元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──炎の剣
宙に炎の剣を浮かべたドラゴン。
「クソ。あれをどう使うつもりだ……?」
次の行動が想像できない。
それは戦場において致命的なまでに厄介な話だった。
『死ね』
ドラゴンのその言葉と同時に炎の剣のひとつが、俺に向けてまるでミサイルのように飛んでくる。
「まさか!」
そのまさかであった。
炎の剣は回避行動を取ろうとする俺を追尾してきたのだ。
俺の回避は成功せず、炎の剣が命中。
炎が爆ぜ、その爆発によって俺は吹き飛ばされる。
身体が大量のエラーを吐き出し、俺は衝撃に呻く。
しかし、死にはしなかった。俺はまだ生きている。
「やってくれるぜ……!」
こうなると恐怖より怒りの方が優る。
俺は闘志を燃やし、未だ炎の剣を浮かべるドラゴンを睨んだ。
「クソドラゴン。ぶち殺してやる」
俺はそう宣言し、ドラゴンに向けて駆けた。
強化脳をフル稼働させ、俺はひたすらに駆ける。
『死ぬのは貴様だ』
ドラゴンはそう言い返し、俺に向けて炎の剣を放ってくる。
今度は残る5本全ての炎を剣がやはりミサイルのように向かってきた。
あれが全て命中して爆発すれば、流石の俺もくたばるだろう。
だが、当たってやるつもりはない。
ミサイルのように迫る炎の剣より速く、俺は走った
走り、走り、走り──。
ドラゴンの姿が瞬く間に迫ってくる。
『ふん。一つ覚えの近接戦か。その手は食わん』
ドラゴンはそう言い炎の剣を加速させて俺に迫らせる。
「うおおおおっ!」
だが、それはそれでも炎の剣より速く動いた。
どこまでも速く。加速し続ける。
体がばらばらになりそうなほどに加速した俺は、ドラゴンに向けて突っ込んだ。
同時に背後から迫っていた炎の剣が俺に命中し、爆発を起こす。
だが、その爆発の衝撃すらも使って俺はドラゴンの懐に飛び込む。
「くたばれえ!」
俺はナイフをドラゴンの首に突き立てると同時にケルベロスにそうしたようにナイフから炎を生じさせてドラゴンを内部から焼く。
『ぐああああっ!』
ドラゴンが悲鳴を上げ、俺はそのままドラゴンを焼き続ける。
内部に向けて俺は炎を注ぎ込み続け、ドラゴンは炎に塗れてゆく。
しかし、それでもやつは俺を振り払った。
俺もさっき受けた爆発のせいで身体の出力が落ちており、耐えきれなかった。
どんっと地面に落ち、転がる俺は力を振り絞って上体を起こし、ドラゴンを見る。
『……なるほど。確かにこれは……英雄……だ……』
ドラゴンは最後にそう述べて地面に崩れ落ちた。
ドラゴンは──倒されたのである。
「やったぞ」
俺はふらふらと立ち上がってそういう。
「旦那様、やりましたね」
「ああ……。だが、これ以上はやはり動けん……」
俺はよろめき、サタナエルがそれを支えてくれた。
「流石だな、佐世保! 俺との特訓の経験が生きただろう!」
「はは……。ああ、そうだな……。役に立った──」
マルキダエルがそう笑うのを聞いたのが最後となり、俺は意識を手放した。
* * * *
目覚めるとベッドの上であった。
見覚えのある天井。この天井は忍野の病院の天井だ。
「ん……」
「大丈夫ですか、佐世保さん」
俺が状態を起こそうとするのに、忍野の声がした。
「俺はどうやってここまで……」
「あなたの家族と言う方が運んできましたよ。今も待合室で待っています」
「家族……?」
俺は忍野が何を言っているのか理解できなかった。
「それより身体の方ですが、応急手当はしてあります。しかし、精密検査が必要になるでしょう。今回はこのまま入院としましょうね」
「ああ。分かった……」
俺はぼんやりとそう答える。
そしてベッドの上で横になっていると来客が来た。
「旦那様」
「佐世保! 大丈夫そうだな!」
サタナエルとマルキダエルだ。
「……もしかして、家族ってお前たちのことか?」
「ええ。ボクは旦那様のお嫁さんですからね」
「ああ。そうだったな……」
忍野から家族と聞いてもぱっとしなかったが、思えばサタナエルは俺の嫁を名乗っているのだった。
「今日はこのまま入院らしい。お前たちは先に家に帰るか?」
「いいえ。私たちもここで待ちます」
「そうか。……ありがとうな」
俺はサタナエルのその気持ちに礼を述べた。
それから俺は一度入院し、精密検査を受けた。
精密検査の結果、一部身体の機能に損傷があるがすぐに直せると分かり、俺はそのままナノマシンによる治療を受けたのだった。
そうやって入院の翌日には動けるようになり、俺たちは歩いて自宅に戻った。
するとARデバイスに着信が。
「司馬か」
『佐世保君。ご苦労だった。我々としてもとても助かったよ。君に頼んだのは間違いではなかったようだ』
司馬はそう言うがにこりともしない。
『君はこれから90階層を目指すのかね?』
「そのつもりだ」
『では、これからの我々は競合事業者だな、ライバルと言うわけだ』
「メガコーポがただのいち探索者をライバル扱いか?」
『君はドラゴンをまたしてもソロで討伐した。そのときの映像を見たが、君がただの探索者というのは欺瞞のように思える』
クソ。やはり太平洋保安公司の連中が撮影していたか。
俺が炎を発したりするのは見られていたわけだ。
『だが、また何かあれば君を頼らせてもらうよ。それでは』
その通話が切れると同時に俺のウォレットに8000万円の入金があった。
本当にメガコーポは太っ腹だな……。
「サタナエル、マルキダエル。いよいよ俺たちもメガコーポに目を付けられたようだ」
「ははーっ! それがどうした! 返り討ちにしてやればいい!」
俺の言葉にマルキダエルは気楽にそう返す。
「そういうわけにいくかよ。相手はメガコーポだ。しかし……」
俺はそこであることを思い出した。
「サタナエル。ドラゴンはなぜ優れた個を求めているなんてことを言ったんだ?」
そうである。
やつはメガコーポの連中は最初から相手にしていなかったが、俺には試すような言葉をかけていた。
それが疑問だったのだ。
特異点、イレギュラー、英雄。
まるでそれを求めているような言い方だった。
「子供ですよ」
サタナエルが告げる。
「強い個体の子供がほしい。我々はそう願っているのです」
俺の問いにサタナエルはにこにこと笑ってそう言うのみで、それ以上のことを語ろうとはしなかった。
子供、か。
どんな生物も強い個体の子孫を残すことで種の存続を図ると言うが、悪魔までそうなのだろうか?
そうだとすれば、俺は悪魔の繁栄を助けることになるのか?
俺はそんな疑問を抱えながら自宅へと戻った。
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