する。
機械化された肺を全力で稼働させ、機械化された身体を全力で稼働させ、とにかくケルベロスに向けて突っ込む。
ケルベロスはそんな俺を迎え撃とうと顎を大きく開いた。
だが、俺はそのような反応に恐怖することなく突っ込み、中央の頭に向けてナイフを振りかざす。
そのとき俺の手に炎が宿るのが分かった。
サタナエルが操るような青白い炎。
それがナイフに、俺の手に宿っている。
熱くはない。ただ、不思議と力が湧いてくる。
「くたばりやがれ!」
俺はその炎の宿るナイフをケルベロスの頭部に突き立てた。
次の瞬間、ナイフがケルベロスの頭部を貫き、同時に内部からやつが燃えた。
炎が口や鼻から噴き出し、ケルベロスが悲鳴を叫ぶ。
ケルベロスは抵抗するように暴れたが、それは長くは続かず、ついにやつは息絶えたのだった。
「やったぞ……」
ケルベロスを倒した。
70階層踏破だ。
「流石です、旦那様」
「おー! なかなかやるな、佐世保!」
それからサタナエルとマルキダエルが祝福にやってくる。
「ああ。何とかな。しかし、さっきのは一体……?」
「ダンジョンが情報生命体をこの世界の生物にコンバートする施設なのは前にお教えしましたよね。それを旦那様にも適応したのです」
「何だって……?」
「旦那様の情報を変更し、ダンジョンによって適応させる。だから、あの身体の修復ができたのですよ」
なんてこった。それはまるで俺がクリーチャーと同じようなものになったと言うことじゃないのか?
「そうしなければ旦那様は死んでしまいましたから」
サタナエルはそう申し訳なさそうに言う。
「……そうだな。俺は俺のままだ。気にすることじゃないな」
サタナエルのそんな様子を見せ、彼女を責めるのは筋違いだと俺は悟った。
あの状況から復帰し、さらにはケルベロスを撃破できたのだ。
感謝こそすれど責めるわけにはいかない。
「改めて助かった、サタナエル。じゃあ、地上に戻ろう」
「はい」
俺たちはそれから地上を目指す。
道中の敵はマルキダエルが掃討していった。
今回の仕事でも分け前が欲しいからということだったが、今回は無報酬の仕事なので分け前はゼロだってことを知っているんだろうか。
そして無事に地上に出て、俺たちは一息つく。
「一応病院に行っておこう。医者に見せても大丈夫だよな……?」
「大丈夫ですよ。彼らは気づかないはずです」
「分かった」
俺はいつものようにかかりつけ医である忍野がいるクリニックを目指した。
「先生。今日も身体の検診を頼む」
俺はガラガラの待合室からすぐに診察室に通され、忍野にそう頼む。
「分かりました。また無茶をなされたので?」
「そんなところだ」
忍野の問いに俺はそう返し、忍野はいつものように俺にケーブルを繋いてARデバイスで検診を行っていく。
「ん……? 佐世保さん、もしかして人工筋肉を弄りましたか?」
「いや。あんたに付けてもらったもののままだ」
「そうですか……。ふむ……。じゃあ、ただの誤差でしょうか……」
「何かあったのか?」
「少しばかり出力が大きくなっているようなのです。まあ、誤差の範囲の数値ですが、ちょっと気になって」
「……そうか」
サタナエルは俺の情報を編集して、俺の身体を癒した。
だが、それだけではなかったのは明らかだ。
あのときは以前より遥かに身体が軽かったし、手には炎を宿していたのだから。
「異常はそれだけで気にするべきものではありませんね。健康そのものですよ」
「ありがとう、先生。また何かあれば頼む」
「はい」
俺は会計を済ませ、病院の外にいたサタナエルたちと合流。
「終わったぞ」
「どうでしたか?」
「確かに医者は気づかなかったよ」
サタナエルが尋ねるのに俺は肩を竦めてそう返した。
「しかし、これでついに70階層踏破だ。次は80階層に挑むぞ。そして、このまま最深部まで……!」
俺が気合を入れる中、ARデバイスに着信があった。
それは大井の渉外担当者──司馬からの着信であった。
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