元軍人さん、ダンジョン探索者になる。 作:第616特別情報大隊
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──首なし騎士
迫る90階層。
俺たちはマルキダエルを先頭に突き進んでいく。
「佐世保! ゾンビじゃない連中がいる!」
そして90階層が近づいたとき、マルキダエルがそう大声を上げた。
「あれは……太平洋保安公司の連中だ」
装備からして太平洋保安公司で間違いないだろうが、様子がおかしい。
何か逃げているように見える。
やつらは後方に向けて射撃しながら俺たちの方に向かってきており、このままだと接触する。
「おい! 何があった!」
俺はそこで太平洋保安公司の連中に声をかけた。
「化け物だ! 化け物が90階層に!」
大井の連中はそう言って俺の脇を抜けていく。
「エリアボスのことか!?」
「そうだ! 逃げた方がいいぞ! 他の連中は全滅した!」
太平洋保安公司はそう言うと大急ぎで逃げて行き、俺たちだけが不気味に静まり返る89階層に残された。
「クソ。太平洋保安公司に撤退を強いるほどのエリアボスってわけか……」
しかも90階層では大井が何か実験をしていると言う話だった。
それならばそこそこの規模の部隊がいただろう。
それが全滅? どんな化け物が出た……?
「どうする、佐世保! 進むのか!?」
「進む。どんな化け物がいようとぶちのめして進む」
「それでこそ!」
俺はそう宣言し、マルキダエルと先頭を交代して90階層に向かった。
90階層に続く階段にはべったりと血が残されている。
明らかに激しい戦闘があったあとだ。
「……行くぞ」
俺はそう言い、90階層に潜り始めた。
90階層は司馬からの情報にあったように開けた空間になっている。
そして、そこには吐き気がするほどの血の臭いが充満していた。
見れば死体があちこちに転がっている。
太平洋保安公司のコントラクターの死体もあれば、そうではない技術者らしき人間の死体もある。
さらに90階層中心部には何かの装置が据え付けられていた。
巨大な機械の塊で発電機からいくつものケーブルが伸びて繋がっている。
その機械は重低音の音を立てて、今も動いているようだ。
「旦那様。90階層のエリアボスは?」
「90階層のエリアボスは──」
俺がサタナエルに答えようとしたとき、問題のエリアボスが姿を見せた。
首のない騎士。ダンジョンに似つかわしくない軍馬に跨り、本来首のあるべき場所には霧のように黒い靄がかかっている。
そして、その身体には黒い甲冑が、その手には血を帯びた大きな剣が。
「──デュラハンだ」
首なし騎士デュラハン。
それが90階層のエリアボスであった。
「はははっ! あいつ、頭をどこかに置き忘れたみたいだぞ!」
「みたいだな。よって首や頭部は弱点にならない。弱点は胸部のバイタルだ」
マルキダエルが嘲るように笑い、俺もその言葉を受けてにやりと笑う。
「俺たちならやれる。やるぞ……!」
俺はそう宣言し、デュラハンに向けてショットガンの銃口を向ける。
デュラハンそのものに効果がなくとも馬には効果があるかもしれない。
まずは軍馬から叩き落さなければ仕事にならない。
「くらいやがれ!」
俺はショットガンを発砲。
スラグ弾をデュラハンの軍馬に叩き込んだが──。
「────────────ッッッッッッ」
軍馬が嘶き、その前足を高く上げる。
スラグ弾は軍馬に有効ではなかったようだ。
明らかに軍馬にダメージはない。
「クソ、期待はしていなかったが……!」
銃火器が通用する相手ならば、そもそも大井が撤退を強いられることはない。
軍馬は前足を付けるとデュラハンが軍馬の手綱を引き、軍馬を突撃させる。
俺たちに向けて軍馬と大剣を振るうデュラハンが突進してきた。
「畜生」
俺はすぐさま回避したが、デュラハンは大剣をぶうんっと風切り音を立てて振るい、その刃が俺の首を掠めた。
危ういところだった。やつの狙いは精確だ。
「喰らえーっ!」
マルキダエルはデュラハンを迎え撃つ姿勢を見せ、例の超電磁砲を真似た火炎放射抜刀を行う。
火炎放射が弧を描いて放たれ、軍馬を炎に包む。
しかし、それでも軍馬は止まらず、マルキダエルの前で回頭すると距離を取った。
「むむっ! 炎に包まれても死なないだと!」
「道理で大井が苦戦するわけだな」
マルキダエルの炎を受けても平然としている軍馬を前に、マルキダエルと俺が唸る。
「これまでのクリーチャーとは仕組みが違うようだ。だが、上の首なし騎士が本体なのは間違いないだろう。叩きのめすぞ」
俺はそう言い、距離を取ったデュラハンに向けてこちらから突撃。
軍馬が加速するよりも速く軍馬の上にいるデュラハンに飛び掛かるのが狙いだ。
デュラハンは思ったように短い距離では十分に加速できず、俺は辛うじて動き出したデュラハンに向けて襲い掛かった。
デュラハンは大剣を振るって抵抗しようとするが、俺はそれを抑えて、デュラハンを軍馬から引きずり下ろす。
俺たちはもみ合いになりながらも、デュラハンとともに地面に落ちた。
軍馬は暴走し、サタナエルとマルキダエルの方に走っていくのが見えたが、俺にはそっちを気にしている余裕はない。
デュラハンは俺を強力な力で突き飛ばすと、大剣を構えて俺に対峙したのだ。
「そう簡単にはやられてくれないか」
俺もナイフを構えて、デュラハンに対峙。
狙うべきはバイタルだ。首がなく、脳もないデュラハンにとっての弱点はそこしかないのだ。
「さあ、来いよ、化け物。ぶち殺してやる」
俺はデュラハンに対峙しながら、じりじりとやつとの距離を詰める。
やつの握る大剣は刀身が1.5メートル以上あり、その分リーチが長い。
俺の間合いにやつを収めなければ、やつに斬り刻まれるだけだ。
そしてデュラハンの方も俺との距離を大きく詰め始めた。
「ふんっ!」
それからお互いに同時に動いた。
デュラハンは大剣を水平に振り回し、俺はそれを滑り込むようにスライディングで回避し、やつの懐に飛び込むことを試みる。
デュラハンは甲冑の金属音のみを発して、俺を狙ってくる。
大剣が空振りに終わり、隙が生じる中でもデュラハンは姿勢を立て直して反撃しようとしたのだ。
だが、それよりも俺の動きの方が早い。
俺はデュラハンの胸に向けてナイフを突き立てる。
甲冑がすっと裂け、デュラハンの胸部に深々とナイフが刺さった。
しかし、どうにも手ごたえがない。
血が溢れ出す様子もないし、デュラハンが怯んだ様子もない。
「ぐっ……!」
デュラハンは俺を突き飛ばし、俺は地面に転がる。
「流石は大井が敗北した相手なだけある、か」
俺はデュラハンの脅威を前にそう言った。
デュラハンは大剣を再び構えて俺に向けて突進してくる。
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