元軍人さん、ダンジョン探索者になる。   作:第616特別情報大隊

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ドッペルゲンガー

……………………

 

 ──ドッペルゲンガー

 

 

 俺と対峙するドッペルゲンガー。

 

「最後の敵が自分とはな! 本当に笑えるぜ!」

 

 ショットガンの銃弾が互いを掠める。

 ドッペルゲンガーが有するショットガンと俺の有するショットガンがお互いに火を噴き、互いを狙い合う。

 

 しかし、ドッペルゲンガーはショットガンでの撃ち合いよりナイフの戦闘を望んでいるようだ。

 やつは確実に距離を詰めてきていた。

 

「近接戦か……!」

 

 俺と全く同じ機械化率で、俺と全く同じ技量なら近接戦は不味い。

 俺は俺自身を打ち負かせるのか、自信がなかった。

 しかし、ドッペルゲンガーの方は俺を殺せる自信があるのだろう。

 銃撃を回避を繰り返しながら、じわじわと確実に距離を詰めている。

 

「こうなりゃやるしかない……!」

 

 俺は弾切れのショットガンを投げ捨て、腰のホルスターからナイフを抜いた。

 そして、ナイフを構え、同じくショットガンを捨てたドッペルゲンガーと対峙。

 ドッペルゲンガーは一歩踏み込み、俺に向けて刃を振るった。

 

「畜生」

 

 俺は高度に機械化された肉体から繰り出される斬撃を紙一重で回避。

 すぐさま反撃を繰り出す。

 ナイフを振るってドッペルゲンガーの首を狙う。

 しかし、ドッペルゲンガーも俺と全く同じスペックをしているようで、俺の斬撃をすいと躱し、油断なく反撃してくる。

 

 そうやってナイフによる格闘戦が続いたが、追い詰められているのは俺の方。

 俺は自分と戦う訓練などしてこなかった。完全な予想外の敵に戸惑っている。

 

「全力で行くしかないな……!」

 

 強化脳を200%、250%と演算力を引き上げ、さらには機械化された身体の出力も同様に200%、210%。220%、230%……と引き上げていく。

 

 ここまで出力を引き上げたのは久しぶりだ。

 果たして身体が脳の処理に追いつかなくなる先が、逆に脳が体に追いつかなくなるのが先か、あるいは出力の無理な引き上げで空中分解するのか。

 これはやってみなければ分からない。

 

「はあああっ!」

 

 大きく踏み込み、一気にドッペルゲンガーの懐に飛び込もうとするが──。

 

「ふんっ!」

 

 ドッペルゲンガーは素早く蹴りを放ち、俺と距離とをった。

 しかし、俺は姿勢を崩さず、再度接近。

 ナイフを握り締め、ドッペルゲンガーに肉薄を試みる。

 そんな中で手に熱いものを感じた。

 

「炎が……」

 

 俺の手にサタナエルが放つような青白い炎が宿っていた。

 しかし、その炎は俺を焼くわけではなく、ナイフに宿ったまま静かに燃えている。

 これまでエリアボスを倒してきたときのように。

 

「これは……使えるかもしれない」

 

 俺はマルキダエルのやっていたことを思い出す。

 超電磁抜刀に似た居合のモーションで放つ火炎放射だ。

 

「はあっ!」

 

 俺は引き続きドッペルゲンガーとの距離を詰めながら、ナイフをマルキダエルのように振るう。

 俺の狙い通りにナイフから炎が放たれ、炎がドッペルゲンガーを襲う。

 流石にマルキダエルがやっていたようにはいかず、僅かな炎がドッペルゲンガーに襲い掛かっただけだが、それでも相手に隙を生じさせることには成功した。

 

「このまま畳む!」

 

 俺は炎から身を守るため両腕を交差させた姿勢を取ったドッペルゲンガーに向けてナイフを振り下ろした。

 ナイフがやつの腕を裂き、左腕を斬り落とす。

 ばっさりと切断された断面から黒い血がほとばしる。

 俺の赤い血とは異なる墨のように真っ黒な血だ。

 

 しかし、それでもなおドッペルゲンガーは諦めず、右腕でナイフを振るって反撃してきた。

 ナイフを振るい、振るい、振るい──。

 

「ちっ! 自分自身を相手にするのがここまで苦労するとは……!」

 

 俺は舌打ちしながらも片腕で猛攻を繰り出す、ドッペルゲンガーに押され始めた。

 相手は手負いだというのに。

 いや、手負いだからこそか。

 手負いの獣には用心しろと言う。

 自分自身を獣だと認定したくはなかったが、この警句が当てはまることは確かだ。

 

「ならば、確実に仕留める──!」

 

 俺が狙うのはドッペルゲンガーがナイフを握る右手。

 その手に握る超高周波振動ナイフが俺に向けて振り下ろされるのを弾くようにして受け、カウンターとして右手の腱を切断した。

 

「よし!」

 

 これで相手は無防備だ!

 

「うおおおおっ!」

 

 最後の攻撃だと決意して俺はナイフをよろめくドッペルゲンガーの首に叩き込んだ。

 ナイフの刃はドッペルゲンガーの首裂き、俺と同じ顔をした存在が苦痛に表情を歪めながら口から黒い血を吐く。

 

「がふっ……」

 

 最後にごぼっと大きく泡立った血を吐き、ドッペルゲンガーは地に倒れた。

 

「……やったぞ……」

 

 ドッペルゲンガーを撃破した。

 これでダンジョンの最後のエリアボスが撃破されたことになる。

 

「これでダンジョンを制覇した、ということになるのか……?」

 

「ええ、旦那様。旦那様はこのダンジョンを制覇しました。あなたは地獄とダンジョンの力でどんな財宝だろうと手に入れることができる」

 

 しかし、とサタナエルがそう言い、再び光始めたダンジョンの光源を見る。

 

「地獄もまた旦那様を求めている。旦那様と言う強い個を取り入れることで、成長することを望んでいる。旦那様が与えなければ、地獄もまた与えることを拒否するでしょう」

 

「俺の何を渡せと言うんだ?」

 

「言ったではありませんか。私たちが求めるのは旦那様とボクの──子供」

 

「そうだったな……」

 

「地獄はたまたま生じたダンジョンと言う空間を利用した。ダンジョンを選別のために利用したのです。この世界でもっとも強い個こそが最下層に到達すると狙って。そして、旦那様はそれを達成した」

 

 そう言うとサタナエルはおもむろに服を脱ぎ始めた。

 

「お、おい、サタナエル……」

 

「さあ、旦那様とボクの強い子孫を地獄に与えて、旦那様は富を得ましょう」

 

「クソ。マジかよ……」

 

 俺はサタナエルの裸体を見ても興奮はしなかった。

 さっきまで自分と殺し合っていたんだ。

 そんな余裕は生まれない。

 

「ボクではいやですか?」

 

「そんなことはないが……お前は俺との子を得たらどうするつもりだ? その、地獄に戻るのか?」

 

 俺は少し心配になってそう尋ねた。

 サタナエルはこのままどこかに消えてしまいそうな気がしたからだ。

 かつては厄介なストーカーであったが、今は違う。

 サタナエルには……残ってほしい。

 

「ふふっ。いなくなったりはしませんよ。旦那様から離れるつもりはありません」

 

 サタナエルはそう微笑み、俺の首に手を回す。

 

「さあ、旦那様。子供を作りましょう。地獄のさらなる進化を呼ぶ子を……」

 

 サタナエルはそう言って俺に口づけした。

 それからのことはよく覚えていない。

 

……………………

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