元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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実験

……………………

 

 ──実験

 

 

 俺たちは次に90階層に向かう準備を進めている。

 90階層までの情報は司馬から手に入った。

 81階層から90階層まではオーガに加えてゾンビが出没するとなっていた。

 

 ゾンビと言っても噛まれたら自分もゾンビになるタイプのものではなく、クリーチャーや探索者の死体が寄生虫のような生き物によって操られているらしい。

 気味の悪い話だが、銃で対処可能だ。

 

「よし。準備はいいな」

 

 俺が90階層に向かえる準備を整えたときだ。

 ARい不審な着信があった。知らない人間からの着信だ。

 

「……もしもし?」

 

 俺は警戒しながらも着信に応じる。

 

『佐世保朔太郎さんですね。私はジェーン・ドウ。ある企業の代理人です』

 

 発信者は女だった。

 ブランドもののスーツを身に着けた特徴のない顔立ちの女の映像がARに映る。

 

「ある企業? どこだ?」

 

『それは申せません。ただあなたに依頼があります』

 

「……どんな仕事だ?」

 

 俺は警戒を続けながらもそう尋ねる。

 

『大井が熊本ダンジョンの90階層で行っている実験を妨害してほしいのです。報酬額は日本円で2億を提示させていただきます』

 

「ちょっと待て。大井の実験の妨害をしろだと?」

 

 俺はジェーン・ドウと名乗る女の言葉に狼狽えた。

 大井はこれまで俺の雇用主だった。

 それを裏切って、大井を攻撃しろとこの女は言っているのだ。

 

『大井は現在人類にとって危険な実験に手を出しています。それを阻止しなければならないのです。これは我が社の利益だけではなく、人類にとっての利益となる仕事だと思ってください』

 

「どう危険なのかは、説明しないのか?」

 

『ダンジョンが人類の理解を越えた超常現象であることはあなたもご存じのはずです。大井はそれをいたずらに弄んでいる。その危険性はお分かりでしょう?』

 

「確かに、それはそうだが……。そもそも大井は何の実験をしている?」

 

『ダンジョンからエネルギーを取り出すための実験です。ダンジョンが通じている異空間からエネルギーを抽出する。そのような実験を大井は試みているようです』

 

「ダンジョンからエネルギーを……」

 

 俺はジェーン・ドウの言葉に考え込む。

 そんなことが可能なのだろうか?

 ダンジョンは金銭を生じさせることはあっても、石油や天然ガスのような地下資源を算出するわけではないと思うのだが。

 

『決断できましたら、こちらにご連絡ください。前金として5000万円をお支払いする準備があります』

 

 ジェーン・ドウはそう言って通話を切った。

 

「……ダンジョンからエネルギーを……」

 

 俺はジェーン・ドウが言ったことを反復し、サタナエルの方を向く。

 

「サタナエル。ダンジョンからエネルギーを抽出するなんてことができるのか?」

 

「可能かもしれません。ダンジョンは情報生命体を物質にコンバートする機能があります。そして、地獄には無数のこの世界でエネルギーなりえる物質を記述したコードが存在する」

 

「それらをコンバートすれば、地獄の情報が現実でコンバートされて使用可能なエネルギーになる、か。筋は通っているな……」

 

 地獄と言う情報世界からダンジョンと言うコンバーターを通じて、そのエネルギーを取り出す。

 ジェーン・ドウが言っていたような危険な行為だとはあまり思えない。

 

「しかし、ダンジョンにはダンジョンの意志がある。彼らは物言わぬプログラムではありません。もしかすると、ここ最近のダンジョンの異常は大井のその実験のせいなのかもしれませんね」

 

「そうか……」

 

 大井の実験が大勢を危険にさらしているとすれば止めるべきか?

 しかし、それは大井と言うメガコーポを敵に回すことを意味する。

 メガコーポを敵に回せば、いくら大金があっても安らげないだろう。

 

「実験についてはやはりどうでもいい。俺たちは純粋にダンジョンの最深部を目指す」

 

 結論として俺はジェーン・ドウの依頼を受けないことにした。

 受けることのリスクが大きすぎるのだ。

 もちろん受けないことで別のメガコーポを敵に回すかもしれないが、積極的に俺の命を狙うようなことにはならないだろう。

 

「サタナエル、マルキダエル。90階層を目指すぞ」

 

「おーっ!」

 

 俺の言葉にマルキダエルが大声を出す。

 そして、俺たちは90階層に向けてダンジョンに潜ることに。

 

 

 * * * *

 

 

 途中、エリアボスが復活していれば厄介だったが、幸いなことに復活はなかった。

 俺たちは雑魚を蹴散らしながら90階層を目指す。

 

「しかし、これまでの変異種の存在が大井の実験の生である可能性か……」

 

 ダンジョンは大井の実験に抵抗しようとしているのだろうか?

 大井の実験を妨害すべく、変異種を生み出してエリアボスとして配置した。

 その可能性はあるような気がする。

 しかし、ダンジョンに話を聞くわけにはいかないので、これはあくまで憶測だ。

 

 それにあのドラゴンの言葉も気になる。

 やつは地獄を守らなければならないと言っていた。

 地獄側が大井が好き勝手にコンバートしようとするのに抵抗して、強力なクリーチャーをけしかけてきた可能性もあるだろう。

 

 いずれにせよやはり憶測。

 答えのない話だ。

 

 そして80階層に到達するとやはりそこにあのドラゴンの姿はなく、俺たちは81階層に降りた。

 81階層からはクリーチャーのタイプも変わる。

 用心していかなければ。

 

 俺は81階層に踏み込む。

 するとずるずると何かを引きずる音が聞こえ、俺はそっちの方を向く。

 

「アアアアァァァァ……」

 

 それは自分のちぎれかかった下半身を引きずって進むオーガであった。

 明らかに致命傷で死んでいるだろうに、動いている。

 

「これがゾンビってやつか……」

 

 俺は情報に合ったように頭に向けてスラッグ弾を叩き込む。

 それでゾンビオーガは沈黙した。

 

「死体が動くってのは想像以上に不気味だな」

 

「俺が全部燃やしてやってもいいぞ!」

 

「本当か? では、頼むとしようかね」

 

「任せろ!」

 

 道中の雑魚はこうしてマルキダエルが相手にすることになり、俺とサタナエルは後方を警戒しながら前進する。

 

 ゾンビは思ったより数が多い。

 群れているときは10体、20体が一斉に押し寄せてくる。

 しかし、その相手はマルキダエルだ。

 

「はっはーっ! 燃えろ、燃えろー!」

 

 マルキダエルは全てを焼き払いながら前進していく。

 火炎放射器のように炎の剣から炎を放ちながら前進していくマルキダエル。

 こいつはゾンビにはかなり有効だ。

 ゾンビは燃え上がり、そして無力化されていく。

 

「いいぞ、マルキダエル。家賃1年分免除だ」

 

「おお! もっと頑張る!」

 

 マルキダエルはそう言ってにやりと笑うとさらに暴れ始めた。

 この深層には一般の探索者はいないのでマルキダエルを好きに暴れさせられる。

 

「さて、問題は90階層だ」

 

 90階層では大井は実験を行っているというジェーン・ドウの情報と同時に俺は90階層のエリアボスの情報も持っていた。

 

 90階層のエリアボスは──。

 

……………………

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